眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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守人試験 ②

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俺が案内の男性に連れられてやって来たのは、やっぱりあの場所だった。
祖父母の眠る社がある、東門。通称、イーストゲート。案内の男性は、イーストゲートのかなり手前で止まって説明を始めた。

「大変申し訳ないのですが、私のような耐性のない一般のヴァンパイアがあまりゲートに近づくと、ゲートの毒気に当てられてしまいますので、ここで説明をさせていただきます。これから一宇様は、明日の朝までゲートの中でお過ごしいただきます。ゲートの中を10mほど進んでいただくと、中にろうそくが置いてある横穴があると思います。そこで一晩、過ごしていただくのが最初の試験です。」

「えっ?それだけ?」

「それだけです。お休みなってもかまいません。この中に時間をつぶせるものと寝袋、軽食や水を用意して参りました。中にある蝋燭やマッチは、何十年も前の物で、たぶん使い物にならないと思いますので、こちらもお持ちください。」そう言って彼は、大きめの懐中電灯と、リュックを俺に手渡した。

俺は彼に見送られ、東門に向かう。
門の入り口の前にある、社に手を合わせる。「花を持ってくる約束は、また今度な。」そう言って俺は、ゲートに入って行く。10m進むと、案内の男性が言った通りの横穴が見つかった。中には短くなった蝋燭と湿気て使い物にならないマッチが置いてある。彼の説明にはなかった椅子も2脚置いてあったので俺はその椅子に腰かけた。

夜の洞窟に入るのは初めてだ。昼間でも気持ち悪い場所なのに、しかも魔物の通り道ときている。俺は気をまぎらわせるために、男から手渡されたリュックの中身を確認する、中には避難グッズに入っているようなものが、たくさん入っていた。
俺は、乾電池式のランタンを見つけ、懐中電灯の代わりに使うことにした。これなら両手が自由になってだいぶいい感じだ。それと、ラジオを見つけ早速、電波を合わせてみる。洞窟のせいだろうか、なかなかまともな音を拾うことは出来なかった。それでも、なんとか聞けるチャンネルを見つけ耳を傾ける、この洞窟内の異常なまでの静寂さからやっと解放された。

クラシック音楽の番組が終わり、軽快なポップスが流れてくる、この曲は知っている。確か、v☆girlsの新曲だ。音楽が終わると、懐かしいアリサの声が聞こえてくる。彼女とはメル友のままだったが、今回ここに来ていることは、あえて知らせていなかった。
「こんばんわぁ、v☆girlsのユイとアリサがお届けするヴァンパイアナイトのお時間で~す。皆さんは今どこでラジオを聞いてくれてるのかな?今日も30分お付き合いください。」
俺は魔物の出る洞窟で一人、彼女のラジオを聞いてるよ、、、。

まだ、ここに来て1時間くらいしかたっていないだろう。寝ていいなら昼寝をするんじゃなかった、この何もできないこの退屈さは耐えられない。俺はアリサの一方通行のおしゃべりを聞きながら、またリュックの中身をあさってみる。

中からマンガ本が出て来た。しかも俺が学生時代に夢中になって読んでいたバスケットボールマンガの金字塔「スリーポイントシュート」全12巻。どおりで重いわけだ、、。でも、このマンガはありがたい。俺は洞窟の中に寝袋を敷きその中で、静かに読書に耽った。
全12巻を読み終わる、ラジオもにぎやかな番組が終わりまたクラシック音楽が流れて来た。クラシックというのは何とも眠気を誘う。寝ても良いなら、寝てしまおう!俺はリュックを枕に夢の世界へ舟を漕ぎだした。



「こんなところで大いびきをかいて寝るとは、新しいお館様は、大物か、バカのどちらかなのでございましょうな。」

女の子の声で目が醒める。夢だ。こんな魔物の出る洞窟に子どもがいるわけがない。俺は無視してそのまま寝ることにした。

「一度目を覚ましたのに、また寝てしまうとは。お館様はバカと大物の両方なのでございますね。」

夢のくせにしつこいぞ!俺は目を開けて子どもがいないことを確認して安らかに眠るために、目を開ける。

「うわわわわわっ。」
子どもがいた!女の子だ。小学生くらいだろうか、、、。

「お館様!お目覚めですか。」

「お前が起こしたんだろう。誰だよ?こんな遅くに子供がこんな魔物が出る洞窟でいったい何してるんだ?それに、お館様ってなんだよ。俺の名前は本田一宇って言うんだ、オヤカタなんて名前じゃないぞ。」

「本田、やはりお館様だったのでございますね。お初にお目にかかります。私は白神家19代当主、白神譲(ゆず)と申します。以後お見知りおきを。」

し、らかみ?俺は突然目の前に現れた、白神家当主を名乗る変な子どもにすっかり混乱して言葉を失った。 

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