捧げられし贄と二人の皇子

まぁ

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Chapter.1 二人の皇子

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 城下町を出て城へと入る巨大な門を潜ったアストリアの乗った馬車。そこには広大な緑の草原が広がっており、初めの巨大門を含め、城までには三つの門がある。
 草原を抜けるともう一つの門。そしてさらに行った先にある最後の門には、シェアザードの紋章が刻まれている。初めの巨大門ほどの大きさはないが、それなりの大きさを誇る門を抜けた先には舗装された道。そして道を挟むように花壇があり、そこには色とりどりの花が咲いていた。
「綺麗……」
 町では見たことのないような品種の花がそこにはある。ただやたらむやみに色々な花を植えているわけではなく、ちゃんと品種や色別に分けられている。
 花壇の先には噴水や、ガゼボもある。
 庭に見惚れていると、馬車は止まった。
「長旅お疲れ様でした。どうぞ降りて下さい」
 馬車の扉が開き、一緒に来ていた従者がアストリアに手を差し出す。抵抗しても無駄なので、アストリアはその手を取り馬車から降りる。
 すると数人の侍女がアストリアに向かって頭を下げている。
「な、何これ……」
 自分は頭を下げられるような人物ではないのだが、花嫁なのだから頭を下げるのは当たり前なのだろう。何も言わずに頭を下げたままの侍女の先に、初老の男性がいた。
「アストリア様。遠いところわざわざご苦労様です。ようこそ。ここがシェアザード城です」
「は、はぁ……」
「私はこの城でロア皇帝の世話係をしていますアシュトンと申します」
「よ、よろしくお願いします……」
「早速ですがどうぞ中へ。ロア皇帝は現在不在ですので、代理として皇后が中でお待ちです」
 ここまで来て本当に逃げ出したくなった。まさか皇后に謁見するとは思わなかったアストリアだが、今ここで逃げ出す事は出来ない。大人しくついて行く。


 城の中に足を踏み入れると、神殿の時とはまた違った造りで、皇族が歩く場所は、足元は赤い絨毯が敷かれている。
 だがまだ結婚をしていないという事で、アシュトンからはこの上を歩かないようにと言われた。
 絨毯を避け、端を歩く。前方に螺旋階段があり、上を見渡せば天井がとても遠く見えた。
「二階に玉座の間があり、一階のこの先はボールルームとなっています」
「はぁ……」
 何もかもが見慣れないものや見慣れない状況ばかりだ。
 城下町への門は三つあり、ここからかなりの距離もある。逃げ出すのは安易ではない。しかしこんな望まぬ結婚などしたくもない。どうにか逃げる手段をアストリアは探さなくてはいけない。


「へぇ、あれが奇跡の子か」
「本当に黒い髪だ。でも目は金になるんだろ?」
 高みの見物をしていた数人の男達。誰もがアストリアに興味を示した。
「けど残念だな。俺達には縁のない事だ」
「そうだな。よかったなフィンネル。奇跡の子を娶れて」
「もし飽きたら俺達に譲ってくれよ」
「ダメだよ。番えるのはたった一人だけ。私は勝負に勝った勝者なんだから譲らないよ」
 不適な笑みを浮かべるその男を、周りは皆「やれやれ」といった感じで見ていた。
「私はこの時を待っていたんだから」
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