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29.ジュリアンの想い
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聖人の仕事をしていた。
王子妃教育は、王宮に行くたびに、次回も授業を受けた方が良いのか確認した。
もう私の授業を進める意味が無いことは、教師陣も理解しているようだった。
学院で第三王子が婚約者の聖人ユリアナを蔑ろにし、伯爵令嬢に焦れ込んでいるというのは、もはや周知の事実だった。
国王陛下は、王妃様はどう思っているのだろう。
耳に入っていない訳がない。
また王宮に行く日を伝えられると気が滅入った。
その頃から、なぜか体調の悪い日が出始めた。
今までこんな風に体調が悪くなることはなかった。体が重く、思うように動けない日があり戸惑っていた。
魔物の討伐要請があり同行するが、以前のように動けないどころか、治癒魔法に時間がかかるようになった。
それでも私は魔力がかなり多いので、魔力量でカバーしたがそれも長くは続かなかった。
「ちっ、なんだよ、全然治せねーじゃねーか!」
「これが治癒魔法?いつ治るんだよ!使えねーな、ふざけんなっ」
最近は減っていた第二騎士団の暴言も、私の力が弱まると途端に再燃した。
それでも魔物は容赦なく湧いてくるため、討伐要請があれば必ず同行した。
ある時、いつものように救護天幕で治療をしていた。
騎士達は回復するとまた参戦するため、慌ただしく天幕から出ていく。
とっくに治療も終わり、回復魔法もかけた騎士がひとり、寝台から起き上がらないでいた。
まだどこか具合いが悪いのかしら…
「あの、どこかまだ痛みますか?」
寝台に横になったままで騎士がユリアナを見る。
「ユリアナ様、どうかそのまま、俺を治療しているフリをして、話しを聞いてください」
真剣な目で私を見ている。
第二騎士団で、このような丁寧な騎士は初めてだったので戸惑ってしまった。
「あの、どういった事でしょう。それと貴方は…」
「やはり覚えてないですよね、俺は魔力判定の時に一緒だったカイル・ヒューリーです。ユリアナ様の前に魔力判定を受けた…」
覚えている。ふてくされた幼い顔のヒューリー様の面影がそのままある。
「カイル・ヒューリー様、失礼致しました。覚えております、あの日騎士になりたいと仰ってた夢が叶ったのですね」
カイルは苦い顔をして、
「騎士になる夢は叶いましたが、思っていたカッコいいものではなかったです。その事なんです話と言うのは、ジュリアン・エトール様のことです」
心臓がドクンと跳ねた。
ジュリ!ジュリに何かあったの…?
「ジュリアンがどうしたのでしょう」
話を聞くのが怖かった。
ジュリに何かあったら──
カイル様は時間が無いからと早口で話した。
早く討伐に戻らないと、自分が何をされるかわからないからと。
話を聞き終わると、胸が張り裂けそうになった。泣き出したくなるのを必死に堪えた。
ジュリアンは第二騎士団に入団後、直ぐに酷い嫌がらせを受け始めた。
聖人ユリアナの護衛で、第二騎士団の騎士の腕を切り落としたのがジュリアンだと、すでに騎士達に知られていたから。
騎士団は基本的には全員宿舎に住み、生活するのに困ることは無い。
しかしジュリアンは、外の物置のような狭い小屋に入れられ、討伐以外出てこないよう外から鍵がかけられた。
食事は1日1食で、人間らしい生活とは程遠い環境に置かれた。
それでも討伐になると、ひとりだけ最前線で魔物を倒すよう命じられ、ジュリアンは言われた通りにした。
しかし、過去にユリアナによって討伐中の怪我を治してもらい、命を繋ぎ止めることが出来た騎士たちが、こっそりとジュリアンの食事や生活を助けた。もちろんカイル様も。
ところが、助けていることを第二騎士団団長のジミールに知らせた者がいた。
ジミールはジュリアンを助けた者達を、毎回討伐の最前線に配置した。
魔物に襲われた怪我で、何度も瀕死の状態になっても、ユリアナに治療させ死なせなかった。
そして、何度も死の間際の苦しみを味合わせ、二度とジュリアンを助けないと誓わせた。
私が治療していた騎士の中にジュリを助けてくれた人がいたんだわ…
ジュリアンは何度となくひとりで魔物討伐を行っていた。
スキルを使って魔物を薙ぎ払い、どんなに大型の魔物でも、誰ひとり手伝ってはくれなかった。
その間第二の騎士達は酒を飲みながら、ジュリアンひとりの討伐が終わるのを笑って見ていた。
もちろんその時、ユリアナに同行要請は出さない。ユリアナが、ジュリアンに会えなかった理由がわかった。
どんなに恐れられるスキルでも、ルイ先生と約束したのだ。人間に威嚇を使ってはいけないと。
その約束をした場に、ユリアナがいた。「ねっ、ジュ」と可愛くうなずいた。小さなユリアナから約束を守るように言われた気がした。
ただ騎士達は、スキルがなくても、剣の腕が優れているジュリアンが気に入らなかったのだ。
そんな状況が続き、まともな食事を与えられなければ、魔力も体力も維持できない。
そんな中、第二騎士団の騎士達が、酒を飲みながら、聖人ユリアナを蔑む会話をした。
「あの偉そうなガキ、どうせ前の聖人と同じで男好きに決まってる」
「あー間違いないな、そのうち男を何人も侍らせながら来るんじゃねーか」
「おい、もう王子をタラシ込んでるってよ!さすが娼婦だな!」
「じゃあ俺も混ぜてもらって、聖人様に俺の子を生んでもらうぜ!ギャハハハ」
その瞬間、下品に笑う男の首が飛んだ。
ジュリアンが無表情で立っており、この場にいたユリアナを辱める言葉を発した者たち全員の首が、あっという間に胴体から離れた。
ジュリアンは度々耳にする、ユリアナを貶めるこいつらの言動に我慢の限界だった。
ジミール騎士団団長は、
「貴様ぁ、剣を置け!お前達、コイツを絞め挙げろ!」
餓えと疲労で弱っていたジュリアンは、数十人の騎士に殴られ蹴られ、魔力抑制の魔道具を左手首にはめられた。
=====
ジュリアンはとっくに限界だった。
毎日お腹が空いていた。疲れていた。
でも、自分が何をされても何とも思わなかった。
ユリアナに会いたかった。
そばにいて守りたかった。
自分のすべてだった。
それなのに…
(──俺の子を生んでもらうぜ)
ユリアナを侮辱することはもう許せなかった。
気が付いたら、いつもユリアナを馬鹿にしていた男たちを全員斬っていた。
こんな奴らはいなくていい。
斬ったって罪の意識も罪悪感もなければ、なんの感情もない。
大勢に一方的に殴られ蹴られた。
左手に魔力拘束具の腕輪を付けられた。すぐに外してコイツら全員殺してやる。
腕輪は一度装着したら二度と外れないと言われた。お前なんかスキルがなければ怖くない、一生着けてろ!とまた殴られ、周りで笑っている。
俺は左手首から自分の手を切り落とし腕輪を外すと、笑っていた奴の首から切った。スキルを発動し、何十人か切ったところで意識が無くなったのだろう。
でももうこれで良かった。
ユリアナにとって害になる奴らのほとんどは居なくなったから。
次に目が覚めた時、地下牢にいた。
右手と右足が鎖に繋がれていた。
そして、今度は首輪を着けられていた。
王子妃教育は、王宮に行くたびに、次回も授業を受けた方が良いのか確認した。
もう私の授業を進める意味が無いことは、教師陣も理解しているようだった。
学院で第三王子が婚約者の聖人ユリアナを蔑ろにし、伯爵令嬢に焦れ込んでいるというのは、もはや周知の事実だった。
国王陛下は、王妃様はどう思っているのだろう。
耳に入っていない訳がない。
また王宮に行く日を伝えられると気が滅入った。
その頃から、なぜか体調の悪い日が出始めた。
今までこんな風に体調が悪くなることはなかった。体が重く、思うように動けない日があり戸惑っていた。
魔物の討伐要請があり同行するが、以前のように動けないどころか、治癒魔法に時間がかかるようになった。
それでも私は魔力がかなり多いので、魔力量でカバーしたがそれも長くは続かなかった。
「ちっ、なんだよ、全然治せねーじゃねーか!」
「これが治癒魔法?いつ治るんだよ!使えねーな、ふざけんなっ」
最近は減っていた第二騎士団の暴言も、私の力が弱まると途端に再燃した。
それでも魔物は容赦なく湧いてくるため、討伐要請があれば必ず同行した。
ある時、いつものように救護天幕で治療をしていた。
騎士達は回復するとまた参戦するため、慌ただしく天幕から出ていく。
とっくに治療も終わり、回復魔法もかけた騎士がひとり、寝台から起き上がらないでいた。
まだどこか具合いが悪いのかしら…
「あの、どこかまだ痛みますか?」
寝台に横になったままで騎士がユリアナを見る。
「ユリアナ様、どうかそのまま、俺を治療しているフリをして、話しを聞いてください」
真剣な目で私を見ている。
第二騎士団で、このような丁寧な騎士は初めてだったので戸惑ってしまった。
「あの、どういった事でしょう。それと貴方は…」
「やはり覚えてないですよね、俺は魔力判定の時に一緒だったカイル・ヒューリーです。ユリアナ様の前に魔力判定を受けた…」
覚えている。ふてくされた幼い顔のヒューリー様の面影がそのままある。
「カイル・ヒューリー様、失礼致しました。覚えております、あの日騎士になりたいと仰ってた夢が叶ったのですね」
カイルは苦い顔をして、
「騎士になる夢は叶いましたが、思っていたカッコいいものではなかったです。その事なんです話と言うのは、ジュリアン・エトール様のことです」
心臓がドクンと跳ねた。
ジュリ!ジュリに何かあったの…?
「ジュリアンがどうしたのでしょう」
話を聞くのが怖かった。
ジュリに何かあったら──
カイル様は時間が無いからと早口で話した。
早く討伐に戻らないと、自分が何をされるかわからないからと。
話を聞き終わると、胸が張り裂けそうになった。泣き出したくなるのを必死に堪えた。
ジュリアンは第二騎士団に入団後、直ぐに酷い嫌がらせを受け始めた。
聖人ユリアナの護衛で、第二騎士団の騎士の腕を切り落としたのがジュリアンだと、すでに騎士達に知られていたから。
騎士団は基本的には全員宿舎に住み、生活するのに困ることは無い。
しかしジュリアンは、外の物置のような狭い小屋に入れられ、討伐以外出てこないよう外から鍵がかけられた。
食事は1日1食で、人間らしい生活とは程遠い環境に置かれた。
それでも討伐になると、ひとりだけ最前線で魔物を倒すよう命じられ、ジュリアンは言われた通りにした。
しかし、過去にユリアナによって討伐中の怪我を治してもらい、命を繋ぎ止めることが出来た騎士たちが、こっそりとジュリアンの食事や生活を助けた。もちろんカイル様も。
ところが、助けていることを第二騎士団団長のジミールに知らせた者がいた。
ジミールはジュリアンを助けた者達を、毎回討伐の最前線に配置した。
魔物に襲われた怪我で、何度も瀕死の状態になっても、ユリアナに治療させ死なせなかった。
そして、何度も死の間際の苦しみを味合わせ、二度とジュリアンを助けないと誓わせた。
私が治療していた騎士の中にジュリを助けてくれた人がいたんだわ…
ジュリアンは何度となくひとりで魔物討伐を行っていた。
スキルを使って魔物を薙ぎ払い、どんなに大型の魔物でも、誰ひとり手伝ってはくれなかった。
その間第二の騎士達は酒を飲みながら、ジュリアンひとりの討伐が終わるのを笑って見ていた。
もちろんその時、ユリアナに同行要請は出さない。ユリアナが、ジュリアンに会えなかった理由がわかった。
どんなに恐れられるスキルでも、ルイ先生と約束したのだ。人間に威嚇を使ってはいけないと。
その約束をした場に、ユリアナがいた。「ねっ、ジュ」と可愛くうなずいた。小さなユリアナから約束を守るように言われた気がした。
ただ騎士達は、スキルがなくても、剣の腕が優れているジュリアンが気に入らなかったのだ。
そんな状況が続き、まともな食事を与えられなければ、魔力も体力も維持できない。
そんな中、第二騎士団の騎士達が、酒を飲みながら、聖人ユリアナを蔑む会話をした。
「あの偉そうなガキ、どうせ前の聖人と同じで男好きに決まってる」
「あー間違いないな、そのうち男を何人も侍らせながら来るんじゃねーか」
「おい、もう王子をタラシ込んでるってよ!さすが娼婦だな!」
「じゃあ俺も混ぜてもらって、聖人様に俺の子を生んでもらうぜ!ギャハハハ」
その瞬間、下品に笑う男の首が飛んだ。
ジュリアンが無表情で立っており、この場にいたユリアナを辱める言葉を発した者たち全員の首が、あっという間に胴体から離れた。
ジュリアンは度々耳にする、ユリアナを貶めるこいつらの言動に我慢の限界だった。
ジミール騎士団団長は、
「貴様ぁ、剣を置け!お前達、コイツを絞め挙げろ!」
餓えと疲労で弱っていたジュリアンは、数十人の騎士に殴られ蹴られ、魔力抑制の魔道具を左手首にはめられた。
=====
ジュリアンはとっくに限界だった。
毎日お腹が空いていた。疲れていた。
でも、自分が何をされても何とも思わなかった。
ユリアナに会いたかった。
そばにいて守りたかった。
自分のすべてだった。
それなのに…
(──俺の子を生んでもらうぜ)
ユリアナを侮辱することはもう許せなかった。
気が付いたら、いつもユリアナを馬鹿にしていた男たちを全員斬っていた。
こんな奴らはいなくていい。
斬ったって罪の意識も罪悪感もなければ、なんの感情もない。
大勢に一方的に殴られ蹴られた。
左手に魔力拘束具の腕輪を付けられた。すぐに外してコイツら全員殺してやる。
腕輪は一度装着したら二度と外れないと言われた。お前なんかスキルがなければ怖くない、一生着けてろ!とまた殴られ、周りで笑っている。
俺は左手首から自分の手を切り落とし腕輪を外すと、笑っていた奴の首から切った。スキルを発動し、何十人か切ったところで意識が無くなったのだろう。
でももうこれで良かった。
ユリアナにとって害になる奴らのほとんどは居なくなったから。
次に目が覚めた時、地下牢にいた。
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