美しき禁断の果実

高殿アカリ

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初夏の新緑が鮮やかな頃、私たちは結婚した。
6月のことだった。

幸いにも晴天に恵まれ、純白のウエディングドレスがよく映えた。
誓いのキスを済ませると、もう後戻りできないのだと実感した。

次の週には新婚旅行に向かっていた。

「……国内旅行なのね」

山奥の旅館を前に私はぽそりと呟いた。
鳥の鳴き声と木々のせせらぎが駆け抜けていく。

どうせ形だけの新婚旅行だ。
国内でもいいじゃない、と心を紛らわせた。

「なんだ、つまらないのか」

旅館の女将に挨拶を済ませた雪五朗が私に問う。
素直に頷くのも憚られ、気まずさを紛らわすようにワンピースの裾を整えた。

「なら、これで遊んでいてもいいぞ」

私の様子に何を思ったのか、雪五朗はスーツの内ポケットから何かを取り出した。
そしてそのまま私の手を掴み、それを握らせてきたのだった。

相変わらず無表情のまま、何を考えているのかは不明だ。
だが、彼の漆黒の瞳の向こう側に何か妖艶な気配を感じ取ったのも事実である。

雪五朗はその蠱惑的な雰囲気だけを残し、先に一人で旅館へと入っていった。
残された私はそっと手を広げて、丸みを帯びたピンク色のプラスチックの物体を見つめていた。

かぁぁぁぁぁと頬に熱が集まる。
あの男は真っ昼間から何を所持しているのよ。

小さな玩具を乱暴に手持ちのショルダーバッグに入れ、私は涙目になりながら彼の背中を追いかけたのだった。

通された部屋は二階の端にあった。
窓から分岐爆の滝が渓谷に流れていくのがよく見えた。

「露天風呂付きの客室を選んだ。自由に入るといい」

雪五朗は窓辺の和室用座椅子でくつろいでいた。
私はショルダーバッグの中から先ほど渡された玩具を取り出し、彼に突き返す。

頬を染めないようにするので精一杯だった。

「趣味の悪いことをしないでちょうだい」

意外にも雪五朗は突き返されたそれを素直に受け取る。
無表情な彼にどうしていいか分からなくなった私は、ふいっと背を向けて荷物の整理を始めた。

新婚旅行に来たところでどうせやるべきことなど何もない。
なぜなら雪五朗はただの政略結婚相手なのだから。

会話が弾まないことも、変態じみた行動を取られたことも、別になんてことない。
私たちの関係性に愛情なんて必要ないもの。

彼の無神経さに怒るなんて無意味なことはしない。
期待をしないのが一番だ。

不満や怒りというよりは、どちらかと言えば落胆した心を持て余していた。
必死な言い訳ほど無様なものはない。

そんなのまるで、私が彼に何かを期待していたみたいじゃない。
何か……新しい関係を望んでいたみたいじゃない。

――馬鹿馬鹿しいわ。
私には愛し愛される理由がない。だから、望んでも無駄なのよ。

ふぅ、と軽い溜息を吐いたときだった。
力強い何かが私の身体に巻き付いてきたのだ。

身動きが取れないと焦ったのは一瞬で、雪五朗が私を背後から抱き締めていることを認識するのにそう時間はかからなかった。
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