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魔法士という呪い
2.
「母さまが言いそうな事ー」
眉間の皺をほどいたフェンガリが楽しそうに笑って、お返しと摘んだ一粒を差出してきたので、マッツは遠慮なく口を開ける。
「…… こりゃ美味いな」隠し味ラムか? と問えば「わかるー? 」と嬉しそうに立ち上がったフェンガリが、料理長にも「あーん」をしに行く。厨房に乗り込んで奥で皿を洗っているおば様達にもあーんと口に突っ込んだフェンガリはご機嫌で戻ってきたが、大聖女の手作りだと知ったら皆漏れなく腰を抜かしそうだ。
なるべく無表情無口を装えと言われていた筈だが、無邪気に笑う顔は大変よろしいし、砦の人間相手なら認識は阻害されているので、柔らかで曖昧な印象しか残らない筈だ。
邪な想いなどあの姿に抱けるのは、よほど特殊な性癖持ちだろうし、そんな奴になら罰はむしろ積極的に当たればいい。父性の振り切ったマッツはそう判断してフェンガリを好きにさせる事にした。
厨房から戻って来たフェンガリは、残った栗をマッツに手渡して「カルロと夜食にしてね」とくふふと嬉しそうに笑う。
まるで憑き物が落ちたようなその様子に、さすが大聖女様だなと、霊権あらたかな栗をもう一粒頬張ったマッツは、やれやれと肩の荷をおろしたのだった。
「残りあと少しだから、この分だけ片すよ」
と書類鋏を見せて言うフェンガリに
「承知した、向こうは任せろ。明日は終わったら神殿に手伝いに行くから待ってろ」
そう遅くはならないだろうから、とお互い手を振って別れる。
そんな二人の姿を、金髪碧眼の魔法士が、食堂の隅の席から気配を消してジッと見つめていた事に、フェンガリもマッツも、全く気づいていなかった。
このところ、自分はおかしかった。
マッツに母のお手製マロングラッセを食べさせられて、言付けを聞いたとたん目の前の霧が晴れたようだ。
花は実をつける為に咲くのだ。魔法士が栗の花臭かろうが、最終的に彼らが役目を果たせばそれで良い。行き過ぎたら指導を入れて矯正すれば良い。そしてそれは神殿に属する自分には関わりない事だ。
さっきまであんなにセオドアが気になって苦しかったのに、今は不思議と色々な事が、「ただそういう事があったな」と言う事実の記憶としか感じなくなっていた。目の前が突然開けたような不思議な感覚だが心地良い。
多分セオドアに再会した事により、心の奥底に封じられていた六歳のフェンガリが浮上してきたせいだろう。
それでらしく無く、我ながら情緒不安定気味だったなと、フェンガリは苦く笑う。
そうだ魔法士が精液臭くて何が悪い。それが奴らだ。
そして規則さえ守れば、彼らに与えられた正当な権利だ。聖魔術師であるフェンガリが気に病む事でも、ましてや口を出す事でも、全く無い。
セオドアは立派に大人になり、一人前の魔法士になった。それは喜ぶべき事であるが、もはや生き方を分かって久しいフェンガリには関係のない事だ。
気に病む方がどうかしていた。
魔法士とは必要以上に関わらない。それがフェンガリの生き方であり、たとえ従兄弟だろうと例外は無いのだ。
そうして恋しい恋しいと泣く小さな子供は、胸の底でまた眠らせてしまおう。フェンガリをフィーと呼んだ優しい従兄弟は、もう彼の記憶の中にしかいないのだから。
感傷に浸るのこれでお終い! と気合い入れて来た扉の奥からは、また例の鳴き声がするんですけど、何で?? そういうプレイなの??? お布団でやりなよ、埃だらけで病気になるじゃん、いい加減にしてー! という気持ちのままに扉を開けようとすると、ぼすんと柔らかい壁に阻まれた。
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