26 / 43
どこでも行けるドア
しおりを挟む
「わあ、ここが北領……!」
ギルの家から出ると、すがすがしい冷気と薄い色彩の青空が出迎えてくれた。街のメインストリートから少し外れているのに、人々のざわめきや活気ある空気が伝わってくる。
「北領に残っているのは、ここで生きていくと腹をくくった人間だけだから。その覚悟がないやつは、とっくに違う領に行ってる」
ギルの言う通り、すれ違う人たちは明るい顔をしている。
「ありがとう、ギル。本当に色々としてくれて」
「サキの近くにいられたら、それでいい」
「あ、ありがとう」
ギルのわずかな微笑みが直撃した。ほんの少しだけ口の端を上げただけなのに、ギルがすると破壊力がすごい。
そっと目をそらしてギルの神々しさを遮りながら深呼吸する。ちょっと勘違いしそうになる台詞だけど、そうではない。
北領に来る前に、ギルはたくさんのことをしてくれた。浴槽を複製できるアイテムとその材料を格安で譲ってくれたり、ギルが持っている時間経過のないマジックバックを私と共有していいと言ってくれたり、ギルの家に設置してあった、それぞれの領に繋がっているどこにでも行けるドアを使わせてくれたり。北領に優先的にアイテムを販売してきた伝手で、北領を治めるアグレル家に会えるよう取り計らうとまで言ってくれた。
どうして出会ったばかりなのにそこまでしてくれるのかと尋ねると、ギルはいつもの真顔で言った。
「サキに興味があるから」
「異世界の話を聞きたいの?」
「それもある。それに、きちんと対価はもらってる。毎日僕のために温泉を出すことと、薬草などにあげる温泉を出すこと。貴重なものが多くて育てるのが難しいけど、サキの温泉をあげていれば育つから。複製するアイテムの材料は余っているもので、作成に必要な魔力はサキからもらうから、在庫の有効活用ができる。異世界の話をもっと聞かせてもらって、サキがどんなことを思ってどんな行動をとるのかを見られれば十分」
私に対して研究対象みたいな興味をもっているみたいだ。あとは毎日温泉に入りたいという強い意志。
わかる、回復の温泉のじゅわぁっととろける感覚はやみつきになる。最初は「温泉って何?」だったエルンストとレオも、今じゃ毎日入ってるもんね。
「もうじきギルドだ。僕が用件を伝えるから」
「俺はサキのそばで護衛しとくな」
「交渉が必要ならば私も加勢いたしましょう」
「ああ。行くぞ」
今からギルドを通して、北領を治めているアグレル家に連絡を取る。ギルが信頼できるというからには、王都にいた貴族とは違うのだろう。
アグレル家に私の温泉スキルを披露し、できるだけ人を助けたいと伝える。その対価に、銭湯を経営するための建物をもらう予定だ。改装までしてくれたら嬉しいけど、余裕がなかったら諦めようと思っている。
エルンストはそれだと対価に見合わないと言っていたけれど、北領には余裕がないそうなので、あまり負担をかけたくない。
エルンストは私が軽く扱われるのではないかと心配しているので、少しだけピリピリしている。もしそんな扱いをされたら外国にでも行く予定なので気にしなくていいのに。
この世界では、いろんな形の大陸が離れて存在するらしい。いつか行ってみたいなぁ。
分厚いギルドのドアを開けると、そこはやっぱり市役所だった。お酒を飲んでいる人がいるどころか、飲食物を販売すらしていない。
領が違えばあるいはと思ったけれど、構造は変わらないようだ。依頼を申し込むための必要事項を立ったまま書ける台があるところも、実に市役所っぽい。
イケメンが連れ立ってきたからか、ギルドがざわっとして、一瞬で静まり返った。みんな綺麗すぎるギルを凝視している。
「ギルドにアイテムを販売しているギルだ。アグレル家に伝えてほしい。この窮地を救う聖女を連れてきたと」
せ、聖女って言っていいのかな? 王都の嫌な貴族に目をつけられるんじゃない?
エルンストを見ると、にっこりと微笑まれた。だんだんとエルンストの性格がわかってきた私にはピンときた。
これ、北領以外の貴族に喧嘩を売る気では……?
その一時間後。
私たちはアグレル家の応接室にいた。
ギルの家から出ると、すがすがしい冷気と薄い色彩の青空が出迎えてくれた。街のメインストリートから少し外れているのに、人々のざわめきや活気ある空気が伝わってくる。
「北領に残っているのは、ここで生きていくと腹をくくった人間だけだから。その覚悟がないやつは、とっくに違う領に行ってる」
ギルの言う通り、すれ違う人たちは明るい顔をしている。
「ありがとう、ギル。本当に色々としてくれて」
「サキの近くにいられたら、それでいい」
「あ、ありがとう」
ギルのわずかな微笑みが直撃した。ほんの少しだけ口の端を上げただけなのに、ギルがすると破壊力がすごい。
そっと目をそらしてギルの神々しさを遮りながら深呼吸する。ちょっと勘違いしそうになる台詞だけど、そうではない。
北領に来る前に、ギルはたくさんのことをしてくれた。浴槽を複製できるアイテムとその材料を格安で譲ってくれたり、ギルが持っている時間経過のないマジックバックを私と共有していいと言ってくれたり、ギルの家に設置してあった、それぞれの領に繋がっているどこにでも行けるドアを使わせてくれたり。北領に優先的にアイテムを販売してきた伝手で、北領を治めるアグレル家に会えるよう取り計らうとまで言ってくれた。
どうして出会ったばかりなのにそこまでしてくれるのかと尋ねると、ギルはいつもの真顔で言った。
「サキに興味があるから」
「異世界の話を聞きたいの?」
「それもある。それに、きちんと対価はもらってる。毎日僕のために温泉を出すことと、薬草などにあげる温泉を出すこと。貴重なものが多くて育てるのが難しいけど、サキの温泉をあげていれば育つから。複製するアイテムの材料は余っているもので、作成に必要な魔力はサキからもらうから、在庫の有効活用ができる。異世界の話をもっと聞かせてもらって、サキがどんなことを思ってどんな行動をとるのかを見られれば十分」
私に対して研究対象みたいな興味をもっているみたいだ。あとは毎日温泉に入りたいという強い意志。
わかる、回復の温泉のじゅわぁっととろける感覚はやみつきになる。最初は「温泉って何?」だったエルンストとレオも、今じゃ毎日入ってるもんね。
「もうじきギルドだ。僕が用件を伝えるから」
「俺はサキのそばで護衛しとくな」
「交渉が必要ならば私も加勢いたしましょう」
「ああ。行くぞ」
今からギルドを通して、北領を治めているアグレル家に連絡を取る。ギルが信頼できるというからには、王都にいた貴族とは違うのだろう。
アグレル家に私の温泉スキルを披露し、できるだけ人を助けたいと伝える。その対価に、銭湯を経営するための建物をもらう予定だ。改装までしてくれたら嬉しいけど、余裕がなかったら諦めようと思っている。
エルンストはそれだと対価に見合わないと言っていたけれど、北領には余裕がないそうなので、あまり負担をかけたくない。
エルンストは私が軽く扱われるのではないかと心配しているので、少しだけピリピリしている。もしそんな扱いをされたら外国にでも行く予定なので気にしなくていいのに。
この世界では、いろんな形の大陸が離れて存在するらしい。いつか行ってみたいなぁ。
分厚いギルドのドアを開けると、そこはやっぱり市役所だった。お酒を飲んでいる人がいるどころか、飲食物を販売すらしていない。
領が違えばあるいはと思ったけれど、構造は変わらないようだ。依頼を申し込むための必要事項を立ったまま書ける台があるところも、実に市役所っぽい。
イケメンが連れ立ってきたからか、ギルドがざわっとして、一瞬で静まり返った。みんな綺麗すぎるギルを凝視している。
「ギルドにアイテムを販売しているギルだ。アグレル家に伝えてほしい。この窮地を救う聖女を連れてきたと」
せ、聖女って言っていいのかな? 王都の嫌な貴族に目をつけられるんじゃない?
エルンストを見ると、にっこりと微笑まれた。だんだんとエルンストの性格がわかってきた私にはピンときた。
これ、北領以外の貴族に喧嘩を売る気では……?
その一時間後。
私たちはアグレル家の応接室にいた。
91
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
異世界から来た華と守護する者
桜
恋愛
空襲から逃げ惑い、気がつくと屍の山がみえる荒れた荒野だった。
魔力の暴走を利用して戦地にいた美丈夫との出会いで人生変わりました。
ps:異世界の穴シリーズです。
異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜
京
恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。
右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。
そんな乙女ゲームのようなお話。
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
転生した世界のイケメンが怖い
祐月
恋愛
わたしの通う学院では、近頃毎日のように喜劇が繰り広げられている。
第二皇子殿下を含む学院で人気の美形子息達がこぞって一人の子爵令嬢に愛を囁き、殿下の婚約者の公爵令嬢が諌めては返り討ちにあうという、わたしにはどこかで見覚えのある光景だ。
わたし以外の皆が口を揃えて言う。彼らはものすごい美形だと。
でもわたしは彼らが怖い。
わたしの目には彼らは同じ人間には見えない。
彼らはどこからどう見ても、女児向けアニメキャラクターショーの着ぐるみだった。
2024/10/06 IF追加
小説を読もう!にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる