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ありのままの貴方で
ありのままの貴方で5
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啖呵を切って道尾さんの家を出てきたのはいいけど、原付に乗って事務所に戻る途中で徐々に胃の辺りがキリキリしてきた。道尾さんはお客さんなわけで、そんな相手に対して色々好き勝手言ってしまった。
それに、これまで注文通りのことをしなかったのは木下さんの時だけだ。その時は夏希さんや雪乃さんと相談したうえで決めたことだったけど、今回は完全に僕の独断だ。
やっぱり怒られるかなあ。弁当屋のバイト時代でいえば、お弁当を持っていったのに渡さずに帰ってきたみたいなものだ。流石にマズいというか、お前何しに行ったんだってなるんじゃないだろうか。
戻りたくないなあと思っていたけど、そんな思いとは裏腹にあっさりと事務所に着いてしまう。砂利道の駐車場を慎重に進んでバイクを停める。
「戻りました」
「あ、お疲れ、悠人君。どうだったー?」
レターボックスのところで冊子の整理をしていた夏希さんが顔を上げる。その顔は無事に仕事を終えたことを疑ってもいないようだった。
「あの、実は――」
道尾さんとのやり取りを一通り伝えると夏希さんはじっと黙って僕を見る。もしかして怒るを通り越して呆れてしまってるのだろうか。ふっと息を吐いて夏希さんが目を閉じるといよいよギュッと胃が締め付けられた。
「悠人君、思ってたより熱いねえ」
夏希さんはにっと口角をあげたかと思うとそのままカラカラと笑い始めた。
「あの、怒らないんですか? 勝手に朗読せずに帰ってきて」
「まあ、ちょっと相談してほしかったなーって気もするけど。でも、現場じゃないとわからない感覚があるのは私も知ってるしね」
夏希さんは手に持っていた冊子をレターボックスにしまうと、スタスタと僕の方に近づいてくる。そのままポンっと僕の頭に手を乗せてパッと笑った。
「それに、ただ朗読して帰ってくればいいってわけじゃなくて、お客さんのこととか鈴ちゃんの物語のこと、悠人君が真剣に考えてるってわかって鼻が高いかな」
夏希さんの優しい言葉に目の奥がじんわりとする。それからどっと肩に入っていた力が抜けた。ほっと息が漏れて、自分の顔が綻んでいくのがわかった。
「でもどうしよっか。今のままだと道尾さんの不調の原因もわからないから、どんな物語を届ければいいか難しいね」
夏希さんはちらっと雪乃さんの方を見てから腕を組みつつ人差し指を顎に当てる。それには一つだけ当てがあった。道尾さんと話す中でキーとなる人の目星はついている。
「木下さんから話を聞きたいんですけど、連絡してもらってもいいですか?」
「いいけど、照乃さんから話を聞くの?」
道尾さんが木下さんのことを話すときだけ声のトーンが変わっていた。二人は幼馴染ということだったけど、木下さんからは依頼の表面的な話しか聞けていない。だから、直接話をすればもっと何かヒントが得られる気がする。
それを伝えると、夏希さんは早速木下さんに電話をかけてくれた。
「あ、照乃さん? はい、夏希です。実は悠人君が依頼のことで木下さんと話がしたいって。はい、ありがとうございます。悠人君に聞いてみるので少し待ってくださいね」
夏希さんはマイク部分に手を当てる。
「明日の昼なら大学で時間とれるって。大丈夫?」
僕が頷くと、夏希さんは再びスマホを耳に当てる。
「はい、大丈夫だそうです。じゃあ、“ノースポール”に12時ですね。ありがとうございます」
夏希さんは電話を終えるとグッと親指を立てた。
「早速約束できたね。あ、でも明日のその時間はちょっと予定入ってて。悠人君一人で大丈夫?」
「はい、問題ないと思います」
夏希さんがいてくれた方が心強いのは間違いないけど、道尾さんに啖呵を切ってしまったのは僕だ。それに相手は知らない相手ではなく木下さんだし、僕だけの方が木下さんも話しやすいこともあるんじゃないかと思う。
道尾さんとの会話の記憶もしっかり残っている今晩のうちに聞く内容を整理しておこうなんて考えているところに、事務所の奥からガタリと音がした。
「私も行く」
僕が帰ってきてからもずっとノートパソコンと向き合っていた雪乃さんが立ち上がって僕らを見ていた。
「鈴ちゃん……?」
驚いたのは僕だけじゃないようで、夏希さんが目を白黒させて雪乃さんを見つめる。バイトの時にしか会わないから当然かもしれないけど、事務所の外での雪乃さんの姿はおろか僕や夏希さん以外と話している姿も見たことがない。
「直接話を聞いた方が物語を書く時の参考になると思うから」
雪乃さんはそんな僕らの視線を顔色一つ変えずに受け止めて、淡々と答える。夏希さんは僕に判断を任せることに決めたようで、びっくりした表情のままちらっと僕の方を向く。その途端、雪乃さんが僕を見る圧が強くなった気がした。
断るなんて選択肢は浮かんでこなかったけど、僕の方もどうして突然雪乃さんがそんなことを言い出したののかわからなくて、戸惑ったまま頷いた。
それに、これまで注文通りのことをしなかったのは木下さんの時だけだ。その時は夏希さんや雪乃さんと相談したうえで決めたことだったけど、今回は完全に僕の独断だ。
やっぱり怒られるかなあ。弁当屋のバイト時代でいえば、お弁当を持っていったのに渡さずに帰ってきたみたいなものだ。流石にマズいというか、お前何しに行ったんだってなるんじゃないだろうか。
戻りたくないなあと思っていたけど、そんな思いとは裏腹にあっさりと事務所に着いてしまう。砂利道の駐車場を慎重に進んでバイクを停める。
「戻りました」
「あ、お疲れ、悠人君。どうだったー?」
レターボックスのところで冊子の整理をしていた夏希さんが顔を上げる。その顔は無事に仕事を終えたことを疑ってもいないようだった。
「あの、実は――」
道尾さんとのやり取りを一通り伝えると夏希さんはじっと黙って僕を見る。もしかして怒るを通り越して呆れてしまってるのだろうか。ふっと息を吐いて夏希さんが目を閉じるといよいよギュッと胃が締め付けられた。
「悠人君、思ってたより熱いねえ」
夏希さんはにっと口角をあげたかと思うとそのままカラカラと笑い始めた。
「あの、怒らないんですか? 勝手に朗読せずに帰ってきて」
「まあ、ちょっと相談してほしかったなーって気もするけど。でも、現場じゃないとわからない感覚があるのは私も知ってるしね」
夏希さんは手に持っていた冊子をレターボックスにしまうと、スタスタと僕の方に近づいてくる。そのままポンっと僕の頭に手を乗せてパッと笑った。
「それに、ただ朗読して帰ってくればいいってわけじゃなくて、お客さんのこととか鈴ちゃんの物語のこと、悠人君が真剣に考えてるってわかって鼻が高いかな」
夏希さんの優しい言葉に目の奥がじんわりとする。それからどっと肩に入っていた力が抜けた。ほっと息が漏れて、自分の顔が綻んでいくのがわかった。
「でもどうしよっか。今のままだと道尾さんの不調の原因もわからないから、どんな物語を届ければいいか難しいね」
夏希さんはちらっと雪乃さんの方を見てから腕を組みつつ人差し指を顎に当てる。それには一つだけ当てがあった。道尾さんと話す中でキーとなる人の目星はついている。
「木下さんから話を聞きたいんですけど、連絡してもらってもいいですか?」
「いいけど、照乃さんから話を聞くの?」
道尾さんが木下さんのことを話すときだけ声のトーンが変わっていた。二人は幼馴染ということだったけど、木下さんからは依頼の表面的な話しか聞けていない。だから、直接話をすればもっと何かヒントが得られる気がする。
それを伝えると、夏希さんは早速木下さんに電話をかけてくれた。
「あ、照乃さん? はい、夏希です。実は悠人君が依頼のことで木下さんと話がしたいって。はい、ありがとうございます。悠人君に聞いてみるので少し待ってくださいね」
夏希さんはマイク部分に手を当てる。
「明日の昼なら大学で時間とれるって。大丈夫?」
僕が頷くと、夏希さんは再びスマホを耳に当てる。
「はい、大丈夫だそうです。じゃあ、“ノースポール”に12時ですね。ありがとうございます」
夏希さんは電話を終えるとグッと親指を立てた。
「早速約束できたね。あ、でも明日のその時間はちょっと予定入ってて。悠人君一人で大丈夫?」
「はい、問題ないと思います」
夏希さんがいてくれた方が心強いのは間違いないけど、道尾さんに啖呵を切ってしまったのは僕だ。それに相手は知らない相手ではなく木下さんだし、僕だけの方が木下さんも話しやすいこともあるんじゃないかと思う。
道尾さんとの会話の記憶もしっかり残っている今晩のうちに聞く内容を整理しておこうなんて考えているところに、事務所の奥からガタリと音がした。
「私も行く」
僕が帰ってきてからもずっとノートパソコンと向き合っていた雪乃さんが立ち上がって僕らを見ていた。
「鈴ちゃん……?」
驚いたのは僕だけじゃないようで、夏希さんが目を白黒させて雪乃さんを見つめる。バイトの時にしか会わないから当然かもしれないけど、事務所の外での雪乃さんの姿はおろか僕や夏希さん以外と話している姿も見たことがない。
「直接話を聞いた方が物語を書く時の参考になると思うから」
雪乃さんはそんな僕らの視線を顔色一つ変えずに受け止めて、淡々と答える。夏希さんは僕に判断を任せることに決めたようで、びっくりした表情のままちらっと僕の方を向く。その途端、雪乃さんが僕を見る圧が強くなった気がした。
断るなんて選択肢は浮かんでこなかったけど、僕の方もどうして突然雪乃さんがそんなことを言い出したののかわからなくて、戸惑ったまま頷いた。
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