貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

文字の大きさ
18 / 89

12.多忙な日々

しおりを挟む
 ユリアナの魔力判定の日から3年が経った。

 あれから毎日のように聖人としてその役割に没頭した。

 救護院で怪我人を治し、大病院で原因がわからない患者の治療を依頼されたり、診療院にも頻回に行った。

 ユリアナに依頼する際の窓口は、王宮魔法師団または神殿となっていた。

 初めはタイラー先生のいる王宮魔法師団のみだったのだが、各部署での書類の決済がなかなか進まず、魔法師団に届くまでかなり時間がかかり、結果治療が間に合わなかった事が何度かあった。

 この国の役人であっても、直接ユリアナの恩恵を実感出来ない者が、書類をわざと隠したり紛失させたりしていたのだ。
 ユリアナが受け取っている報酬の額を知っている者は尚更だった。

 大病院では、聖人に依頼しているのに来るのが遅かったり、来てもらえなかったりで困惑していたが、聖人に苦情を言える訳もなく、待つか諦めるしかなかった。


 救護院はほぼ第二騎士団の専属のようになっていて、魔物が増えると怪我人も増えるため、相変わらず救護院を優先するしかなかった。

 夜中に起こされ救護院に駆けつけた事もあった。
 これには父も母も、いくら聖人だとしても13歳の子供だと王家に強く抗議した。

 王家から返って来た返答は、
 この度の件は第二騎士団の独断によるもの、余程でなければ翌朝まで様子をみるよう通達したが、団長、副団長などの幹部が怪我を負った場合は、臨機応変な対応を頼みたいというものだった。

 ユリアナは魔物が増える周期をローズマリアの日記で確認し、その日が来る何日か前から街の診療所に行って、病状が悪化しそうな患者の家を聞き、治療してまわった。

 救護院にかかりきりになると、診療所の患者が後回しになってしまうからだ。
 先に治療しておけばお互いに安心できる。

 これは国王陛下の許可を得て行っていたが、ユリアナの善意のみで無償で行っていた。

 ある日診療所で、胸が苦しいと言っていたというお婆さんの家に行き、家に入るとお婆さんが泣き出した。

 訪ねた時、診療所の先生からもらった薬草を飲んでいたが、薬草が無くなると苦しくなり、起きて歩くことも出来ず、このまま女神様のもとへ行くんだと思っていたと言う。

 ユリアナが家に入ってきたのを見て、やっぱり女神様が迎えに来たと思い、涙を流したそうだ。

 「ユリアナ様、こんな婆さんのところに足を運んで下ってありがとうございます。お陰で嘘のように楽になりました」

 来た時は、浅く速いで呼吸で苦しそうにしていたが、治癒魔法をかけるとすぐに楽になったようだ。

 「お婆様、お婆様は心臓が悪いようなんです」

 ユリアナがお婆さんの胸に手をかざした時、心臓の動きが弱っているようだった。

 「そこまでわかるんですか?いやね、診療所の先生にも言われたのよ、無理したらダメだって。でもね、仕方ないのよ。お爺さんが死んで一人になったから、何でも自分でやらないとならないの」

 ユリアナはお婆さんの家の中をぐるりと見た。
 水は集合井戸なのね、汲んで運ぶのは大変なことだわ。買い物もお婆さんの足で歩いて行けば1日がかりね。

 助けてあげたくても、ユリアナの多忙な毎日では、約束の日に来れるかどうかもわからない。中途半端にお手伝いしたら返ってご迷惑になる。

 「お婆様、診療所の先生が出されたお薬は毎日飲んで欲しいです。それからやはり私からも無理はしないで欲しいとしか…」

 お婆さんはうんうんとうなずいた。

 「分かりました、ユリアナ様がそう仰るのならその通りにします。こんな婆さんを心配してくれるなんて幸せです。ありがとうユリアナ様」と微笑んだ。

 私は帰る前にもう一度お婆さんの背中に手をあてて、回復魔法を流し込んだ。

 私の魔法は、怪我や病気を治すことが出来ても寿命を延ばしたり、止まった心臓を動かすことは出来ない。

 回復魔法もその対象者の生命力に働きかけ、生きる力を少し底上げするようなものだ。
 今出来ていることを維持させるようなもので、お婆さんが走れるようになったりはしないのだ。

 それでも体は楽になるので、お婆さんは喜んでいた。

 「ありがとうございます、ありがとうございます」と何度も言い、自分で焼いたというパンを私にくれようとした。

 「お婆様お気持ちは嬉しいのです。でも頂けません。お婆様から頂くと、ほかの家の方にも何か頂かないとならないので」
 元気でいてくれるのが嬉しいからと辞退し、また来るから待っててねと約束した。

 この訪問も私の都合なのだ。
 私の行けるタイミングで回っているにも関わらず、訪問を受け入れてくれて。 
 それなのにお礼なんて頂けない。

 でも本当に何か出来たら良いのに。
 一人で困っている方は本当はもっとたくさんいるんだわ。

 ユリアナは胸がモヤモヤして、今の自分にもどかしい気持ちになった。




しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

処理中です...