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第三部 名家を利用していた隣国と名家の犠牲となった王女
隣国の勇者の悩み
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プライスとダリアが、マリンズ王国へ向かう準備をしている頃。
マリンズ王国では、マリンズ王国国王のグレッグ・マリンズとマリンズ王国の勇者であり、第一王子でもあるバウアー・マリンズが喋っていた。
◇
「バウアー、今日の昼だったか? ユリアの妹が使者を連れてここに来るのは?」
グレッグは玉座に座り、バウアーが持ってきた王都の街で配られていた号外を読みながら、プライス達が来る時間を確認する。
号外には、隣国であるイーグリット王国が、第二王女ダリア・イーグリットを次の王にするのはほぼ正式決定! その証拠に、第一王子ジョー・イーグリットと第一王子を支援していた貴族達が、女王マリアへの反逆の罪で一人残らず全員追放されたという情報提供があった! と書かれている。
「ええ、そうですよ」
「ふん……計画に失敗はしてしまったが、まさかあの小娘が次のイーグリットの女王になると決まるとはな。……フフ、マリンズ王国が、イーグリット王国を征服するという先代の王の悲願を達成するのは、案外近いかもしれん」
「……果たして、そんな簡単に上手くいくでしょうか?」
「心配性だな、お前は。だが、勇者はそのぐらいでいい。反省もせずに、何も考えないでのんきに女遊びにふける阿呆はフリードだけで十分だ。聖剣に選ばれてさえいなければ、即刻さらし首にされるレベルの失態を犯したという自覚をまるで持っとらん」
グレッグはため息を吐きながら、自分の息子で第二王子のフリードに呆れていた。
というのも、ベッツ家を始めとした第一王子派と繋がり、その背後でイーグリット王国の機密情報を盗んだり、第一王子を次のイーグリット王国の王にし、侵略かもしくは政治介入しやすいようにするという、イーグリット王国侵略計画の中心として動いていたのは、第二王子のフリードだったのだ。
何故フリードはそこまで乗り気だったのか。
それは、自分が第二王子であり、更には王であるグレッグが遊びで抱いた女が母親のため、マリンズ王国では国王になるのは不可能だったから。
次の王候補筆頭である第一王女のテレサどころか、勇者であり第一王子であるバウアーよりも扱いは下。
更に、聖剣を持っているとはいえ、テレサにもバウアーにも勝てない。
人望も無ければ自分を次の王へと推す国民の声すらない。
それならば、イーグリット王国を侵略し、自分がイーグリット王国の実質的な王になろうとフリードは考える。
ユリアと結婚して子供を作ったのも、政治介入などでイーグリット王国の国民から反発があった時に、人望のあるユリアとその子供を出せば、一定の割合のバカな国民は納得させられるとユリアが邪魔だった第一王子派から勧められたからだったが……。
計画は失敗に終わる。
もちろん責任は適当に気に入らない臣下に押し付け、フリードは今までと同じように女遊びにふけるだけのだらしない生活に戻る。
「……フリードはさらし首で良いと思いますけどね。自分は」
バウアーは、フリードの処刑を望んでいた。
自分の恋人をイヤらしい目で見られたことがあって以来、フリードのことを毛嫌いしているからだろう。
そんなバウアーを宥めるように、グレッグはフリードを処刑しなかった理由を話す。
「まあ落ち着け、腐っても奴は聖剣に選ばれた。その上、聖魔法を使える。この時点で、マリンズ王国の戦力なのだ。お前も沢山見てきただろう? 聖剣を持つことが出来るだけで、聖魔法の使えない聖剣使い達を? 聖剣の中には聖魔法を使える人間が百年以上現れない代物のがあるのも知っているだろう?」
「…………」
「納得いかんか?」
「ええ……」
バウアーは、フリードが自国の戦力だと認められていることが受け入れられず、怒りに震えながら、拳を握りしめる。
そんなバウアーの様子を見て、グレッグはため息を吐きながら。
「……お前がフリードを気に入らないのは分かってる。だが、そこまで自分の意見を通したいというのなら、テレサ並に強くなることだな。テレサもフリードに利用価値があると考えている」
「…………はい」
この国では、王であるグレッグと第一王女で最強のテレサが絶対。
その二人が同じ意見ならば、バウアーを含めマリンズ王国の人間は絶対に逆らえない。
逆らえば、テレサに殺されるだけだ。
「それに、イーグリット王国に聖魔法を使える聖剣使いがフリードのせいで流出してしまったのだ。あの黄色い髪の小娘を使って、イーグリットの騎士王と大賢者の間に産まれた息子とやらをマリンズ王国に引き入れる計画があったと言い訳していたが……」
「ああ……ステファニーのことですか」
「全く、ただでさえ貴重な聖魔法の使い手を……フリードをさらし首にしたくても出来ないというのが、現実だ。フリードをさらし首にすれば、マリンズ王国は一気に聖魔法の使い手を二人失うことになってしまう。だから、バウアー。納得してくれぬか?」
「……仕方ないですね」
フリードの失態で、ステファニーを失ってしまったことが、フリードを生かしておかなければならない理由になる。
そんな現実と、自らの力不足を。
バウアーは、無理矢理受け入れるのだった。
マリンズ王国では、マリンズ王国国王のグレッグ・マリンズとマリンズ王国の勇者であり、第一王子でもあるバウアー・マリンズが喋っていた。
◇
「バウアー、今日の昼だったか? ユリアの妹が使者を連れてここに来るのは?」
グレッグは玉座に座り、バウアーが持ってきた王都の街で配られていた号外を読みながら、プライス達が来る時間を確認する。
号外には、隣国であるイーグリット王国が、第二王女ダリア・イーグリットを次の王にするのはほぼ正式決定! その証拠に、第一王子ジョー・イーグリットと第一王子を支援していた貴族達が、女王マリアへの反逆の罪で一人残らず全員追放されたという情報提供があった! と書かれている。
「ええ、そうですよ」
「ふん……計画に失敗はしてしまったが、まさかあの小娘が次のイーグリットの女王になると決まるとはな。……フフ、マリンズ王国が、イーグリット王国を征服するという先代の王の悲願を達成するのは、案外近いかもしれん」
「……果たして、そんな簡単に上手くいくでしょうか?」
「心配性だな、お前は。だが、勇者はそのぐらいでいい。反省もせずに、何も考えないでのんきに女遊びにふける阿呆はフリードだけで十分だ。聖剣に選ばれてさえいなければ、即刻さらし首にされるレベルの失態を犯したという自覚をまるで持っとらん」
グレッグはため息を吐きながら、自分の息子で第二王子のフリードに呆れていた。
というのも、ベッツ家を始めとした第一王子派と繋がり、その背後でイーグリット王国の機密情報を盗んだり、第一王子を次のイーグリット王国の王にし、侵略かもしくは政治介入しやすいようにするという、イーグリット王国侵略計画の中心として動いていたのは、第二王子のフリードだったのだ。
何故フリードはそこまで乗り気だったのか。
それは、自分が第二王子であり、更には王であるグレッグが遊びで抱いた女が母親のため、マリンズ王国では国王になるのは不可能だったから。
次の王候補筆頭である第一王女のテレサどころか、勇者であり第一王子であるバウアーよりも扱いは下。
更に、聖剣を持っているとはいえ、テレサにもバウアーにも勝てない。
人望も無ければ自分を次の王へと推す国民の声すらない。
それならば、イーグリット王国を侵略し、自分がイーグリット王国の実質的な王になろうとフリードは考える。
ユリアと結婚して子供を作ったのも、政治介入などでイーグリット王国の国民から反発があった時に、人望のあるユリアとその子供を出せば、一定の割合のバカな国民は納得させられるとユリアが邪魔だった第一王子派から勧められたからだったが……。
計画は失敗に終わる。
もちろん責任は適当に気に入らない臣下に押し付け、フリードは今までと同じように女遊びにふけるだけのだらしない生活に戻る。
「……フリードはさらし首で良いと思いますけどね。自分は」
バウアーは、フリードの処刑を望んでいた。
自分の恋人をイヤらしい目で見られたことがあって以来、フリードのことを毛嫌いしているからだろう。
そんなバウアーを宥めるように、グレッグはフリードを処刑しなかった理由を話す。
「まあ落ち着け、腐っても奴は聖剣に選ばれた。その上、聖魔法を使える。この時点で、マリンズ王国の戦力なのだ。お前も沢山見てきただろう? 聖剣を持つことが出来るだけで、聖魔法の使えない聖剣使い達を? 聖剣の中には聖魔法を使える人間が百年以上現れない代物のがあるのも知っているだろう?」
「…………」
「納得いかんか?」
「ええ……」
バウアーは、フリードが自国の戦力だと認められていることが受け入れられず、怒りに震えながら、拳を握りしめる。
そんなバウアーの様子を見て、グレッグはため息を吐きながら。
「……お前がフリードを気に入らないのは分かってる。だが、そこまで自分の意見を通したいというのなら、テレサ並に強くなることだな。テレサもフリードに利用価値があると考えている」
「…………はい」
この国では、王であるグレッグと第一王女で最強のテレサが絶対。
その二人が同じ意見ならば、バウアーを含めマリンズ王国の人間は絶対に逆らえない。
逆らえば、テレサに殺されるだけだ。
「それに、イーグリット王国に聖魔法を使える聖剣使いがフリードのせいで流出してしまったのだ。あの黄色い髪の小娘を使って、イーグリットの騎士王と大賢者の間に産まれた息子とやらをマリンズ王国に引き入れる計画があったと言い訳していたが……」
「ああ……ステファニーのことですか」
「全く、ただでさえ貴重な聖魔法の使い手を……フリードをさらし首にしたくても出来ないというのが、現実だ。フリードをさらし首にすれば、マリンズ王国は一気に聖魔法の使い手を二人失うことになってしまう。だから、バウアー。納得してくれぬか?」
「……仕方ないですね」
フリードの失態で、ステファニーを失ってしまったことが、フリードを生かしておかなければならない理由になる。
そんな現実と、自らの力不足を。
バウアーは、無理矢理受け入れるのだった。
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