貴方たちの悪意は倍にしてお返しします

翡翠と太陽

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62.伯爵家侍女 真実

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 私の誕生日から数週間経過すると、やはり身体が徐々に衰弱しているのを実感した。

 「ユリアナ?そろそろ良いよね?お前の身体がどうにかなってしまいそうで、お兄様は心配で眠れないよ?」

 「そうよ、ユリアナ、もう充分よ?解術して、あの伯爵の小娘から魔力を返してもらいましょう。アイツらはもう一族で処刑なのだから」

 あの誕生日の日に、私はお父様にもお母様にもマーカスにも、死に戻った話をした。

 お兄様が闇魔術のことを補足してくれて、お父様もお母様も、マーカスもすぐに信じてくれた。

 「アイツめ、あのゴミ野郎!殺してやる!私のユリアナを殺しやがって…!」

 「父上、ユリアナは殺されてません」

 「一度は殺されたのだ!許されるわけないだろ!しかも闇魔術だと…!許せん!ゴルドーは確か、学院で一緒だったはずだ。親しくした覚えもない、そもそも今の今まで忘れていたくらいだ」

 「あらあなた、私、言ってなかったかしら?学院時代に何度かゴルドーから婚約の打診があったのよ?
 私はすでに、あなたと婚約してたからお断りしてたけど、断ってもまた、支度金を上乗せするからと打診があったわ。
 それと、お昼を高級カフェで一緒に…とか、取るのが難しいチケットがあるから観劇に…とか、何度も誘われたことがあるわ」

 「……ちょっと!?父上!剣を持ってどこに行くんですっ!? マーカス!父上を止めて…!」

 お父様が落ち着くまで少々時間はかかったが、お父様はお母様の隣にピッタリと座り、お母様の肩を抱き、手を握っている。
 そして何度もそのお母様の手に自分の唇を付けている。

 「……んんっ!…それでは父上、よろしいですね?明日、ライナルト殿下とルイ師団長と一緒に、ゴルドー伯爵家に行きます。
 そして、全員捕縛し闇魔術の書を回収します。あの馬鹿女、シャルルアンはリチャードの私室に籠っているので丁度良いでしょう」

 あれからリチャードは時々手紙を送ってきた。

 君とは必ず結婚するから、そのつもりでいるようにと、毎回同じ事が書かれていた。
 そのくせ影からは、シャルルアンとも未だに濃密に付き合っているという報告があった。

 そして、良からぬ動きもしているようだと受けた報告に、
 来週の夜会で、私が嫉妬からシャルルアンに酷い仕打ちしたと、証拠と共に断罪し、嫉妬する程好きなら結婚はしてやるが、シャルルアンを第二夫人として認めさせる、というものだった。
 
 あまりにも稚拙で愚かしい計画に、馬鹿馬鹿しくて何度もため息が出たが、私は私の魔力を返してもらう場も必要だったので、この時を利用することにした。

 前回は、身体が辛くて寝込んでいたところを、突然奇襲のように第二騎士団に連れ去られたんだわ。

 そして、あの二人に嵌められた。

 あの時の地獄のような数日間を思い出すと、立っているのも辛くなる程の絶望感で、胸が苦しくなる。

 上書きするのよ、ユリアナ。
 アイツらから受けた絶望は、きっちりとお返しするの。いえ、それ以上よ。
 私は私の大切な人たちを絶対に守ってやる。



 数日後、ライナルト殿下がルイ師団長と侯爵邸に訪れた。

 「やあユリアナ嬢、久しぶりだね?体調はどうかな?闇魔術の禁術書は回収したよ?ここ数日、君のことを心配してたんだ」

 眉毛を下げたライナルト殿下は、王族カラーの金色の髪と深い翠色の瞳で、私を伺うように見つめている。

 すると私の後ろでジュリの殺気を微かに感じた。

 「ジュリアン、久しぶりだね?最近また力を付けてきたね?魔力訓練は続けているかい?」

 ルイ師団長が、すかさずジュリに話しかけた。殺気を放って良い王族はリチャードだけだ。

 「はい、ルイ先生。約束は守っています」

 ジュリはなぜかライナルト殿下を真っ直ぐに見ながら言った。

 「アハハハ!君がジュリアン君だね?
 そうか、うん、さすがに君には敵わないか…。大丈夫…君が不安に思うことは何もない」

 ライナルト殿下がジュリアンに優しく言葉をかけると、ジュリは静かに殺気を鎮めた。

 そして、ルイ師団長から、私に闇魔術をかける経緯を、ゴルドー伯爵家の赤毛の侍女に、自白魔法を掛けて聞いたという話に、私の心は深く抉られた。


 母親と二人暮らしだったその侍女は、ある日、母親が魔物に襲われた。
 瀕死の状態で病院に運ばれ、なんとか命は繋いだが、これ以上は聖人の治療じゃないと無理だと言われた。

 病院の院長が、聖人の私に治療の依頼を何度か王宮に送ったが、返事はなく、もちろん聖人も来ない。
 そうしているうちに母親は旅立ってしまった。

 しかし、母親が旅立った直後に、隣の病室に聖人が訪れ、その病室の子供を助けた。

 なぜ?なぜ私のお母さんは助けてくれなかったの…?

 絶望しながら支援院での生活を始めると、ゴルドー伯爵が我が家で侍女にならないかとやって来た。
 我が伯爵家は、聖人に虐げられた者を優遇していると。

 伯爵はその侍女の話に親身に耳を傾け、寄り添ってくれた。
 そして、お前が貧しい平民だから来なかった、聖人様の気分次第で治療してもらえただろうと言った。

 たった一人の家族、母親を死に追いやった聖人が憎かった。いつか聖人を亡き者にして、私も母親の元に逝こう。

 そのチャンスはすぐに訪れた。
 女神様は私に味方している。これは聖人を絶望させ、亡き者にしろと言っているようなものだ。

 その魔術の書かれた本を、必死に暗記した。
 お母さん、見ててね、お母さんの敵を取るからね。

 伯爵に相談し、いよいよ決行の日となった。
 信じられないくらい上手くいった。 
 怖いくらいだった。
 お嬢様の右手に紋章が表れ、聖なる力も使えるようになった。

 これであとはあの聖人の力をゆっくりと奪い取り、衰弱して死んでしまえばいい。私のお母さんの苦しみを味わえ!

 しかし、やはり悪いことは出来ない。私は、王家の人や魔法師の人に捕まり、王宮の部屋に通された。

 なぜか黙っていたくても、口がペラペラと動いてしまい、今までのことを全部話してしまった。

 ところが、私がすべて話したあとに、私の向かいに座っていた第二王子様から聞いた話しに、全身の血が引いた。

 お母さんが運ばれた日、ゴルドー伯爵は王宮で仕事をしていた。

 日頃から真面目な態度とは言えず、面倒だと思う仕事は、書類を誤魔化したり、処分したりしていた。

 特に聖人に関わるものは、まともに処理したことがなかった。聖人ユリアナが、人々から恨まれる存在になるよう、病院からの伝書は必ずと言ってよいくらい処分していたのだ。

 その中に、お母さんをすぐに助けて欲しいという、病院からの魔法伝書も含まれていた。

 聖人がお母さんの治療に来なかったのは、ゴルドー伯爵の、聖人ユリアナに対する勝手な嫌がらせだったのだ。

 聖人ユリアナは、どんなに討伐や騎士団たちの治療に忙しくても、民のために万能薬を作り、それを無料で配って欲しいという方だ。

 平民だからとか、気分でなど治療の対象を選別したりはしない。
 伝書がきちんと処理されてさえいれば、聖人ユリアナはすぐに病院に来て治療してくれただろう。

 私は… 私は、なんてことをしてしまったんだろう…!
 恨む相手を間違え、取り返しのつかないことをしてしまった…
 伯爵様が、あの伯爵が、すべての悪夢の根源だったのに…!

 聖人様を、この国で最も大切な方を、呪ってしまった…

 そもそもが、助けてもらって当たり前だと思っていた。
 国民全員が聖人様に助けてもらえるわけではないのに、死にかけている私のお母さんは助けてもらえる、助けてもらって当然と勝手に思っていた。

 それが叶わないと逆恨みし、亡き者にしようとするほどに恨んだ。

 間違えていた… 私は最初から間違えていた。
 なんてことをしてしまったの…!
 何の罪もない聖人様を呪いで苦しめてしまっている…!

 「この闇魔術は術者によってしか解術できない。君の力を借りたい。聖人ユリアナ様の呪いを解いて欲しい。できるね?」

 「はい、お願いします… やらせてください、私は、私は、聖人様に、謝罪と償いをしなくてはなりません…」



 そして、夜会の招待状が届いた。

 
 

 


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