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合流後にレムレースへと向かう
しおりを挟む「ちょっと怖いな、あの目……ギョロッとしているし。……よし。待たせてごめん!! 多重結界!」
鳥肌が立つのを我慢しながら、盾の向こう側にいる人達に向かって叫んで謝りながら、多重結界を発動。
ヒュドラーの時のように、俺一人分ではなく並ぶ盾隊の端から端まで行き渡るように、それでいて霧の魔物よりも高く……。
結界一つならまだしも、多重結界をこれだけの大きさで発動するのは初めてだったけど、上手く成功してくれたようだ。
まぁ、結界自体はいつものだし、それを重ねて複数発動するようにしたものだからだろう。
「っと。よし、大丈夫そうだ」
地上に降り、確認のために見上げた空では霧の魔物が無数……多分数十は確実にある魔法を放ち、それらが全て目に見えない結界に遮られている。
単純に威力が高いからと数が多いからか、二つくらいの結界が破壊されたけど、十以上が重なっている多重結界だから問題なさそうだ。
「へぇ……」
地上での結界にぶつかって戸惑う魔物達を見つつ、剣を鞘に納めて、思わず声を出した。
意外な事に、黒い剣の時より剣身が小さくなったにもかかわらず、鞘への収まりは良かった……まるで、元からこの剣のために作られたかのように。
鞘にも何か仕掛けがあるのかもしれない。
「さて、この剣の事はとりあえず今はいいか。とりあえずモニカさん達の所に行って、無事を確認しようかな。よっ……っと」
まずはモニカさんの所に行く事を決め、大きな盾をジャンプで越えて……あ、一応言っておいた方がいいかな。
「リ、リク様!?」
「はい。えっと、今あの霧? の魔物や他の魔物は全て魔法で止めているので、しばらくは大丈夫です。その間に、体勢を立て直して下さい」
「は……はっ! 承知しました!」
盾を支えている兵士さんの後ろに着地すると、驚く兵士さん達。
まぁ、急に飛び越えてきたら誰でも驚くか……。
とりあえずこのまま何も言わずに去るのもあれなので、一応簡単に説明しておく。
「んっと……あれ?」
密集している兵士さん達を飛び越えるように、何度かジャンプしていて気付く。
ヒュドラーと戦っていた時とは違って、ジャンプの高度が低い……。
「んー……もしかして、無意識にやっていたのかな? いや、覚えがないから無意識なんだろうけど」
魔力は十分……そりゃ、多少は減っているけどまだ三分の一も減っていないから、魔力現象の影響ではないだろう。
そう思って、ふと気付いた事がある。
以前センテの壁を乗り得る時に、魔法を使ってジャンプの補助をした事を。
ヒュドラーの大きな体を越え、首を斬るために高くジャンプする必要があったから、意識していなかったけどいつの間にか使っていたのかもしれない。
センテの壁を越える時のジャンプは、ちょうどヒュドラー相手に飛んでいたくらいの高さだったと思うから。
無意識に魔法を使っていた可能性、と考えるとちょっと怖さもあるけど……今のところ悪影響どころか助かっているから、良しとしよう。
……そういえば、結界もほぼ無意識にイメージして発動していた事もあったような気がする――。
「それじゃ、ちょっと行ってくるから……すぐに皆に下がるように伝えて!」
「リ、リクさん……!」
モニカさんの所で少しだけ話を聞き、霧の魔物の情報を得られたのは収穫だ。
それに、ちょうど倒すのに丁度良さそうな剣を持っているのは、偶然だろうけど運命とかそういう物を感じずにはいられない。
後ろからモニカさんが俺を呼んでいた気がするけど、意識を霧の魔物……レムレースに向けて、来た時と同じように兵士さん達の頭上を飛び越えて近付く。
「うん、兵士さん達は今のところ無事みたいだね……治癒魔法が上手くいって良かった」
レムレースへと向かう途中、モニカさんと話している時に使った範囲治癒魔法を思い出す。
怪我人の治療をしていた時に、ずっと一気に皆を治癒できたら楽だろうな……と考えていた事を実行した形だ。
結界は魔力すら通さない……という性質を利用して、治癒させたい人達全てを覆う結界を作る。
そこに、治癒魔法で満たしてやるイメージだね、まぁ治癒するイメージもしっかりやらないといけないし、使う魔力も本来治癒させる人数の数倍は使う事になるから、効率はあまり良くないけど。
時間効率だけを求めた魔法だね。
治癒効果も、一人に直接使うよりは低かったみたいだし……あまり重傷者が多くなかったからよかったけど、重傷者や瀕死の人ばかりの時はそこまでつかえないかもしれない。
「さて……と」
ピョンピョン飛びながら、兵士さん達の間を縫って駆けるよりも早く、盾隊の後ろに到着。
途中で抜いていた剣を握りしめて、レムレースのいる空を見上げる。
レムレース……ヒュドラー以外にもSランクの魔物がいる事には驚いたけど、その強さ自体はヒュドラー程じゃない。
いや、知能があるみたいで効率よく魔法を使おうとする事や、魔法の連続使用は厄介だし、基本的に人間には討伐不可の魔物とされているみたいだけども。
でも倒せるかどうかは置いておいて、短時間の周辺への被害という意味ではヒュドラーの方が大きい。
酸を振りまかれたら、盾も溶かされそうだし……腐食毒とか溶岩とか、危険な物が多過ぎる。
ともあれレムレースが発生する方法として、霧散した魔物の魔力、それらが死霊や残留思念のように固まってという事だった。
要は、魔力の塊が魔物として意思や自我みたいなものを持った、という事で考えていいだろう……合っているかはともかく。
なら、全体を燃やすとか大きな事をしなくてもその魔力そのものをなくせばいい。
保有魔力量はヒュドラーよりも多いとは思うけど、今の俺にはそれを可能にする武器を持っている。
「まぁ、この剣がなかったら先に兵士さん達を引かせてから、広範囲の魔法を使う必要があったんだろうけどね……んっ!」
呟き、盾隊を越えてレムレースに向かって大きくジャンプ。
やっぱり、戦う時に意識を集中させて足に力を入れると、無意識的に魔法が発動しているようだ……ジャンプする時、足下で強い風が吹き上がっていたようだから。
無意識の魔法発動は気を付けた方がいい、と思いながらまずはレムレースを倒す事が先決。
「……あまり近付きたくないけど、あの目が一番良さそうだ」
一番魔力が集中していて、ダメージが与えられそうな場所。
マリーさん曰く、どう見ても急所っぽいのに急所ではない目……潰しても、他の場所にすぐ目が現れるらしい。
霧に対して剣を振るうよりも、目に突き刺した方がやりやすいだろうと、魔力で光る剣を突き出してギョロリとこちらを向くレムレースの目に向かう。
このままだと多重結界に俺がぶつかるから、張り直して……っと。
「結界! っと……やっぱり、足場があると便利だなぁ」
レムエースの目のすぐ前に結界を地面と平行になるように張り、足場にする。
結界の上に着地してすぐ、レムレースの目……大きいからこそ近くで見ると、ただの黒く密度の高い霧だね。
ただ近付く時、こちらを見る目に向かって飛び込むのに対しては、鳥肌が立つのを抑えられなかったけど――。
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