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第10話
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「そうそう、野球の試合のチケットとれたんだよ!ムウちゃん、一緒に行かない?」
ピザを食べながら諒が言うと、ムウは目を瞬かせた。
「野球の試合?見れるの?」
「見れる見れる!知り合いに頼んで、なかなか手に入らないいい席とってもらったんだ。一緒に行こうよ!」
「うん!行く!」
嬉しそうに頷くムウ。
楽しそうなムウに、俺はちょっと複雑な気持ちだったけど―――
次の瞬間ムウは俺の方を見て、満面の笑みを見せた。
「アキも行こうよ!」
「え・・・・俺・・・・?」
「うん!」
「ちょ、ちょっと待ってよムウちゃん!チケット2枚しかないから―――」
「え、そうなの?じゃ、アキいけないの?」
明らかにがっかりしたようなムウの表情に、今度は諒が複雑そうな顔をして、ちらりと俺を見た。
「あ・・・・いや、俺は野球とか全然興味ないし、見てもわかんないからさ」
「あー、あなたスポーツ観戦てしないもんね。映画も見に行かないし、何か見に行くって言ったら美術館くらい?」
「そうなの?なんだ・・・・・じゃ、2人で行くの?諒ちゃん、俺と2人でいいの?」
「もちろん!楽しみだね!」
嬉しそうに笑う諒に、ムウもにこりと笑ったけれど、それはやっぱりどこか寂しそうに見えた。
「―――アキも一緒だと思ったのに」
バスタブの縁に腕を乗せ、そこに顎を乗せながらムウが言った。
なぜか今日も一緒に風呂に入っている俺たち。
『だって、1人で入っててゴキブリが入ってきたら怖いじゃん』
と言って、ムウが半ば強引に一緒に入ってきたのだ。
「なかなか取れない席だって諒が言ってたじゃん。きっとその2枚だって苦労して取ってくれたんだと思うよ?」
俺の言葉に、ムウは眉根を下げ、俺を上目使いに見た。
「わかってるよ・・・・それは、嬉しいよ。でも、アキも一緒がよかった」
「―――諒と2人だって、楽しいだろ?」
「楽しい、よ。諒ちゃん優しいからね」
言いながらも、まだ納得がいかない様子のムウ。
ちょっとふてくされてるようなその表情が、子供みたいで可愛かった。
初めて会った人間だからなのか、ムウは俺にとてもなついていると思う。
だから俺も、ムウを可愛いと思ってしまうのだと思う。
その感情は、父性愛とか兄弟愛みたいなもので、決して恋愛感情なんかではない―――と思う。
「ムウ、交代」
「は~い」
ざばっとバスタブから出て、ムウの白い裸体が目の前に現れ、ドキッとする。
―――やっぱり、きれいだな・・・・。
天使って、みんなこんなに白いんだろうか。
みんなこんなにきれいなんだろうか。
バスタブに浸かりながら、視線は自然とムウの方へ向いてしまっていた。
男の体を、こんなにきれいだと思ったことなんて、今までなかった。
こんなにドキドキしたことも―――。
「―――この絵、俺?」
お風呂から上がったムウは、バスローブを羽織ってアトリエにいた。
「―――あ!」
俺は慌ててキャンバスに駆け寄り、ムウが手にしていた絵にかけてあった布を取りあげた。
「勝手に見ちゃダメ!」
「だって、さっきから気になってたんだもん。2人がいるところでは見なかったんだからいいじゃん」
「そういう問題じゃなくて!」
「ねえ、これ俺だよね?いつ描いたの?」
「・・・・・ムウが、天国に行った次の日。なんか・・・・急に、思いついたんだよ。べ、別に深い意味はないからな!」
「ふーん・・・・俺って、アキからはこんなふうに見えてるんだ?なんか、きれいだね」
キラキラした目で俺の絵を嬉しそうに見つめるムウ。
―――俺の話、聞いてんのか?
ムウが、そっと手を伸ばしそのきれいな指で絵の中の羽をなぞる。
「アキ・・・・・この絵、できたらちょうだい?」
まだ描き途中のその絵は、色がついていなかった。
「え~、でもそれ、本当にちょっと思いついて描いただけだから、いつ出来上がるかわかんないよ?未完で終わるかもしれないし。そんなんじゃなくて、明日からちゃんとモデルになってくれたらもっとましなやつ、描くよ」
「んふふ、モデルなんていつでもやってあげる。じゃ、楽しみにしてるね」
そう言ってにっこり笑って俺を見るムウに、思わず顔が赤くなる。
男のくせに、なんでこんなにかわいく笑うんだろう。
「あ、あのさ、親の使ってた部屋だけど、ムウのいない間にちょっと片付けといたから・・・・。シーツとかも新しいのに替えたし、その部屋使えば」
そう言って、俺はムウを父親の寝室へ案内した。
「あ、ほんとだ。ベッド。でもおっきくない?このベッド」
「あー、ダブルベッドだから」
俺が言い終える前に、ムウはベッドにポーンとダイブして枕をぎゅっと抱きしめた。
「ふかふかだ!気持ちいい」
「この部屋、俺が物置にしちゃってたけど、一応掃除しといたから自由に使っていいよ」
「ありがと。でも、なんかベッド広過ぎてさびしいかも。アキ、一緒に寝ようよ」
「ば・・・!バカじゃねえの!」
「えー、なんで?アキ、1人で寂しくないの?」
きょとんとベッドに座って首を傾げるムウは、なんだか女の子みたいで、俺の胸が無駄に騒ぎだす。
「お―――俺は寂しくなんかねえよ!今までだってずっと1人で暮らしてたんだから・・・」
「そっか・・・・俺、ずっとリロイと一緒だったから・・・・1人は、寂しいな」
そう言って、本当に寂しそうに枕をぎゅーっと抱きしめた。
「いや、そんなこと言ったってさ、大の男が2人でなんて・・・・だ、大体、お前初めの日は1人で寝てただろうが!」
「あの日は、眠かったんだもん。今日は、寝れない。アキ、一緒に寝よ」
そう言って、小首を傾げて潤んだ瞳で俺を見つめるムウ。
こ―――こいつ・・・・
ぜっっったいわざとだろ!!
「ねー、アキぃー」
ムウが手を伸ばし、俺の手をギュッとつかむ。
俺の胸が、どきんと音をたてた。
「一緒に寝ようよ~」
「だっ、だからそれは―――!」
「えいっ」
「わあっ」
いきなり手を引っ張られ、俺は前のめりにベッドに倒れ込んでしまった。
「捕まえた!」
その俺に、がばっと抱きつき嬉しそうに笑うムウ。
バスローブの合わせ目から覗く白い肌と、至近距離で見るその無邪気な笑顔に、心臓の鼓動が速くなる。
「んふふ~、もう捕まえたもんね!ね、一緒に寝よ」
「ちょ・・・・」
「2人で寝た方が、あったかいじゃん。ね?」
確かに、2人でくっついてりゃあったかい。
それに、ムウの体は柔らかくて、気持ち良くて―――
いやだから、それがまずいんだって!
なんか、微かにいいにおいがするし!
俺―――
俺、今まで男にこんな気持ちを抱いたことなんてなかったのに―――
ムウが、天使だからこんな気持ちになるんだろうか・・・・?
「アキ―――。アキ、お願い。今日は―――一緒に寝て」
「ムウ・・・・?」
俺の首に腕を回し、肩に顔を埋めるムウの声は、かすれて聞こえた。
―――泣いてる・・・・・?
「アキ・・・・傍にいて・・・・」
「・・・・わかった。今日は、一緒に寝るから・・・・」
俺に抱きつき、小さく震えているムウが、なんだか今にも消えてしまいそうに思えた。
天使にも、悲しいことってあるんだろうか。
本当の天使ってものがどういうものか、俺は知らないけれど・・・・
俺はそっとムウの背中に腕を回し、その細い体を抱きしめたのだった・・・・・。
ピザを食べながら諒が言うと、ムウは目を瞬かせた。
「野球の試合?見れるの?」
「見れる見れる!知り合いに頼んで、なかなか手に入らないいい席とってもらったんだ。一緒に行こうよ!」
「うん!行く!」
嬉しそうに頷くムウ。
楽しそうなムウに、俺はちょっと複雑な気持ちだったけど―――
次の瞬間ムウは俺の方を見て、満面の笑みを見せた。
「アキも行こうよ!」
「え・・・・俺・・・・?」
「うん!」
「ちょ、ちょっと待ってよムウちゃん!チケット2枚しかないから―――」
「え、そうなの?じゃ、アキいけないの?」
明らかにがっかりしたようなムウの表情に、今度は諒が複雑そうな顔をして、ちらりと俺を見た。
「あ・・・・いや、俺は野球とか全然興味ないし、見てもわかんないからさ」
「あー、あなたスポーツ観戦てしないもんね。映画も見に行かないし、何か見に行くって言ったら美術館くらい?」
「そうなの?なんだ・・・・・じゃ、2人で行くの?諒ちゃん、俺と2人でいいの?」
「もちろん!楽しみだね!」
嬉しそうに笑う諒に、ムウもにこりと笑ったけれど、それはやっぱりどこか寂しそうに見えた。
「―――アキも一緒だと思ったのに」
バスタブの縁に腕を乗せ、そこに顎を乗せながらムウが言った。
なぜか今日も一緒に風呂に入っている俺たち。
『だって、1人で入っててゴキブリが入ってきたら怖いじゃん』
と言って、ムウが半ば強引に一緒に入ってきたのだ。
「なかなか取れない席だって諒が言ってたじゃん。きっとその2枚だって苦労して取ってくれたんだと思うよ?」
俺の言葉に、ムウは眉根を下げ、俺を上目使いに見た。
「わかってるよ・・・・それは、嬉しいよ。でも、アキも一緒がよかった」
「―――諒と2人だって、楽しいだろ?」
「楽しい、よ。諒ちゃん優しいからね」
言いながらも、まだ納得がいかない様子のムウ。
ちょっとふてくされてるようなその表情が、子供みたいで可愛かった。
初めて会った人間だからなのか、ムウは俺にとてもなついていると思う。
だから俺も、ムウを可愛いと思ってしまうのだと思う。
その感情は、父性愛とか兄弟愛みたいなもので、決して恋愛感情なんかではない―――と思う。
「ムウ、交代」
「は~い」
ざばっとバスタブから出て、ムウの白い裸体が目の前に現れ、ドキッとする。
―――やっぱり、きれいだな・・・・。
天使って、みんなこんなに白いんだろうか。
みんなこんなにきれいなんだろうか。
バスタブに浸かりながら、視線は自然とムウの方へ向いてしまっていた。
男の体を、こんなにきれいだと思ったことなんて、今までなかった。
こんなにドキドキしたことも―――。
「―――この絵、俺?」
お風呂から上がったムウは、バスローブを羽織ってアトリエにいた。
「―――あ!」
俺は慌ててキャンバスに駆け寄り、ムウが手にしていた絵にかけてあった布を取りあげた。
「勝手に見ちゃダメ!」
「だって、さっきから気になってたんだもん。2人がいるところでは見なかったんだからいいじゃん」
「そういう問題じゃなくて!」
「ねえ、これ俺だよね?いつ描いたの?」
「・・・・・ムウが、天国に行った次の日。なんか・・・・急に、思いついたんだよ。べ、別に深い意味はないからな!」
「ふーん・・・・俺って、アキからはこんなふうに見えてるんだ?なんか、きれいだね」
キラキラした目で俺の絵を嬉しそうに見つめるムウ。
―――俺の話、聞いてんのか?
ムウが、そっと手を伸ばしそのきれいな指で絵の中の羽をなぞる。
「アキ・・・・・この絵、できたらちょうだい?」
まだ描き途中のその絵は、色がついていなかった。
「え~、でもそれ、本当にちょっと思いついて描いただけだから、いつ出来上がるかわかんないよ?未完で終わるかもしれないし。そんなんじゃなくて、明日からちゃんとモデルになってくれたらもっとましなやつ、描くよ」
「んふふ、モデルなんていつでもやってあげる。じゃ、楽しみにしてるね」
そう言ってにっこり笑って俺を見るムウに、思わず顔が赤くなる。
男のくせに、なんでこんなにかわいく笑うんだろう。
「あ、あのさ、親の使ってた部屋だけど、ムウのいない間にちょっと片付けといたから・・・・。シーツとかも新しいのに替えたし、その部屋使えば」
そう言って、俺はムウを父親の寝室へ案内した。
「あ、ほんとだ。ベッド。でもおっきくない?このベッド」
「あー、ダブルベッドだから」
俺が言い終える前に、ムウはベッドにポーンとダイブして枕をぎゅっと抱きしめた。
「ふかふかだ!気持ちいい」
「この部屋、俺が物置にしちゃってたけど、一応掃除しといたから自由に使っていいよ」
「ありがと。でも、なんかベッド広過ぎてさびしいかも。アキ、一緒に寝ようよ」
「ば・・・!バカじゃねえの!」
「えー、なんで?アキ、1人で寂しくないの?」
きょとんとベッドに座って首を傾げるムウは、なんだか女の子みたいで、俺の胸が無駄に騒ぎだす。
「お―――俺は寂しくなんかねえよ!今までだってずっと1人で暮らしてたんだから・・・」
「そっか・・・・俺、ずっとリロイと一緒だったから・・・・1人は、寂しいな」
そう言って、本当に寂しそうに枕をぎゅーっと抱きしめた。
「いや、そんなこと言ったってさ、大の男が2人でなんて・・・・だ、大体、お前初めの日は1人で寝てただろうが!」
「あの日は、眠かったんだもん。今日は、寝れない。アキ、一緒に寝よ」
そう言って、小首を傾げて潤んだ瞳で俺を見つめるムウ。
こ―――こいつ・・・・
ぜっっったいわざとだろ!!
「ねー、アキぃー」
ムウが手を伸ばし、俺の手をギュッとつかむ。
俺の胸が、どきんと音をたてた。
「一緒に寝ようよ~」
「だっ、だからそれは―――!」
「えいっ」
「わあっ」
いきなり手を引っ張られ、俺は前のめりにベッドに倒れ込んでしまった。
「捕まえた!」
その俺に、がばっと抱きつき嬉しそうに笑うムウ。
バスローブの合わせ目から覗く白い肌と、至近距離で見るその無邪気な笑顔に、心臓の鼓動が速くなる。
「んふふ~、もう捕まえたもんね!ね、一緒に寝よ」
「ちょ・・・・」
「2人で寝た方が、あったかいじゃん。ね?」
確かに、2人でくっついてりゃあったかい。
それに、ムウの体は柔らかくて、気持ち良くて―――
いやだから、それがまずいんだって!
なんか、微かにいいにおいがするし!
俺―――
俺、今まで男にこんな気持ちを抱いたことなんてなかったのに―――
ムウが、天使だからこんな気持ちになるんだろうか・・・・?
「アキ―――。アキ、お願い。今日は―――一緒に寝て」
「ムウ・・・・?」
俺の首に腕を回し、肩に顔を埋めるムウの声は、かすれて聞こえた。
―――泣いてる・・・・・?
「アキ・・・・傍にいて・・・・」
「・・・・わかった。今日は、一緒に寝るから・・・・」
俺に抱きつき、小さく震えているムウが、なんだか今にも消えてしまいそうに思えた。
天使にも、悲しいことってあるんだろうか。
本当の天使ってものがどういうものか、俺は知らないけれど・・・・
俺はそっとムウの背中に腕を回し、その細い体を抱きしめたのだった・・・・・。
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