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第十四章 公国

第二百八十九話 各門での攻防

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 エステルが北門につくと、既に魔物との交戦が始まっていた。
 ウルフなどの足の早い魔物から、ゴブリンなども混じってきている。
 そのうちに、オークやオーガなども現れて来るだろう。
 防壁の上から、すぐさまマリリとタコヤキにエステルの従魔であるショコラが魔力弾で攻撃を始めた。
 エステルは細かい魔法制御が苦手で、大火力の攻撃が得意だ。
 なので、今の段階では手出しができない。
 少し歯がゆい思いでいると、マリリがエステルに話しかけてきた。

「エステル様、ウルフ達を倒せば前衛の出番です。そうなりましたら、思う存分暴れてください」
「乙女に対して暴れるはないんじゃない?」
「エステル様はそれぐらい元気な方が良いです。サトーさんも、元気なエステル様の方がお好きですよ」
「なんで、ここでサトーの話が出てくるの!」
「さて、どうしてでしょうか。エステル様も、少し元気になりましたね」
「そうだね。ここで頑張って、サトーに武勇伝を聞かせないと」
「その気持ちです。そろそろ前衛の出番の様ですね」
「では、リクエストに応えて暴れてきますか」

 流石は、できるメイドさんとエステルは思った。
 魔法使いと弓部隊の活躍で、足の早い魔物は潰せた。
 ここは派手にやろうと、エステルは思っていた。

「後衛の頑張りにより、敵の数が減らされた。これからは前衛の見どころだぞ!」
「「「おー!」」」

 エステルの掛け声に、兵も応えた。
 エステルも戦場に降り立ち、一気に斬りかかる。
 ドワーフの親方が鍛えた剣は、いとも簡単にオークを切り裂いた。
 ドラコのウロコが混じっているその剣は、炎魔法が強いエステルにピッタリだった。
 エステルは途中で両手剣に変えて、剣先に炎を纏いながら敵を切り刻んていく。
 
「姫様、物凄い!」
「まるで、炎を纏いながら踊っている様だ」

 兵はエステルの活躍に見惚れながら、敵を倒していく。
 兵の剣も、ドワーフ自治領で作られた物だ。

「はっ!」
  
 気合一閃、エステルがオーガを一刀で倒した。
 その様子に、兵も思わず感嘆する。

「戦列を崩すな。北門を死守するぞ!」
「「「おー!」」」

 エステルの発破に、兵が応える。
 もうここは大丈夫だと、マリリは思っていた。

 リンのいる西門にも、魔物が押し寄せている。
 
「とはいえ、ここにはスラタロウもいるし、余程の事がない限り大丈夫だわ」

 リンがそんな事を思っていると、スラタロウがふるふると震えている。
 リンもマルクもスラタロウとは付き合いが長くなったので、大体何を言っているのか分かるようになった。

「どうやらリン様が活躍して、サトー様に良いところを見せろって言っていますね」
「なら、ポチもリン様もサポートをしますわ」
「スラタロウも、今日は後方支援に専念するそうですわね」

 こんな大変な時に思わず笑ってしまいそうな雰囲気に、リンの緊張も取れていった。
 ここで頑張れば、サトーさんは褒めてくれるのかなと、こっそり思っているリンであった。

「兵達よ、ここは踏ん張り時だぞ!」
「「おお!」」

 リンは兵を激励しながら、自らも魔物に突っ込んでいく。
 リンは力ではエステルやミケとには勝てず、素早さでも勝てない。
 それでも、魔法剣の扱いはメンバーの中でもピカ一だった。
 戦う相手に合わせて、魔法剣の属性を変えて倒していく。
 また、風魔法を使った速度アップの身体強化魔法も、十分なものだった。
 
「速い、目で追いきれない」 
「それに魔法剣の扱いも凄いぞ」

 派手さはないけど、確実に魔物を倒していく。
 それがリンの戦闘スタイルだった。
 
「リン様!」
「有難う、ポチ」

 従魔のポチとのコンビネーションも抜群で、糸で敵を捕獲しながら倒していく。
 スラタロウの後方支援もあり、西門は段々と魔物の数が減っていった。

 南門のオリガとガルフの前には、まさに力自慢の魔物が集まっていた。

「オークに、オーガ。サイクロプスもいるね」
「まさに力比べだな。サトー様は、南門に俺達を配置したのはこいつらをがいると分かっての事かな?」
「否定はできないよ。あの人は時々とんでも無い事をするから」
 
 重戦士同士の戦いになる。
 外から見れば、見ごたえのある戦いになるだろう。
 当事者からすれば、たまったもんじゃないだろうが。

「じゃあ、タラとサファイアは後方支援でいーい?」
「ああ、よろしく頼む。何せ魔法使いが少ないからな」
「タラとサファイアに任せて!」
「ピィ!」

 小さなアネクラーのタラとハミングバードのサファイアも、今では宮廷魔法使いに匹敵する魔法を使える。
 後方支援もバッチリだ。

「では、守備兵よ。魔物を殲滅するぞ!」
「「「おー!」」」

 ガルフの掛け声で、一斉に守備兵が動く。
 魔物も負けじと攻撃を始めた。

「グオー!」

 オーガが、オリガに向かって巨大な棍棒を振り下ろした。
 普通の兵なら、防げずにぺちゃんこになる威力だ。

「はっ」

 しかしオリガは、盾で難なく棍棒を受け止める。
 その隙に、ガルフがオーガを仕留める。
 オリガは身体強化に加えて、ドワーフの親方作成の盾がある。
 ドラコにシラユキにルシアのウロコも混ぜ込んだ、破壊するのが不可能なレベルの盾だ。
 サイクロプスがうなりをあげて剛腕を繰り出すが、それでも盾は砕けることはない。
 タイミングを見逃さずに、サファイアの氷魔法がサイクロプスの頭部に炸裂し、サイクロプスは沈黙する。
 
「スゲー、サイクロプスのパンチを受け止めたぞ」
「あんなの受け止めるなんて、有りえないぞ」

 兵士もあ然とする防御力を武器に、オークキングなどの統率系を次々に倒していく。

「魔物の統率が乱れている。一気に押し込むぞ!」
「「おー!」」

 統率の乱れた魔物など脅威ではない。
 南門の魔物は、一気に駆逐されていく。

 東門では、防壁の上からの魔法攻撃が行われていた。
 シルクもクロエもフローレンスも、どちらかというと魔法攻撃が得意なメンバーだ。
 風魔法が使えるフウも混じって、魔法による飽和攻撃を行っている。
 だが、兵も戦っているので、派手な大規模魔法は使えない。
 かといって、魔法攻撃だけでは限界もある。
 シルクはどうするか悩んでいたが、クロエとフローレンスが背中を押してくれた。

「シルク、ここは大丈夫だから。今度はシルクの番だよ」
「そうですわ。シルク様には、サトー様から渡されたお父様の剣がありますわ。後衛はお任せ下さい」
「わんわん!」

 フウも一緒に戦ってくれると言うので、シルクはフウと一緒に防壁から戦場に飛び降りた。
 シルクの右手には、母親の形見である漆黒の杖ではなくランドルフ家に代々伝わる父親が愛用した魔法剣が握られていた。
 四肢を切断され瀕死の状態から助け出され、今では剣技を操るまでに回復していた。
 シルクには母親譲りの魔法だけでなく、父親譲りの剣の才能もあった。

「おい、あれは確かランドルフ家に伝わる魔法剣では?」
「間違いない。俺も本で見たことがある」

 ランドルフ家の魔法剣はかなりの有名な物で、本とかやレプリカも作られている。
 なので、その存在を知っている兵士も多い。
 本物を持っている少女に、兵はビックリしている。

「道をあけます!」

 父親は剣豪に相応しい剣の実力があったが、流石にシルクにはそこまではない。
 だが、シルクには魔法の才能もある。
 シルクは、魔力を込めた魔法剣を肩に担いだ。

「雷光一閃!」

 シルクが魔法剣を水平にふるうと、魔法剣から雷魔法を帯びた強烈な一撃が魔物を襲う。
 一気に大量の魔物が駆逐された。

「続きます。爆炎剣!」

 今度は、炎を纏った魔法剣を魔物に向けて放った。
 広範囲の魔物が、爆発しながら飛び散っていく。

「魔物の陣形が崩れました。今です!」
「「「行くぞー!」」」

 強烈な二撃により、魔物の陣形は完全に崩れた。
 そこを見逃さずに、一気に攻撃を仕掛けた。
 シルクは、今度は身体強化を使用した剣撃に切り替えて敵を倒していく。
 フウも、馬から教わった魔法障壁での突撃をしていく。
 勇猛名高いランドルフ家が帰ってきた。
 この場に居合わせた兵は、誰もがそう思った。

 こうして、通称聖女部隊と言われるメンバーの活躍により、各門を襲った魔物はその数を減らしていった。
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