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13巻
13-1
1
生きることは食べること。
食べるために生きていると言っても過言ではない。
生きるためだけならば食にこだわらなくて良いのだ。
より美味いものを求めるのは人としての業というか、元日本人としての魂に刻まれた呪縛というか、ともかく生きるためにはいろいろと楽しんだほうが勝ちだと思っている素材採取家のタケルです。皆さん、より良い食生活を送っていますか。誰ですか食材採取家と仰るのは。間違ってはいませんよ。
俺が所属するチーム蒼黒の団の食生活は、とてもとても豊かである。
マデウスにおいて通常一日二食で済ませるのが常識だとしても、俺にその常識は通用しない。朝と晩だけ食べるなんて、お腹空いちゃうじゃないか。
俺たち蒼黒の団は一日三食おやつつき。各々小腹が空いたら木の実とハチミツを煎った携行食もどうぞ。しかも、美味しいのが当たり前の食事を提供しています。
まず何よりも俺自身がひもじい思いをしたくないため、元気に働くためには腹いっぱいに食べなくてはならないと考えている。
腹いっぱいになれば何でもいいと言う人とはちょっと仲良くはなれない。食うのならば楽しまなければ。
かったい干し肉と酸っぱい葡萄酒を一日二回、もそもそと食べて飲むのが冒険者。モンスターが蔓延る深い森の中で悠長に焚き火をして調理をしていられないから、という理由はある。それはわかる。腹が満たされれば早く仕事ができるしね。わかるよ。
だがしかし、俺には前世からの業というか日本人の飽くなき食への追求といいますか、変態的にまで食に貪欲というか、一度覚えてしまった味が当たり前になってしまうと不味いものを口に入れるのがぶっちゃけ嫌っていうか。
嗚呼、アルツェリオ王国の王都で食ったデロデロのおかゆ的な汁状の食い物を思い出すたびに悲しくなる。現地の貴族に大人気らしいということで食ったのに、あれは酷かった。同じものを作れるかと聞かれれば、小麦粉を練ってちぎって水溶き片栗粉にぶちこんで混ぜて少々の塩と砂糖で熱したらでき上がるだろう。素材の味を生かしてみました。
いや、もっと複雑な工程があったのかもしれないが、少なくとも俺の舌は複雑な味を感じなかったのだ! せめて、野菜を煮込んで出汁を取るとか! 細かく砕いた肉を入れるとか! 「貴族に人気」が免罪符になると思うなよ!
まあ落ち着こう。終わったことを嘆いても仕方のないことだ。
あの謎汁は握り飯屋が流行すると同時に消えていったけどね! 少しでも金を稼ごうとしたヤツの陰謀ではあったんだけども! 庶民も食わないような古麦を材料にしていたらしいよ! 酷い話だ!
いやまあ落ち着こう。三十円も出せばうまいスナック菓子が食える環境で育った記憶がある俺の舌を基準で考えればきりがない。
アルツェリオ王国内の流行というものは高位貴族が作り、そして次第に庶民へと浸透し、王都から郊外の町や村へと伝わる時には一昔前の流行と言われてしまう世界だ。貴族がこれが良いと言えば、それは良いものなのだと庶民は思う。
極端な話、頭にちくわをぶっ刺してこれが今のお洒落ざますよと言われれば、ああそうなのね素敵だわ真似するわの世界。
あの謎汁がトルミ村まで来なくて良かった。ほんとに良かった。謎汁が好物だった人には申し訳ないけども、他に美味いものはたくさんあるから。
話がめちゃくちゃ逸れまくったが、つまりは俺にとっての食は生きるための手段、娯楽、喜びなのだ。
俺と志を等しく、食うためならばランクSモンスターも嬉々として狩る仲間たちがこのたび大幅なレベルアップをした。
ドラゴニュートのクレイは魔力を操れるようになり、理性が吹き飛ぶ狂戦士から強い力を制御し操る竜戦士へと進化。見た目もちょっと大きくなっていたから、これはもう進化と呼んで良いだろう。
ハイエルフのブロライトは俊敏さが増し、アクロバットな動きに加え美しい白刃のジャンビーヤで勇猛に斬りつける姿はまさしく狩猟戦士。そして魔力を大量に消費するブロジェの弓の腕を上げた。
小人族のスッスはまさかの忍者に職業変更。もともとの隠密技能を進化させ、短期間で隠密殺傷という異能を身に付つけた。素早さと気配を消す能力はチームの誰よりも優れている。料理は俺よりも上手。
そして、ちびっこ竜である我らがマスコット、古代竜の子供ビー。
俺に内緒で巨大な竜へと変化する能力を身に付けていやがった。いや、成長したのか? いやいや、成長したにしては中身がまったく変わっていないのだが。朝は早く起きられるようになったが、腹が減ったらわめきだすし俺の姿が見えないとわめきだすし俺が小動物と戯れていると嫉妬でわめきだす。可愛い。
どんな鍛練を積めばちびっこ竜が巨大な成竜に成長できるのかは謎だが、相手は古代竜という名の神様だからな。なんとかなったのだから、そこを追及するのは無粋というものだろう。
なにはともあれ、チーム蒼黒の団は大幅な戦力増強となった。俺もちょっとだけ魔法の扱いが上手になりました。
レベルアップをして食う量が倍増したという謎もあるが、それはまあ置いておく。たくさん食べるのは良いことだ。たくさん動くことだし。
トルミ村に落ちてきた有翼人種のルカルゥとその守護聖獣ザバ。
空飛ぶ島から落っこちてしまった二人をなんとかして帰してやりたいと思うのだが、なんせお伽噺だと思われてきた幻の有翼人の国、キヴォトス・デルブロン王国がどこにあるのかがわからない。
存在を隠し、マデウスの空を飛んでいた国。
さてさて、俺たち蒼黒の団はルカルゥとザバを故郷に帰すことはできるのだろうか。
そして未知なる場所で新たなる食材、いや違う素材を探すことはできるのだろうか。
そろそろ味噌が欲しいんだよね。醤油の実があるのなら、味噌の実とかあるんじゃないかな。あと獅子唐と茗荷とワケギ欲しいな。
探そう。
未知なる食材を!
いや違う。素材を!
+ + + + +
飛び散る粉塵、叩きつけられる岩石。
視界の悪い最中、大地を震わせるおぞましい咆哮が轟く。
全身を凍りつかせるような、弱者を嘲るような、立ち向かえるものならかかってこいと言わんばかりの――
「ぎゃあああああーーーっ!」
白い岩壁の谷底にひしめく、大量のカニ。
おぞましい地獄の光景、いやこの場合カニの養殖場って言うべきなんだけども。
ともかくスッスは谷に響き渡る大絶叫をしたあと、固まってしまった。
冷静に考えれば異常な景色だよな。眼下には数万匹のカニがひしめき合っているのだから。
俺にとってカニは食い物だが、冒険者にとってカニはただの不気味なモンスター。そりゃ怖いよな。
「スッス、スッス、谷の底に降りなければ大丈夫。ここは防御魔法があるから」
「なんすかなんすかあの化け物!」
「えー、あれにおりますはー、カニです」
「か、かに? っすか? 化け物じゃないんすか?」
「食材です」
「はいいぃぃ?」
「美味いんすよ」
「美味いんすか⁉」
カニの繁殖場は谷底にあるのだが、崖の上から下を覗けば一面にカニ。
生け簀のカニを想像していただきたい。あれの、数百倍のカニが蠢いているのだ。最高。
「あんな、あんな虫みたいなのを食うんすか?」
「あれはカニです。甲殻類……いや、虫ではないけど、食うんすよ。しかも、すっごい美味い。これは保証する」
スッスは俺のことを信じられないといった顔で見たが、俺もビーも真剣そのもの。クレイとブロライトに至っては既に戦闘態勢。久々のカニ狩りに興奮を隠そうとしていない。
カニの見た目は節足動物蜘蛛類。なので、足が長くてたくさんある虫だと言うのも無理はない。
そうか。俺たちは虫を好んで食うと思われているのか。ちょっとショック。
「スッス? スッス、おーい」
「ピュッピュ」
「固まっちゃった」
「ピュゥー……」
ムンクの叫び状態のまま硬直するスッスの頭を、ビーがぺちぺち叩く。
「ふふ。無理もなかろう。クラブ種を狙うは愚か者と言われておるほど割に合わぬモンスター故」
「わたしもタケルに馳走されるまで食えるものだとは思わなかったのじゃ」
クレイとブロライトは準備運動を終えると、谷底へと続く切り立った崖から見下ろす。
二人には盾魔石を託しているが、修業の成果を試すため今日は使わないと宣言した。
俺の想像を超えて鬼のように強くなった二人は、今すぐにでもカニ狩りを始めたくてうずうずしている。
スッスは未だに眼下の光景に硬直したままだが、クレイは崖を降りるため進む。
「ビー、スッスが我に返るまで護衛を頼む。慣れぬ場故、焦らせるな」
「ピューイッ!」
「ブロライト、粉塵を抑えられるか。ビーより小柄なものは捨て置け」
「了解じゃ!」
「槍とゲンコツ禁止な。剣で関節を切るようにしてくれ」
俺がクレイの指示に追加すると、二人は頷く。
「スッスにも経験を積ませるべきであるからな。ある程度は残す」
「だからって初戦がダウラギリクラブの養殖場でいいの? もっとほら、見た目が気持ち悪くないモンスターのほうが良くない?」
「お前はカニが食いたくはないのか」
「食いたい」
「ならば我らの好物なのだと説明するよりも、見たほうが早かろう」
クレイはさも当然のように答えたが、スッスは前線で戦っていた冒険者ではない。危険なこととは無縁の情報屋だった。
蒼黒の団の新規加入者であるスッスは、俺たちの邪魔にならないようになりたいっすとクレイに言った。
いや、料理ができる時点でスッスが邪魔になることなんて生涯あり得ない話なのだが、スッスは律儀に戦闘でも役に立ちたいと言った。
壮絶な修業を経てスッスは、隠密というか、暗殺集団リルウェ・ハイズの客人というか、いわゆる忍者に転職したわけだが、実戦経験は乏しい。
経験を積ませるためにもいくつかの依頼を受注し、消化すればいいと思っていたんだけど。
「トルミ村近くの森にいるでっかい牛、何て言ったっけ。角が四本あるイノシシみたいな牛」
「ランドブオイであろう」
「そうそれ。その牛でもよかったじゃないか。あの牛美味いし」
「そもそもはお前がカニを食いたいと言いだしたのが始まりではないか」
はいそうです。
俺たちは今、アルツェリオ王国内フォルトヴァ領にあるダウラギリクラブ養殖場に来ている。
俺が勝手に養殖場と呼んでいるだけで、実際は獰猛なモンスターであるダウラギリクラブの繁殖地なんだけども。
ここはチーム蒼黒の団がフォルトヴァ領主からもらった土地だ。
フォルトヴァ領主はルセウヴァッハ領主であるベルミナントと懇意にしており、そのツテでこの土地を借りられないか尋ねたのだ。賃料だって支払うつもりだった。
だがフォルトヴァ領主はこの土地を、危険なダウラギリクラブの繁殖地をまるっと蒼黒の団に譲渡した。むしろ管理してもらえるのならどうぞどうぞと。
フォルトヴァ領としては厄介なモンスターを無償で退治してもらえるし、蒼黒の団が懇意にしている近くのシャバリン村も安全になるし、ついでに「蒼黒の団が近くで演習している」となればシャバリン村の観光にもなる、って。
俺たちは演習をしているわけではないんだけど、カニ狩りするんです、って言ったら実戦経験を積むということだな、と勘違いされてしまった。
冒険者のなかには俺たちの実戦を見せてほしい、なんて希望もあった。
だがなあ。
なんというかなあ。
俺たちの実戦て。
「タケル! でかいのが行くぞ! わたしは蒸したカニが食べ、たいっ!」
ブロライトのジャンビーヤがクレイの背丈以上もあるカニを一太刀で屠る。
「ブロライト! 腹を切るな腹を! なるべく間接を狙えばお肉が散らない! 氷結、展開っ!」
二つになった巨大カニを鞄にしまいつつ、三メートル級のカニたちを氷漬けにする。
「太陽の槍に頼らずとも、この剣をくれてやるわ!」
悪役っぽいこと叫びながらクレイの大剣が炸裂。五メートル級のカニが数十匹巻き込まれ岩壁へと叩きつけられた。
「ピュイーッピュピューィ」
「真面目に炎を吐きなさい。焦がしたら叱られますよ」
「ピュイィィッ! ピュー!」
「わたくしは炎なぞ吐きません。優雅に空を飛ぶことが仕事なのです」
「ピュピー!」
「誰が役立たずですか!」
ビーとプニさんは固まったままのスッスの両隣で仲良く喧嘩。
これが俺たちの、いつもの実戦。
緊張感はあるのだ。巨大なハサミに捕まれば、クレイの鋼の肉体すらちぎれるだろう。
ダウラギリクラブはランクBのモンスター。一個体だけならば冒険者ランクCもあれば数人で討伐は可能。
しかし、こいつらは群れで行動する。数十体どころではなく、数千体、時には数万体の軍勢となって町や国を襲う。
以前俺たちがこの地に来た時は、ダウラギリクラブの氾濫まであと僅かという瀬戸際だった。
この地からカニが溢れたら近くの村を襲うだろうし、森の草花や動物、モンスターすら襲い食い散らかす。
甲羅も硬いし時には魔法も弾き返すカニ、クラブ種は冒険者から嫌われている。
危険だし攻撃が通りにくいし素早いし見た目がアレだしで、不人気なのだ。でかくて鋭い爪にはたっぷりのお肉があるんだけども。
この谷は魔素の流れがモンスターに対しては理想的らしく、またダウラギリクラブらは魔素吸収を効率的に行うため異常な速さで繁殖する。
以前は餌が不足していて共食いをしていたが、前回来た時に俺が谷底の掃除をしていたおかげで草花が繁るようになった。ここでもわさわさ生えていますエペペンテッテ。
繁殖場が綺麗になって食えるものも増えれば、そりゃ元気よく繁殖するよね。
魔素の流れ云々は古代馬であるプニさんが得意げに教えてくれたのだが、プニさんはごぼうサラダが入った壺を抱え、無表情でもしゃもしゃ食っている。あのスタイルで俺たちの応援をしてくれているのだ。
以前にここを訪れた時、俺たちはカニのあまりの美味さに食いながら戦ったっけ。よいおもいで。
今回は力強い協力隊が来ているのだ。無様な戦いは見せられないとクレイが言ったため、食いながら戦うのは禁止となった。
「おっきいカニだよ! あんなのはじめて!」
「あの爪は硬いよ! だけど爪の根っこは柔らかいんだ!」
「お腹の真ん中もふわふわしているの!」
「目玉を潰すと動けなくなるよ! わんわん!」
主にクレイとブロライトを中心にカニ狩りが行われるなか、その協力隊である茶色の毛むくじゃらが素早い動きで倒されたカニを回収してくれた。
なんと、コポルタ族たちはカニを知っていたのだ。そして、食うとたまらなく美味いことも知っていた。
だが、コポルタ族が暮らしていた北の大陸では魔素が薄まりカニが絶滅してしまった。もうあの美味い肉が食えないのかと悲しんでいたところ、俺がコタロとモモタを背中に張り付かせている最中に口にした「カニ食べたいな」の一言に彼らが目を輝かせたわけです。
――タケル、カニとは何なのだ?
――ええっと、カニというのはクラブ種のモンスターのことでね。とっても獰猛で美味恐ろしくて……
――クラブ種ということは、カラコルムクラブのことか? あれは美味いのだ!
――美味いのだ!
――なにそれちょっと待って今なんてった。
コポルタたちが食べていたカニはダウラギリクラブではなく、カラコルムクラブという真っ黄色なカニだったらしい。なにそれ食べたい。絶滅したと言っていたが、地面の下に潜って隠れている可能性だってあるのだ。今すぐに北の大陸に行ってカラコルムクラブ探しをしたい衝動を全身全霊で抑える。
基本的に雑食なコポルタたちは、食えそうなものならなんでも食う。ダンゴムシに酷似したプンプンオタマすら粉にして丸めておやつ感覚で食う。もりもり食う。
臆病で逃げるのが得意なコポルタではあるが、俺たちが傍にいるという安心感だけで今日のカニ狩りに同行したのだ。
一段落したらカニ鍋やろうぜ。
「タケル、タケル、女王が五匹もいるよ! あんなにいたら、この谷から出ちゃう!」
「女王は怖いんだよ! わんわん!」
クレイがタコ殴りにした比較的小柄なカニを担ぎ上げ、嬉しそうに尻尾をブン回しているコタロとジンタ。ジンタは黒豆柴の青年で、このたびコタロの護衛に選ばれた。
愛らしい豆柴が巨大カニを掲げる姿は恐ろしくシュールだが、ゲテモノだと嫌わず収穫に参加してくれるのはありがたい。
俺は雌のカニを勝手にセイコガニと呼んでいたが、コポルタたちは女王と呼んだ。
確かに三階建てビルくらいの大きさの雌ガニは女王の風格がある。
コポルタたちは総勢十名が参加。代表者二人に六畳ほどの保管庫になっている魔法巾着袋を預け、カニ回収を頼んだ。
さすがのコポルタ族。大量に積まれていくカニをすさまじい勢いで回収、収納している。
素早い動きのカニらの、更に上をいく素早さで攻撃を回避している姿は素晴らしい。
なんというか、逞しいというか、頼りになるというか、すごいぞつよいぞコポルタ。
「あああ、これじゃダメっす! おいらも、おいらも、何か手伝うっすよ!」
スッスが我に返ったようだ。
両頬をビタビタと叩いたスッスは、意を決したように姿勢を正した。
「おいらだって蒼黒の団になったんす! 恥ずかしい真似は、絶対にできないっす!」
「ピュッピュピューイ!」
「スッス・ペンテーゼ! 行くっすよー!」
「ピュイィ~~~ッ!」
頭にビーを乗せたスッスがほぼ垂直の崖を駆け降りてきた。
黒い覆面に黒装束が壁を走り降りる姿は、まさしく忍者。手には巨大出刃包丁。
スッスの復活に喜んだのはビーだけではなくて、コポルタたちも歓声をあげ我先へとスッスのあとを続く。
「硬くて切りにくいっ、ものは! 力任せじゃ、ダメっすね! とわーっ!」
「そうだよ! 柔らかいところがあるよ!」
「わんわん! 背中は硬いよ!」
豆柴軍団をお供に、スッスは恐ろしいほどの速さでカニを切りつける。あれだけ巨大な出刃包丁を片手で器用に扱い、カニの関節を一刀両断。
既に混戦状態になっているというのに、スッスは先ほどまでの醜態を振り払うべく走り抜けた。
「ジンタ! おっきいやつは赤い袋だよ! ちっちゃいのは白いやつ! 中っくらいのはタケルに投げるんだ!」
コタロは一通りカニを集めたら、岩山の上に立って仲間たちの指揮。
俺は方々から飛んでくる中っくらいのカニをかき集め、感慨深くコタロの姿を眺める。
俺のローブに隠れて震えていた王子様はどこへやら。
このまま一族を率いる立派な王様になってくれたらとは思うが、まだまだ幼いままでもいいのよと思う。夜中にモモタと手を繋いで俺の布団に潜り込んでくる可愛さを、決して失くさないでくれ。他の種族の子供たちと切磋琢磨し、すくすくとゆっくり成長してくれたら良い。
戦場を怖がるモモタはプニさんの背中に隠れながら両手を振っている。プニさんの指示で応援してくれているのかな。可愛い。
コポルタたちは北の大陸で体験した常闇のモンスターとの戦いを忘れてはいない。だがしかし、あれほどの恐怖はそうそうない。
「常闇のモンスターをやっつけた旦那たちが一緒にいるんす! 怖いことなんかなんもないっす! おいらたちも役に立つっすよーっ!」
「わんわんわんわんっ!」
「わおーんっ!」
おお。
スッスが女王ガニの巨大すぎるハサミを切り落とした。
すごい! あのカニはエコモ・ダウラギリクラブの雌。卵を守るべく雄を背中にびっちりと背負い、卵を奪われるまいと怒り狂っている。
「せいこ、じゃなくて、女王の卵は壊さないように! ウニ丼ごちそうするから!」
女王の背中にびっちりびっちりひしめく大量の卵にヨダレが出そうになる。あの卵は不思議と濃厚なウニの味がするのだ。
ウニ丼が何なのかはわからないだろうが、俺が「ごちそうする」と叫んだその一言でスッスの顔つきが変わる。
感想
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