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生活
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もし、運命というものがあるのなら、この狂おしいほどの大きな愛情の波に飲み込まれても、私は構わない…
ひまわりと海人はこれからの事を話した。
海人は今の仕事を続けていきたいと話し、ひまわりもそれに同意した。
ひまわりは海人が今の仕事を大切に思っている事が分かったし、働いている時の話をする海人はとても楽しそうだった。
「ひまわりさん、もう、僕は仕事に戻らなくちゃ」
時計を持っていない海人は、時間をずっと気にしている。
ひまわりが時間を告げると、海人は少し寂しそうに頷いた。
そして、二人は、民宿へ向かって歩き出す。
繋いだ手を、一時も離すことなく…
「海人さんの仕事って、暇な時間はあるの?」
ひまわりは思い切って聞いてみた。
海人の仕事の邪魔はしたくはないが、それでも毎日会いたいと思う気持ちは抑えられない。
「あるよ。お昼の12時から3時までは休憩時間」
「私、毎日、海人さんにお弁当を持って来ていい?」
ひまわりは興奮気味にそう聞いた。
「僕はそうしてもらえればすごく嬉しいけど、でも、ひまわりさんがここまで来るのはたいへんだよ」
海人はひまわりに気を遣っている。
「そんなことない。
バスで30分位だし、私、毎日、海人さんに会いたい…」
海人は民宿へつながる小さな路地の自動販売機の裏で、もう一度、ひまわりを抱きしめてキスをした。
「ひまわりさん、本当にありがとう…」
ひまわりは朝一番で買い物に行き、お弁当のレシピを考えた。
さくらは今朝のひまわりの様子を見て安心したのか、久しぶりに家へ帰る事にした。
ひまわりは祖父の家に置いてある古い重箱を見つけ、それをお弁当箱として使う事に決めた。
小さい時から何の取り柄もなかったひまわりだったが、料理だけはいつも皆に褒められた。
そして、今、愛する人のためにお弁当を作るという些細な日常が、こんなに幸せに包まれている事を初めて知った。
ここから海人の働く民宿までのバスは、一時間に一本しか出ていない。
ひまわりは、お弁当の重箱と食後のコーヒーを入れた小さなポット、それに冷たい麦茶が入った水筒を持ってバスに乗り込んだ。
バスの窓から見える景色は、一面がずっと海だ。
今までもこの景色は何度も見てきたはずなのに、海人への溢れる想いで何もかもが輝いて見える。
人を愛するという事は、平凡な普通の生活を送ってきたひまわりの世界を一変させる大きな力を持っていた。
バスの到着が10分ほど遅れたために、海人がバス停の近くまで迎えに来てくれていた。
ひまわりが大きな荷物を抱えて歩いていると、海人は笑いながらそれを全部持ってくれた。
民宿に着いた二人は、玄関先でサチに会ったため海人が丁寧にひまわりを紹介した。
「そういう事か…
どおりで二人はお似合いだ。
二度と離れちゃだめだよ」
サチは二人を交互に見ながら、物知り顔でそう言った。
ひまわりは不思議な感覚にとらわれたが、笑顔で挨拶をした。
海人の部屋は、こじんまりとしている。
部屋の真ん中に小さなちゃぶ台が置いてあり、サッシの向こうには海が見えた。
ひまわりはちゃぶ台に所狭しとお弁当を広げ始めた。
「こんなにたくさん、大変だったでしょ。
本当に感謝してる、ありがとう」
海人はひまわりの作ったお弁当を見て、本当に感動した。
二人は食事を終えコーヒーを飲み一息つきながら、窓の向こうの海を眺めていた。
ひまわりはさっきのサチの言葉をふと思い出し、その事を海人に聞いてみた。
「サチさんって、私達の事を何でも知ってるの?」
「いや、何も知らない、何も話してないから。
でも、なんか、不思議な力があるって言ってた。
第六感みたいなものが…
そしたら、僕を見て何も感じないし、何も見えないって言ったんだ。
それが何を意味するのか分からないけど、さっきのおかみさんの言葉には僕もちょっと驚いたよ」
海人はそう言いながら、畳に寝そべって目を閉じる。
ひまわりはサチと色々な話ができるのではないかと考え、海人の意見を聞こうと海人を見ると、もう静かに寝息を立てていた。
きっと、朝早くから働いて疲れているのだと思い、ひまわりは部屋の隅に置いているタオルケットを海人の体の上に広げた。
「こっちにおいで…
ひまわりさんも一緒に休もう。
朝から大変だったでしょ」
海人はそう言いながら、ひまわりを隣に引き寄せた。
後ろから抱え込むように海人に抱きしめられ、海人の甘い吐息がひまわりの首元をくすぐる。
ひまわりは体の向きを変え、海人の顔が見えるように寄りそった。
海人は髪が少し伸びたせいで、大人っぽく見える。
笑うと出てくる八重歯の場所を探しながら、手を伸ばし海人の口元にそっと触れてみた。
それでも目を閉じて眠っている海人の顔をじっくり眺めていると、急に海人は目を開けひまわりを見て笑った。
「僕の顔に何かついてる?」
海人はふざけながら、また、ひまわりを抱きしめる。
「僕も、ひまわりの顔が見たい」
海人はひまわりのくちびるをなぞりながら、そっとキスをした。
休憩を終えた海人は、通常の仕事に戻らなければならない。
ひまわりはバスの時間が来るまで、海人の部屋でのんびりするという。
海人がひまわりに帰りのバスの時間を聞いた時に、ひまわりは忘れたふりをした。
帰りたくない気持ちが明らかに顔に出ている事を、海人も気付いている。
「海人さんの邪魔はしないから、しばらくここに居ていい?」
ひまわりは、海人の目を見ずにそう聞いた。
ひまわりと海人はこれからの事を話した。
海人は今の仕事を続けていきたいと話し、ひまわりもそれに同意した。
ひまわりは海人が今の仕事を大切に思っている事が分かったし、働いている時の話をする海人はとても楽しそうだった。
「ひまわりさん、もう、僕は仕事に戻らなくちゃ」
時計を持っていない海人は、時間をずっと気にしている。
ひまわりが時間を告げると、海人は少し寂しそうに頷いた。
そして、二人は、民宿へ向かって歩き出す。
繋いだ手を、一時も離すことなく…
「海人さんの仕事って、暇な時間はあるの?」
ひまわりは思い切って聞いてみた。
海人の仕事の邪魔はしたくはないが、それでも毎日会いたいと思う気持ちは抑えられない。
「あるよ。お昼の12時から3時までは休憩時間」
「私、毎日、海人さんにお弁当を持って来ていい?」
ひまわりは興奮気味にそう聞いた。
「僕はそうしてもらえればすごく嬉しいけど、でも、ひまわりさんがここまで来るのはたいへんだよ」
海人はひまわりに気を遣っている。
「そんなことない。
バスで30分位だし、私、毎日、海人さんに会いたい…」
海人は民宿へつながる小さな路地の自動販売機の裏で、もう一度、ひまわりを抱きしめてキスをした。
「ひまわりさん、本当にありがとう…」
ひまわりは朝一番で買い物に行き、お弁当のレシピを考えた。
さくらは今朝のひまわりの様子を見て安心したのか、久しぶりに家へ帰る事にした。
ひまわりは祖父の家に置いてある古い重箱を見つけ、それをお弁当箱として使う事に決めた。
小さい時から何の取り柄もなかったひまわりだったが、料理だけはいつも皆に褒められた。
そして、今、愛する人のためにお弁当を作るという些細な日常が、こんなに幸せに包まれている事を初めて知った。
ここから海人の働く民宿までのバスは、一時間に一本しか出ていない。
ひまわりは、お弁当の重箱と食後のコーヒーを入れた小さなポット、それに冷たい麦茶が入った水筒を持ってバスに乗り込んだ。
バスの窓から見える景色は、一面がずっと海だ。
今までもこの景色は何度も見てきたはずなのに、海人への溢れる想いで何もかもが輝いて見える。
人を愛するという事は、平凡な普通の生活を送ってきたひまわりの世界を一変させる大きな力を持っていた。
バスの到着が10分ほど遅れたために、海人がバス停の近くまで迎えに来てくれていた。
ひまわりが大きな荷物を抱えて歩いていると、海人は笑いながらそれを全部持ってくれた。
民宿に着いた二人は、玄関先でサチに会ったため海人が丁寧にひまわりを紹介した。
「そういう事か…
どおりで二人はお似合いだ。
二度と離れちゃだめだよ」
サチは二人を交互に見ながら、物知り顔でそう言った。
ひまわりは不思議な感覚にとらわれたが、笑顔で挨拶をした。
海人の部屋は、こじんまりとしている。
部屋の真ん中に小さなちゃぶ台が置いてあり、サッシの向こうには海が見えた。
ひまわりはちゃぶ台に所狭しとお弁当を広げ始めた。
「こんなにたくさん、大変だったでしょ。
本当に感謝してる、ありがとう」
海人はひまわりの作ったお弁当を見て、本当に感動した。
二人は食事を終えコーヒーを飲み一息つきながら、窓の向こうの海を眺めていた。
ひまわりはさっきのサチの言葉をふと思い出し、その事を海人に聞いてみた。
「サチさんって、私達の事を何でも知ってるの?」
「いや、何も知らない、何も話してないから。
でも、なんか、不思議な力があるって言ってた。
第六感みたいなものが…
そしたら、僕を見て何も感じないし、何も見えないって言ったんだ。
それが何を意味するのか分からないけど、さっきのおかみさんの言葉には僕もちょっと驚いたよ」
海人はそう言いながら、畳に寝そべって目を閉じる。
ひまわりはサチと色々な話ができるのではないかと考え、海人の意見を聞こうと海人を見ると、もう静かに寝息を立てていた。
きっと、朝早くから働いて疲れているのだと思い、ひまわりは部屋の隅に置いているタオルケットを海人の体の上に広げた。
「こっちにおいで…
ひまわりさんも一緒に休もう。
朝から大変だったでしょ」
海人はそう言いながら、ひまわりを隣に引き寄せた。
後ろから抱え込むように海人に抱きしめられ、海人の甘い吐息がひまわりの首元をくすぐる。
ひまわりは体の向きを変え、海人の顔が見えるように寄りそった。
海人は髪が少し伸びたせいで、大人っぽく見える。
笑うと出てくる八重歯の場所を探しながら、手を伸ばし海人の口元にそっと触れてみた。
それでも目を閉じて眠っている海人の顔をじっくり眺めていると、急に海人は目を開けひまわりを見て笑った。
「僕の顔に何かついてる?」
海人はふざけながら、また、ひまわりを抱きしめる。
「僕も、ひまわりの顔が見たい」
海人はひまわりのくちびるをなぞりながら、そっとキスをした。
休憩を終えた海人は、通常の仕事に戻らなければならない。
ひまわりはバスの時間が来るまで、海人の部屋でのんびりするという。
海人がひまわりに帰りのバスの時間を聞いた時に、ひまわりは忘れたふりをした。
帰りたくない気持ちが明らかに顔に出ている事を、海人も気付いている。
「海人さんの邪魔はしないから、しばらくここに居ていい?」
ひまわりは、海人の目を見ずにそう聞いた。
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