貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

文字の大きさ
17 / 89

11.聖人の仕事②

しおりを挟む
 ローズマリア様の経験を日記で知っていたから、私は動揺せずにいられる。

 小さな聖人は見た目だけで馬鹿にされ、信じてもらえず、治せる人も治せず悔しかった、ローズマリア様が聖人の仕事を始めた頃に書かれていた通りだった。


 ユリアナが聖人として最初に怪我人のもとに訪れた日、1人目は信じてもらえず拒否された。
 2人目は馬鹿にして笑い続けた。
 3人目はその患者の家族がふざけるなと怒りだし、ユリアナに掴みかかった。
 幸い触れられる寸前でタイラー先生が火魔法で撃退したが、まる焦げ状態になってしまった。

 「いやー久し振りに火魔法使ったからなー、困ったな…。でもこの男が絶対に悪いしなー ユリアナ様…そのー…あの…これ… (マズイよこれは師団長にバレたら始末書と始末書と始末書と魔力鍛練で、ひと月は寝れない……)」

 ユリアナが子供ながらに何となく察し、その男を綺麗に回復させると、それを見た患者が、私の傷もお願いしますと頭を下げた。



 ローズマリア様ありがとうございます、先に知れたから私のやるべき事に集中できます。



 「院長先生、次の患者はどちらにいますか?」
 ユリアナは無作法だとわかっているが、会話に割って入る。

 「ああ、そうでしたね、ユリアナ様!あー、でも……でもねぇ、次の患者も第二騎士団の者ですよ?タイラー魔法師どうします?私は先に王宮に報告に行って、宰相から陛下に報告してもらって──」

 先ほど暴言を吐いていた騎士は、慌てて院長の前に行き頭を下げ、

 「まっ、待ってくれ!頼む!ほかの仲間の怪我も治してくれ!頼むよ、陛下に報告するまでもないだろ?俺のせいで怪我したヤツもいるのに、俺のせいで治してもらえないんじゃ俺は、俺は…」

 院長が大きなため息をつく。

 「治してもらいたい態度ではないですね。先ほどの奇跡の力を目の前で見てもこれですか?これはダメですね、タイラー魔法師」

 タイラー先生は見たことの無い恐い顔をしていた。

「君は覚悟したのではないのか?魔物の討伐に行くとき、もしかしたら今日死ぬかもしれない、自分じゃなくても仲間が死ぬかもしれないと。
 そしてまさに目の前の彼が死にかけた。
 奇跡的に助かったとしても、彼の左腕は無いままだ。
 片腕が無ければ騎士は続られないだろう。騎士を辞めてどうする?これから家族が増えるとわかっているのに。
 騎士としてしか生きてきてないのに、片腕が無いとなると妻や子供に苦労させる確率が上がるんだ。
 でも見てみろ、彼の腕は再生された。誰にだ?お前たちが馬鹿にした彼女にだ。
 見ただろ?君たち騎士にとっては、神の力のようなものだ、違うか?
 だから彼女は準王族として扱われるんだ。
 でもお前たちの愚かな言動で、彼の腕は無いままになったかもしれない。
 腕どころじゃない、命だって失っていたかもしれない。
 そうなったら、お前は彼を、彼の家族の面倒をみるのか?一生?
 お前その覚悟があったのか?
 まさか新しい聖人の存在を知らなかったとは言わせない。500年前から今日まで、聖人の恩恵を一番に受けていたのは第二騎士団だからだ」

 タイラー先生は、途中で口を挟むことは許さず一気に告げた。

 騎士二人は言葉を発することすら許されない状況だとわかったのか、帯剣していた剣を外し、床に剣の握りの方をタイラーに向けて置いた。

 そして両膝を床に落とすと、手を前に出し両手の甲を床に付けた。
 これは騎士の、敵に対し負けを認め、殺すなり捕虜にするなり、この命を好きにして構わないという意思表示の姿勢だ。

 「お前たちがまずしなければならなかった事は、ユリアナ様に誠心誠意謝罪することだった。こいつらを捕縛しろ」

 聖人に関することに、タイラーにはあらゆる権限が与えられていた。

 そして聖人が行動する時は必ず王家の影が付いているのだ。影はおそらく陛下に報告するだろう。あとは陛下に任せればいい。


 「ユリアナ様、次の患者のところに案内いたします。まだ診て頂きたい患者がたくさんいまして」

 ユリアナに全く非がなくても、騎士が捕縛される場面は見せたく無いと思ったのか、院長が声をかけてきた。

 ユリアナは小さく頷いた。
 今は怪我人が優先だ。
 私は、私にしか出来ないことを誠実に、地道に続けて行くしかない。

 院長と部屋を出る間際、捕縛されている騎士を横目でみると、二人ともほの暗い目でユリアナを見ていた。





しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

処理中です...