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第三章 天空のカルラ
真相と日常
しおりを挟む「ウェスリー殿の回復状況を聞く限り、使われた『黄金の実』は本物。とすると、黄金の実を持っていた『アティーシャ様の弟子』とは誰なのか。考えに考え、ついにひとつの結論に至りました。その者は、もしかして、今もまだ行方の知れぬアティーシャ僧正の一番弟子、魔獣のカルラなのではないか?、と」
「……はい」
私は小さくうなずく。
これ以上は誤魔化せない。
「ええっ!? そうなのか?」
ホーマーさんは目を白黒させている。
「出会ったのは偶然なんです。色々あって、頼んだら実を譲ってくれたの。本当です。信じてもらえないかもしれないけど」
「いやいや、責めているのではない。うれしいのだ。この十年間、探し続けても手がかりすらつかめず、すでにこの世に居ないのでは?と思われていたカルラが生きていた。そうか。やはりカルラだったのだな」
「カルラは、アティーシャ様が大事にしていた霊薬を今でも守ってるんです」
「うむ。アレは誠に忠義の者であった。我々はアティーシャ僧正の遺言で、アレを故郷のシヴァール国へと帰してやりたいのだ」
「えっ!?」
この世界の地理はまだ完全に把握してないけど、シヴァール国というのはかなり遠くのはず。アキツ皇国からは船で何日もかかるらしい。
「アティーシャ僧正はね、カルラを自由にしてやりたいと願ったのだ。遠く、異国の地まで連れて来て、そのまま自分が死んでしまったらカルラはどうなるのだろう?とね。アレは非常におとなしい魔獣だったから、まさかすぐに逃げてしまうとは思わなかったが。特注の檻を仕立てて送り返す計画までできていたのだ」
うーん。カルラは今でもわりと自由に過ごしてる気がするけど。
毎日、ラルと追いかけっこをしたり、それとなく『豆腐が食べたい』と匂わせたり。
「ええと、それじゃあ、今度見かけたら、本人に言っときますね」
毎朝うちに遊びに来てますとも言えないので、そう答えた。
おばあちゃんはポーカーフェイスで知らんぷりしている。
「そ、そうかい? 頼むよ」
少し驚いた顔のお坊さんが話を終えたので、本題の魔法薬の取引に移る。
と言っても、話をしている間に持ってきた薬の検品は終わってたので、その合計金額と内訳を書いた紙をもらうだけ。今のところ手持ちはあるので、代金は銀行に振り込みをお願いする。頼んでおいた素材やガラス瓶の用意もできている。
「もうそろそろ、あたしも薬作りを再開しようかね」
「無理すんなよ、婆さん?」
「年寄り扱いしなさんな。さ、それじゃ、久しぶりに水銀堂のお昼をご馳走になるとするかね。それから冒険者ギルドに帰還者名簿のチェックをしに行こう!」
「お姉ちゃん、帰ってきてるといいね」
元気よく部屋を出るおばあちゃんを追いかけて、私もラルの入ったカゴを抱えて立ち上がる。
その姿を玄信はポカンと見つめていた。
「いやはや。子供というのは面白いものですな。危険な大型魔獣をまるで友達か何かのように言うとは」
二人が出て行った応接室で、玄信は呆れたように首を振る。
「ハハ…友達なのかも知れませんよ。彼女が膝に乗せていたカゴの中を見ましたか?」
「可愛らしい子猫が眠っていましたな。動物好きなんですか?」
「あれは魔獣です。闇の暗殺者の異名を持つ闇豹ですよ。あの子は魔獣使いなんです」
「ええっ!? あんな小さな子が?」
「テイマーと言うと、屈強な戦士が腕力と契約魔法で魔獣を従えてるイメージがあるが、あの子はちょっとタイプの違うテイマーでね。よくあの黒猫…いや、闇豹に話しかけてるんだが、どうも本当に会話ができるみたいなんだよ。案外、何人も冒険者を雇って捕獲を試みるより、彼女に頼んで説得してもらった方が早いかもな」
「いやはや、何とも」
玄信は手ぬぐいを取り出して汗を拭きつつ、もう一度、呆れたように首を振った。
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