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第四章

第107話 命懸けのアトラクション

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「運が悪かった……か~、十年以上ぶりに再会したクラスメートに言う言葉がそれって、パナくない?」
「十分だ。そして、加賀美。他に言い残す言葉はあるか?」

 こいつが何人人間殺そうと、俺の生活に関わりなければシカトしても良かった。
 だが、こいつのやったことで、フォルナが死にかけた。
 ガウやシーは死んだ。
 あいつらは兵士なんだから、その可能性や覚悟はあった? 
そうやって割り切れるほど、俺は大人じゃない。

「ふふふふふ、なになに? 俺と戦う気なの? 朝倉くん。どうして? 何のために? 世界のため? 人類のため? 仲間のために?」
「別に。なんかそういう気分なんだよ。それに、テメエの演出でこれ以上、知り合いが殺されんのは我慢がならねえ。フォルナも含めてな」
「うーわ~、完全にこの世界に染まっちゃってるよ。宮もっちゃんや綾瀬ちゃんならまだしも、君なら俺の気持ちも理解してくれると思ったのにね」
「はあ? 俺がお前の気持ちを理解する?」
「そうだよ。君だって、友達いなかった。嫌われ者の不良で学校にも来なかった。だけど、勇気を出して毎日学校にも来るようになって、徐々に心を開いていって、楽しい学校生活になり始めた矢先だったじゃない? 俺たちが死んだのは」

 その通りだ。俺は加賀美の気持ちが分からなくもない。
 楽しくなってきていたんだ。
 回りに集まった連中をウザいと思いながらも、悪くない気分だったんだ。
 学校が楽しいと思い始めた、その矢先のことだった。俺たちが死んだのは。
 だが、

「一つだけ間違ってるぜ、加賀美。俺はお前と違って、頑張ってなんかいない」
「そう?」
「ああ、そうだ。俺は何もしていない。たまたま出会ったバカが、俺をそんな生活に引きずり込んで、与えてくれた学校生活が悪くなかっただけだ」

 そうだ。俺は努力なんかしていない。
 不良というものを全く敬遠せずに馴れ馴れしく接してきた、一人の女が居たから、俺は変わることができた。
 俺とコイツは、結局違うんだ。


「そう、テメエは運がなかった。俺はついていた。それだけだ。だからテメェは、これが運の尽きだと思って、そのまま死ね」

「……ああ、そうかい……ホントはもっと色々と話すことがあるはずなのに……確かにパナいぐらいついてないや、俺は」


 加賀美が疲れたように溜息を吐いた。
 もう、こいつ自身自分がどうにもならないことが分かっているはずなのに、それを改めて実感したかのようだ。

「まあいいや。久々、愚痴も言えたし、十分だ。分かったよ、朝倉くん。それじゃあ、そろそろ君も死んでくれるかい?」
「悪いがお前と違ってこの世界に染まった俺は、死んだら悲しむ奴らが多くてな。だから、お前が死ねよ」
「あーはっはっはっは、パナいぐらい容赦ないな、朝倉くんは。でも、ここから先は俺をまだクラスメートだと思って甘く見ていたら……瞬殺だよ?」

 ああ、本当にうまくいかないし、どうしようもねえ。
 あの修学旅行での事故さえなければ俺もこいつも、みんなもあのままうまくやれただろうに。


「本当に……ままならねえな…………先生……」


 ゴメン、先生。
 同情しているのに、哀れだと思っているのに、それでもこいつがフォルナたちを脅かす方が嫌だ。
 
「一瞬で終わらせてやるよ! ふわふわロケット!」
「おっ? おおおお!」
「そのまま頭身地面に激突して、グッチャグチャになりな!」

 着ぐるみ着ている分、いくらでもこいつにやりようがある。
 まずはこいつを遥か上空まで上げて、そこから急降下させて地面に叩きつける。
 まあ、こいつのふんぞり返りっぷりを見ると、この程度じゃ死なねえだろうが。
 だが、

「死ぬのは君の方だよ。………重力魔法・ゼログラビディフィールド!」

 重力と俺の魔法の操作する速度で叩きつけるはずが、地面スレスレで加賀美の体がプカプカと浮いた。
 俺の魔法が解除されたわけではないのに。
 いや、それだけじゃねえ。

「なっ! な、お、俺の体が……」

 俺自身は何もしていない。なのに、俺の体まで浮かび上がった。
 しかも、これは浮いたというよりも、体の重さが何も感じない。
まるで羽毛にでもなったかのように……

「この場を無重力と化した」
「なに!」
「重力魔法。君も似たようなことが出来るだろ?」

 いや……ちょっと待て……重力魔法って、オイ……

「ふわふわ飛行!」

 無重力の中でも移動は出来る。だが、攻撃は?
 足に装着しているホルスターから警棒を抜き出してみる。
 だが、百キロ近い重さがあるはずの警棒の重力がまったく感じない。
 これで殴ったらどうなるんだ?

「ぬっ、くぬぬぬ、らあ!」
「あーはっはっはっは。へろへろ~! そんなの効くわけないじゃん」

 やっぱりだ。体重までゼロになってるから威力が上乗せできねえ。
 渾身の一撃すらアッサリいなされる。
 重心の移動もクソもねえ。

「くそ。だが、無重力だったらお前だって俺に大した攻撃できねーだろうが!」
「はあ? 朝倉くんって、やっぱバカだね。自分が攻撃するときは……」
「ぐっ、な、じゅ、重力が!」
「魔法を解除してから攻撃するに決まってんじゃん」
「しまっ!」

 全身に一気に何十倍もの重力がのしかかる。

「グラビディパンチ!」

 その重力に体が悲鳴をあげた瞬間、加賀美が重力魔法で拳の重さを何倍にもしたパンチをモロに俺の腹部に放った。

「あ……アアアアアアアアアアアアアッ!!!!」

 ヤバ! な、なんだこりゃ、こんな、たった一撃で。

「ガハっ、はあ、ヒュー、ヒュー、ヒュー、うえ、くそ、馬鹿な、俺がこんなチャラ男に」
「あはははは、これが最強とか不良とかシャシャってた朝倉くんか。やべえ、俺ってパナく強くなっちゃったよ」

 くそ、油断した。こいつが重力の魔法使うってのは、事前に映像を通して分かってたのによ。
 だが、今のはマジイ。とにかく距離をとって少しでも回復を……

「あっ、逃がさないからね」
「ッ!」
「ハイグラビディフィールド」
「つっ、オオオオオオオ!」

 今度は、自分の体重の何倍もの重力が俺を襲う。
 か、体が動かねえ!

「だから言ったでしょ? 俺をいつまでもクラスメートだと思ってたら、瞬殺だってね」

 この野郎、ふざけやがって! この世界を受け入れていないだ? 何を言ってやがる!
 この精度。この威力。この手際。どう考えても鍛えこんで習得したもんだろうが!

「それじゃあ、バイバイ、朝倉くん。もし三度目の人生で再会できたら、今度は仲良くなろうね」

 おまけに、躊躇いもねえ。
 俺が一度も誰も殺したことがねえのに対して、こいつはかつてのクラスメートだろうと殺しに躊躇いがねえ。
 どうやら俺と見てきた人生、過ごしてきた人生が根本的に違うみたいだ……


「ッ、だが、それがどうした!」


 それでも、俺がこいつに殺されてやる理由にはならねえ。

「ぬお、なっ、浮いた! 俺が、この重力場の中で!」

 重力が何倍あろうと関係ねえ。
 浮かせてやるよ。
 浮くのは、俺が今、見えている世界そのもの!
 世界丸ごとだ!

「やっぱ、軽い男だな、テメエは。何倍もの重力の中でも……こうして浮く!」
「ッ!」
「さあ、夢の国のマッキーラビットさん。俺が提案するアトラクションを体験くださいませませ。パナい、危険だぜ?」

 回れ! 回れ回れ回れ!

「ふわふわメリーゴーランド!」
「ぬぅ、うおおおおおおおおおおおおおお!」
「アーンド、俺の大事なハナビのために開発した、ふわふわ高い高いからの~ふわふわジェットコースター!」

 超高速回転させながら上空高く上げて右へ左へ上へ、そして急降下。

「くはははは、このアトラクション、ハナビ以外が体験すると、事故が多発しますのでご注意ください」
「ちょっ、おおおおおおお!」
「ウラァァ!」

 叩きつけてやった。
 今度は無重力なんかねえ。
 死ぬほど回転させて目と頭をグルングルンに回したから、そんな高度な魔法を使うことが出来なかっただろう。
 加賀美は、でっかいマッキーラビットの頭の着ぐるみごと地面にめり込んだ。
 かなりスカッとした。


「くはははは。アトラクションの感想は、三度目の人生で教えてくれればいいからよ」


 さあ、このまま全て終わらせてやるよ。
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