【完結】その手をとらせて《完全版》

※(kome)

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ランプの魔人との生活

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独身男性・齋藤暁。
彼の寂しい一人暮らしを劇的に改善させちゃう委員会。これを発足いたしました――!

なんとも得意げな顔と声音で寝起き早々、そう宣言した魔人の後頭部をしたたかに引っ叩いてやった。
説教の一つでも噛ましたかったが、生憎時間がない。
流れるように朝飯をかき込み、出勤――今に至る。


なんなのだろうな。
有用ではある。
初日から家主たる俺の胃袋をがっちり掴み、あれやこれやと甲斐甲斐しく世話を焼いてくるのだが、なんというか。
いちいち余計な一言がついて回るので、素直に感謝しきれない。

口は災いの元。
わざわざ真似せずともよい諺を体現をしている、なんとも残念な男である。



魔人が転がり込んで一週間。
俺の生活環境は見違えるほどに整った。

まず、飯がうまい。
家事に炊事、洗濯まで、俺が留守のあいだにさらりと片付けてしまう。

まぁ、少しというか、なかなかというか。
顔に似合わぬ粗雑さがあって、ちらほら手抜きが見え隠れするものの、それでも土日にまとめて片付けるより、毎日きちんと整っている方が気分がいい。

更に特筆すべきは気遣いの巧さだろう。
この男、人の機微に聡い。
あれがほしい、これがほしい――。
そんな、口に出すほどでもない些細な欲求を、神がかり的な察しの良さですくい上げてしまう。
しかもそれがさり気なくて押しつけがましくないと言う、なんとも絶妙な塩梅なのだ。

たとえば、読書中にふと喉が渇いたと思って顔を上げると、テーブルの上に麦茶の入ったグラスが置かれている。
礼を言おうと辺りを見回せば、それは不要だと言わんばかりの顔で麦茶を飲んでおり、あくまで自分のついでなのだと無言で示してくるのだ。

どうやってこのような先回りをやってのけるのか不思議でたまらないが、こうも心地良く整えられると手放しがたくなってしまう。

だから突然、外出をしたいので軍資金がほしいと言われたときも、多少の訝しさを飲み込んで送り出したのだ。

一万円なんて大金を渡したのは日頃のお礼でもあったし、せっかくなら何かおいしいものでも食べてくれば良いと思ったからだ。

だがさすがに、あのコスプレ然とした格好のまま外に出すのは気が引けたので、使い古しのTシャツを貸し与えた。

俺は二メートル近い長身のうえ、肩幅も広く、筋肉もそれなりについている。
そんな俺が着ていたものを、平均よりも小柄な魔人が着ればどうなるか。

答えは簡単。
シャツワンピを着込んだ男のできあがりというわけだ。

魔人本人もだいぶ不満げにシャツの裾を引っ張っていたのだが、再度、その格好では外に出せないと言い募れば、翌朝には渋々した顔で出かけていった。

そうしてともに家を出て、仕事帰りに念のためにケーキをワンカット買って帰ってみれば。

昨日と変わらぬ白の立て襟ハーフトップにサルエルパンツのままの魔人が出迎えてくれたわけだ。
しかも出所不明の一万円札の束が白テーブルの上にポンと置いてあって目を剥いた。

いったい全体、どんな経緯でこんなものがここにあるのか。

さすがに犯罪に手を染めてはいないと思うものの、確認のために尋ねてみれば、運命操作で万馬券を手に入れたのだという。
もっとも倍率の高い組み合わせがその通りに通過するように運命を弄り、該当の馬順の馬券を軍資金で買えるだけ買い込んだ、と。

それ、あまりにズルくないか?

そう思いはしたものの、イカサマといえど立証する方法がないし、誰かが損をしているわけでもない。
あ、いや、運営が大打撃を受けているわけだがそこには目を瞑るとして。

一日で稼げるだけ稼いできたよ!と実に誇らしげに言われれば、怒るに怒れない。

どうにも、家主である俺に気を遣ったらしい。

不本意な契約なうえ、いつ終わるとも知れぬ関係なのだから、家事炊事洗濯等の奉仕に加え、金銭的な見返りも必要だろう――。

そんな理屈をつけての軍資金つきの外出だったと聞かされて、さすがに目眩がした。

徹頭徹尾、相手のことしか考えていない下僕根性を、いったいどうしてくれようと途方にくれたのだ。

後で調べてみたところ、軍資金で使用したのは競馬場への往復の電車賃くらいなものだった。
普段着やその日の昼飯など、純粋な私用には一切使っていないのだから、もう、本当に泣けてくる。

人の機微に聡いくせして、なぜ自分に対する扱いがこうも雑なのか。

持ち帰ってきた大金を預かり、後日、俺の名義ではあるものの新しい口座を作りそこに全額叩き込んできた。
月ごとに家賃等として支払うのだと頑として聞かぬので、以降はそこから家賃相当額を引き出す予定である。

なお、当初の軍資金の一万円はそこから返却済みであることを追記しておく。
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