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しおりを挟む夏休みに入ってからは、登校時に諒太郎と出くわす機会が減る……かと思いきや、お互い部活があるせいで、毎朝顔を合わせる日々が続いている。
だけど、諒太郎は俺を見るなりギョッとした顔をして、自転車をぶっ飛ばして俺の前から立ち去ってしまう。
これまでは一緒に歩いて駅まで向かっていたのに、俺を置いて自転車で行ってしまうなんて……と、俺は少なからず傷ついていた。
だが、あんなモノを見せられたあとでどんな顔をしていればいいのか、こっちだってもわからない。なので、距離を置かれることに安堵もしていた。
あの金平糖の効き目はとうに切れているのか、諒太郎の妄想は見えてこない。
そして同時に避けられ始めてしまったため、諒太郎が何を考えているのかさっぱりわからなくなってしまった。
——って、もともとさっぱりわかんないんだけどさ。少なくとも、俺のことは慕ってくれてたはず……なんだけど。
あのとき諒太郎は、俺の3P妄想をしていた。
どこをどう切り取ればそう見えたのか、俺にはまったくもってわからないのだが、万が一ビッチだと勘違いされていたら困る。非常に困る。
俺は諒太郎一筋なのに。
あいつらは仲のいい友達だし、部活仲間だ。そんなやつらと爛れた関係になるわけがない。あんな不毛な勘違いは、早急に解いてしまわねばならない。
とはいえ誤解を解くにしても、こっちから『3Pなんてしてないから!!』なんて諒太郎に申し出るわけにはいかない。諒太郎の妄想を覗き見たなんて言えるわけないし、そもそも信じてもらえるはずもない……。
せめて「おはよう」くらいは言いたい。だけど、俺が「おは……」と言いかけたあたりで諒太郎は豆粒。脚の長さのなせるわざか、諒太郎の漕ぐ自転車はスピードがすごいのだ。
あからさまに距離を置かれてしまい、俺は毎日泣きそうだった。
「はぁ……わっかんねー。どうすりゃいいんだよ、もう……」
ごそ、と夏服のポケットの中で、例の青い小瓶を握りしめる。
なんとなく家に置いておくと消えてしまいそうな気がして、いつもこうして持ち歩いている。
「また食べてみるか? これ……」
これを食べて諒太郎を見れば、少なくとも何か情報が得られるはず。
このまま永久に無視られるくらいなら、諒太郎の心を少しでも覗いてみたい。
……”覗き”というとなんだかすごく悪いことをしているような気がするけれど、今の俺はこの金平糖に縋るしか手段がない。
「……よし、今夜決行だ。これ食って、なんか理由つけて諒太郎んちに行ってみよう」
今朝、母さんが「夜でもいいから、お裾分けの桃、諒ちゃんちにもっていってくれない?」と言っていた。母さんの頼み事に生返事だけを残して家を出てきたけど、お裾分けを持っていくという大義名分があれば、俺は諒太郎に会うことができる……!!
「よし……俺はやるぞ」
ぐ、っと拳の中に瓶を握り締め、俺はもくもくと入道雲が浮かぶ青空を見上げた。
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