貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

文字の大きさ
35 / 89

29.ジュリアンの想い

しおりを挟む
 聖人の仕事をしていた。

 王子妃教育は、王宮に行くたびに、次回も授業を受けた方が良いのか確認した。

 もう私の授業を進める意味が無いことは、教師陣も理解しているようだった。
 学院で第三王子が婚約者の聖人ユリアナを蔑ろにし、伯爵令嬢に焦れ込んでいるというのは、もはや周知の事実だった。

 国王陛下は、王妃様はどう思っているのだろう。
 耳に入っていない訳がない。
 また王宮に行く日を伝えられると気が滅入った。

 その頃から、なぜか体調の悪い日が出始めた。

 今までこんな風に体調が悪くなることはなかった。体が重く、思うように動けない日があり戸惑っていた。

 魔物の討伐要請があり同行するが、以前のように動けないどころか、治癒魔法に時間がかかるようになった。
 それでも私は魔力がかなり多いので、魔力量でカバーしたがそれも長くは続かなかった。

 「ちっ、なんだよ、全然治せねーじゃねーか!」
 「これが治癒魔法?いつ治るんだよ!使えねーな、ふざけんなっ」

 最近は減っていた第二騎士団の暴言も、私の力が弱まると途端に再燃した。

 それでも魔物は容赦なく湧いてくるため、討伐要請があれば必ず同行した。


 ある時、いつものように救護天幕で治療をしていた。
 騎士達は回復するとまた参戦するため、慌ただしく天幕から出ていく。

 とっくに治療も終わり、回復魔法もかけた騎士がひとり、寝台から起き上がらないでいた。

 まだどこか具合いが悪いのかしら…

 「あの、どこかまだ痛みますか?」

 寝台に横になったままで騎士がユリアナを見る。

 「ユリアナ様、どうかそのまま、俺を治療しているフリをして、話しを聞いてください」

 真剣な目で私を見ている。
 第二騎士団で、このような丁寧な騎士は初めてだったので戸惑ってしまった。

 「あの、どういった事でしょう。それと貴方は…」

 「やはり覚えてないですよね、俺は魔力判定の時に一緒だったカイル・ヒューリーです。ユリアナ様の前に魔力判定を受けた…」

 覚えている。ふてくされた幼い顔のヒューリー様の面影がそのままある。

 「カイル・ヒューリー様、失礼致しました。覚えております、あの日騎士になりたいと仰ってた夢が叶ったのですね」

 カイルは苦い顔をして、
 「騎士になる夢は叶いましたが、思っていたカッコいいものではなかったです。その事なんです話と言うのは、ジュリアン・エトール様のことです」

 心臓がドクンと跳ねた。
 ジュリ!ジュリに何かあったの…?

「ジュリアンがどうしたのでしょう」

 話を聞くのが怖かった。
 ジュリに何かあったら──

 カイル様は時間が無いからと早口で話した。
 早く討伐に戻らないと、自分が何をされるかわからないからと。


 話を聞き終わると、胸が張り裂けそうになった。泣き出したくなるのを必死に堪えた。


 ジュリアンは第二騎士団に入団後、直ぐに酷い嫌がらせを受け始めた。

 聖人ユリアナの護衛で、第二騎士団の騎士の腕を切り落としたのがジュリアンだと、すでに騎士達に知られていたから。

 騎士団は基本的には全員宿舎に住み、生活するのに困ることは無い。

 しかしジュリアンは、外の物置のような狭い小屋に入れられ、討伐以外出てこないよう外から鍵がかけられた。

 食事は1日1食で、人間らしい生活とは程遠い環境に置かれた。
 それでも討伐になると、ひとりだけ最前線で魔物を倒すよう命じられ、ジュリアンは言われた通りにした。

 しかし、過去にユリアナによって討伐中の怪我を治してもらい、命を繋ぎ止めることが出来た騎士たちが、こっそりとジュリアンの食事や生活を助けた。もちろんカイル様も。

 ところが、助けていることを第二騎士団団長のジミールに知らせた者がいた。

 ジミールはジュリアンを助けた者達を、毎回討伐の最前線に配置した。

 魔物に襲われた怪我で、何度も瀕死の状態になっても、ユリアナに治療させ死なせなかった。
 そして、何度も死の間際の苦しみを味合わせ、二度とジュリアンを助けないと誓わせた。

 私が治療していた騎士の中にジュリを助けてくれた人がいたんだわ…

 ジュリアンは何度となくひとりで魔物討伐を行っていた。
 スキルを使って魔物を薙ぎ払い、どんなに大型の魔物でも、誰ひとり手伝ってはくれなかった。

 その間第二の騎士達は酒を飲みながら、ジュリアンひとりの討伐が終わるのを笑って見ていた。

 もちろんその時、ユリアナに同行要請は出さない。ユリアナが、ジュリアンに会えなかった理由がわかった。

 どんなに恐れられるスキルでも、ルイ先生と約束したのだ。人間に威嚇を使ってはいけないと。
 その約束をした場に、ユリアナがいた。「ねっ、ジュ」と可愛くうなずいた。小さなユリアナから約束を守るように言われた気がした。

 ただ騎士達は、スキルがなくても、剣の腕が優れているジュリアンが気に入らなかったのだ。

 そんな状況が続き、まともな食事を与えられなければ、魔力も体力も維持できない。

 そんな中、第二騎士団の騎士達が、酒を飲みながら、聖人ユリアナを蔑む会話をした。

 「あの偉そうなガキ、どうせ前の聖人と同じで男好きに決まってる」

 「あー間違いないな、そのうち男を何人も侍らせながら来るんじゃねーか」

 「おい、もう王子をタラシ込んでるってよ!さすが娼婦だな!」

 「じゃあ俺も混ぜてもらって、聖人様に俺の子を生んでもらうぜ!ギャハハハ」

 その瞬間、下品に笑う男の首が飛んだ。

 ジュリアンが無表情で立っており、この場にいたユリアナを辱める言葉を発した者たち全員の首が、あっという間に胴体から離れた。

 ジュリアンは度々耳にする、ユリアナを貶めるこいつらの言動に我慢の限界だった。

 ジミール騎士団団長は、
 「貴様ぁ、剣を置け!お前達、コイツを絞め挙げろ!」

 餓えと疲労で弱っていたジュリアンは、数十人の騎士に殴られ蹴られ、魔力抑制の魔道具を左手首にはめられた。


=====

 ジュリアンはとっくに限界だった。
 毎日お腹が空いていた。疲れていた。
 でも、自分が何をされても何とも思わなかった。

 ユリアナに会いたかった。
 そばにいて守りたかった。
 自分のすべてだった。
 それなのに…

 (──俺の子を生んでもらうぜ)

 ユリアナを侮辱することはもう許せなかった。

 気が付いたら、いつもユリアナを馬鹿にしていた男たちを全員斬っていた。

 こんな奴らはいなくていい。
 斬ったって罪の意識も罪悪感もなければ、なんの感情もない。

 大勢に一方的に殴られ蹴られた。
 左手に魔力拘束具の腕輪を付けられた。すぐに外してコイツら全員殺してやる。

 腕輪は一度装着したら二度と外れないと言われた。お前なんかスキルがなければ怖くない、一生着けてろ!とまた殴られ、周りで笑っている。

 俺は左手首から自分の手を切り落とし腕輪を外すと、笑っていた奴の首から切った。スキルを発動し、何十人か切ったところで意識が無くなったのだろう。

 でももうこれで良かった。
 ユリアナにとって害になる奴らのほとんどは居なくなったから。

 次に目が覚めた時、地下牢にいた。
 右手と右足が鎖に繋がれていた。
 そして、今度は首輪を着けられていた。


しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・

青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。 婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。 「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」 妹の言葉を肯定する家族達。 そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。 ※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。

処刑台の皇妃、回帰して復讐を誓う ~冷酷公爵と偽りの婚約者~ おまえたちは許さない!

秦江湖
ファンタジー
皇妃エリアーナは、夫である皇帝アランと、たった一人の親友イザベラの策略により、無実の罪で処刑される。 民衆に罵られ、アランの冷酷な目とイザベラの嘲笑を「始まりの景色」として目に焼き付けながら絶命した彼女は、しかし、処刑の記憶を持ったまま三年前の過去に回帰する。 「おまえたちは許さない」 二度目の人生。 エリアーナの目的はただ一つ、自分を陥れた二人への完璧な復讐。 彼女はまず、アラン(皇太子)からの婚約内示を拒絶。そして、アラン最大の政敵である「北の冷血公爵」ルシアン・ヴァレリウスに接触する。 1周目で得た「未来の知識」を対価に、エリアーナはルシアンに持ちかける。 「貴方様には帝国の覇権を。わたくしには復讐の舞台を。そのための『契約婚約』を――」 憎悪を糧に生きる皇妃と、氷の瞳を持つ公爵。 二人の偽りの婚約の行く末は……

婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです

鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。 理由は―― 「王太子妃には華が必要だから」。 新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。 誰もが思った。 傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。 けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。 「戻りません」 彼女は怒らない。 争わない。 復讐もしない。 ただ――王家を支えるのをやめただけ。 流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。 さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。 強いざまあとは、叫ぶことではない。 自らの選択で、自らの立場を削らせること。 そして彼女は最後まで戻らない。 支えない。 奪わない。 ――選ばれなかったのではない。 彼女が、選ばなかったのだ。 これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

結婚して3年経っても子供ができないという理由で離縁されたエマは、前世の記憶を思い出して幸せになる。周りが勝手に復讐してくれました。

山田 バルス
恋愛
 結婚三年目の春、エマは伯爵家の夫アンドレオから突然、側室を迎える話を告げられる。子をなせなかったことを理由に、彼女は僅かな補償のみで離縁された。妻として過ごした三年間は「無価値だった」と突きつけられ、エマは貴族社会から静かに切り捨てられる。  また実家の父母の墓参りに行くと、当主になっていた兄に離縁金を奪われてしまう。  大ピンチのエマには、秘密があった。なんと彼女は幼少期に前世の記憶を思い出していたのだ。  かつて観光地で石を磨き、アクセサリーを作り、人に喜ばれる仕事をしていた人生。何も持たない今だからこそ、もう一度「自分の手で生きる」ことを選び、あの人が住む商業国家スペイラ帝国へ向かう決意をする。  国境への道中、盗賊に襲われるが、護衛兵ロドリゲスの活躍で難を逃れる。彼の誠実な態度に、エマは「守られる価値のある存在」として扱われたことに胸を打たれた。  スペイラ帝国では身分に縛られず働ける。エマは前世の技術を活かし、石を磨いてアクセサリーを作る小さな露店を始める。石に意味を込めた腕輪やペンダントは人々の心を掴み、体験教室も開かれるようになる。伯爵夫人だった頃よりも、今の方がずっと「生きている」と実感していた。  ある朝、ロドリゲスが市場を訪れ、エマの作ったタイガーアイの腕輪を購入する。ところがその夜、彼は驚いた様子で戻り、腕輪が力を一・五倍に高める魔道具だと判明したと告げる。エマ自身は無意識だったが、彼女の作るアクセサリーには確かな力が宿っていた。  後日二人は食事に出かけ、エマは自分が貴族の妻として離縁された過去を打ち明ける。ロドリゲスは強く憤り、「最悪な貴族だ」と彼女と一緒になって怒ってくれた。その気持ちが、エマにとって何よりの救いだった。彼は次に防御力を高める腕輪を依頼し、冒険者ギルドで正式な鑑定を受けるよう勧める。  翌日、冒険者ギルドで鑑定を行った結果、エマの腕輪は高い防御効果を持つことが判明。さらに彼女自身を鑑定すると、なんと「付与特化型聖女」であることが明らかになる。聖女が付与した魔道具は現実の力として強く発現するのだ。  価値がないと切り捨てられた人生は、ここでは確かな力となった。スペイラ帝国で、聖女エマの新しい人生が、静かに、そして輝かしく始まる。

結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました

ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。 ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。 王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。 そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。 「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

【完結】最愛から2番目の恋

Mimi
恋愛
 カリスレキアの第2王女ガートルードは、相手有責で婚約を破棄した。  彼女は醜女として有名であったが、それを厭う婚約者のクロスティア王国第1王子ユーシスに男娼を送り込まれて、ハニートラップを仕掛けられたのだった。  以前から婚約者の気持ちを知っていたガートルードが傷付く事は無かったが、周囲は彼女に気を遣う。  そんな折り、中央大陸で唯一の獣人の国、アストリッツァ国から婚姻の打診が届く。  王太子クラシオンとの、婚約ではなく一気に婚姻とは……  彼には最愛の番が居るのだが、その女性の身分が低いために正妃には出来ないらしい。  その事情から、醜女のガートルードをお飾りの妃にするつもりだと激怒する両親や兄姉を諌めて、クラシオンとの婚姻を決めたガートルードだった……  ※ 『きみは、俺のただひとり~神様からのギフト』の番外編となります  ヒロインは本編では名前も出ない『カリスレキアの王女』と呼ばれるだけの設定のみで、本人は登場しておりません  ですが、本編終了後の話ですので、そちらの登場人物達の顔出しネタバレが有ります  

処理中です...