【完結】聖女の息子は加護という名の呪いを撃ちまくる

東雲夕

文字の大きさ
14 / 30
想い出という名の美しい呪い

1.


 石造りの狭い通路で、おりからの西日を受けて、フェンガリを見下ろす金の髪は、まるで光背のように彼の顔を彩っていた。

 そうだった、彼の瞳は朝露を受けた若葉のようなのだ。

 光を湛えた湖面のように、ちらちらと虹彩が光る澄んだ碧眼だ。覗き込む角度で色を変える、水面に映る影を探すように、彼の顎を押さえながら覗き込むのが好きだった。

 知っていた、知っている。

 秀でた額から通った鼻筋の下には薄い唇。
 少し酷薄そうに見えるそれは、小さく緩むと途端にあどけなくなる事も、フェンガリはよく知っていた。そうだ知っていた事を、小さな眩暈とともに思い出す。

 おぼろげだった記憶の輪郭が、ゆっくりと焦点を結び出している。ちりちりと湯が湧くかのごとく、身の内が熱い。

「突然すまない。先程は助かった」

―― ありがとう。

 思い描いたままに、彼の唇が綻ぶ。
 フェンガリの胸が歓喜に甘く騒いでいる。
 それと同時に喉に上がってくる胃酸を飲み込みながらも、フェンガリはただ彼に見惚れていた。

 その間も、薊の花は絶え間なくその嫋やかな頸に咲いて、愛子に女神の権能を惜しげもなくふるまい続けている。

「その、俺はセオドア、セオドア・アンガーミュラーという。魔法士をやっている、って、まあ、見ればわかるか」

 照れくさそうに頬をそめて、人差し指で鼻をこする君の癖、思い出せたよテディ。

 テディ。
 それは幼いセオドアの愛称だった。

 あの頃はフェンガリの方が発育が良くて、外遊びの好きなフェンガリを追いかけて、登った木から降りられなくなるのは、いつもセオドアの方だった。

 幼少期の記憶は、脳の保護機能とやらのおかげで虫食いだらけだ。
この、従兄弟との思い出も殆ど忘れてしまった。

 だからこそ、マグワイアの子だったフェンガリは、あの時一度死んだのだと思う。彼を前にして熱く騒ぐ胸は、もうとうに亡い、かつての子どもからの、形見みたいなものだ。

 胸に胃酸以外のものが込み上げてきて、苦しい。

 俯きそうになったフェンガリが、わざとツンと顎を逸らすと、少し困ったように見下ろす碧眼と目があった。

 認識阻害の術式は、しっかり機能しているようだ。

 セオドアの瞳にはフェンガリでない、何者かの姿に見えているのだろう。

 見知らぬ誰かを見る彼の眼差しに、チクリと胸の奥が疼いた。隠したいのに気づいてくれなくてさみしいとか。

 自己矛盾は個性として諦めているが、セオドアの事はどれだけ諦めたくなかったのか。無自覚の執着心が、腹の底で燃えるようだ。

 会わないと決めたくせに、それなのに、想定外の再会に鼓動は跳ね上がってゆく。

「急にすまない。この魔光石なんだが、支給品とは比べ物にならないな、これは君が……? あの、迷惑だったかな?  仕事の邪魔ばかりしてるよな、俺は……」

 黙ったまま見上げてくるフェンガリに、怒らせてしまったかと、セオドアが目を泳がせる。

 正体を隠したいなら、不用意に話さない方がいいに決まっているし、止まらない吐き気に回り続ける薊の神威は、フェンガリの体がマグワイアの血を拒み続けている証だし。


 でも、今はそれより、ただもう少しだけ君を見ていたいんだ。


「俺は、ちょっと魔力が多くて、支給品だと一つじゃ足りないんだが、君に貰ったこれ、凄いな」

―― すっかり満たされたのに、まだ余ってる。

 そう言って嬉しそうに笑うその顔を、とてもよく知っていた。

 光背の如く日を浴びて煌めく金の髪は、マグワイアの濃い血の証だ。

 優秀な魔法士のその裔の証。

 だから今もフェンガリの喉は灼かれ続けている。フェンガリの人生に魔法士なんて必要ないのだから。

 ぽろりと、こぼれた涙は、一度溢れ出すと堰を切ったように、フェンガリのまろい頬をすべり落ちる。

「えっ?! そんなに嫌だったのか?? 」

 困ったなと、呟きながら何度も両腕を出しては引っ込める仕草を繰り返すセオドアに、昂っていた心が少しづつ落ち着いてくる。

「いや、すまない。その、なんか、疲れてて、はは」

 やってもやっても終わらなくてねと、眼鏡の縁から指を入れて涙の雫を払ったフェンガリが、ため息とともに告げれば、

「それは、何というか、やっぱり申し訳ないかな……」

 安心しながら困る、という器用なことをやってのけたセオドアが眉を下げた。

あなたにおすすめの小説

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

王様の恋

うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」 突然王に言われた一言。 王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。 ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。 ※エセ王国 ※エセファンタジー ※惚れ薬 ※異世界トリップ表現が少しあります

白い部屋で愛を囁いて

氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。 シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。 ※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)