貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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ローズマリア編4.第二騎士団の毒

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 「ではそのような事は、言ってもやってもいないんだな?ライエム騎士団長」

 あの翌日、国王陛下の執務室に呼ばれた。

 「私は聖人様が討伐になかなか来てくれないので、その事を問いただしただけです。あとはアイツらが勝手に言っただけです」

 ライエムはイライラが爆発しそうだった。

 「…そうか、わかった。ではお前の部下達の処分は私が決める。それから聖人ローズマリアは、しばらく第二騎士団の要請には応じない。私の方で聖人の力が必要と判断した時だけ動いてもらう」

 「…わかりました」

 「ライエム騎士団長、わかっているとは思うが、次はない」

 「………はい」


 陛下の執務室を出る時には、さっきまでイライラが爆発しそうだったライエムの心は、なぜか波が引くように落ち着いた。

 普段なら、部下を全員鍛練場に集めて、心がスッとするまで叩きのめしたのだが、その必要はない。

 「殺してやる。アラン・フォード」

 ライエムはアラン・フォードさえいなければ、すべてがライエムの理想通りに、自分が望む人生に軌道修正されると信じていた。

 その時が来るまで。

 その後、ライエムにしては信じられない長い月日を我慢した。


 国王ジェイデンはため息をついた。

 「魔物には少しくらいイカれたヤツが団長で良いと思ったが、これ程イカれてると話も通じないのだな」

 側近のサミュエル・コンフォードは、

 「まず、聖人ローズマリア様が準王族であることも、理解できていないようです。なんなら不敬罪という罪があることも。
 護衛や影からの報告があると想像出来ないのでしょう、あのように何食わぬ顔で嘘を吐くとは、理解が追い付きません」

 国王はまた深いため息をつき、

 「まあ泳がせよう。かなりローズマリアに執着しているようだな。ライエムは否定しているが、ローズマリアに何かあってからでは遅い。
 影をひとり増やせ。俺のところの護衛も2人まわせ。
 そして今回の第二の奴らは地下に1ヶ月入れろ。そのあと裏で全員消せ」


 サミュエルは国王陛下の指示を誰にどのように出すか素早く考える。
 不要なものに時間を費やすほど無駄なことは無いのだ。
 すぐに刑務執行役人と住民管理担当を宰相執務室に呼び出し、陛下の指示を伝えた。


 聖人ローズマリアに常日頃から不敬な言動を繰り返した騎士達は、最も劣悪な環境の地下牢に1ヶ月入れたあと、家族全員魔物の出没した場所に連行し、魔物に跡形もなく喰わせるのだ。



 その騎士は今更ながら後悔していた。

 なぜ執拗に聖人を貶めるための言動を繰り返したのか。

 ライエム団長が毎日言っていたのだ。
 あの聖人は俺のことが好きで俺に色目を使う、仕方ないから俺は求婚を受けたのに、あの女は他にも男を侍らす愚かな娼婦だった。
 男の相手をする暇もないように、少しの魔物でも急報を出して働かせないとならない。
 少しの怪我でも救護院に来るよう連絡しろ。夜中でも構わない。

 剣を振れば騎士10人分の働きをするというライエム団長に憧れを抱いていた。騎士団員からすれば、神のような存在だった。
 史上初の10代で団長の座に就任し、第二騎士団で絶対的な存在となった。

 その団長の指示に、疑うことなく従った。
 聖人が来たらとにかく罵るんだ、男を相手にするな、第二騎士団に常に同行するように、団長という素晴らしい存在がいると。

 団長の指示通りに聖人に罵詈雑言を浴びせるが、毎回なぜか団長は聖人を庇い、普段見たこともない笑顔を聖人に向けるのだ。

 よくわからなかったが、その一連のやり取りが終わると団長は銀貨を1枚握らせてくれた。また頼むと。


 なぜ意味がわからないことに従ったのか。
 なぜためらいもなく、夜中に何度も聖人を呼び出したのか、軽症なのに。
 なぜ聖人に失礼なのではと言えなかったのか。

 でもいくら考えても、後悔しても遅いのだ。
 妻と子供達の泣き叫ぶ声を、絶命する瞬間を、目をそらすことは許されず見届けた。

 次は俺の番だ、嫌だ嫌だ嫌だ!
 妻のように喰い千切られるのは嫌だ!全力で走って逃げた。

 逃げ切れたと思った先に、魔物の中でも群れで狩りをする、毒を持った小物が目の前に現れた。

 ああ終わりだ… 
 コイツらは口は小さいが骨をも砕く牙を持ち、牙には激痛を伴う毒がある。激痛の割には死に至る毒ではないため、死の間際まで苦しむのだ。
 せめて妻と子供のように、大型の魔物でひと息に死にたかった。

 男は数時間かけて自分の骨が砕ける音を聞きながら、全身に激痛を浴びながら、痛い助けてと叫びながら事切れた。


 その頃、住民管理担当者が対象の家を一軒ずつ回った。

 隣人に、
 「この家の者は急な事情で隣国に移り住む事になった」
と説明し、家財道具を手配した商人に引き取らせた。
 そして、売家の看板を立てて、次の対象の家に向かった。

 隣人も、そうですか、とは言ったが、わかっていた。

 早朝に、真っ黒で大きな馬車に、隣の家族が全員乗せられるのをカーテンの隙間から見た。
 噂で聞いている本当か嘘かわからない話、その馬車に乗った家族とは、二度と連絡を取ることが出来ないことを。

 背中に冷たい汗が流れた。
 何をしたらあの馬車に乗らされるのか。



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