貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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53.黄金の瞳

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 その男を先頭に、第二騎士団棟を歩いた。

 途中ですれ違う騎士たちが、先頭を魔法で捕縛されたまま歩く騎士を見て驚いていた。

 「おい、どうしたんだ?お前は今日…」

 後ろを歩くルイ師団長と、その後ろにいる私を見て、あからさまに表情を変える。

 「おい何でこのガキが俺たちの家を歩いてるんだよっ!」

 ああ、ここにいる騎士にまともな人間はいないのだろうか。
 それなら全員が処罰対象になるだろう。

 カムデン私兵長が、剣に手をかけながら恐ろしい顔で私とその騎士の間に入る。

 「おい!お前たちもうやめろ!聖人…様にその態度はもうやめるんだ!俺たちが間違っていたんだ!団長は捕縛された」

 捕縛されたまま先頭を歩かされている騎士が仲間に怒鳴った。

 「団長が…?嘘だろ?おい嘘だろ?」

 その騎士はヨロヨロと反対方向に歩いて行った。この話しを聞いた騎士たちが逃げ出して、王宮内が大騒ぎにでもなったら面倒だ。

 私は騎士団棟ごと結界魔法をかけた。逃がすものか。

 「ユリアナ様、凄いですね、ふふふ。棟ごと結界を張るなんて。でもとても上手にコントロールされている。たまにはランを褒めてあげましょう。ふふっ」

 ルイ先生は楽しそうに笑った。

 騎士は外を歩くと言うので、一部の結界を破り棟から外に出た。

 それから棟の裏に回り、また少し歩くと、棟の日陰になった場所に、大きな物置小屋と小さな物置小屋があった。

 「…あそこにいます」

 小さな物置小屋の方に目線を動かした。

 小さな小屋の横にはスコップや鍬、桶が積んであった。これを外に出してジュリアンを入れたんだわ。

 前回、カイル様に聞いてはいたが、こんな小さな物置小屋だったなんて、なんて酷い…

 駆け寄るとやはり入り口には外から鍵が掛けてあった。

 「私兵長お願い…鍵を、ジュリ!ジュリ、私よ!今開けるからっ」

 「お嬢様、離れてください。私にお任せください」

 私兵長は剣の握りで鍵の部分を力いっぱい叩いた。何度目かで鍵ごと壊れ戸が開いた。

 「ジュリ、私よ…」
 ジュリがこちらに顔を向けた。

 「…お嬢様、無事でしたか?怪我はしてませんか?でも…近寄らないでください。お嬢様が、汚れてしまいます。…俺は…汚いので…」

 足を伸ばして寝れないほどの狭い小屋に、ジュリは自分の剣を抱えて座っていた。
 窓も無いので、戸が開いたことで眩しそうに目を細めた。

 頬はこけて、明らかに体重が減っているのがわかった。

 小屋の中には薄汚れた毛布が一枚あるだけだった。小屋の隅の床板を一部剥がし土を掘って、そこを排泄の場としていたようだ。深く掘って出た土を端に高く盛っていた。

 こんな環境だったのに私の心配をするなんて…

 「ジュリ、ごめんなさい!ジュリ、ジュリ、私のせいで、ごめんなさい…」

 私はジュリに抱き付いた。

 ジュリは、
 「お嬢様、俺は大丈夫です。それに汚れます」

と言って私を離そうとしたが、私が力を入れると黙って受け入れた。

 「酷い。聞いていた話しとは違う。我が侯爵家の私兵にこのような扱いをした報いは受けてもらう。ルイ師団長、確認できましたね」

 「はいナイジェル様、こんな非人道的なことが、この王宮の片隅で行われていたなんて、何てことだ、こんな酷いことを…」

 私はジュリに魔力を使い、ゆっくり回復魔法をかけた。

 ジュリを見つめると、ジュリの黄金色の瞳に力が戻ってきたように輝きだした。

 そして、浄化魔法をかけ、一度も湯浴みを出来ていなかっただろう体と服を綺麗にした。

 ジュリの、あの時失った左手がある。

 私は両手でジュリの左手を握って、その左手を自分の頬に当てた。

 「お嬢様、貴重な力を俺にありがとうございます」

 ジュリは、私が頬に当てた左手の親指で、私の頬を優しく撫でた。

 「ジュリ、ごめんね…ごめんなさい」

 涙でグチャグチャの私を見て、一瞬傷付いたような顔をしたジュリは、私を横抱きに抱え立ち上がろうとしたが力が入らず、

「…くそっ」

と小さな声で悔しがった。

 侯爵家私兵の実地訓練で、食料を持たず、野草の知識をつけ、川魚や小動物の狩りをして生き延び、山奥から侯爵家まで自力でたどり着かなくてはならないという過酷な訓練がある。

 ジュリはいつも一番にたどり着いていた。その訓練があったことも、ジュリが今の状態で済んでいるのかもしれない。

 私は横抱きにされたが、立ち上がれないジュリの首に手を回し抱き締めた。 

 ジュリも大切なものを抱えるように、私を優しく抱き締めた。
 愛おしいという感情を隠しもせず、抱き締めたユリアナの頭に頬ずりをした。

 「ジュリ、帰りましょう。私たちの家に」

 ジュリは戸惑った顔をした。
 「しかしお嬢様、俺は…」

 「いいのよ、ジュリをこんな目に遭わせて、これ以上ここにいる必要はないわ。さあ帰るわよ」

 私は立ち上がってジュリの手を引いた。もう離すもんですか。私はギュッとジュリの手を握り、離さないからとジュリの目を見た。

 ジュリの目がいつもよりキラキラして見えた。


 「あの、聖人様、俺は…」

 捕縛されている騎士が泣きそうな顔をしている。

 このまま第二騎士団棟に戻しても、騎士団の奴らに情報を与えるだけだわ。 
 それならまだしも口封じをされてしまうかも。

 「あなたは侯爵家の地下牢に入ってもらうわ。家族もよ」

 「ひっ…、俺の嫁と子供は…どうかお許しください…!」

 「ついさっき自分のしたことを忘れたの?陛下に剣を向けるのと同じようなことをしたのよ?
 それにあなた子供がいるの?自分の子供に剣を向ける相手を許せる?私のお父様とお母様は許さないわ」

 その騎士はガックリと膝を地面に付けた。すぐにルイ師団長の魔法で立たされ、今度は話せないように口も拘束された。


 私たちは王宮の応接室にいた。
 私の命で、まずはコンフォード宰相を呼んだ。

 「宰相、どういうことか説明してください」

 私は間を与えず、どんな顔でどんな言い訳をするのか観察することにした。

 ジュリは体が辛いだろうと思ったが、応接室のソファーに寝かせ、戻ってきたマーカスにお世話を頼んだ。

 私の目の届かないところには置いておけない。王宮が一番信用ならない。

 「ユリアナ様、私はその、ここまでとは思っておらず、この状況をまだ、認識していなかったと言いますか、そこまで酷いとは報告を聞いておらず…」

 わかっていたのね。
 ジュリを亡き者にしても構わないと思っていたのだわ。
 いつから?最初から?
 そうよね、魔物討伐のためとか、第二を鍛えて欲しいなんて建前だわ。

 ジュリがいて困る人間は誰?
 この人ではないわ。
 アイツね。

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