貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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19.ルイ先生とジュリアン①

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 ジュリアンは、もとはフォンベルト侯爵領の北側にある、小さな男爵領の三男だ。

 エトール男爵は真面目な男で、領民の生活を最優先に領地経営を行っていた。
 毎年ギリギリになってから何とか国に領税を納めているような状況だった。

 フォンベルト侯爵とエトール男爵が仲が良く、男爵領の経営難に関しても助言や援助をしていた。
 真面目なエトール男爵は、助けてもらっているお礼をしたかった。

 三人の息子達は、侯爵家に取り立てて役に立つ素養は無いと思っていた。

 しかし、三男であるジュリアンが
、母親から魔物について教えてもらっている時、全身に魔力のようなものをまとわせた。

 驚いた両親は、ジュリアンを診療院に連れて行くが異常は無いと言われた。

 その医師が、心配なら神殿に連れて行きなさいと言ったので、神殿に連れて行くと、魔力判定をするという。
 10歳でもなければ、誕生日でもないが、このようなことは珍しいからと神官長様が魔力判定をすると、魔力が膨大でしかも威嚇というスキルがあると言われた。

 エトール男爵は考えた。
 王家に知られると、おそらくこの三男は王家に抱き込まれるだろう。

 今までお世話になっているフォンベルト侯爵に何も返せていない。
 よくわからないが、この三男を差し出せば、少しは恩返しできるのでは、と。

 神殿には、このことは発表しないで欲しい、我が子は皆、領民のために尽くすことが我が家の方針であると伝えた。
 神殿は、親子の判断を尊重する事を大前提としている。聖人の力を認められた場合ですら、親子の意向を確認するのだ。

 ジュリアンは、自分の意思や感情を表に出す子ではなかったのが幸いした。
 魔力があるとわかっても、そうですかというのみで、父親と共にすぐに帰って行った。

 エトール男爵はその足で直接フォンベルト侯爵に会いに行った。
 三男の魔力判定でスキルがあるとわかった、あなたのところで役立てて下さいと。

 フォンベルト侯爵は、本当に良いのかとエトール親子に確認したが、どちらもそれで良いと言う。
 6歳とは思えない淡々とした態度のジュリアンに、フォンベルト侯爵は期待した。
 我が家の私兵は国内最強になると。


 威嚇のスキルを持った子供が、フォンベルト侯爵家の私兵として在籍している、その噂が王の耳に入るのはその半年後だった。

 フォンベルト侯爵が、ジュリアンに魔力コントロールを指導するために、王宮魔法師団に依頼を出した。

 するとすぐに魔法伝書が侯爵家に届き、依頼した翌日にルイ・エンバリー魔法師団長が侯爵家に来た。

 「フォンベルト侯爵、どこで見付けてきたのですか、禍の戦士を」

 「禍とはまた物騒な物言いですね。エトール男爵の三男ですよ。男爵の三代前に魔力を持つ者がいたそうですが、その後は全く生まれてこなかったので、それすら間違いだったのではと思っていたそうです」

 魔法師団長は深く頷くと、
 「やはりそうでしたか。実はエトール男爵家はかつて、魔法師の遺伝子を受け継ぐ家系でした。
 現男爵も、恐らくそこまで詳しくは知らないと思います。過去エトール家には、威嚇のスキルを持つ者が生まれていたのですよ。
 しかし、それを正しく使う術を知らず、傍若無人な振る舞いがその時代の治世を狂わせるほどだった。粛清されたそうです、王家によって」

 初めて聞く話しだった。
 あの様子ならエトール男爵も知らないのだろう。師団長が続ける。

 「エトール男爵家は真面目な一族だそうです。そのような望まないスキルで世の中を乱すのであれば、一族で自害するとまで言ったと、記録に残っていました。
 その時代の王もエトール家が廉直な者たちだと知っていたため、降爵とし北の小さな領地を与え、魔力を持つ子供が誕生したら、王家に報告するよう書面を交わしたそうです」

 「現男爵は今回その取り決めを違えたと」

 「ええ、本来ならそうなりますが、これは300年前の話です。この度このお話しを伝書で頂いた時、古い文献を探して私も初めて知ったのです。
 ロードリック国王陛下にもこの経緯は報告しました。陛下も初めて聞いたようで、フォンベルト侯爵なら、禍の戦士を預けても問題無いだろうと許可を戴きました。ただ、我が第二騎士団に欲しかったとは言ってましたが。
 それと、男爵も先祖に同じような魔力を持つ者がいたことは知らないでしょう。
 過去に男爵家は火事で当時の資料や文献を失ったことも、魔法師団の記録にありましたから」


 魔法師団には500年以上前から、保存魔法をかけたあらゆる魔法やスキルの記録が残っている。
 この特別なスキルに関しても、聖人の力と同様に研究し記録して残してあった。

 過去のそれらを読み解き、国のために安全に役立てていくのが、このルイ・エンバリー魔法師団長の主な仕事なのだ。


 「エトール男爵もジュリアンのスキルについては理解していないようでした。なのでジュリアン本人もわかっていないでしょう。
 私はエトール男爵の好意を有り難く受け取った。ジュリアンはこの侯爵家の私兵として、正しく育てていくつもりです。
 ジュリアンの魔力コントロールに関しては、我が家の家庭教師では無理でしょう。ぜひ、師団長の推薦があればお願いしたい」

 師団長は深く頷いた。
 「それはもちろんです。一般的な教師では、あの魔力が暴走したとき命はありません。それは我が魔法師団の魔法師でも同じでしょう。そのために私が来ました」

 師団長はニッコリと笑う。

 「ほう、それでは師団長自らが指導をしてくださると」

 「はい。このスキルを誰の何のために使うのか、過った方向に使用させないように徹底して理解させます。国を潰す程のスキルですから。
 それと、今後のための研究も兼ねておりますので、私が適任となりました」

 「わかりました。師団長直々にご指導頂けるとは、頼もしいですな。では、早速ジュリアンを呼びましょう」


 侯爵の執務室に通されたジュリアンは、怯えることも愛想を振りまくこともなく、やはり淡々としていた。

 「やあ君がジュリアン君だね。私は魔法師のルイ・エンバリーだ。ルイと呼んでくれ。さあ、こちらに来て」

 ジュリアンはマナー教師に教えられた通り、綺麗な挨拶をした。

 「ルイ先生、ジュリアンです。よろしくお願いします」

 師団長は嬉しそうにジュリアンの両手を握ると、小さく何度も頷き唸った。

 「うん、ジュリアン、きみの魔力はとても大きいんだ。このままでは、きみの大切な人たちを傷付けてしまうかもしれない。私はそうならないように、きみに魔力の使い方を教えに来たんだ。私との約束を守って、辛い訓練かもしれないけど頑張れるかな?」

 大切な人、ジュリアンが思い浮かぶのは、柔らかくて可愛い天使、ユリアナのことだった。

 「はい、僕は大切な人を守りたいので早く強くなりたいです」

 師団長は驚いたように間をおいて、
 「…そ、そうか。それなら大切な人のために頑張ろうな」

 ジュリアンは侯爵家に来て、初めて笑顔を見せた。


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