上 下
199 / 261
高等部2年生

アプローチ ( ダンス )の時間 ~リーセ~

しおりを挟む
リーセさんにエスコートされながら会場内を回る。
私に歩幅を合わせてくれるので、歩きやすいし、安心感がある。

“魔法の色”が見えた人物を見かけると、手をぎゅっと握り、その人物の方へと視線を送る。
リーセさんに伝わっているか不安で、ついつい毎回チラッと見てしまう。

その度に『大丈夫』と言うかのように笑い掛けてくれるのが……少し恥ずかしい。

「アリアが着ているドレス、ミネルがプレゼントしたと聞いたよ」
「そうなんです。ミネルから聞いたんですか?」

周りを見渡しながら、会話を続ける。

「メーテさん(ミネル母)が、嬉しそうに話していたよ」

メ、メーテさん!? なんで??
たまたまドレスの話題にでもなったのかな?

「親たちが騒いで大変だった。アリアは人気者だね」

その時の光景を思い出したのか、リーセさんが苦笑している。

「少し妬けるね。もし私がプレゼントしていたら、私が選んだドレスを着てくれていたかな?」

茶目っ気のある笑顔で、リーセさんが尋ねてきた。

んー、難題だ。
……どうしてたかな?

「はは。困らせてごめんね。仮定の話だから気にしないで」

ああ、冗談だったんだ!
真剣に考えちゃった。

リーセさんの落ち着く笑顔を見ていたら、ふと恋愛について話を聞いてみたくなった。

現在進行形で、傍から見れば、刺されてもおかしくないくらい贅沢な恋愛の悩みを抱えている。
色々あったし、参考というか……誰かの話を聞きたくなったのかもしれない。

思えば、ルナからリーセさんの話はよく聞くけど、恋愛話を聞いた事や尋ねた事はなかったなぁ。

「……リーセさんは、今まで婚約者を作ろうと思った事はありますか?」

『婚約者になってほしいと思える人に出会った事はありますか?』と、聞こうとも思った。
それだとプライベートに踏み込みすぎな気がして、曖昧な質問になってしまった。

「突然、こんな事を聞いて……すいません」
「構わないよ。アリアがそんな事を聞くなんて……なるほどね」

何か納得したように微笑んでいる。

「一度もないよ」

一切の迷いなく、リーセさんが答えた。

「今までお付き合いした女性とは……お互いに婚約までは考えられなかったから」

そうだったんだ。

……少し意外かも。
女性の方は『リーセさんと結婚したい!』と、思いそうだけどな。

「不思議かい?」
「あっ、いえ……と言いたい所ですが。はい、少し」

リーセさんが、クスッと笑った。

「私はルナを優先してしまうからね。学生時代、ゆっくりデートらしいデートはしてあげれてないんだ」

なるほど。
週末は家に帰って、ルナと過ごしていたんだっけ?

リーセさんは、理由を明言していない。
だけど、彼女さんとしては不満? 不安? だったのかなぁ?

「本来、婚約者がいてもおかしくない年齢だけどね。親が親だから、好きにさせてもらっているよ」

リーセさんの両親は、どちらかというとルナに似ている気がする。
そう考えると、確かに自由そうだ。

「“一生添い遂げたい”と思える女性に出会えたら、婚約者になってほしいと思うんじゃないかな?」

リーセさんが、優しく諭すように話す。

「中途半端な気持ちで無理に答えを出さなくていいし、焦る必要もないと思っているよ。……答えになったかな?」
「は、はい、ありがとうございます」

今のは……リーセさんの気持ちというより、私に掛けてくれた言葉のような気がする。

「……これで全部回れたかな。戻ろうか」
「はい。お付き合い頂いて、ありがとうございます」

リーセさんに軽く会釈をする。
そのまま元いた場所へ向かって歩いていると、リーセさんがどこか労わるように語り掛けてきた。

「いつも一生懸命に頑張るアリアも素敵だけど、たまには息抜きをする事も大切だよ」

……? 急にどうしたのかな?


「相談したい事があれば、いつでもおいで。弱音を吐きたくなったら、私の胸を貸すからね」


ドキッとするような穏やかな表情。

「できれば、アリアの迷っている心の中に私も入れてくれると嬉しいな」
「えっ……と」

そうかと思えば、すぐに人懐っこい笑顔へと変わった。

「それと、今はお付き合いしている女性はいないからね?」
「はい?」
「アリアには伝えておかないと」

んー、リーセさんのモテる理由が分かる気がする。

戻る途中、偶然近くにいたのか、オーンが私たちに声を掛けてきた。

「リーセさん。アリアのエスコート、ありがとうございます」
「はは。オーンにお礼を言われる事はしていないよ」

お互い物腰柔らかに会話をしている。

「これからアリアと踊りたいので、替わって頂いてもよろしいですか?」
「もちろん構わないよ。では、また後で」

リーセさんが軽く片手を上げ、去って行った。


ところで今、オーンは『アリアと踊りたい』って言ったよね?
急な事に動揺していると、オーンが私に向かって片手を差し出した。

「私と踊って頂けますか?」

いつもと違う口調に少し緊張する。

「は、はい。よろこんで」

私のぎこちない返答にオーンがスッと顔をそらした。

……肩が震えている。
これは笑いを堪えているに違いない。

それにしても、オーンと踊るからかな?
周りから注目されている気がする。

これはオーンの名誉の為にも──絶対に失敗できない!!

「気を張らないで大丈夫だよ。足さえ踏まなければ、ね」

くっ! イジワルだ。
私の様子を見て、オーンがずっと笑っている。

何とか気を取り直し、差し出された手の上に自分の手を乗せた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

パンク×パンク

SF / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:5

[完]異世界銭湯

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:409

孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話

BL / 連載中 24h.ポイント:61,110pt お気に入り:3,610

悪役令嬢がでれでれに溺愛されるまでの話

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:4,805

婚約破棄ならお早めに

恋愛 / 完結 24h.ポイント:3,692pt お気に入り:337

愛してほしかった

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:284pt お気に入り:3,703

ナツキ

BL / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:2

処理中です...