宙(そら)に願う。

星野そら

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7 被弾

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「アレクセイ・ミハイルだ」
「おいっ、アレクセイ。どうなっている、無事なのか」

 まずい時にまずいことを言わないでくれ、とアレクセイは祈ったが…。

「ポール。わたしたちは無事だ。おとなしく引いてくれ」
「何を言ってる。総督は無事なのか、通信に出せ!」
「ポール! 今は無理だ。猶予をくれ」
「なぜだ! おまえと話ができて、総督と話ができないのはどういうわけだ。まさか、総督を宇宙軍に売ったわけじゃないだろうな」
「わたしがそんなことをすると思うのか! あの人は無事だ、キミが出てきたら、よけいにややこしくなる、しばらく時間がほしい」
「本当に大丈夫なんだろうな」
「ああ、信用しろ」
「……わかった。だが、1時間だ。1時間経ったら、また、連絡を入れる。その時には、納得できる材料がほしい。総督の声を聴かせてもらいたい」

 カチャと通信が切れた。ふうと息をつくアレクセイに、ライトマンがにやりと笑った。

「今の通信、基地中につないでおいた。みな、おまえとコスモ・サンダーの仲に驚いているだろうな。
 それに…、乗り合わせていた男がコスモ・サンダーの総督だとはな。
 総員! 聞こえているか。ゼッドやこの男に騙されるな。アドラー中尉とともにそちらに向かっている男はコスモ・サンダーの総督だ。宇宙一の海賊団の親玉だぞ、きっちり拿捕しろ!」

 くッ。アレクセイはライトマンに拳を入れて沈め、マイクを奪い取る。

「阿刀野! 阿刀野中尉! 宇宙軍中佐ミハイル・ザハロフだ。ゴールドバーグ総督を保護しろ。傷つけさせるな。少しでも傷つけたら、大変なことになる。わたしも今すぐそちらに向かう。ゼッド少佐、行きましょう」

 アレクセイは、ライトマンと一緒にいた幹部たちに訊いた。

「おまえたちはどうする? わたしと一緒に来るか。それとも、そいつと運命を共にするか。時間がない、即決しろ!」

 幹部たちはとまどいながらも、命令慣れしたアレクセイに従うことに決めた。ライトマンよりは格上に見えたのだ。

「2人ほど残って、ライトマンを拘束しておけ。他のものは宙港まで先導してくれ」


 しばらく行くと、ライトマン直属の配下であった第1部隊の兵士たちと遭遇した。コントロールルーム奪回のためにやってきた精鋭である。先ほどのゼッドの命令にも関わらず、アレクセイに銃を向ける。

「やめろ! 仲間同士で闘って、なんの意味がある。コスモ・サンダーとの戦闘を回避するのが先だろう」
「おまえたちの反乱を鎮めるのが先だ!」

 アレクセイの説得も男たちの耳には入らないようであった。

「仕方がない。おまえたちを傷つけたくはないが…」

 プリンスが傷つくのはもっといやだ。アレクセイはレーザーを抜いた。

 
 その頃、宙港では。
 小型宇宙船に乗り込もうとしたレイモンドとルーインは、兵士たちに囲まれた。ルーインがとっさにレイモンドをかばう。今日ほどかばわれてばかりの日はなかったと、美貌の男は苦笑する。

「アドラー中尉。その男はコスモ・サンダーの総督です。俺たちに渡してください」
「抵抗するなら、上官といえども反乱分子として処刑します」

 兵士たちがルーインに話しかける。話すと言うより脅しているという方が近いだろう。

「ゼッド司令官やミハイル・ザハロフ中佐の話を聞いていなかったのか。僕は反乱分子などではないし、この人がコスモ・サンダーの総督であってもキミたちに差し出すわけにはいかない」
「どいてください」
「銃を捨ててください!」

 ルーインが首を振り銃を構えなおした。

「ねえ、ルーイン。銃の腕は上がった?」

 後ろから、レイモンドの声が聞く。

「まったく! レイさん。暢気なことをいってる場合じゃないでしょう」

 そこへ、リュウが駆け寄ってきた。レイモンドを知る第4部隊のメンバーもいる。

「ルーイン! レイ!」
「阿刀野さん!」
「阿刀野さんがコスモ・サンダーの総督なんですか?」
「阿刀野レイは、コスモ・メタル社の社長じゃないんですか」

 エヴァやダンカンの声に、周りがいっそうどよめいた。

「あ、あんたが阿刀野レイ!」
「そうだ。俺はコスモ・メタル社の社長もやってるんだった。コスモ・メタル社の社長を傷つけたら社会問題になる…。エヴァはいいことを思い出してくれたね」

 そんなことに感心している場合じゃないだろっと思ったのは、ルーインとリュウだけではないだろう。

「とにかく、みな、銃を下ろしてくれ。ルーインは俺たちの仲間だし、レイは社会的立場もあるから逃げたりしない。逃がさないと俺が約束する」

 リュウが声をかけ兵士たちを落ち着かせていた、その時。突然、緊張に耐えかねたひとりの兵士が銃を発砲する。

「うっ!」

 レイモンドをかばっていたルーインが腹を押さえて崩れ落ちた。手の隙間から、どくどくと赤い血があふれ出す。

「なっ、誰だ! 撃ったのは!」
「大丈夫か、ルーイン。しっかりしろ」

 発砲した兵士は顔色をなくしたが、周りの兵士たちはその暴挙に力を得たようだった。

「撃たれて当然だ!」
「おまえらが、おかしい。なぜ、海賊をかばう!」

 手に手に銃を構えて吠える兵士たちを、レイモンドが一喝した。

「それが仲間に言うことか! おまえたちは宇宙軍で何を教わった!」

 だてに総督をやっているわけではない。レイモンドの迫力に、兵士たちがぎょっとして立ち止まる。第4部隊のメンバーでさえ、びくりとした。
 リュウがふっと我に返った。

「レイ。ルーインのことが心配だ、俺の艦へ行こう。ダンカン、エヴァ、援護を頼む。レイ、走るぞ」

 リュウはルーインを肩に抱いて、後ろも見ずに走り出す。レイモンドは正確な射撃で正気を取り戻した兵士たちの銃や腕を片っ端から撃ち、悠々とその場を離れた。驚きの表情で見ていたエヴァやダンカンに声をかける。

「行くよ!」
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