25 / 52
7 被弾
しおりを挟む「アレクセイ・ミハイルだ」
「おいっ、アレクセイ。どうなっている、無事なのか」
まずい時にまずいことを言わないでくれ、とアレクセイは祈ったが…。
「ポール。わたしたちは無事だ。おとなしく引いてくれ」
「何を言ってる。総督は無事なのか、通信に出せ!」
「ポール! 今は無理だ。猶予をくれ」
「なぜだ! おまえと話ができて、総督と話ができないのはどういうわけだ。まさか、総督を宇宙軍に売ったわけじゃないだろうな」
「わたしがそんなことをすると思うのか! あの人は無事だ、キミが出てきたら、よけいにややこしくなる、しばらく時間がほしい」
「本当に大丈夫なんだろうな」
「ああ、信用しろ」
「……わかった。だが、1時間だ。1時間経ったら、また、連絡を入れる。その時には、納得できる材料がほしい。総督の声を聴かせてもらいたい」
カチャと通信が切れた。ふうと息をつくアレクセイに、ライトマンがにやりと笑った。
「今の通信、基地中につないでおいた。みな、おまえとコスモ・サンダーの仲に驚いているだろうな。
それに…、乗り合わせていた男がコスモ・サンダーの総督だとはな。
総員! 聞こえているか。ゼッドやこの男に騙されるな。アドラー中尉とともにそちらに向かっている男はコスモ・サンダーの総督だ。宇宙一の海賊団の親玉だぞ、きっちり拿捕しろ!」
くッ。アレクセイはライトマンに拳を入れて沈め、マイクを奪い取る。
「阿刀野! 阿刀野中尉! 宇宙軍中佐ミハイル・ザハロフだ。ゴールドバーグ総督を保護しろ。傷つけさせるな。少しでも傷つけたら、大変なことになる。わたしも今すぐそちらに向かう。ゼッド少佐、行きましょう」
アレクセイは、ライトマンと一緒にいた幹部たちに訊いた。
「おまえたちはどうする? わたしと一緒に来るか。それとも、そいつと運命を共にするか。時間がない、即決しろ!」
幹部たちはとまどいながらも、命令慣れしたアレクセイに従うことに決めた。ライトマンよりは格上に見えたのだ。
「2人ほど残って、ライトマンを拘束しておけ。他のものは宙港まで先導してくれ」
しばらく行くと、ライトマン直属の配下であった第1部隊の兵士たちと遭遇した。コントロールルーム奪回のためにやってきた精鋭である。先ほどのゼッドの命令にも関わらず、アレクセイに銃を向ける。
「やめろ! 仲間同士で闘って、なんの意味がある。コスモ・サンダーとの戦闘を回避するのが先だろう」
「おまえたちの反乱を鎮めるのが先だ!」
アレクセイの説得も男たちの耳には入らないようであった。
「仕方がない。おまえたちを傷つけたくはないが…」
プリンスが傷つくのはもっといやだ。アレクセイはレーザーを抜いた。
その頃、宙港では。
小型宇宙船に乗り込もうとしたレイモンドとルーインは、兵士たちに囲まれた。ルーインがとっさにレイモンドをかばう。今日ほどかばわれてばかりの日はなかったと、美貌の男は苦笑する。
「アドラー中尉。その男はコスモ・サンダーの総督です。俺たちに渡してください」
「抵抗するなら、上官といえども反乱分子として処刑します」
兵士たちがルーインに話しかける。話すと言うより脅しているという方が近いだろう。
「ゼッド司令官やミハイル・ザハロフ中佐の話を聞いていなかったのか。僕は反乱分子などではないし、この人がコスモ・サンダーの総督であってもキミたちに差し出すわけにはいかない」
「どいてください」
「銃を捨ててください!」
ルーインが首を振り銃を構えなおした。
「ねえ、ルーイン。銃の腕は上がった?」
後ろから、レイモンドの声が聞く。
「まったく! レイさん。暢気なことをいってる場合じゃないでしょう」
そこへ、リュウが駆け寄ってきた。レイモンドを知る第4部隊のメンバーもいる。
「ルーイン! レイ!」
「阿刀野さん!」
「阿刀野さんがコスモ・サンダーの総督なんですか?」
「阿刀野レイは、コスモ・メタル社の社長じゃないんですか」
エヴァやダンカンの声に、周りがいっそうどよめいた。
「あ、あんたが阿刀野レイ!」
「そうだ。俺はコスモ・メタル社の社長もやってるんだった。コスモ・メタル社の社長を傷つけたら社会問題になる…。エヴァはいいことを思い出してくれたね」
そんなことに感心している場合じゃないだろっと思ったのは、ルーインとリュウだけではないだろう。
「とにかく、みな、銃を下ろしてくれ。ルーインは俺たちの仲間だし、レイは社会的立場もあるから逃げたりしない。逃がさないと俺が約束する」
リュウが声をかけ兵士たちを落ち着かせていた、その時。突然、緊張に耐えかねたひとりの兵士が銃を発砲する。
「うっ!」
レイモンドをかばっていたルーインが腹を押さえて崩れ落ちた。手の隙間から、どくどくと赤い血があふれ出す。
「なっ、誰だ! 撃ったのは!」
「大丈夫か、ルーイン。しっかりしろ」
発砲した兵士は顔色をなくしたが、周りの兵士たちはその暴挙に力を得たようだった。
「撃たれて当然だ!」
「おまえらが、おかしい。なぜ、海賊をかばう!」
手に手に銃を構えて吠える兵士たちを、レイモンドが一喝した。
「それが仲間に言うことか! おまえたちは宇宙軍で何を教わった!」
だてに総督をやっているわけではない。レイモンドの迫力に、兵士たちがぎょっとして立ち止まる。第4部隊のメンバーでさえ、びくりとした。
リュウがふっと我に返った。
「レイ。ルーインのことが心配だ、俺の艦へ行こう。ダンカン、エヴァ、援護を頼む。レイ、走るぞ」
リュウはルーインを肩に抱いて、後ろも見ずに走り出す。レイモンドは正確な射撃で正気を取り戻した兵士たちの銃や腕を片っ端から撃ち、悠々とその場を離れた。驚きの表情で見ていたエヴァやダンカンに声をかける。
「行くよ!」
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる