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嵐の頃 …16
しおりを挟む「その後、光浦のおばあちゃんも乗せてきたんだ。
あんな凄い場所に家が建ってるのに避難しないって言うからさ、聞いたらニャンコがいるからだって。
だから、ニャンコもおばあちゃんも抱えて連れてきたよ」
きゆは涙を浮かべたままクスッと笑った。
「流ちゃんは、動物のSOSが聞こえるんだね。
そのニャンコたちも、きっとおばあちゃんを守るために、流ちゃんを呼んだんだよ」
流人はハッとした顔をしてきゆを見た。
「そうかもしれない…
だって、俺が、チビとチロの名前を一回呼んだだけですぐ姿を現したんだ。
おばあちゃんが驚いてた…」
流人はまた更にきゆの肩を強く抱いた。
「もう一つ驚く話があって…
実は、帰り道が全部塞がれててどうしようもないところに、光浦のおばあちゃんが抜け道を知ってるって、凄い恐ろしい程の道じゃない道を走ってきた。
何度も危険な目にも遭ってもうダメだって思う事もあったけど、こうやって無事に家に辿り着いたのは、本当に奇跡としか思えない。
で、おばあちゃんに、その道の事を聞いたんだ。
そしたら、おじいちゃんのお墓がある場所へ続く一本道で、お墓の場所から町に抜ける小さな道があるのを知ってたらしい。
でも、その道は人が通れるほどの細い道で、普段はおばあちゃんが墓参りに行くくらいしか人は通らない道だって」
流人は雨が打ちつける窓の方を見ている。
「そしたら、おばあちゃんがこう言ったんだ。
おじいちゃんが守ってくれたって…
生きてる頃に、何かあったらこの道を使えばいいっていつも言ってたって。
チビもチロもおばあちゃんも、おまけに俺もマルも、光浦のおじいちゃんに助けられたんだ。
凄いよな…
おばあちゃんがあの道を知らなかったら、俺らはここにはいなかった…」
きゆは光浦のおばあちゃんの事は何も知らなかったけれど、でも、心から感謝した。
「俺さ、死を身近に感じて切ないくらいに思ったことがあるんだ…
死ぬ時はきゆのそばで死にたいって…
だから、今は死ねない、早く、きゆの元へ帰らなきゃって、ずっと思ってた…」
きっと、今が一番台風が近づいている時間帯だ。
建て物が揺れるほど、外は、雨と風が渦巻いている。
「流ちゃん……
私も死ぬ時は流ちゃんのそばがいい…
今日でもう嘘がつけないって分かった…
私は流ちゃんを愛してる。
きっと、流ちゃんが私を想うよりも深く…
今日で気づいたなんて言わない。
本当はずっと前から分かってた。
分かってたけど…
素直になれなくて、我慢することが私の進む道だって、頭ごなしに自分に言い聞かせてた。
でも…」
流人はもういいよっていう顔をして、きゆの涙を指で拭いてあげた。
「ううん、流ちゃん、ちゃんと言わせて…
私、流ちゃんを愛してる、誰よりも愛してる」
「うん、分かってる、何度も聞いた」
きゆはまたふざけている流人の頬を軽くつねると、流人は怒ったふりをしてきゆを強く抱きしめた。
「……流ちゃんと結婚したい」
きゆの目から大粒の涙が溢れ出した。
自分が素直になると同時に、これからきゆが進もうとしている道に流人の両親の顔が浮かんでは消える。
まだ、その部分は自分に自信はないし、大きな弱みであることには違いない。
でも、それ以上に流人が大切だった。
「もちろんだよ。
きゆは俺と結婚する、それは、きゆが生まれた時から決まってることなんだ。
それに、もう、ぐらつくなよ。
ぐらつくだけ時間の無駄だから。
でも…」
「でも?」
きゆは流人の耳元で優しくそう聞き返した。
「俺がどんな決断をしようと、絶対に俺について来る事。
きゆの意見は関係ない。
いや、きゆにとって、一番ベストな方法をちゃんと考える。
だから、何も言わないで俺についてきて」
「いやだ」
「え?」
きゆは流人から体を離すと、勝気な目をしてそう言った。
「流ちゃんのその俺様気質はちょっと直してもらわないと。
私の意見も聞いてもらうからね。
流ちゃんが間違ってる時は、間違ってるって言わせてもらうから。
分かった?」
流人はもう一度きゆを抱き寄せ、今度は優しくなだめるようなキスをした。
「…きゆ、もう、俺、お腹すいてない。
きゆが欲しい…
きゆを食べてもいい?
ちゃんと、残さないでたいらげるからさ…
きゆ、お願い…」
きゆは口元に流人のくちびるを感じながら、クスッと笑った。
すると、きゆの頬にできたえくぼにすかさず流人はキスをする。
「停電でクーラーも効いてないし、きっと暑くなるよ…」
「いいじゃん、たくさん汗かいたら、一緒にシャワーを浴びればいい」
きゆはもう何も抵抗しなかった。
いや、きっと、私も求めている…
今度、二人が一つになる時は永遠の固い絆を結ぶ時だって、そう思っていた。
こんな嵐の夜に、こうやって結ばれるとは夢にも思わなかったけど…
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