眷属のススメ

岸 矢聖子(きし やのこ)

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敵の次の一手 ⑤

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俺と宗助所長は急いで東門に戻る。

俺は宗助さんと別れ、寺には寄らず真っすぐテントに向かった。
東門の警護チームは、杉山さんと灰野から高木・山田チームに変わっている。
ゆずはご機嫌だった。

「ちょっと今から、東門の中を見てくるよ。」

「それでは、私も。」
ゆずが立ち上がったが、俺は「一人で行かなくちゃ駄目なような気がする。」と言ってゆずを止めた。本当にそう感じたからだ。
ゆずは納得できないと言った顔をしていたが、俺の真剣な様子から何かを感じたのか、それ以上は何も言わなかった。
「もう少しだけ、ここをお願いします。」
と高木班長と山田さんにそうお願いすると、自分たちは交代したばかりだから大丈夫と言ってくれた。俺は政宗守を持ってテントを出る。

背中にゆずの視線を感じながら、俺は一人洞窟に入って行く。

横穴まで一気に進み、横穴に入る。そこには白神が書いた落書きがそのまま残っている。
ここに来れば、誰かが本の在りかを教えてくれると木村さんは言っていた。俺はその言葉を信じるしかなかった。

ここに来て5分が過ぎる。でも、何も起こらなかったし、誰も何も教えてくれなかった。
諦めて帰ろうかと考えた時、人の気配がした。ゆずが俺を追って来たのか、それとも他の誰かか、、。俺は政宗守を鞘から抜く。

「一宇!」
入って来たのはアヤメだった。俺は政宗守を鞘に戻す。

「アヤメ。なんで?」

「わからないわ。なぜかここに来なくちゃって気がして、、。」
アヤメは、瘴気を遮るマントを着ていた。

「それ着ても長時間は無理だろ。早く出よう。」

「そうね。全身がビリビリするわ。」
俺がアヤメの手を取り連れ出そうとすると、アヤメの体が硬直して動かなくなった。まずい、瘴気にやられたか。

「案ずるな一宇。この娘は大丈夫じゃ。わらわが守っておるからの。」
アヤメが話し出す、しかも訳の分からないことを言っている。

「アヤメ。何を言ってるんだ。早く出よう。」

「娘は大丈夫と言っておるでわないか。人の話を聞かんか。」
話し方や声まで変わっている。

「お前は、勝也に似て石頭じゃの。」
俺はアヤメの顔を見る。アヤメの顔に、安芸の顔が一瞬重なって見えた。

「まさか、、。おばあちゃん、、?」

「そうじゃ。お前のおばあちゃんじゃ。この娘を呼び出して悪かったの、可愛い孫の彼女が見て見たくてつい呼んでしまったのじゃ。」

「ア、アヤメは彼女じゃないよ、、。」

「おうおう。赤くなって、、。可愛いの。それより、お前をこんな面倒に事に巻き込んで申し訳ないことをした。本来、剣護の事はわらわがカタをつけるべきであったのに。今の状態ではそれも出来ぬ。お前が剣護に引導を渡すしかないようじゃ。ようやく勝也と再会して、親子3人幸せにしておるというのに、剣護と二人きりで亡者の世界に暮すなどと、世迷いごとを、。考えただけで気分が悪くなるわ。あのうつけ者め。女心が分かっておらん。」

「それで、物語の続きが書かれた本はどこに隠してあるんですか?」

「そうじゃった。本はそこにある大きな石の陰に隠してある。ついでじゃ、本に書かれてある内容も話してやろう。宗助ちゃんではそれを読むのにも時間がかかるじゃろうからの。」

そう言って祖母は、続きの本に書かれた内容を話し始める。

男は、妻を黄泉の国から亡者の世界になったこの世に連れ帰る。と言っても、まだ妻の姿はしていない。妻の魂の卵を持ち帰っただけだった。この魂を元の妻に戻すのに必要なのは、妻と同じ血が流れている者。男は、妻のたった一人の妹を殺さずに生かしておいた。その妹に妻の卵を飲ませれば、十月十日の後に妹の腹を食い破って妻が出てくる。妻は生まれたばかりの赤子のように真っ白な心で生まれてくる。男は、妻の妹を監禁し妻が戻るのを指折り数えて待った。そしてその日がやって来た、妻は昔の美しい姿のまま生まれて来た。心は真っ白で男の事も男が犯した罪も憶えていなかった。
男は何も話さない、空っぽの人形のような妻と亡者の世界でいつまでも幸せに暮らした。

祖母の教えてくれた物語の続きはそんな内容だった。

「まったく胸糞悪い話じゃ。剣護が根暗な奴じゃとは思っておったが、ここまで真っ黒だとは知らんかった。一宇。今は人間とヴァンパイアが仲良く暮らしている。わらわの望んだ世の中じゃ。この世の生きとし生けるものすべての命を守ってたも。剣護の好きにさせてはならぬ。この本を読むと剣護が次に狙うのは一宇、そなたじゃ。わらわを復活させるのにお前は必要不可欠なようじゃからの。お前を確保して、それからこの東門を狙ってくる。そして魔物を解き放ち、日本を崩壊させる。お前を捕らえるまでここは狙わぬ。ここを破壊し、魔物を解き放ってお前が戦って死んでしまっては困るからの。一宇、剣護は賢い男じゃ。気を付けてかかれよ。この事を仲間に話して皆の知恵と力を借りるのじゃ。お前ならきっと大丈夫。わらわも、勝也も、幸雄もみんなでお前を見守っておるからの。」

「それと、幸雄から紀美生さんに伝言じゃ。「紀美生。愛してるよ。」だそうじゃ。忘れず母上に伝えるように。それから、勝也が「俺との約束忘れんなよ。」と言っておった。一宇。里美のことも頼んだぞ。あちらで待っておるから、ゆっくり来るように伝えてほしい。宗助ちゃんと平助ちゃんにもわらわが挨拶しておったと伝えてたも。そろそろわらわも戻らねば。わらわが居らぬと勝也が寂しがるからの。一宇。またいずれ会おうぞ。」

「一宇。わたし、、、。」
アヤメが戻った。俺は急いで、石の陰から本を取り出し、アヤメを連れて洞窟を出る。

「アヤメ。大丈夫か?」

「ええ、大丈夫よ。安芸さんの言った通り。彼女に守られていたみたい。」

「お前、意識があったのか?」

「うん。安芸さんが話してるのを後ろから聞いてたって感じかな、、。」
ってことは、アヤメをばあちゃんが彼女扱いしたのも聞いてたってことだよな、、、。

白神が一宇を捕まえるまで、ここに手を出さないなら警護の必要もないわよね。みんなでお寺に帰りましょう。俺たちは事情を高木さん、山田さん、それとゆずに話してみんなでたらに戻ることにした。

今夜は久しぶりにふかふかの布団で眠れそうだ。

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