47 / 166
バレンタインデー狂詩曲(ラプソディー)①
しおりを挟むもともと、キリスト教徒の間で、愛する男女がプレゼントを贈りあうイベントだったバレンタインデーが日本にやってきたのは1970年。
男性に告白するなど恥ずかしくてできなかった、当時の恥じらう乙女たちと、菓子メーカーの思惑が一致し、思いを寄せる男性にチョコレートを贈って、愛の告白するという日本独自の発展を遂げた「日本のバレンタインデー」は、草食男子に溢れ、恥じらう乙女たちが消滅した現代でも、菓子メーカーの企業努力とイベント好きの日本人に支えられ生き残っている。
自慢じゃないが、俺は生まれてから2月14日にチョコレートをもらったことは一度もない。
現実主義の母は、「お前の事は愛してるけど、チョコレートをあげる程ではない!」と言い放って一度もくれなかったし、学生時代は、チョコレートはイケメンやスポーツ万能な奴らに集中していた。
男女の雇用機会や、女性の社会進出は平等が叫ばれても、もてない男性へのチョコレートの平等は叫ばれたことはなかったからだ。
今日は2月14日。今日が終われば、もてない男の辛い2か月が終わる。なぜ2か月かと言うと、クリスマスが終わると、日本の菓子メーカーは、CMや店先で「バレンタインデー」の生き残りをかけた戦いに精を出すからだ。
今年のバレンタインデーは火曜日。いつものように仕事をして、やり過ごせばいいだけだ。
アヤメからチョコレートが貰えるかも、などと言う甘い考えを持ってはいけない。義理チョコと言う風習も過去にはあったらしいが、義理チョコなんかナンセンスという女性陣とホワイトデーのお返しが大変だという男性陣の意見が一致し、こちらの方は見事に廃れているからだ。
ヴァンパイアポリスの普段と変わらない日常に癒される。
「本田君。受付から内線で一階のロビーにお客さん来てるって。」
電話を受けた山田さんから言われ、俺はお礼を言って席を立つ。
俺にお客?誰だろう。
俺はエレベーターに乗り一階のロビーに急いだ。
ロビーには、真っ白なふわふわのコート、それとおそろいの帽子。夜にサングラスという見るからに怪しい女性が一人立っていた。
「本田さ~ん、お久しぶりぃ。」
俺を見つけた女性が飛びついてくる、受付の窓口にいた女性がまずいものを見たとでもいわんばかりに、下を向いた。
「え、え?もしかして、アリサちゃん?」
「あったりぃ!」そう言って彼女はサングラスを外す。
「突然、どうしたの?また脅迫状でも届いたとか?」
「ああ、そっちの方は最近は大丈夫。SNSには、相変わらず色々と書かれてるけど、それは前からだったし。」
俺は、ここで長話しするのはマズイと考え、彼女を事務所のある4階の休憩室に誘った。
今考えると、これが大きな間違いだと、その時の俺は考えもしなかった。
休憩室に彼女を残し、俺はジュース代の小銭を取りに事務所に戻る。
「一宇、お客さん誰だったのぉ。」
ノエルに聞かれたが、アリサちゃんがが来たとも言えず、俺は適当にごまかした。
俺は、休憩室にとって帰り、ジュースを2本買った。
「わぁ。ありがとう。本田さんから貰った初めてのプレゼントだね。」
「プレゼントなんて大げさだよ。飲んで。それで今日はいったいどうしたの?なんか困ったことでも?」
「だってぇ、本田さんに、メールアドレスも電話番号も渡したのに、全然連絡くれないから。」
「用事がないのに、電話やメールはしないでしょ普通。」
「本田さん、そう言うのなんて言うか知ってる?ボクジンネンって言うんだよ。あれ。ボクネンジンだったかな。女心をわかってない人の事をそう呼ぶんだから。」
彼女いない歴18年の俺に、女心などわかるわけもなく、、、。
「だから、今日はいいチャンスだと思って来たんだよ。」
「いいチャンスって?」
「も~。本田さんって本当にボクネンジンなんだね。今日が何の日か知らないの?」
「あっ。」
(バレンタインデー、、、か。)
「わかったんだね。じゃぁ、これ!受け取って。」
そう言って彼女は、カバンの中から赤い包装紙に金色のリボンで付いている箱を俺に差し出す。
「あ、ありがとう。」
「おい、、受け取ったぞ。」
「あれ、v☆girlsのアリサちゃんですよね。」
「一宇、こんなとこでデートしてんの?マジだせーんだけど。」
休憩室の入り口付近から、ごにょごにょと小さな話声がする。
見るとノエル、稲葉、山田さん、常盤さんの4人が覗き込んでいた。
「あーあ。山田さんの声がでかいからバレちゃったじゃん。」
ノエルが、覗きを悪びれることなくそんなことを言う。
「あ、こ、これは。この前のお礼に来てくれただけで。」
「お礼じゃありません!」
アリサがきっぱり否定する。
「だよな~、だって一宇。この前の脅迫事件の時、別に活躍もしてないし。」
(稲葉、余計なことをいうな!)
「お忙しいのに、職場まで来てしまってすみませんでした。私、帰ります。用事はもう済んだし。」
「あ、一人で帰るの?大丈夫?」
「大丈夫です。これからバレンタインのイベントもあるんで、外にマネージャー待たせてますから。それじゃ。」
去りかけた彼女は、小走りで戻ってくる。そして俺の耳元で、
「電話か、メール。待ってますから。」
そう言って振り返らず走り去った。
「ああああ。一宇、赤くなってる。カワイイ!なんて言われたの。内緒話はずるいよぉ。」
ノエルが興味津々で聞いてくる。
「うるさいよ。」
俺は事務所に戻り、アリサちゃんから貰ったチョコレートを机の引き出しにしまった。
「本田君。アリサちゃんとそんなことになってたんだ。前にも言ったけど、アリサちゃんはv☆girlsの一番人気だから、もし、このことがファンにバレたら大変な事になると思うよ。」
「ち、違いますよ。そんなことにも、どんなことにもなってませんから!大体、あの事件の後で彼女と話したのは話したの、今日だけだし、メールもしてないし、、。」
「え?メールアドレスも知ってるの?いや~。まずいと思うな。あ、それじゃ、キキちゃんのサインも貰えるってことだよね。頼むよ本田君。」
「山田さん無理です。サインなんか頼めません。僕たちは何にもないんですから!」
「それにしても、この前捕まえた犯人。その後の情報一切入ってきませんね。」
「日本の警察なんていつもそうだよ。縄張り意識で犯人の引き渡しは要求するくせに、その後は、なおざりにしておくパターンが多いからね。まぁ、上がせっついてなんとかするでしょ。」
話のすり替えには成功したけど、逮捕した犯人がどうなっているのか、分からないことには腹が立った。結局は、ヴァンパイアに対して行われた犯罪よりも、人間に対して行われた犯罪の方が優先順位が高いのは仕方がないのかもしれない。
それと、「電話か、メール待ってます。」とアリサちゃんが言っていたのも気になる。
今まで、用事もなく人とメールや電話をしたことはない。ましてや、アリサちゃんとは知り合ったばかりで彼女の事も全く知らない。それで、なんとメールをすればよいのか、、、。こんな時、多趣味な男はいいのかもしれない。俺の趣味と言えば、、、。バイクをいじることと、寝ること、、、。話が膨らむとはとても思えない、、、。
こんなことを悶々と思い悩みながら仕事をしていたせいか、杉山さんに提出した報告書は赤ペンで訂正されて真っ赤になって戻ってきた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇
設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡
やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡
――――― まただ、胸が締め付けられるような・・
そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ―――――
ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。
絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、
遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、
わたしにだけ意地悪で・・なのに、
気がつけば、一番近くにいたYO。
幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい
◇ ◇ ◇ ◇
💛画像はAI生成画像 自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる