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第三章 天空のカルラ
うれしい救援隊
しおりを挟む『ミーナ! 大丈夫か!?』
地面に降ろしてもらったものの、グッタリと座りこんでる私にラルが駆け寄って来る。
「ラル!!」
腕に飛び込んで来たラルをキャッチ!
ラルの小さな手がギュッと私の服をつかむ。
「ミーナ。ミーナだ。ミーナだな?」
いつもとは違って取り乱している。
「そうだよ」
手の匂いを好きに嗅がせてやりながら抱きしめる。
ふわふわの毛並み。小さく暖かい体。私も思う存分なで回して頬ずりする。
「ラル……」
背中を嗅ぐと、ラルの匂いがする。
はう~、生き返る!
「来てくれてうれしい。ひとりで追いかけて来たの?」
『違う。みんなで』
「え?」
「ミーナ!!」
ガサリ、と音を立てて、ラルの後ろの林からエレナが現れる。
「お姉ちゃん! それに、ゴッツさんとケイさんも!」
「無事か!?」
問いかけながら、盾を構えたゴッツが躍り出る。ミーナを背にかばうようにしてカルラと向き合う。エレナは剣を構え、ケイは呪文の詠唱に入る。
「待って! 敵じゃないの。攻撃しないで!」
「…そうなのか?」
臨戦体勢を取らないカルラをいぶかしみながらも、目を離さずに剣を構えたままのエレナが聞く。
「知り合いなの。急ぎの用事があっただけなんだって」
気づいた時には、ラルが腕から飛び出していた。
まっすぐカルラに向かい、怒鳴りつける。
『なんで、ミーナ、さらった!?』
『さらったのではない。緊急事態よ』
『キンキュージタイって、なんだよ!?』
ラルが飛び上がってカルラの頭をパコーンと叩く。
『重大な急ぎの用事ということじゃ』
『それを聞いて、るんじゃない!』
またパコーン!
『みんな、心配、したんだぞ!!』
今度は頭突き。
『すまぬ、すまぬ』
巨大な鷲に小さな子猫がポンポンと頭突きしたところでダメージは入らない。
見るからにジャレてる。しかも大ワシの方がペコペコ頭を下げて。
う~ん、可愛い。
「アレはラルの友達だって、婆さんは言っとったが…」
「どうやら本当みたいね」
魔獣の言葉は分からなくても、まるでコントのような二匹のやりとりにゴッツとエレナは戸惑う。やがて顔を見合わせ、気が抜けたように武器を下ろす。
だが、呪文の詠唱を中断して破棄したケイだけは姿勢を変えず、真剣な目で大ワシを見つめている。
「冠皇帝鷲……」
「ああ、珍しいな。あんなに大きいのは」
「いつ友達になったんだろ。聞いたことなかったから最近?」
「うん。みんながダンジョンに行ってる間に」
「へー」
「……………カルラ……」
ぽつり、とケイがつぶやく。
「カルラ!……カルラなのか!?」
「カルラだって? あの?」
「間違いない! あの羽根の色味と模様、頭をかしげるクセ、鳴き声の抑揚……あれはアティーシャ僧正のカルラだ!!」
ケイは大鷲に走り寄る。
「カルラ!! カルラだろう? 俺だ! 瑞雲寺の慶信だよ。覚えてるか!? ほら、アティーシャ様の身の回りの世話をしていた……」
『ヨシ?』
カルラはクビをかしげ、ケイをじっと見つめていたが、やがてキッパリと断言する。
『いや、違う。ヨシはもっと小さい』
「十年前には俺だって子供だったよ!」
カルラの言葉をケイさんに伝えると脱力しながら怒ってた。
やっぱり魔獣は人間がよく分かってないみたい。こっちだって魔獣の生態がよく分かってないんだから、おあいこかな?
『それでは頼んだぞ、ミーナ』
言い置いて飛び立つカルラ。
折れたクガネの木をおばあちゃんに見せる件だろう。
「あ、待て! カルラ!」
ケイは手を伸ばすが、振り返ることなくカルラは飛び去る。
「行っちまったな」
「あー。親父に報告しなきゃ。何て言ったら…」
「ケイさんのお父さんって、玄信っていうお坊さんだよね? さっき水銀堂で会ってカルラの話、したよ。生きてたって喜んでた」
「そうか。じゃあ、アレは本当にカルラなんだな?」
「うん。アティーシャ様の弟子のカルラ、だって。自分でそう言ってた」
「ミーナ。ケガはない?」
「大丈夫。ちょっと乗り物(?)酔いしただけ」
「だったら急いで冒険者ギルドに戻ろう。大騒動になってるぞ」
無精髭で普段よりもっと怖い顔になったゴッツさんが大真面目に言う。
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