15 / 30
想い出という名の美しい呪い
2.
この砦の尋常でない風紀の乱れに心当たりがある顔だった。
そうだ、セオドアも魔法士なら、性処理なんか至極当然の事なのだ。
そんな現実に気づいたフェンガリの胃の奥が、ぐっと石を飲んだように重くなった。
「これ、改良途中の試作品ですけど、たくさんあるから」
―― 良かったら使って下さい。
フェンガリは、懐から小分けにした魔光石を入れた小袋を取り出すと、顔の前に掲げる。震えそうなにる指先は気合いで抑え込んだ。
「いいのか? 助かる。」
そう破顔したセオドアに、思わず見惚れる。
慌てて視線を外して、嬉しそうに差し出す手の平に小袋をそっと乗せた。
「こんなに! 有難い、恩にきるよ」
仲間に分けても良いだろうか、ときらきらとした瞳で問いかけられる。
かまわないよ、と答えてやれば、また、ありがとうと破顔して、魔光石をしまうとローブの上から大切そうにに撫でている。
そんなに喜んで貰えると嬉しいしと、弾みそうな心に水を指すように、セオドアの手の平が滑るたびに、そのローブからも、もう飽きるほど嗅がされた栗の花の匂いが漂ってきた。
―― え。
ふわふわと浮き立っていた気持ちは、唐突に着地する。
吐き気が喉を焼く。
女神様からの警告だったかな。
―― これだから魔法士って奴は。
悪い夢から覚めたように、体が急に重くなったようだ。
彼は自分から魔法士だと名乗ったじゃ無いか。
規定さえ満たせば任務後の性処理は、建前だけでなく魔法士という特殊な魔力器官を持つ彼らには必要な事でもある。
特に魔力量の多い従兄弟なら、支給品と自然回復に任せるより効率的なはずだろう。
だから、必然ではないが必要ではあるその行為を、セオドアもまたしているというだけだ。
すん、と真顔にもどったフェンガリは、確かめるように頭に手をやると、姉のカロッタを被り直した。
上官からの誘いを断っていたから、少し勘違いしてしまっただけだ。
そして勝手に裏切られたような気持ちになっている。それでも、わかってても少し哀しい。
―― 魔法士なんて。
やっぱりフェンガリのそばには必要無い。
思い出は美しい。
美しいからこそ、そのままそっとして置いたほうが良いんだろう。
なんか色々思い出してしまったけど、あの頃の従兄弟は成長期がまだだったのか、体も小柄で鈍臭かったな。
ちょっと美化し過ぎてた、正気になると秘蔵の珍しい蝉の抜け殻、怯えたこいつに振り払われて、踏み潰された記憶まで蘇ってきたよ。
虫苦手なくせに後ついてきて、涙目で背中に張り付いてたっけ。
残念な記憶で正気になったフェンガリは、それじゃと手を上げて踵を返す。
姉上はこれを教えたかったのかもしれん。
現実なんて綺麗なばかりじゃ無いって知ってたのに俺もまだまだだ、お手数かけます女神様、と頸に手をやり感謝の祈りを捧げつつも、足早に去っていく、そのフェンガリの背中に「また話そう」と、屈託なく声をかけてくるセオドアが、心底恨めしかった。
あなたにおすすめの小説
【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
白い部屋で愛を囁いて
氷魚彰人
BL
幼馴染でありお腹の子の父親であるαの雪路に「赤ちゃんができた」と告げるが、不機嫌に「誰の子だ」と問われ、ショックのあまりもう一人の幼馴染の名前を出し嘘を吐いた葵だったが……。
シリアスな内容です。Hはないのでお求めの方、すみません。
※某BL小説投稿サイトのオメガバースコンテストにて入賞した作品です。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 一月十日のアルファポリス規約改定を受け、サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をこちらへ移しましたm(__)m サブ垢の『バウムクーヘンエンド』はこちらへ移動が出来次第、非公開となりますm(__)m)