想いの破片を紡ぐように

なかな悠桃

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瞼を開けると室内は暗く、いつの間にか眠ってしまったことが理解できた。飛び起き下へ降りると店内の片付けをしていた洋平と目が合い、紬は彼の元へと急いで近づいた。

「ごめんね、洋平くん。最後までやらせてしまって」

「いいッスよ。予定もないし、とりあえず明日のシフトは俺と理亜で回すんでゆっくり休んでいてください」

「で、でも・・・」

「つーちゃん、たまには二人に甘えなさい。何かあっても毎回助けてもらうことなんて出来なんだし持ちつ持たれつだよ」

厨房から公輔の声が聞こえ洋平はそれに応えるように何度も頷きながら掃除をしていた。紬は二人に頭を下げ店内の掃除を手伝ったあと再び部屋へと戻った。

一人になり静まり返った部屋、ベッドへ横になると彼の香りと声が頭や鼻腔から消えず心臓が締め付けられる。苦しさから思わず自身で身体を強く抱きしめ二の腕に爪を立てるように掴んだ。

(何故?どうして?ここに私がいることは絶対に気付かれることは無いはずで・・・)

疑問ばかりが脳内を占め思考が全く働かず停止してしまっていた。


ピンポーン

ふいの訪問音に紬は身体をビクつかせた。まさか彼が・・・そんな思いが身体中を駆け巡り恐る恐るドアにある覗き穴から外を見ると見慣れた髪の色の青年が立っていた。

「恭輔くん?!どうしたの?」

ドアを開けると走ってきたのか少し息を切らしながら恭輔がドアの前に立っていた。

「理亜ちゃんから連絡きてお姉さんが体調不良で喫茶店みせ途中で抜けたって聞いて。大丈夫?仕事だったからすぐ行けなくて・・・もし辛いなら今からでも病院行こっ」

恭輔に力強く腕を引っ張られそのまま紬の両肩に両手で掴んだ。普段では考えられない力に紬は思わず吃驚してしまった。

「も、もう大丈夫だから。寝たら治ったし、それにその証拠にさっきまで洋平くんと店の片付けしたくらいだから」

「そっか・・・」

それでも心配げな表情を向ける恭輔を部屋に上げソファに通した。紬はキッチンへ向かい珈琲が苦手な彼にミルクティーを出した。

「心配かけてごめんね。本当にもう大丈夫だから」

「うん、無理はしないで」

恭輔は俯きながら今にも泣きそうな表情を浮かべミルクティーを口にした。

数十分ほど滞在した恭輔は明日早朝予約が入っているらしく紬の体調が大丈夫と確認すると少し心残りがありそうな表情で家路へと向かう準備を始めた。

彼を玄関で見送り再び一人になった紬は小さく溜息を吐きドッと心が重くなる。

「考えても仕方ないか・・・今は周りの皆に心配かけないようにしなきゃ」



――――――――――
「久々の買い出しだったけど・・・買いすぎたかな、と言うより貰いすぎ?」

近所のスーパーへ買い物に行くと顔馴染みになった常連さんに声を掛けられ畑で作った野菜やら果物などをいただき買い物したものより貰い物の方が多くなっていた。

「少しお店に寄付しよ。独り身でこれは多すぎるし」

両手いっぱいに重そうな袋を抱えながら今日の夕食の準備を考えていると急に右手から荷物が消え、驚き紬が振り向くと見覚えのある人物が軽々と袋を持っていた。

「昨日の喫茶店にいた方ですよね?具合は大丈夫ですか?」

どくん、と大きな鼓動が動くのと同時に身体が強ばり声が出せなかった。口だけがパクパクと小さく動き、まるで酸素がなくなった魚のような気分で紬は声の主を見上げた。

「勝手ながら心配で・・・。店に伺ったら店員さんだって聞いて。今日は大事をとってお休みになったと言っていたので大丈夫かなっと・・・でも顔色も悪くないし元気そうで安心しました」

「ご、ご心配おかけしました。・・・あ、あの荷物大丈夫なんで」

俯きかげんで自分の荷物を返してもらおうと右手を伸ばすとひょい、と遠くに手を引かれ紬の右手が空ぶった状態になってしまった。

「病み上がりでこんな重いものは駄目ですよ。折角なんで俺が運びますから。俺、こう見えて力あるんで。あっ、そっちの袋も貰いますね」

「えっ?あっ、いや・・・あ、」

自然な流れで左手で掴んでいた袋も奪われ紬の手には自身の小さなトートバッグだけになってしまった。

「あ、ちょっ!お客様困ります」

流石に名乗ってもいない相手の名前を口に出すわけにもいかず咄嗟の判断で“お客様”呼びをするも前をスタスタと歩かれ全く聞く耳を持たれなかった。

「遠慮しない。喫茶店の方まで行けばいいですよね?二階に住んでるって、理亜ちゃんでしたっけ?バイトの女の子に聞いたんで」

(理亜ちゃんめーっ!個人情報言っちゃダメでしょーっ!!)

心の中で理亜に説教しつつも半ば諦めトボトボと後を着いて行った。
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