転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます

第三十二章 新入生

千百五十九話 辺境伯様とジンさんの挨拶

　気を取り直して、改めて辺境伯様が生徒に挨拶を始めました。

「ようこそ、ホーエンハイム辺境伯領へ。優秀な学園の生徒の校外授業を我が領で行うことになり、とても嬉しく思う。幾つか話をするが、先生からも日々言われているだろうがどんな仕事にも依頼人がいる事を忘れてはならない。社会に出ると、常に相手と対して仕事をする事になる。相手を不愉快にさせないように、十分気をつけることだ。それと、学園にいる間は大いに失敗することだ。失敗から学ぶことも多々ある。歴史は、多くの失敗を土台にしてほんの少しの成功の上に成り立っている。チャレンジ精神を忘れては駄目だ。ただ、相手を著しく傷つける失敗だけは控えるように。本日の諸君らの体験が、これからの礎になることを期待する」

　大貴族の辺境伯様の話を聞いて、全員身が引き締まる思いになっています。
　現在と未来に関するアドバイスだったので、とってもためになる話でしたね。
　中にはメモを取っている生徒もいるけど、こういう姿勢が大事なんですね。
　次は、ジンさんの話です。

「今日は貴族ではなく、冒険者の先輩としてそして学園の先輩として話をしよう。冒険者だろうと普通の仕事だろうと、とにかく準備がとても大切だ。この依頼を受けるにあたって、どんなことが想定されてどんな準備が必要なのかが重要だ。今日の冒険者体験に備えて、準備をした者はどれだけいるか？　結局はそういうことだ。さっき辺境伯様が言ったが、失敗はしてもいいが同じ失敗を繰り返すな。失敗から学んで、次は同じ事を繰り返すな。俺からは以上だ」

　おお、ジンさんも思った以上に先輩らしい話をしてきたよ。
　リズやエレノアも、思わず感心する程の話の内容だった。
　確かに失敗しても何にも学習しないで同じ失敗を繰り返す人がいるもんなあ。
　ジンさんの話もとても大切な事で、生徒も真剣に話を聞いてメモを取っていました。
　二人の話はこのくらいにして、早速冒険者ギルドに移動する事になりました。

「では、忘れ物がないかもう一度確認をして冒険者ギルドに向かいましょう」
「「「はい」」」

　ユーリカ先生の合図で、僕たちは一斉に動き始めました。
　ジンさん達とミカエル達も一緒に着いてきたけど、特に女子生徒はニコニコしているミカエル達にメロメロでした。
　今日はルカちゃんとエドちゃんも一緒にいるけど、二人が王子様だと気づいている人は少なそうです。
　そんな中、ユーリカ先生がニコニコしながらジンさんに話しかけていました。

「ふふ、あのやんちゃだったジン君も随分と立派になったわね。昔から一緒にいたレイナさんと結婚もできたし、ジン君は幸せ者ね」
「あの、ユーリカ先生、その言い方は少し恥ずかしいのですけど……」
「先生にとって、生徒は幾つになっても生徒のままよ。そして、生徒が立派になるのを見ると、先生をやって良かったと思うのよ」

　ジンさんは少し恥ずかしそうにユーリカ先生に返事をしていたけど、ユーリカ先生曰く受け持った生徒で一番出世したのがジンさんらしいです。
　平民からAランク冒険者になって、法衣子爵になって、公爵家のご令嬢と結婚したんだよね。
　そう考えると、ものすごいサクセスストーリーです。
　すると、レイカちゃんが不思議そうな表情をしながらユーリカ先生に話しかけてきました。

「えーっと、先生はアレクお兄ちゃんの先生なのに、お父さんの先生もしていたの？」
「ふふ、そうよ。お父さんだけでなく、お母さんの先生もしていたのよ」
「レイカ、お父さんとお母さんの昔のお話が聞きたいな！」

　レイカちゃんが満面の笑みでユーリカ先生にお願いをしたので、ユーリカ先生もニコニコしながらレイカちゃんにジンさん達の学園時代の話をしました。
　あの救国の勇者様の学園時代の話が聞けるとあって、多くの人がユーリカ先生とレイカちゃんの話に聞き耳を立てていました。
　その間、ジンさんは僕の所に逃げてきて縮こまっていました。
　誰だって、自分の昔話は恥ずかしいもんね。