はじまりと終わりの間婚

便葉

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クリスマス

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私とミチャはもうすぐクリスマスだというのに、ちょっと揉めていた。
揉めている原因というのは、私の趣味、コスプレに関した事。
 
私や沙織先輩のようなコスプレイヤーにとって、年末というのはイベントが多くとても忙しい。
本来なら、私は結婚した事もあって、今年は様々なイベントに参加するのを控えるつもりだった。
 
だけど、ミチャの誕生日以降、私の考えが変わった。
いや、変わったというより、無理やり変えた。
あの誕生日の夜、私とミチャは激しくキスを交わし合った。
私の中で、ミチャと結ばれるのも、もう時間の問題だと思ってた。
でも、ミチャはいつものミチャだった。
あの夜の出来事は、もはやミチャの記憶の中に存在してるのかさえ分からない。
毎日、毎日、ミチャの言葉や行動に期待して、私は疲れ果てた。
私にとっては忘れられないあのキスも、ミチャにとっては挨拶の一つだったのかもしれないと、そんな風に思えてくる。
 
そんな中、十二月一日の夜に、沙織先輩から連絡が入った。
私達が長年在籍しているコスプレサークルのイベントが、今年はクリスマスイブに開催されるという事だった。
例年、クリスマスやイブの日は中々会場が取れずに、その前の週の土日に開催する事が多かった。
ところが、今回、会場に急なキャンセルが入ったらしい。
という事で、会場のオーナーが、真っ先に私達のサークルに声をかけてくれた。
 
「まひるも参加するでしょ?
クリスマスイブの日にコスプレができるなんて、めったにできる事じゃないよ。
今、SNSで例年以上にイベント情報を拡散してるから、絶対盛り上がるって。
撮影会もいつもより長めにするらしいよ。
まひるもイタリアに行ったら、コスプレなんてしばらくできないんだから、イブの日でも参加する事、分かった?」
 
先輩とそう話した日の夜、私は今の情けない自分に見切りをつけた。
ミチャの顔色を窺ってミチャのキスを心待ちにしてる日々を、今日限りで捨てる。
私は私。今までの私に戻るだけ。
 
そう、心に決めた日から、私は急に忙しくなった。
コスプレの衣裳作りや、メインパートナー探しに明け暮れた。
メインパートナーというのは、私達のサークルが設定している男女セットでハイレベルのコスプレを披露するイベントのための相手の事だ。
普段は単独のコスプレで楽しんでいる私と先輩は、年末のイベントでは必ず男女のコスプレに参加する。
それの出来次第で、私達の一年間のコスプレ活動の良し悪しが決まると言っても言い過ぎではない。
それくらい、命を懸けて取り組んでいた。
 
衣裳のコンセプトは、大体、決まっている。
あとは、パートナーも決めるだけなのに、私の初動が遅すぎた。
人気者の男性コスプレイヤーはもう誰かと組んでいて、掛け持ちもできないくらい予定がぎっしり詰まっていた。
 
「森魚でいいじゃん」

沙織先輩は当たり前のようにそう言った。
森の魚と書いてもりおと呼ぶその彼は、実質の私のコスプレパートナーだ。
森魚は私より一個年下で、大学の後輩だった。
今は、アニメの背景画を描く仕事をしている。
フリーで仕事をしている森魚は、フリーでしか仕事ができない。
人と一緒に四角い枠の中で働くというのが、どうしてもできないらしい。
ま、その気持ちはよく分かる。
私もどちらかといえば、そっち系の人間だから。
 
「でも、森魚は、また、私にべったりになる。
あのメンヘラな性格でどれだけ私が振り回されてきたか、先輩知ってるでしょ?」
 
先輩は電話口でケラケラ笑う。
確かに、第三者にしてみれば、私達の関係はコントのようにしか見えないから。
 
「森魚はまひるが大好きなんだからしょうがないじゃん。
自分はまひるの犬だと思ってるから。
いや、まひるの犬なりたい!だったっけ?」
 
「どっちでもいいです、そんな事…」
 
でも、結局、森魚にお願いするしかなかった。
性格は変だけれど、見た目は中々レベルが高い森魚は、私が作るどんな衣裳も上手に着こなしてくれる。
先輩に言わせれば、それは、溢れんばかりの森魚のまひる愛がそうさせているらしい。
そして、私とミチャが揉めている原因は、そうこの森魚だった。
 
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