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しおりを挟むくったりと気絶した朝比奈美織が俺の目の前にいる。
陶器のような白い頬がほんのり桜色に上気していた。
そっと彼女の頬を撫で、俺は笑みを深めた。
初めて出逢った日も彼女は今みたいに瞼を閉じていて、俺はその寝顔に恋をしたのだ。
「もう十年も前なのか……」
――――随分と長い初恋だ。
彼女の寝顔を眺めながら、俺は過去に思いを馳せた。
俺と彼女の通っていた学園内にはドーム状の硝子で作られた温室があった。
季節に関係なく、年中綺麗な花を咲かせるその場所は通称「楽園」と呼ばれていた。
当時の朝比奈美織は、その小さな箱庭の女王さまだった。
美織は癇癪を起こすと必ず楽園にやってきた。
そして、人畜無害な植物を気の向くままに引き抜くのだ。
今思えば、あの頃の彼女にとってそれが唯一のストレス発散だったのだろう。
周囲の大人たちの期待や同級生から向けられる嫉妬に相当なプレッシャーがかかっていたのだから。
一通りすっきりしたあと、彼女はまるで何事もなかったかのように普段の大人しい令嬢の仮面を被りなおす。
そして、楽園にある豪奢なソファベッドにゆったりと座って眠るのだ。
もちろん、俺がいることには気づいてすらいない。
それをいいことに、俺は朝比奈美織という模範的な令嬢を観察していた。
当時の俺は転校してきたばかりで学園内に居場所がなかった。
一代で富を築き上げた成金の父親を持つ俺と仲良くする奇特な人物などいなかったのだ。
腐っても由緒正しい家系の令息や令嬢が通う学園だったということだ。
だからこそ、俺は朝比奈美織の人間臭い部分に惹かれたのだろう。
到底、品行方正とは言い難い彼女の行動が唯一俺の心を癒してくれたのもまた事実だったのだ。
八つ当たりにされた植物たちの中には、本来引き抜かれるべき雑草が混じっていたことも相まって、彼女を愛らしく思っていた。
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