貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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47.断罪③

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 「お嬢様、お嬢様…」

 絶望し、それでもベッドとは言えないような木の板の箱の上に横になっていた。

 誰…?力を入れて顔を少しあげると、鉄格子の前に人の姿が見えた。

 「お嬢様!マーカスです…」

 侯爵邸の執事マーカスだった。
 私の生まれる前から侯爵家に仕え、お父様の右腕として信頼の厚い有能な執事。

 いつも清潔感のある髪型で、品良く身なりを整えていたマーカスが、髪は乱れ、着ている服は神官服なのか、それも土なのか何なのか全身汚れていた。

 神官長様と神官たちと、一緒に王宮に入ったので、ここまで来れたそうだ。この牢の外に神官が数名待機してくれていると言う。

 「お嬢様、なんとお痛わしい…」
 
 「マーカス、マーカス!ジュリがジュリがっ!うっうっ…」

 「…お嬢様、ジュリアンのことは、…聞きました。その上これからお伝えする事は、身を切るほどにお辛い事です…」
 マーカスは泣いていた。


 異例の早さで私の処刑が決まったと告げられた。
 それと同時に、私の大切な家族も亡くなったと聞かされた。

 お兄様は、隣国トルランからの帰国直後に、侯爵邸に第二騎士団が奇襲のようになだれ込んできたため、私兵と共に阻止しようとしたところを反逆罪とされ、その場で斬り捨てられたそうだ。

 領地にいたお父様は、マーカスの送った魔法伝書で知らせを受け、すぐに侯爵邸に戻ったが、すでに私は連れ去られたあとで、邸にはお兄様の亡骸にすがり付き、狂ったように泣くお母様がいた。

 お父様は、連れ去られた私を追いかけようと愛馬に乗り駆け出したが、普段おとなしく従順な馬がなぜか突然暴れ出し落馬した。
 そして倒れてきた愛馬の下敷きになり亡くなったそうだ。

 お母様は、お兄様が亡くなり絶望しているところに、お父様の死の報せを受けた。
 それまで泣き叫んでいたお母様は、

 「…わかったわ、少し冷静になりたいから一人にしてちょうだい」

と言い自室に向かったそうだ。

 お母様の専属侍女のヘレンが、今の奥様を一人きりには出来ないと頑として譲らなかったが、お母様はいつも見せる穏やかな少女のような笑顔で、

 「少し休みたいだけよ、大丈夫、心配しないで。ありがとうヘレン」

 お母様はそうヘレンに告げると、素早く自室に入り鍵を掛けた。

 ドアの外ではヘレンが何度もお母様の名を呼びドアを叩くが、返事はなく物音もしない。

 マーカスにこの部屋の鍵を持ってくるよう頼み、ドアの前でお母様の名を呼び続ける。
 息を切らしたマーカスが持ってきた鍵でドアを開けると、ベッドの上に口から血を流したお母様が横たわっていたそうだ。

 自ら毒を飲んだのは一目瞭然だった。
 

 マーカスは残った私兵と数人で、お父様とお母様 、お兄様の亡骸が辱しめを受けないよう、侯爵邸の聖堂に安置し、使用人には国王陛下が国に戻るまで逃げるように指示を出した。

 侯爵邸の第二厩舎の馬を走らせ、聖堂の鍵と侯爵邸と表門の鍵を神殿に預け、神官長様とともに王宮に来たのだ。

 「マーカス、アンナは?アンナは無事なの?」
 せめてお願いアンナだけは…

 「アンナは、…お嬢様の部屋で……息絶えておりました」

 涙が次から次へと流れる。

 私たちが何をしたの?
 こんな風に何もわからないまま、なぜ命まで奪われないといけないの?

 「お嬢様、申し訳ありませんでした… 私がいながら旦那様も奥様もナイジェル様も、お守りできませんでした…くっ…うっ…」

 「マーカスお願い… 陛下に国王陛下にお伝えして。シャルルアン・ゴルドー伯爵令嬢がさっき私に言ったの。
 私が、リチャード様と聖人の力をゴルドー伯爵令嬢から奪ったから、その罪で私は今ここに入れられたって。私には意味がわからない。
 だけど、私には陛下の影が付いていたはずよ。だから、陛下にお伝えすればわかって頂けると思うの」

 「わかりましたお嬢様。私はお嬢様がこのような所からすぐに出られるよう、この命に変えてでも訴えてきます。 
 神官長様もこの事態を陛下に伝えると言っておりました。それまでお嬢様、どうかお気を確かに、このマーカスを待っていてください」

 私は箱の上から降りて、鉄格子の前にいるマーカスのところまでヨロヨロと歩いた。

 手を伸ばすと冷たいマーカスの手が私の手を包んだ。
 マーカスの手はあちこち切れていて、顔にも土なのかわからない汚れが付いていた。
 生まれてから今まで、どんな時もマーカスがこんなに乱れていたことは一度もなかった。

 「マーカス、私たちまた会えるの?」

 「もちろんですお嬢様。私はこれから神官長様と神殿に戻ります。そして、この状況を説明したあと、すぐにライナルト様のいるトルランヘ向かいます、陛下はそこを通るはずなので」

 「わかったわ、マーカスくれぐれも気を付けて」

 「…お嬢様、お嬢様に…触れることをお許しください」

 そう言うとマーカスは、鉄格子を挟んでユリアナを抱き締めた。マーカスは震えていた。

 幼い頃に何度もせがんで背の高いマーカスに抱っこしてもらった。その時に香った香水と同じ香りが微かにした。

 そして、両手で私の頬を優しく撫でると、すぐに戻りますと言って地下牢を出て行った。


 それからマーカスには会えなかった。
 もちろん他の誰にも。

 マーカスがここを去って、それほど時間は経っていないだろう。

 日の当たらないここは昼なのか夜なのかもわからない。
 でももう時間を気にする必要も無いのだ。

 処刑場に行くと突然告げられ、乱暴に牢から引きずり出されたのだから。







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