黒猫印の魔法薬 〜拾った子猫と異世界で〜

浅間遊歩

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第三章 天空のカルラ

新ダンジョンは今

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 カルラが帰ると、ラルはいつもの見回り任務に出かけた。私も作業場に戻って魔法薬作りを再開する。

 魔力回復薬は体力回復薬と作り方が少し違う。
 まず初めに薬草から薬効成分を抽出して原液を作る。次にそれを魔素で保護しながら溶剤に溶け込ませる二段階の作業になる。
 溶剤の中で魔素を模様編みをしながら薬草の成分を編み込んでいく感じ?
 魔素の薄い膜が薬の効き目を保持し、飲んだ人の体内の魔素に反応して成分を解放するらしい。
 山のように収穫した青い葉っぱは、ほんの少しの濃い青色の液体になり、それから綺麗な紫色の薬液になる。でも、うまく仕上がったのはたったの3本。

「だいぶ薬草をムダにしちゃったなぁ」
「初めてで3本も作れりゃ上出来さ」
「それじゃあ届けに行って来るね」

 魔力回復薬と体力回復薬を魔法のカバンに入れ、立ち上がる。
 もう水銀堂にお昼を食べに行かなくても大丈夫なんだけど、薬を届けがてらギルドに寄って、エレナ達が戻って来ていないかチェックするのが日課になっている。

「今日は……あたしも水銀堂のお昼をご馳走になりに行こうかね」
「大丈夫? 結構、歩くよ?」
「ゆっくり歩けば平気さ。帰りは贅沢して、転移魔法の使える魔術師でも雇って送ってもらおうじゃないか」

 そういう方法もあるのか。タクシー代わりだ。魔法がある世界ならではだね。

「それにほら……そろそろエレナが戻って来るかも」

 あ、そうか。おばあちゃん、エレナに会いたいんだ!
 ほとんど会話してないしね。
 これは……ダメって言いにくい。

「じゃあ、一緒に行こう。つらかったら早めに言ってね」
「あいよ」

 上機嫌のおばあちゃんと一緒に家を出る。

「ラル! 行くよ!」

 裏山に向かってひと声かけて歩き出す。

『今、行く!』

 頭の中にだけ聞こえる返事が返って来た。
 離れた場所でも会話ができる事に気づいたのは最近だ。声に出してしゃべらなくてもお互いに聞こえるの。不思議。
 でもラルは『キズナ、ある』と言って不思議がらない。
 どうやら最初からラルの「声」は音として聞こえてたんじゃないらしい。
 100mも行かないうちに、雑草をかき分けてラルが現れる。

『あれ? ばあちゃん?』
「そうさ。今日はあたしも一緒」

 おばあちゃんには「ウニャン?」としか聞こえないはずのラルの言葉が通じてる。目線とイントネーションで何となく分かるんだって。

「おばあちゃん、すっかり元気になったね」

 黄金の実のおかげか、おばあちゃんは力強くサクサク歩いてく。

「そうだろ? 体力をつけるために毎日、午後は家の周りをずっと散歩してたからね!」

 私が村に行ってる間にそんな事してたのか。
 ナグモ先生ごめんなさい。おばあちゃんは安静にしてなかったみたいです。
 まあ、リハビリだと思えばいいのかな?



 冒険者ギルドの前は相変わらず人でごった返している。
 屋外掲示板にアガサダンジョン攻略の概要が張り出されるので、冒険者以外の村人もたくさん見に来ている。

「もう攻略組は地下三階層を突破したってよ」
「いやいや、五層に入ったパーティもいるらしいぞ?」
魑魅魍魎モンスターは、大ネズミにさけ蝙蝠コウモリえ犬に穴トカゲか」
「東のハルナダンジョンとは全く違う怪物どもだな」
「まだまだ先があるらしいぜ。深い穴の底から不気味な鳴き声が聞こえて来るって話だ」

 通りすがりに耳に入る情報だけでも興味をそそられる。
 でも、先に水銀堂へ行って薬の納品を済ませなきゃ…

「で、固有種は出たんかい?」
「色の違う大コウモリが居るらしいが、まだ倒されてないらしい」
「おばあちゃん!?」

 おばあちゃんたら野次馬に混ざってる。

「そいつに一撃食らった戦士が倒れちまって、逃げ帰って来たパーティもあるんだとよ」
「毒持ちかな?」
「いや、精神攻撃じゃないかって話だ」
「それじゃあ『気つけ薬』でも準備しておこうかね」
「いいね!」
「アン婆さん、頼むよ」
「毒ヘビもいるから『毒消し』も助かるな。その場で効くのがあれば」

 おばあちゃんが腕の良い薬師だと知っている村人や冒険者が周りに集まって来たようだ。口々に、作って欲しい薬をリクエストしている。
 薬製作の依頼という形にすると高くつくが、こうして意見を言うだけなら指名料金はかからない。おばあちゃんが水銀堂に薬をおろしているのも知られているので、できた頃に買いに行くつもりなのだろう。
 おばあちゃんの方も聞いた情報をメモして、次に作る薬の参考にしている。
 持ちつ持たれつ。
 なるほどー。
 ただの野次馬じゃなくて、需要を調べてたのか。市場調査ってヤツだ。

「おばあちゃん、情報収集するの上手いね」
「だって新ダンジョンの中が気になるじゃないか」

 違った。
 ただの野次馬だった。
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