徳を積みたい鬼が俺を溺愛してくる

餡玉(あんたま)

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19、ずっとそばに

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「ごめんな。静司さんが色々と……わっ!」

 ようやく部屋に戻り、静司さんのあれこれを謝ろうとした途端、黒波にぎゅうっと抱きしめられた。突然の熱い抱擁にどぎまぎしている俺の頭を、黒波は大きな手で撫でてきた。

「ほんっまにお前はっ……!! なんで俺のいいひんところでいっつもいっつも危ない目に遭うねん!」
「危ない目? ああ、静司さんのこと?」
「そうや!」

 そういえば、静司さんに変な技かけられたんだった。全身から力が抜かれるようなあの感覚を思い出すと、今でも軽く吐き気を覚える。

 だけど黒波が来てくれたおかげでほっとしたからか、今はだいぶ楽になった。

「身体、どうもないんか?」
「うん、もう大丈夫だ。来てくれてありがとな」

 そう言って俺がヘラッと笑うと、黒波はちょっと安堵したような、それでいて不安そうな表情で眉を下げた。

「じじいが町内会の旅行に出かけたやろ? 陽太郎を頼むと言われてたのに、帰ると言った時間にお前が姿を見せへんから、いてもたってもおられへんくて」
「あそっか、じいちゃんいないのか」
「お前がどこぞで妖に襲われていたらと思うと恐ろしくて……こういう感覚は初めてや」
「そ、そんなに不安にさせちゃってたのか? ごめん、心配させて」

 ちょっと過保護すぎやしないかとも思うし、不安にさせたのは悪かったけれど……そうして心配してもらえるのは、ちょっとだけ嬉しかった。にやけそうになるのをぐっとこらえていると、黒波は俺をベッドに座らせ、その向かいに膝をついた。俺の手を取り、手の甲にキスをする。

「あの男、陽太郎に手荒な真似を……許せへんな」
「そんな怖い顔しないでよ。俺は大丈夫だ。それより、あの人は黒波を欲しがって狙ってるんだぞ?」
「あの程度の相手にやられるほどやわじゃない。……それに俺は、お前の力によって生かされてる」
「ん……」
「……陽太郎以外の誰かのものになんて、なるわけがない」

 はじめは啄むだけのキスが、徐々に熱を帯びてゆく。黒波から与えられるものが快いものだと覚え込んでいる俺の身体は、すぐにその先を求めてじくじくと切なく疼き始めた。

「ぁ……ん、ぅ……」

 俺の興奮が伝わるのだろう。黒波はキスをしながら身を乗り出し、そのまま俺をベッドに横たえる。上から覆いかぶさられながら舌を挿入され、俺は夢中になって舌をすり寄せ、黒波とのキスを味わった。

 やがて、俺の息が上がり始めた頃合いを見計らうように、黒波がふと唇を離す。透明な糸が俺たちの唇を結び、やや目元を紅色に染めた黒波の眼差しにばくばくと胸が高鳴った。

 再び重なる黒波の唇が、俺の吐息を深く吸う。そうされながらシャツの中で肌を撫ぜられ、俺はびくんと腰を揺らして、くぐもった喘ぎを漏らした。

「ん、んっ……ぁ……っ」
「……陽太郎、またそんな声を出して……」
「お、おまえがっ……やらしいキス、するからだろ……!」
「やらしいか? お前の反応のほうがよほど淫らやと思うけど」
「だってっ……ンぁ、っ……」

 冷静な声音だが、黒波の唇には艶然とした笑みが浮かび、俺の乳首を弄ぶ指先には確信が満ちている。こうして触れば俺が悦ぶことを、黒波はとっくに学び取ってしまっているらしい。……そして俺も、それを否定することなどできはしない。

 黒波とくっついていると落ち着くし、こうして肌を触れ合わせることにこれ以上ないほどの幸せを感じている。相手は鬼なのにと、はじめは葛藤していたくせに、今はみずから黒波の大きな身体に包み込まれようと甘えてしまう。

「ァっ……はぁっ……くろはっ……ン」

 シャツを脱がされ、しつこいほどに舐め転がされた乳首はぷっくりと赤く腫れ上がり、触れることなく焦らされっぱなしのペニスからは、トロトロとはしたない蜜がこぼれてしまう。なのに黒波はずっとそこには触れず俺の後孔に指を這わせて、ビクビクと腰を震わせる俺の反応を見守って愉しげに微笑むのだ。

「ああ……ええ顔や。淫らで、愛らしくて……たまらへんな」
「ぁ、ぁん、っ……くろはぁ……っ、いかせてよ……」
「まだあかんよ。最後は俺の口の中で果てたらええから……もっと、その声で俺の名前を呼んでくれ」
「ひぁっ……!」

 ちゅぷ、じゅっ……と乳首を吸われ、乳輪をねっとりと舌先で辿られて、とぷんと鈴口から露が溢れる。触れられてもらえないもどかしさで腰が揺れ、刺激を求めて自らそこに手を伸ばそうとするけれど、やんわりと手首をベッドに押し付けられてしまう。


 ——も……無理……こんな気持ちよくさせられてんのに、これ以上先に進めないなんて……っ……!


「ぁ、あぁん……ん、んっ、くろは……っ、いきたい、いきたいよ……なぁ……っ」
「……くく……ほんまに、お前は可愛すぎる」

 出したくて出したくて、もっと確かな愛撫が欲しくて、懇願する声が涙で濡れる。感じさせられるだけ感じさせられた肌は汗でしっとりと濡れ、内壁も切なくひくついて熟れている。それに……時折太ももに触れる黒波のそれもしっかりと硬さをもって勃ち上がっていることに、俺はとっくに気づいていた。

 我慢がならなくなった俺は、腕を伸ばしてベッド下のチェストからローションを取り出した。そして自ら脚を広げて、ぱくぱくと太い楔を求めて喘いでいる窄まりに指を添える。はちきれそうな快感で理性はとっくに焼き切れている。羞恥心など、今の俺は持ち合わせていないのだ。

「……ここ、挿れてよ、黒波……」
「えっ……?」
「も……むり、欲しい。……ナカ、めいいっぱい突いて。俺のこと、抱いてくれ」
「陽太郎……。ほんまにいいん?」
「いいよ……黒波なら。したいんだ、俺……っ」

 着流しの袖を引きながら半泣きでセックスをせがむ俺を前に、黒波がごくりと喉を鳴らす。欲を滾らせてぎらつく金眼でまっすぐに俺を見据えながら……黒波はするりと帯を解き、素晴らしく引き締まった肉体美を俺の目の前に晒した。

 黒々とした下生えからそそり立つ長大な性器をもあらわになり……思わず、俺は熱のこもったため息を吐いていた。

「……大きい……」
「俺も陽太郎とまぐわいたい。……ずっとそうしてみたいと思ってた。けど、お前のこの小さな孔に、こんなものを挿れて大丈夫なんやろか」
「ん……たぶん、だいじょうぶだから。……試してみよ?」

 こくんと素直に頷く黒波の反応が可愛くて、俺は思わずとろんとしながら微笑んだ。自ら窄まりにローションを塗り、黒波の目の前で指を二本挿入する。見せつけるつもりはないのだが、そうしないとセックスができない。だけど、俺のアナニーを見つめる黒波の食い入るような視線にさえも俺はきゅんきゅんと感じさせられ、自分の指だけでもイってしまいそうだった。

「……ぁん……だめだ、おれっ……もう、指だけでいっちゃいそ……」

 と、指を抽送しながら腰まで揺らしている俺を前にして、黒波がグッと身を乗り出してきた。膝頭を掴まれてさらに大きく脚を開かされ、もどかしげに腰をすり寄せてくる黒波を見上げながら、俺は、指でそこをくぱりと開いて見せた。

「……挿れて、ここ……ほら、早く」
「あぁ、わかった……挿れるぞ」
「ん、……うん……ァっ……あ、あっ……!」

 ぬぷ……と窄まりを割って挿入されるあの感覚に、俺は顎を仰かせて目を閉じる。俺のナカを満たしながら、ひだをかきわけてくる硬いきっさきを、奥へ奥へと招き入れるように腰を揺らした。

「ぁっ……うぁ……っ、ふとい……ンっ……んん……」
「っ……く……ハァっ……陽太郎っ……」
「あっ……ァ、ぁん、……っも、だめ、だめイク、イクっ……!!」

 ほんのひと突きされただけで、俺はあっけなく中イキしてしまった。びく! びくっ……!! と全身を震わせながら黒波のペニスをきゅうきゅうと締め付けて身悶える俺の上に、黒波が「ぁっ、く……!」と呻いて覆いかぶさってくる。

「はぁっ……陽太郎っ……」
「ごめ……イっちゃった……はぁ、ぁん……っ」

 中イキの余韻に浸っている余裕はなかった。……黒波が、ゆっくりと腰を使い始めたからだ。身体中のどこもかしこも敏感になっていた俺は思わず「アっ……!」と高い声を上げ、黒波の手を掴んで制止しようとした。

「まって……おれ、いったばっか、でっ……ンっ、ぁ!」
「すまん……止まらへん。陽太郎の中、熱くてとろけてんのに……こんなに俺を締め付けて……っ」
「ぁ! ぁんっ……!! ンっ……ぁ、ぅあっ……」
「はぁっ……は……っ……すまん、気持ちよすぎて、とまらへん……っ」

 初めてとは思えないような巧みな腰つきで、黒波は俺のいいところを確実に狙って穿ってくる。深いグラインドでぱちゅ、ぱちゅ、と俺の中をあますところなく愛撫しながら、食いつくようなキスをする。

「ん、んんっ……ふっぅ……ン……っ」
「……陽太郎、陽太郎……っ……ハァっ……」
「ぁ、あ、んっ……また、またいきそ……、きもちいい、ァっ……あぁ、ん」
「ほんまに……? 俺としてて、きもちええ?」

 休むことなく腰を打ち付けながら、黒波は掠れ声で俺にそう尋ねてきた。熱に浮かされたような金色の瞳には恍惚とした光がゆらめいているものの、どことなく不安げな眼差しでもある。その健気さがあまりにも可愛くて、愛おしくて、内壁がさらにきゅうっと締まるのを感じる。

 降りかかってくる黒波の黒髪を下からかき上げ、がくがくと揺さぶられながらキスをして、喘ぎながらこう告げた。

「きもちいい、すき……くろはと、するの……すきだよ、……ん、っ……」
「ほんま……か?」
「ほんとだよ……ァっ……はぁ、ずっと、くろはとだけしてたい……ずっと、おれのこと、だいててよ……っ」
「……っ……」

 ふと、黒波の表情が歪む。これまでよりさらに遮二無二腰を打ち付け、最奥を抉るように突き上げてくる黒波のピストンに俺はさらに啼かされた。

「あ! ぁ、あっ! イク、イクっ……っ、んっ……!!」

 四肢できつくきつく黒波を抱きしめながら深い絶頂に身体を震わせると同時に、腹の奥で弾ける黒波の体液を感じた。熱くて、それ自体がまるで命を持っているかのように猛々しいそれを、俺は腹の奥で受け止めた。

「はっ……はぁっ……は……」

 汗で濡れた身体を重ね合わせて、俺たちはしばらく無言で呼吸を重ねていた。目の奥がチカチカして、頭の芯がぼんやりと痺れている。だけど、ふわふわと俺の全身を満たしているものは、これまでに感じたことがないほどの深い安らぎだ。ぎゅっと、黒波の広い背に回した腕に力を込める。

 そして、無意識のうちにこう呟いていた。

「黒波……ずっと、俺のそばにいてよ……ずっと……」
「……陽太郎……」
「誰にも渡したくない……俺と、ずっと一緒にいてほしい」

 俺を抱きしめている黒波の腕にも、さらに強い力がこもる。かすかな震えとともに、黒羽は低く穏やかな声で、こう言った。

「……俺は、陽太郎のものや。そしてお前も、俺のもの」
「黒波……」
「何かあったときは俺の名を呼べ。そうすれば俺は、すぐさまお前のもとに顕現する」
「名を呼ぶ……?」
「そうや。……お前を守ると誓った言葉に嘘はない。この先もずっと」

 強く強く抱きしめてくれる腕に深い安堵をもらいながら、俺は何度も頷いた。

 黒波が吐息と共に微笑む声が、俺の鼓膜を甘く震わせる。
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