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プロローグ
…5
しおりを挟む「理由は…
他人からしたら、物凄くくだらない事だと思うんだけど」
道也様はテーブルの一点を見つめ、小さくため息をついた。
「僕は一人っ子で、親の期待が大き過ぎる。
仕事においては一応認めてくれていると思うんだけど、結婚に関しては、こっちがうんざりするほど、あれやこれや世話を焼いてきて、この間なんか、子供抜きの親同士のお見合いに参加したくらいで…」
私は道也様の今の話に嘘はないと思ったけれど、でも、理由は他にもあるとそう感じた。
横目で沙織先輩を見ると、先輩も疑いの眼差しで道也様を見ている。
「それだけ…?」
今度は私が聞いた。
この核心部分を聞かなければ、何だかこの結婚に乗っかる気分になれない。
「あ~、そうだよね…
こんなのどこの家族にもある話だもんね…」
道也様は私のストレートな質問に心の扉が開いたみたいな、そんな潔さが垣間見える。
「実は、僕の幼馴染に向井風磨っていうやつがいるんだけど、そいつが主な理由なんだ。
風磨との関係は、僕達の母が従姉妹同士で風磨も一人っ子という事で、家も近所だったし、僕達は兄弟のように育ってきた」
風磨? 兄弟のように?
私と先輩は何か訳ありの雰囲気に、身を乗り出して道也様の話を聞いた。
「風磨はいわゆるLGBTで、ま、完全なゲイなんだ。
それは、風磨が高校生の時に、本人がカミングアウトしてきた。
僕は中学と高校は男子高だったし、大学も理系で女子が少なかったせいもあって、風磨のセクシュアリティに関しては何も気にならなかったし、それも一つの個性だと思ってた、んだけど…」
「…んだけど??」
もう私と先輩は道也様の話に夢中になっていた。
美大出身、コスプレ好きの私達は、こういうノーマルじゃないマニアック系の話が三度のご飯より大好きだ。
「どうやら、風磨は僕を真剣に愛しているらしい。
僕以外の男は考えられないって、泣いたりする。
僕は…
普通にノーマルな人間で、確かに女性と付き合う事に関しては、同年代の男性に比べて奥手なのかもしれないけど、はっきり言って男には興味はないんだ。
でも、風磨は、そうは思ってなくて…
僕も隠れゲイだと信じ込んでいる。
きつく突き放して縁を切る事もできるんだけど、でも、やっぱり兄弟みたいに育ってきた情があって、傷つけたくないし縁も切りたくないんだ…」
「それで、好きな人ができたという事にして、結婚をする。
ご両親も安心させられるし、風磨さんも騙せれる」
先輩は自分が思いついた名案のように、楽しそうにそう言った。
「とにかく、僕はまひるさんを愛している。
お互い、愛し合って結婚した。
その先に離婚が待ってようとそれは二人の問題であって、それは縁がなかったということで話はまとまる。
どういう形であれ、風磨が僕の事を諦めて前へ進んでほしいと思ってるんだ。
そんな簡単な事じゃないのかもしれないけど…
それと、実は、結婚をして僕の人生においても箔をつけたいとも思ってる。
それをお金で買うのもどうかと思うけどね」
私は、最初のまひるさんを愛しているというワードに胸が躍った。
そういう事情があるのなら、道也様に協力したいと思った。
だって、いい人過ぎるから湧き出る悩みで、いい人じゃなきゃこんな事は思いつかない。
「私、道也様に、いや、早乙女様に協力します。
結婚、大丈夫です!
何も問題ありません」
道也様は目を丸くして笑みを浮かべる。
「でも、まひるさんのご両親は反対するかも…」
私は一瞬、お母さんの顔を思い出した。
それと、小学生の弟の顔も…
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