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20.ルイ先生とジュリアン②
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ルイ・エンバリー魔法師団長は、ほぼ毎日侯爵邸にやって来た。
「ジュリアン、次は小型の魔物の群れだ。
さっきは少し魔力量が足りなくて隙を付かれたね。範囲をよく見定めて、適正な魔力量を発動するんだ」
侯爵家私兵の鍛練場のひとつ、屋内鍛練場がジュリアンの指導場所だった。
そこにルイ師団長は結界を張り、幻影魔法で魔物を作り出し、ジュリアンに実戦体験のような方法で指導していった。
初めのうちは魔力の発動方法や速度、魔力量を細かく調整する訓練を行った。
早く敵を倒す方法を知りたかったジュリアンは、この訓練が退屈だった。もちろんそれをジュリアンが顔に出したり、文句を言うことは無い。
しかし、集中力を必要とする魔力操作には如実に表れ、何度か怪我をする魔力暴走を起こした。
それを見越してか、膨大な魔力を持つ子供の指導ということもあって、ルイ師団長は部下の医術魔法師も同行させていた。
ジュリアンが魔力暴走を起こす一瞬に、ルイ師団長がすぐに結界を強化し、ジュリアンが致命的な怪我を負わないように対応したが、それでも受けてしまった傷はすぐに治療してもらった。
この日は、ルイ師団長が作り出した小型の魔物の群れを、威嚇を発動し動きを弱めてから剣で薙ぎ払う訓練だった。
威嚇を適当に広範囲にしてしまうと、味方の人間まで動けなくしてしまうので、対象の範囲を正確に把握しスキルを発動しなければならない。
さっきは範囲を狭くし過ぎたから、横から来た魔物にやられたんだ。
ジュリアンは黄金色の瞳を鋭く、魔力を発動する範囲に視線を動かす。と、
その先に何かが見えた。
鍛練場の窓の外から、大きな菫色の瞳で覗いている、この世で一番大切な存在が。
「うっ!」
一瞬集中が途切れたジュリアンの魔力がブワッと膨れ上がった。
「ジュリアン!!」
ルイ師団長が咄嗟にジュリアンに保護魔法をかけたが、そもそも魔力量が膨大で防ぎきれない。
ジュリアンは自分が魔物にかけた魔法に跳ね返されたように真後ろに飛んだ。
意識はあるが、手足と顔に擦り傷が出来ていた。医術魔法師が駆け寄り、大きな傷から治癒魔法をかけていく。
「ユリアナダメだよ!ジュリアンは訓練中なんだよ」
ナイジェルの声がした。
先ほど窓の外から覗いていた二人の声が聞こえてきた。
「ジュー、ジュー!」
ユリアナのジュリアンを呼ぶ声だ。
まだはっきりとジュリアンと言えないユリアナの可愛い僕を呼ぶ声。
「これはナイジェル様とユリアナ様、今は休憩中ですから、どうぞ中へ」
ルイ師団長が二人を中に招き入れた。
でもジュリアンは恥ずかしさでいっぱいだった。
ユリアナを守るために強くなりたいのに、気を取られて無様な姿を見られてしまった。悔しかった。こんなことではユリアナを守れない。
侯爵家に来て初めて涙を流した。
今まで訓練で辛くても怪我をしても、やはり淡々として悔しがることも、泣くことも無かったのに。
ユリアナが治療を受けているジュリアンの横に、ナイジェルと結んだ手を引っ張るようにトコトコと歩いて来る。
「ジュー?…えんえん?」
床に縮こまるように座り、両腕で顔を隠して泣いていると、小さなユリアナが覗き込むように体を曲げた。
「ユリアナ、ジュリアンは痛いんだよ?」
ナイジェルはユリアナの手を引こうとすると、ユリアナはその手を振りほどき、ジュリアンの横からガバッとジュリアンに覆い被さるように抱き締めた。
「ジュ、いいこいいこ」
ユリアナはギューッとジュリアンを抱き締めると、手でパンパンとジュリアンの背中を何度も叩いた。
自分が抱っこされている時に、ポンポンとリズム良く背中を優しく叩かれると気持ちが良いことを知っているから。
同じようにジュリアンを優しく叩いているつもりが加減が出来ない。
「ユリアナ、そんなに叩いたらジュリアンが痛いよ?」
ナイジェルがジュリアンから、ユリアナを引き剥がそうとする。
こんなに小さい子が、僕の気持ちをわかって慰めようとしている。
ジュリアンは涙を拭くと、そっと手を伸ばしユリアナの背中に両手を回した。するとユリアナはジュリアンの頭を撫でた。
やはり加減が出来ないので、ジュリアンの美しい黒髪は段々とボサボサになっていった。
「ジュ、いたた?」
「お嬢様、僕は痛くないです」
ジュリアンが顔を上げると、ユリアナは満面の笑顔でジュリアンを見つめていた。
ジュリアンは不敬とは理解していたが、この時は体が勝手にユリアナをギュッと抱き締めてしまった。
ユリアナも抱っこしてもらえると思い、ジュリアンの首に抱き付いた。
その様子をルイ師団長は見ていた。
この感情の乏しい狼のような少年の、唯一心を動かす大切な人を。
この小さな愛らしい侯爵家の娘、ユリアナの存在が、この特殊なスキルを持つ少年の最大の弱点になるのではないかと。
「それではジュリアン、今日の授業はここまでとしましょう」
「はい、ルイ先生今日もありがとうございました」
ジュリアンはそう言うと、ユリアナを抱き上げた。
ユリアナは急に目線が高くなりキャッキャと喜んだが、6歳のジュリアンがユリアナを抱えて歩くことは許されていないため、すぐに降ろすとナイジェルに任せるようにユリアナの背中を軽く押した。
ナイジェルとユリアナが手を繋ぎ、その後ろをジュリアンが帯剣し付いて行った。
その姿は、主人と護衛そのものだった。
ルイ師団長は、この純粋な二人の子供が、大人達の策略で傷付くことがないよう、祈る思いでその背中を見つめていた。
「ジュリアン、次は小型の魔物の群れだ。
さっきは少し魔力量が足りなくて隙を付かれたね。範囲をよく見定めて、適正な魔力量を発動するんだ」
侯爵家私兵の鍛練場のひとつ、屋内鍛練場がジュリアンの指導場所だった。
そこにルイ師団長は結界を張り、幻影魔法で魔物を作り出し、ジュリアンに実戦体験のような方法で指導していった。
初めのうちは魔力の発動方法や速度、魔力量を細かく調整する訓練を行った。
早く敵を倒す方法を知りたかったジュリアンは、この訓練が退屈だった。もちろんそれをジュリアンが顔に出したり、文句を言うことは無い。
しかし、集中力を必要とする魔力操作には如実に表れ、何度か怪我をする魔力暴走を起こした。
それを見越してか、膨大な魔力を持つ子供の指導ということもあって、ルイ師団長は部下の医術魔法師も同行させていた。
ジュリアンが魔力暴走を起こす一瞬に、ルイ師団長がすぐに結界を強化し、ジュリアンが致命的な怪我を負わないように対応したが、それでも受けてしまった傷はすぐに治療してもらった。
この日は、ルイ師団長が作り出した小型の魔物の群れを、威嚇を発動し動きを弱めてから剣で薙ぎ払う訓練だった。
威嚇を適当に広範囲にしてしまうと、味方の人間まで動けなくしてしまうので、対象の範囲を正確に把握しスキルを発動しなければならない。
さっきは範囲を狭くし過ぎたから、横から来た魔物にやられたんだ。
ジュリアンは黄金色の瞳を鋭く、魔力を発動する範囲に視線を動かす。と、
その先に何かが見えた。
鍛練場の窓の外から、大きな菫色の瞳で覗いている、この世で一番大切な存在が。
「うっ!」
一瞬集中が途切れたジュリアンの魔力がブワッと膨れ上がった。
「ジュリアン!!」
ルイ師団長が咄嗟にジュリアンに保護魔法をかけたが、そもそも魔力量が膨大で防ぎきれない。
ジュリアンは自分が魔物にかけた魔法に跳ね返されたように真後ろに飛んだ。
意識はあるが、手足と顔に擦り傷が出来ていた。医術魔法師が駆け寄り、大きな傷から治癒魔法をかけていく。
「ユリアナダメだよ!ジュリアンは訓練中なんだよ」
ナイジェルの声がした。
先ほど窓の外から覗いていた二人の声が聞こえてきた。
「ジュー、ジュー!」
ユリアナのジュリアンを呼ぶ声だ。
まだはっきりとジュリアンと言えないユリアナの可愛い僕を呼ぶ声。
「これはナイジェル様とユリアナ様、今は休憩中ですから、どうぞ中へ」
ルイ師団長が二人を中に招き入れた。
でもジュリアンは恥ずかしさでいっぱいだった。
ユリアナを守るために強くなりたいのに、気を取られて無様な姿を見られてしまった。悔しかった。こんなことではユリアナを守れない。
侯爵家に来て初めて涙を流した。
今まで訓練で辛くても怪我をしても、やはり淡々として悔しがることも、泣くことも無かったのに。
ユリアナが治療を受けているジュリアンの横に、ナイジェルと結んだ手を引っ張るようにトコトコと歩いて来る。
「ジュー?…えんえん?」
床に縮こまるように座り、両腕で顔を隠して泣いていると、小さなユリアナが覗き込むように体を曲げた。
「ユリアナ、ジュリアンは痛いんだよ?」
ナイジェルはユリアナの手を引こうとすると、ユリアナはその手を振りほどき、ジュリアンの横からガバッとジュリアンに覆い被さるように抱き締めた。
「ジュ、いいこいいこ」
ユリアナはギューッとジュリアンを抱き締めると、手でパンパンとジュリアンの背中を何度も叩いた。
自分が抱っこされている時に、ポンポンとリズム良く背中を優しく叩かれると気持ちが良いことを知っているから。
同じようにジュリアンを優しく叩いているつもりが加減が出来ない。
「ユリアナ、そんなに叩いたらジュリアンが痛いよ?」
ナイジェルがジュリアンから、ユリアナを引き剥がそうとする。
こんなに小さい子が、僕の気持ちをわかって慰めようとしている。
ジュリアンは涙を拭くと、そっと手を伸ばしユリアナの背中に両手を回した。するとユリアナはジュリアンの頭を撫でた。
やはり加減が出来ないので、ジュリアンの美しい黒髪は段々とボサボサになっていった。
「ジュ、いたた?」
「お嬢様、僕は痛くないです」
ジュリアンが顔を上げると、ユリアナは満面の笑顔でジュリアンを見つめていた。
ジュリアンは不敬とは理解していたが、この時は体が勝手にユリアナをギュッと抱き締めてしまった。
ユリアナも抱っこしてもらえると思い、ジュリアンの首に抱き付いた。
その様子をルイ師団長は見ていた。
この感情の乏しい狼のような少年の、唯一心を動かす大切な人を。
この小さな愛らしい侯爵家の娘、ユリアナの存在が、この特殊なスキルを持つ少年の最大の弱点になるのではないかと。
「それではジュリアン、今日の授業はここまでとしましょう」
「はい、ルイ先生今日もありがとうございました」
ジュリアンはそう言うと、ユリアナを抱き上げた。
ユリアナは急に目線が高くなりキャッキャと喜んだが、6歳のジュリアンがユリアナを抱えて歩くことは許されていないため、すぐに降ろすとナイジェルに任せるようにユリアナの背中を軽く押した。
ナイジェルとユリアナが手を繋ぎ、その後ろをジュリアンが帯剣し付いて行った。
その姿は、主人と護衛そのものだった。
ルイ師団長は、この純粋な二人の子供が、大人達の策略で傷付くことがないよう、祈る思いでその背中を見つめていた。
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