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4章 港湾都市アイラ編
136話 はじまりはいつも……
ガラゴロと、石畳の街道を進む馬車の音が響く。
金属のスプリングが組み込まれたサスペンションは客車へ伝わる衝撃を和らげ、また、綿をつめた布張りのソファは腰への負担も少ない。
1ダース程の護衛に守られ進む2頭引きの馬車に乗っている4人、優しく揺られながらの優雅な旅行で気分は貴族かお大尽、といったところであろう。
「……落ち着かないものですね」
そんな中、居心地が悪そうに呟くのは4人の中でもっともその場にそぐわない人物──シンであった。
──現在、馬車の中には4人の人間が座っている。
進行方向に向かっていわゆる上座に座っているのはシンともう一人、夜会でのドレスとは比ぶべくも無いが仕立ての良い、動き易さと華やかさを兼ね揃えたカジュアルなドレスに身を包んだ少女──12歳前後であろうか──が外の景色が流れてゆくのを楽しそうに見ている。
そしてその対面には2人の男性、黒の三つ揃いに純白の手袋をはめ、あざといまでに決まった片眼鏡をかけた執事然とした老人。シルバーグレイの頭髪と髭、シワの刻まれた顔には柔和な微笑みが浮かび、周囲に対して一切の威圧感を出さない立ち振る舞いは見事の一言に尽きる。
対してもう一人の男性──こちらは若獅子とでも言おうか、全身鎧を身に纏った精気と英気にあふれる青年だった。
端整な顔立ちと邪魔にならない程度にカットされた輝く金髪、身嗜みが整っているのは育ちの良さか、はたまた貴人に侍る役目故か。王宮の近衛や騎士団勤めでもすればさぞや見栄えのする事だろう。
そんな、シンより年嵩であろう貴公子然とした若者は先程から、眉根を寄せてシンを真正面から睨みつけて来る。
シンとしては、正面きって決闘でも申し込まれたのであれば、日時と場所を決めた後にさっさとその土地から逃げる、ないしはこちらを罠にかけるつもりであるのなら、より卑劣な方法で返り討ちにして更に、その後の人生に支障をきたすようなトラウマを与えるなど色々考えるのだが、今回の場合はそうもいかない。
なぜなら──
「あら、シン様、このような馬車での移動は初めてなのですか?」
シンの呟きに反応して、馬車の窓から流れる景色を眺めていた少女がシンに向かって話しかける。
「ええまあ、普段は徒歩での旅ですし、乗るにしても荷馬車・幌馬車に同乗させてもらうのが常なものですから」
「まあ! なんだか楽しそうですわね、私もそんな旅がしてみたいですわ!」
そしてなぜかやたらと馴れ馴れしい、というのは失礼か、他者に対して距離感が非常に近いタイプの人物のようだ。
つまる所、シンとしてはあまりお近づきになりたくないタイプの女性であり、対面で睨みつけて来る青年と老人はこの少女の護衛と執事──シンにしてみればむしろ味方に引き込みたい相手なので、そのキツイ視線を無碍にする訳にも行かない。
そもそもシンが何故このような状態になっているのか、原因は数日前に遡る。
………………………………………………
………………………………………………
切り立った崖を前に、軽やかに舞う男がいる。
比較的上質な麻布で作られた平服の上にたくさんのポケットがついた、見る人が見れば”ハンティングベスト”な上着を身につけ、フード付きのマントを羽織った男だ。
胸元に着いた”ショットシェルポケット”に筒状の各種薬瓶を弾薬よろしく差し込み、いつも持ち歩く自分の身長よりも長い棒の代わりに曲刀を両手に持ち、まるで剣舞のように軽やかに舞っている。
──キィン! ──チュイン!
金属が擦れあうような、そして何かを断ち切るような衝撃音が周囲に響き渡る。
音の主はシンの振るうシミターの先から聞こえており、そこには、その硬質な音をさせる度に胴体を切り落とされる大きな蜂の群れが在る。
マッド・ビー Fランクモンスター(単体)~
山肌や崖をくりぬいて作った洞窟に巣を作る大型のハチの魔物。
単体での戦闘能力は大した事は無いが、集団でこられると危険度はグンと跳ね上がる。
30~50センチと大型でありながら種類はミツバチの類であり、巣の中には大量の良質な「蜜」が蓄えられている。ただ蜜は、花から採取したものの他、樹液や動物の肉を働き蜂が「摂取、体内で生成」したものである。
スズメバチをそのまま拡大した外殻は頑強で、魔法やスキルによるアシストが無ければ矢は通用せず、剣よりも打撃の方が有効、硬い外殻は鎧などの素材として使われる事も多い。
攻撃方法は主に硬いアゴと毒針、毒そのもので死ぬことは無いが激しい痛みを伴う。
マッド・ビー、要は地中に巣を作る泥蜂なのだが気狂いの意味合いもあり、もし毒針に刺された場合、痛覚耐性スキルの無いものだとその痛みのせいで1度で絶叫、2度で気絶、3度で発狂、4度で悶死、などと言われている。
また、痛覚耐性スキルを有していても痛みは完全に消えず、更には毒に含まれる強心作用が心臓に負担をかけ、心拍数上昇に耐え切れなければやはり死に至る。
ちなみにこの毒は加速剤や超人剤といった、身体能力を向上させる薬品の材料などに使われる。
そんな蜂の群の中心でシンは、2刀を器用に振るいながら攻撃をかわし、正確にその細い胴体を切断する。
蜂の内臓は腹に集中しており、胴体と切り離してしまえば時を置かずしてマッド・ビーはその活動を終わらせる。
ただ、魔石が頭部に付いているせいか、腹を切り落とされても1分程度は元気に動き回る、そのため強靭な大アゴによる噛み付き攻撃には気をつけないといけない。
襲い掛かってくるマッド・ビーを切り捨てながら足元に死体が溜まると移動し、また殺戮作業に従事する、気を抜く訳には行かないものの単純作業の繰り返し。
『シン、さっさと魔法で駆逐してしまえばよいのでは?』
などとシンの頭に直接語りかけてくるのは友であるリオン、鉱山都市バラガの冒険者ギルドでギルドマスターを務める元Aランク冒険者の森エルフ──というのは仮の姿で、その正体は、バラガの街を麓に抱くファンダルマ山脈の主、大地の魔竜のメタリオン(♀らしい)である。
ひょんな事からシンと知り合った彼女は最近人間に興味を持っており、その中でも変わり者のシンに目をつけ、自身の力の一部を小さな竜宝珠に変え、それをシンに持たせることで彼と一緒に世界を見聞──という名の覗き見──しているのである。
なお、南大陸最強の彼女は見事に脳筋であり、今シンが行っている様なチマチマした行動は基本退屈なのである。
「ただ倒すだけならまあ、そうなんだろうけどな──シッ!!」
『……何か別の理由でも?』
会話をしながらも動きを止めないシンは、額に浮かぶ汗を飛び散らせながらもその場を蝶のように舞い、独楽のように回転しては敵を切り裂く。
「たまには真面目に動かないと、レベルが下がるからな」
この世界では体力や魔力といった基礎的な部分は基本レベルで、技量的な部分ではスキルレベルとして、それぞれ数値化がされている。
とはいえ上がったレベルは上がりっぱなしという訳でもなく、怠けていれば当然レベルは下がる、とはいっても微々たるものだが。
しかしながら、高レベルの者にとって基本レベル・スキルレベルが1下がるというのは深刻な問題であり、当然の事ながら基本レベルを10から11に上げるのと100から101に上げるのでは労力がまるで違う。
だからこそシンは、常日頃から自身の身体に魔力展開による身体能力抑制を施し、上がらないまでもレベルが下がらないように努力している。
現在のこれも、その一環である。
『人間は大変ですねぇ』
「リオンみたいに、はじめからお強いドラゴンさんが羨ましいよ」
『あっ、今ドラゴンって言いましたね? 私は魔竜ですよ! 間違えないで下さい』
「……え、そこ拘るとこ?」
魔竜様は妙なところに地雷が敷かれていた。
『当然です! シンだって「大きめのゴブリン」なんて言われたら気分が悪いでしょ?』
「……あ、ハイ、そうですね」
魔竜にとってのドラゴンとはゴブリン程度の扱いらしい、シンは少しだけドラゴンが可哀想になった。
そんなやり取りがあった数分後──
「これで終わ……り! っと……ふぅ──」
1000匹を越えるマッド・ビーの死体がそこかしこで山盛りに積まれる様は異様ながらも、さほど不快さは感じられないのは相手が虫であるからだろうか。
シンは異空間バッグから木材の部品を取り出すと、慣れた手つきで大型の大八車を複数組み上げ、貨物列車のように連結する。
そして大きな麻袋にマッド・ビーを詰め込むと次々に荷台に乗せる、正直なところ毒袋以外は捨て置いても構わないのだが、グラウ=ベリア大森林に住むタラスト商会の店主から「外部職員証」なる結構な身分証を貰っているので、支店のある街で売り捌いてしまえばいいとの精神で全て回収する。
積み込みが終われば本命の「蜂蜜」と「蜂の子」、そして「女王蜂」の回収に取り掛かる。
それにしても、蜂蜜はともかく、10センチを越える蜂の子がウゾウゾと蠢く姿は精神的にクルものがある。とはいえ回収しないという選択肢は無い。
前世の感覚の残るシンとしては真っ平御免被るのだが、こっちの世界の住人には味良し・栄養高しでとても有り難がられる食材だったりする。
最後に巣の奥に鎮座する女王蜂を仕留める、絶え間なく卵を産み続けるために肥大した胴体では逃げる事も抵抗する事もできず、女王の最後をもってこの一帯を縄張りとしていたマッド・ビーは一匹残らず駆逐された。
…………………………。
…………………………。
「──さて、と」
今はすっかり洞窟のようになった巣穴で夜を明かしたシンは、近くの街へ赴くために準備をする。
そこへ、
────────────!
「…………………………ん?」
…………………………………………
…………………………………………
「…………気のせいか? 気のせいだよな?」
────────ィャァ!
「………………………………」
──────誰か、誰かああああーー!!
「…………ふぅ」
シンは一度だけ、大きなため息をついた。
金属のスプリングが組み込まれたサスペンションは客車へ伝わる衝撃を和らげ、また、綿をつめた布張りのソファは腰への負担も少ない。
1ダース程の護衛に守られ進む2頭引きの馬車に乗っている4人、優しく揺られながらの優雅な旅行で気分は貴族かお大尽、といったところであろう。
「……落ち着かないものですね」
そんな中、居心地が悪そうに呟くのは4人の中でもっともその場にそぐわない人物──シンであった。
──現在、馬車の中には4人の人間が座っている。
進行方向に向かっていわゆる上座に座っているのはシンともう一人、夜会でのドレスとは比ぶべくも無いが仕立ての良い、動き易さと華やかさを兼ね揃えたカジュアルなドレスに身を包んだ少女──12歳前後であろうか──が外の景色が流れてゆくのを楽しそうに見ている。
そしてその対面には2人の男性、黒の三つ揃いに純白の手袋をはめ、あざといまでに決まった片眼鏡をかけた執事然とした老人。シルバーグレイの頭髪と髭、シワの刻まれた顔には柔和な微笑みが浮かび、周囲に対して一切の威圧感を出さない立ち振る舞いは見事の一言に尽きる。
対してもう一人の男性──こちらは若獅子とでも言おうか、全身鎧を身に纏った精気と英気にあふれる青年だった。
端整な顔立ちと邪魔にならない程度にカットされた輝く金髪、身嗜みが整っているのは育ちの良さか、はたまた貴人に侍る役目故か。王宮の近衛や騎士団勤めでもすればさぞや見栄えのする事だろう。
そんな、シンより年嵩であろう貴公子然とした若者は先程から、眉根を寄せてシンを真正面から睨みつけて来る。
シンとしては、正面きって決闘でも申し込まれたのであれば、日時と場所を決めた後にさっさとその土地から逃げる、ないしはこちらを罠にかけるつもりであるのなら、より卑劣な方法で返り討ちにして更に、その後の人生に支障をきたすようなトラウマを与えるなど色々考えるのだが、今回の場合はそうもいかない。
なぜなら──
「あら、シン様、このような馬車での移動は初めてなのですか?」
シンの呟きに反応して、馬車の窓から流れる景色を眺めていた少女がシンに向かって話しかける。
「ええまあ、普段は徒歩での旅ですし、乗るにしても荷馬車・幌馬車に同乗させてもらうのが常なものですから」
「まあ! なんだか楽しそうですわね、私もそんな旅がしてみたいですわ!」
そしてなぜかやたらと馴れ馴れしい、というのは失礼か、他者に対して距離感が非常に近いタイプの人物のようだ。
つまる所、シンとしてはあまりお近づきになりたくないタイプの女性であり、対面で睨みつけて来る青年と老人はこの少女の護衛と執事──シンにしてみればむしろ味方に引き込みたい相手なので、そのキツイ視線を無碍にする訳にも行かない。
そもそもシンが何故このような状態になっているのか、原因は数日前に遡る。
………………………………………………
………………………………………………
切り立った崖を前に、軽やかに舞う男がいる。
比較的上質な麻布で作られた平服の上にたくさんのポケットがついた、見る人が見れば”ハンティングベスト”な上着を身につけ、フード付きのマントを羽織った男だ。
胸元に着いた”ショットシェルポケット”に筒状の各種薬瓶を弾薬よろしく差し込み、いつも持ち歩く自分の身長よりも長い棒の代わりに曲刀を両手に持ち、まるで剣舞のように軽やかに舞っている。
──キィン! ──チュイン!
金属が擦れあうような、そして何かを断ち切るような衝撃音が周囲に響き渡る。
音の主はシンの振るうシミターの先から聞こえており、そこには、その硬質な音をさせる度に胴体を切り落とされる大きな蜂の群れが在る。
マッド・ビー Fランクモンスター(単体)~
山肌や崖をくりぬいて作った洞窟に巣を作る大型のハチの魔物。
単体での戦闘能力は大した事は無いが、集団でこられると危険度はグンと跳ね上がる。
30~50センチと大型でありながら種類はミツバチの類であり、巣の中には大量の良質な「蜜」が蓄えられている。ただ蜜は、花から採取したものの他、樹液や動物の肉を働き蜂が「摂取、体内で生成」したものである。
スズメバチをそのまま拡大した外殻は頑強で、魔法やスキルによるアシストが無ければ矢は通用せず、剣よりも打撃の方が有効、硬い外殻は鎧などの素材として使われる事も多い。
攻撃方法は主に硬いアゴと毒針、毒そのもので死ぬことは無いが激しい痛みを伴う。
マッド・ビー、要は地中に巣を作る泥蜂なのだが気狂いの意味合いもあり、もし毒針に刺された場合、痛覚耐性スキルの無いものだとその痛みのせいで1度で絶叫、2度で気絶、3度で発狂、4度で悶死、などと言われている。
また、痛覚耐性スキルを有していても痛みは完全に消えず、更には毒に含まれる強心作用が心臓に負担をかけ、心拍数上昇に耐え切れなければやはり死に至る。
ちなみにこの毒は加速剤や超人剤といった、身体能力を向上させる薬品の材料などに使われる。
そんな蜂の群の中心でシンは、2刀を器用に振るいながら攻撃をかわし、正確にその細い胴体を切断する。
蜂の内臓は腹に集中しており、胴体と切り離してしまえば時を置かずしてマッド・ビーはその活動を終わらせる。
ただ、魔石が頭部に付いているせいか、腹を切り落とされても1分程度は元気に動き回る、そのため強靭な大アゴによる噛み付き攻撃には気をつけないといけない。
襲い掛かってくるマッド・ビーを切り捨てながら足元に死体が溜まると移動し、また殺戮作業に従事する、気を抜く訳には行かないものの単純作業の繰り返し。
『シン、さっさと魔法で駆逐してしまえばよいのでは?』
などとシンの頭に直接語りかけてくるのは友であるリオン、鉱山都市バラガの冒険者ギルドでギルドマスターを務める元Aランク冒険者の森エルフ──というのは仮の姿で、その正体は、バラガの街を麓に抱くファンダルマ山脈の主、大地の魔竜のメタリオン(♀らしい)である。
ひょんな事からシンと知り合った彼女は最近人間に興味を持っており、その中でも変わり者のシンに目をつけ、自身の力の一部を小さな竜宝珠に変え、それをシンに持たせることで彼と一緒に世界を見聞──という名の覗き見──しているのである。
なお、南大陸最強の彼女は見事に脳筋であり、今シンが行っている様なチマチマした行動は基本退屈なのである。
「ただ倒すだけならまあ、そうなんだろうけどな──シッ!!」
『……何か別の理由でも?』
会話をしながらも動きを止めないシンは、額に浮かぶ汗を飛び散らせながらもその場を蝶のように舞い、独楽のように回転しては敵を切り裂く。
「たまには真面目に動かないと、レベルが下がるからな」
この世界では体力や魔力といった基礎的な部分は基本レベルで、技量的な部分ではスキルレベルとして、それぞれ数値化がされている。
とはいえ上がったレベルは上がりっぱなしという訳でもなく、怠けていれば当然レベルは下がる、とはいっても微々たるものだが。
しかしながら、高レベルの者にとって基本レベル・スキルレベルが1下がるというのは深刻な問題であり、当然の事ながら基本レベルを10から11に上げるのと100から101に上げるのでは労力がまるで違う。
だからこそシンは、常日頃から自身の身体に魔力展開による身体能力抑制を施し、上がらないまでもレベルが下がらないように努力している。
現在のこれも、その一環である。
『人間は大変ですねぇ』
「リオンみたいに、はじめからお強いドラゴンさんが羨ましいよ」
『あっ、今ドラゴンって言いましたね? 私は魔竜ですよ! 間違えないで下さい』
「……え、そこ拘るとこ?」
魔竜様は妙なところに地雷が敷かれていた。
『当然です! シンだって「大きめのゴブリン」なんて言われたら気分が悪いでしょ?』
「……あ、ハイ、そうですね」
魔竜にとってのドラゴンとはゴブリン程度の扱いらしい、シンは少しだけドラゴンが可哀想になった。
そんなやり取りがあった数分後──
「これで終わ……り! っと……ふぅ──」
1000匹を越えるマッド・ビーの死体がそこかしこで山盛りに積まれる様は異様ながらも、さほど不快さは感じられないのは相手が虫であるからだろうか。
シンは異空間バッグから木材の部品を取り出すと、慣れた手つきで大型の大八車を複数組み上げ、貨物列車のように連結する。
そして大きな麻袋にマッド・ビーを詰め込むと次々に荷台に乗せる、正直なところ毒袋以外は捨て置いても構わないのだが、グラウ=ベリア大森林に住むタラスト商会の店主から「外部職員証」なる結構な身分証を貰っているので、支店のある街で売り捌いてしまえばいいとの精神で全て回収する。
積み込みが終われば本命の「蜂蜜」と「蜂の子」、そして「女王蜂」の回収に取り掛かる。
それにしても、蜂蜜はともかく、10センチを越える蜂の子がウゾウゾと蠢く姿は精神的にクルものがある。とはいえ回収しないという選択肢は無い。
前世の感覚の残るシンとしては真っ平御免被るのだが、こっちの世界の住人には味良し・栄養高しでとても有り難がられる食材だったりする。
最後に巣の奥に鎮座する女王蜂を仕留める、絶え間なく卵を産み続けるために肥大した胴体では逃げる事も抵抗する事もできず、女王の最後をもってこの一帯を縄張りとしていたマッド・ビーは一匹残らず駆逐された。
…………………………。
…………………………。
「──さて、と」
今はすっかり洞窟のようになった巣穴で夜を明かしたシンは、近くの街へ赴くために準備をする。
そこへ、
────────────!
「…………………………ん?」
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「…………気のせいか? 気のせいだよな?」
────────ィャァ!
「………………………………」
──────誰か、誰かああああーー!!
「…………ふぅ」
シンは一度だけ、大きなため息をついた。
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