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「着いたー!  律、早く早く!」

 ホテルから約三十分程で目的地のワンダーランドに到着した。

 着く前からテンションの上がっていた私は早々に車を降りると、相変わらずマイペースな律に早く車を降りるよう急かしていた。

「そう焦るなって。つーか、はしゃぎ過ぎて転ぶなよ?」
「大丈夫!  子供じゃないんだから、こんなところで転ばないよ」
「どーだかな」

 やれやれと言った感じで律は車を降りると、はしゃぐ私に転ばないよう念を押してくる。

 こんな何も無いところで転ぶわけがないと高を括っていた私だけど、

「あっ!」

 地面の小さな凸凹に足を取られた私は、バランスを崩して転びそうになる。

 けれど、

「だーから言ったろ?  ったく、危なっかしいな、お前は」

 まるで全てお見通しだったかのように、律が私の身体を支えてくれたおかげで転ばずに済んだ。

「……ごめんなさい……」
「んな落ち込むなよ。らしくねぇな。ほら、行くぞ」

 はしゃぎ過ぎて呆れられたと思いシュンとする私に律は右手を差し出してくれた。

(……繋ごうって、事だよね?)

 それが嬉しかった私が「うん!」と言いながら笑顔で律の手に指を絡めると、

「単純なヤツ」

 なんて呟いて笑っていた。

「どーせ単純だもん。でもいいの!  嬉しいから!」
「そーかよ」

 いつもならちょっとカチンと来る言葉だけど、何だか今日は許せちゃう。

 それはきっと、心が幸せで満たされているから。

 入場券を買って中に入ると、土曜日とあってかなりの人で溢れていた。

「やっぱり混んでるなぁ」
「土曜日だからね」
「で、最初何乗るんだ?」
「えっとねぇ、あ、このミラクルコースターっていうの乗りたい!  駄目?」

 園内のパンフレットを手にした私はどれから乗ろうかと迷った末、一番人気と書かれているジェットコースターを指差して律に乗りたいとせがむと、

「ジェットコースターねぇ……お前、こういうの平気なわけ?」
「うん、多分!」
「多分って。乗ってから怖いって騒いでも知らねーぞ?」
「大丈夫だよ!」
「その自身はどこからくんだ?」
「だって、小学生でも乗れるんだよ?  平気だって。ね?  行こう?」
「……分かったよ」

 大丈夫と言いながらも実は私、ジェットコースターに乗るのはほぼ初めてだったりする。

 幼い頃に子供用のコースターに乗ったことがあるくらいなのだ。

 ただ、人気のアトラクションはどれも乗りたかった私は意気揚々とミラクルコースターの待機列に並んだのだけど、いざ自分の番が来た瞬間、律の言う通りだったと実感することになる。


 乗っている人たちの悲鳴が聞こえるのも、自分の番が近付くにつれて何だか少しずつ恐怖を植え付けられてる感じがしたし、私たちはちょうど一番前のコースターに乗ることになったのだけど、それが余計に恐怖を倍増させた気がする。

 席に着いて安全バーが下げられると、とうとう私は我慢できなくなる。

「……律……どうしよう……怖い……」

 いよいよ出発、というところで私がポツリと呟くと、

「だから言ったんだよ……怖いって言っても今更どうしようもねぇんだ、とりあえず手、握っとけ。しっかり掴んでてやるから」
「……う、うん……」

 そう言ってくれたので、半分涙目の私は律の手をしっかり握る。

 高くて速くてもの凄く怖かったけれど、律がしっかり手を繋いでくれてたおかげか、ジェットコースターの恐怖に何とか耐えることが出来た。

「怖かった……ジェットコースターなんて、もう二度と乗らない……」

 無事にジェットコースターを終えた私は既にふらついていた。

「ったく、だから俺は聞いたんだよ。そんなふらついてちゃ何も乗れねぇな。少し休むか?」
「うん……」

 律の言葉に頷いた私は近くのベンチに腰を下ろす。

「何か飲むか?」
「うん、飲む」
「んじゃ、あそこの売店で買ってくるからここで待ってろよ」
「ありがとう、律」

 優しく気遣ってくれる律に感謝しつつ、私は一人ベンチに座って少し離れた売店に飲み物を買いに行った律を待っていた。

 すると少しして、

「ねぇ彼女、一人?」
「友達と一緒とか?」
「良かったら俺らと一緒に回らない?」

 軽そうな三人組の男の人が声を掛けてきた。

「……彼氏と一緒だから……」

 まだ気分が悪いのと、面倒臭くて相手にしたくなかった私が素っ気ない態度でそう答えると、

「彼氏?  え?  ってかこんなところに彼女一人待たせるとか無くない?」
「そんな男放っておいて俺らと回ろうよ」
「そうそう、行こうよ」

 三人のうちの一人が強引に私の腕を掴んで来る。

「ちょっと、やだ、離してよ」

 嫌がると、残りの二人は私を囲むように立ちはだかり、

「そんな大声出さないでよ」
「そうそう、別に何かするわけじゃないんだしさぁ」
「ちょっと付き合ってくれればいいから」

 私の態度に気分を害したのか、半ば無理矢理ベンチから立たされて男の人たちに連れて行かれそうになった、その時、

「おい、人の女をどーするつもりだよ、クソガキ共が」

 飲み物片手に戻って来た律は、もの凄く怖い表情を浮かべて仁王立ちし、ドスの効いた声で男の人たちに向けて、そう言い放った。
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