18 / 74
18
しおりを挟む
夜が明け、薄いカーテン越しの光が床を斜めに切り取っていた。
トーマスは背を伸ばし、こわばった肩をぐるりと回す。
寝具には昨夜のぬくもりがまだ僅かに残っている。
隣ではジャンヌが静かな寝息を立てていた。額にかかった髪を指で払ってやろうと一瞬思い、やめる。触れたら、余計なことを考えそうだった。
(……ちゃんと感じてくれてた。これなら、俺だって)
昨夜、初めて自分から意識をしてジャンヌを悦ばせようと試みた。
秘部の愛撫に重点をおいて、蕾を激しく可愛がった。舌でジャンヌの愛液を味わいながら、蕾のコリコリとした感触を弄んだ。
驚くほどにジャンヌは濡れて「もっと」と嬌声をあげ、腰を揺らした。
あんなに乱れた彼女を初めてみたトーマスは抑えが効かないほど興奮していた。
その時に見せた彼女の喘ぐ声や潤んだ表情が頭から離れない。
(……ちゃんと達していた。俺のやり方で)
今までただ欲望に任せていたが、昨夜でようやく「経験」を自分のものにできた。そう思えば、細い罪悪感のとげも丸くなる。
(ジャンヌだって……嬉しそうだった。なら、悪い話じゃない)
昨夜――彼女の感じる箇所を知って、そこを攻めれば快楽に支配されたように求めてくるようになった。
ーージャンヌの嬌声を思い出す。
『あん、トーマスの固いのが、気持ちいいのっ』
『はぁ、あぁんっ、もっと、もっと』
乱れた彼女の膣は、いつも以上にうねり、締め付け、言葉に出来ないくらいに快楽をもたらした。
言い訳は早々に形が整う。
幼馴染を大切にしている――そう自分に貼り札をして、実際は自分の不安を埋めただけだという事実から目をそらす。
彼女の指先に残った微かな震えも、起き上がるのが辛そうな素振りも、見なかったことにした。
トーマスはベッドから起き上がり、洗面所へと向かった。
――もう迷う必要はない。
これなら、ハルディを抱くことになっても大丈夫だ。彼女を悦ばせることだって、きっとできる。
(よし……今日こそ、ハルディに返事をしよう)
胸の内で決意を固めると、トーマスの表情には清々しい笑みが浮かんだ。
それは「自分の課題を克服した」と思い込む男の顔であり、ジャンヌの想いなど置き去りにしたままの、身勝手な確信だった。
鏡の前で前髪を整えながら、言葉の練習をする。
「お返事をお伝えしたくて」――いや、硬いか。
「今度の休み、ご一緒できませんか」――違う、誘うのは向こうだ。
短く、はっきりでいい。「はい。お願いします」
何度か口の中で転がし、頷く。
喉が渇いて水を飲む。胸の高鳴りは期待と自己満足でちょうどいい濃さに混じっていた。
支度を終えたトーマスは、ふと寝台へ視線を戻す。
ジャンヌはまだ眠っていた。うつ伏せに身じろぎし、薄い吐息をこぼしている。
トーマスは踵を返し、机の端にメモを一枚残す。「今日の帰りは遅い」。それだけ書いた。
余計な会話の余地を潰すための短さだった。
優しさではない。面倒を先送りする器用さだった。
外套を肩にかける。金具が小さく鳴って、静かな部屋に現実の音を置いていく。
扉の取っ手に手をかけたところで、一瞬だけためらいがよぎる。
昨夜、彼女が見せたあの蕩けた表情と熱の籠った眼差しは、果たして「幼馴染」としてだけの感情なのか。それとも、それ以上の何かがあるのか。
(……考えるな。ジャンヌは単なる幼馴染だ。前に進め)
身勝手な励ましが、躊躇を上書きする。
扉を開け、廊下の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
会社の受付の前に立つハルディ、微笑、差し出された手、胸を震わせる香り。頷く自分。頭の中の場面は鮮明で、都合よく美しい。
今日こそ、彼女と向き合う――そう言い切ると、背筋がすっと伸びた。
背後の部屋では、まだジャンヌが眠っているだろう。振り返らない。視線を落とせば、足元の自信がぐらつく気がしたからだ。
階段を降りながら、トーマスは小さく息を吐く。
勝手に積み上げた確信は、朝の光に照らされてますます硬度を増す。
自分のための決意。自分のための勇気。自分のための恋。
靴音が石畳にリズムを刻む。
彼はそれを、前進の合図だと思い込むことにした。
トーマスは背を伸ばし、こわばった肩をぐるりと回す。
寝具には昨夜のぬくもりがまだ僅かに残っている。
隣ではジャンヌが静かな寝息を立てていた。額にかかった髪を指で払ってやろうと一瞬思い、やめる。触れたら、余計なことを考えそうだった。
(……ちゃんと感じてくれてた。これなら、俺だって)
昨夜、初めて自分から意識をしてジャンヌを悦ばせようと試みた。
秘部の愛撫に重点をおいて、蕾を激しく可愛がった。舌でジャンヌの愛液を味わいながら、蕾のコリコリとした感触を弄んだ。
驚くほどにジャンヌは濡れて「もっと」と嬌声をあげ、腰を揺らした。
あんなに乱れた彼女を初めてみたトーマスは抑えが効かないほど興奮していた。
その時に見せた彼女の喘ぐ声や潤んだ表情が頭から離れない。
(……ちゃんと達していた。俺のやり方で)
今までただ欲望に任せていたが、昨夜でようやく「経験」を自分のものにできた。そう思えば、細い罪悪感のとげも丸くなる。
(ジャンヌだって……嬉しそうだった。なら、悪い話じゃない)
昨夜――彼女の感じる箇所を知って、そこを攻めれば快楽に支配されたように求めてくるようになった。
ーージャンヌの嬌声を思い出す。
『あん、トーマスの固いのが、気持ちいいのっ』
『はぁ、あぁんっ、もっと、もっと』
乱れた彼女の膣は、いつも以上にうねり、締め付け、言葉に出来ないくらいに快楽をもたらした。
言い訳は早々に形が整う。
幼馴染を大切にしている――そう自分に貼り札をして、実際は自分の不安を埋めただけだという事実から目をそらす。
彼女の指先に残った微かな震えも、起き上がるのが辛そうな素振りも、見なかったことにした。
トーマスはベッドから起き上がり、洗面所へと向かった。
――もう迷う必要はない。
これなら、ハルディを抱くことになっても大丈夫だ。彼女を悦ばせることだって、きっとできる。
(よし……今日こそ、ハルディに返事をしよう)
胸の内で決意を固めると、トーマスの表情には清々しい笑みが浮かんだ。
それは「自分の課題を克服した」と思い込む男の顔であり、ジャンヌの想いなど置き去りにしたままの、身勝手な確信だった。
鏡の前で前髪を整えながら、言葉の練習をする。
「お返事をお伝えしたくて」――いや、硬いか。
「今度の休み、ご一緒できませんか」――違う、誘うのは向こうだ。
短く、はっきりでいい。「はい。お願いします」
何度か口の中で転がし、頷く。
喉が渇いて水を飲む。胸の高鳴りは期待と自己満足でちょうどいい濃さに混じっていた。
支度を終えたトーマスは、ふと寝台へ視線を戻す。
ジャンヌはまだ眠っていた。うつ伏せに身じろぎし、薄い吐息をこぼしている。
トーマスは踵を返し、机の端にメモを一枚残す。「今日の帰りは遅い」。それだけ書いた。
余計な会話の余地を潰すための短さだった。
優しさではない。面倒を先送りする器用さだった。
外套を肩にかける。金具が小さく鳴って、静かな部屋に現実の音を置いていく。
扉の取っ手に手をかけたところで、一瞬だけためらいがよぎる。
昨夜、彼女が見せたあの蕩けた表情と熱の籠った眼差しは、果たして「幼馴染」としてだけの感情なのか。それとも、それ以上の何かがあるのか。
(……考えるな。ジャンヌは単なる幼馴染だ。前に進め)
身勝手な励ましが、躊躇を上書きする。
扉を開け、廊下の冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ。
会社の受付の前に立つハルディ、微笑、差し出された手、胸を震わせる香り。頷く自分。頭の中の場面は鮮明で、都合よく美しい。
今日こそ、彼女と向き合う――そう言い切ると、背筋がすっと伸びた。
背後の部屋では、まだジャンヌが眠っているだろう。振り返らない。視線を落とせば、足元の自信がぐらつく気がしたからだ。
階段を降りながら、トーマスは小さく息を吐く。
勝手に積み上げた確信は、朝の光に照らされてますます硬度を増す。
自分のための決意。自分のための勇気。自分のための恋。
靴音が石畳にリズムを刻む。
彼はそれを、前進の合図だと思い込むことにした。
140
あなたにおすすめの小説
あなたの隣は私ではないけれど、それでも好きでいてもいいですか、レオナルド様
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢エリアーナには、三年間ずっと抱えてきた秘密がある。
婚約者であるヴァルフォード公爵・レオナルドへの、誰にも言えない恋心だ。
しかし彼の隣にいるのは、いつも幼馴染の伯爵令嬢・ソフィア。
儚げな笑顔と上目遣いで男性を虜にするあざとい彼女に、レオナルドも例外ではないようで——
「レオ、私のこと嫌いにならないでね?」
「……そんなことにはならない」
また始まった二人の世界。
「妹の方が可愛い」と不倫夫に捨てられた私。どうぞ借金まみれの実家ごと引き取って。私が肩代わりしていた負債、すべてお二人に引き継いでおきました
唯崎りいち
恋愛
「お前より妹の方が可愛い」
不倫した夫は私を追い出し、略奪した妹と笑った。
どうぞ、その「可愛い妹」と地獄までお幸せに。
私が肩代わりしていた実家と店の多額の借金、すべてお二人に引き継いでおきましたから。
「財布」を失った元夫と、逃げ場を失った妹。
身の丈に合わない贅沢を望んだ寄生虫たちの、惨めな末路を特等席で眺めさせていただきます。
側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!
花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」
婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。
追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。
しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。
夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。
けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。
「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」
フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。
しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!?
「離縁する気か? 許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」
凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。
孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス!
※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。
【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
どうぞお好きになさってください
みおな
恋愛
学園に入学して一ヶ月。
婚約者の第一王子殿下は言った。
「学園にいる間くらい自由にさせてくれないか。君が王太子妃になることは決定事項だ。だから、せめて学園に通う二年間は、僕は恋がしたい」
公爵令嬢はその綺麗な顔に冷酷な笑みを浮かべる。
「好きになさればよろしいわ」
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる