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出発日前日
…4
しおりを挟む「もう、寂しいに決まってる…
だから、そんな質問はやめてほしい!
今日は明るく過ごしたいんだから…」
すると、風磨ではなく森魚が口を開いた。
「まひるん、それは心配ないよ。
それは、時間がすぐ解決してくれる。
それにフィレンツェに降り立った途端、まひるんの才能がまひるんを放っとかない。
そうなったら寂しさなんて感じないよ。
水を得た魚のように、描く事に没頭し始めるのがまひるんだから…」
私はチラッとミチャを見る。
ミチャは切なそうに微笑んで下を向いた。
ここへ来て、ミチャは本物の別れに戸惑っている。
これは、きっと、残される者と行ってしまう者の違いなのかもしれない。
そういう感情を今まで抱く事がなかったミチャは、この負の感情の波についていけない。
送別会は始まりが早かったせいか、それとも私とミチャの最後の夜を邪魔しないよう皆が気を利かせてくれたのか、思っていたより早くにお開きになった。
テーブルを片付けてミチャの隣で洗い物をしていると、ミチャが小さくため息をついた。
「明日になれば、まひるはもうここには居ないのか…
信じられないよ…
僕は生きていけるかな…」
私は洗い物を途中でやめて、ミチャの背中に抱きついた。
ミチャは、襲いかかる感情に、どう対処すればいいのか分からず苦しんでいる。
「ミチャ…
私、一年経ったら帰って来るから。
ミチャと私のために絶対に帰ってくる。
油絵だって、別にヨーロッパに住まなくても描く事はできるし、気持ちがざわざわしてたらいい絵は絶対に描けないし。
だから、寂しくなんかならなくて大丈夫だから。
あっという間だよ、一年なんて…」
ミチャは振り返ると、私を強く抱きしめた。
顔色が悪いし、瞼が重いのか目がトロンとしている。
「ミチャ、大丈夫?
横になった方がいいよ」
私の質問には答えずに、ずっと私を抱きしめ、私の首元に顔をうずめている。
「期限は決めちゃダメだ…
これは僕の問題なんだ。
一年前、僕は、まひるの人生を三百万円で買った。
自分の欲やキャリアだけのために、まひるの人生の方向性を変えてしまった。
でも、あの時は、こんな結末が来るとは思わなかった。
三百万円の受け渡しとともに笑顔で別れる予定だった。
神様は、きっと、僕に罰を与えたんだ。
好きとか愛してるとかそういう純粋な気持ちをないがしろにしていた僕に、まひるというかけがえのない愛する人を僕の傍に送り込んだ。
神様は僕を試してる…
本物の愛とは何かっていう答えを…」
私はミチャをソファに座らせる。
そんな難しく考える事はないのに、どうしてそんなに自分を追い込むの?
そう言いたいけれど、今のミチャは、明日に迫った私との別れに自分自身を見失っている。
「神様は、私達の味方だよ…
だって、私達を会わせてくれた。
そして、こんなに愛し合ってる。
それに、私は有名な画家になる。
ヨーロッパでも、東京でも、どこに居ても、私は努力をしてちゃんと夢を叶える。
だから、ミチャは自分の事を責める必要はないし、私が思いがけず早く帰国しても何も問題はないから」
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