月の影に隠れしモノは

しんいち

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新たな仲間と、…別れ

158 女鬼たちの出産2

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 九月八日。満月。
 アマたち三人、そろって産気付いた。
 産まれてくるのは、神子かんことは違う。なのに同じ日、それも満月の日に産気付くというのは、「龍の祝部」の精を受け続けてきたからかもしれない。ということは、多分、同じような時間に続けて産まれてくる…。
 亜希子に連絡すると、あわてて駆けつけて来た。

「慎也さん。処置が間に合わなくなりますから、間をおいて産ませてくださいね。お願いしますよ!」

 亜希子に念を押されるが、出てきそうになったところで手を貸すだけだ。そんなことを言われても、慎也も困る。
 まず、トヨの陣痛が始まった。

「あ、出てきそうです。痛いです…」

 破水したところで、慎也はトヨの腹に手を当てた。念を込める。

「あ~っ!」

 神子かんこの娘たちの出産時と同じように、一気に膣口が開き、ニュルッと、滑り出るように産まれた。

「おぎゃ~!」

 元気な泣き声が響き渡る。女の子だ。
 亜希子が、受け止めた赤ちゃんのへその緒の処理をする。それを杏奈が受け取り、お湯で洗う。環奈は胎盤たいばん排出の処理。

 続けてタミが、産気付く。

「亜希子さん。もう大丈夫?」

 慎也が亜希子に声をかけた。亜希子は、すでにトヨの子を杏奈に渡したあとだ。

「はい、どうぞ!」

 タミの腹に手を置く。

「あう~っ!」

 またニュルッと、一気に出てくる。

「おぎゃ~!」

 こちらも女の子。が、同時に、アマもすでに産気づいている。破水し、痛がる。

「あ~。私も早く~!」

 慎也はあわてて、アマの腹に手を…。

「あ~、駄目だめよ。待って、待って!」

 亜希子が間に合わなく、猶予ゆうよを求めるが、もう遅い。

「大丈夫。私が受け止める!」

 トヨの胎盤の処理をしていた環奈が、素早く出てくる赤ちゃんを受け止めた。

「おぎゃ~!」

 元気な男の子。環奈が手際よくへその緒の処理をする。アマは愛おしそうな顔で、産まれたばかりの我が子を眺めていた。


 出産し終えたからといって、今日か明日かという具合に、妖界へ戻ることは出来ない。当然のこととして、母子ともに安定してからということになる。そして、満月前後の一週間しか、異界の門は開けない。このため、アマたちが帰るのは一ヶ月後となった。
 一ヶ月後の満月の日は、神子かんこたちの旅立つ日。アマたちも同日一緒に妖界月影村へということである。
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