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4章 港湾都市アイラ編
145話 商談
フラッド=ヒューバート42歳、現・第4都市群領主。
酒樽のようにずんぐりとした体の上に愛嬌のある顔が乗っているのはぬいぐるみの様でもあり、見る人が見ればカワイイと言うかもしれない。
シーラッド都市連合、各都市群領主の中でも穏健派で通っており、子煩悩な父親と巷では噂されている。
噂に嘘偽りは無いが、領主として、また経営者としても優秀で、前領主の失策により傾きかけた第4都市群を立て直した辣腕家でもある。
そんなフラッド=ヒューバートにも悩みはあり、優秀であるが故に寄ってくる人間は自分を利用しようとする者か太鼓持ち、対等な立場で話を出来る者には警戒されてしまうため、友達が少ない事である。
そんなフラッドであるからして、バラガの友人から話を聞いていたシンに興味を持つのはある意味必然ではあった。
もちろん、悪巧み……もとい相談相手、そして友人として。
フラッドの話は続く。
「アイラという第4都市群に所属する港湾都市があるんだけどね、ここが最近、運営状態があまり良くなくてね」
「理由を聞いても?」
「今あそこはボクの子供が執政官をしていてね、それが原因かな」
さらりと爆弾を落としてきた。
「首をすげ替えればいいじゃないか……」
「上手くいかないからってポンポン切り捨てるのは良くないよ?」
「付き合わされる領民の身にもなってやれよ!」
「その辺はまあ、大丈夫だよ。今のところ第4政都からの持ち出しで何とかなってるから」
徐々に話し方が砕けていくシンに、フラッドは何が嬉しいのかニコニコと話す。
フラッドも、ブラック企業の社長とは縁遠いタイプの人間らしく、下に負担を背負わせたくは無いらしい。
ただ、今のところは政都の内部留保で補填出来ているが、いつまでも続く訳ではないそうだ、具体的には来年いっぱい。
「年末までに改善されなければ流石にボクが介入しないと不味いんだけどさ、そうなると次の世代の芽を潰しかねないんだよね、あの子、責任感が強くてさ」
「出来ない事を出来ないって言うのも大事な事じゃないのかね」
「それが言えるのは子供と大人、あとは頭一つ抜けて優秀なやつくらいだよ。若者は中々面と向かって「出来ない」とは言えないものさ」
親の欲目で無ければ、港湾都市で執政官を務める若者は、優秀な部類ではあるのだろう、ただ優秀すぎる事は無いということか。
「で、なんで俺の出番?」
「年長者があれこれ口を出すより年の近しい人間の方が話しやすいと思ってね、特にシン、きみは各地を回って知識も経験も豊富そうだし、そういった人間の言葉に耳を傾ける程度には優秀なはずさ。で、なにか面白い案とかない?」
楽しそうに話すフラッドの言葉をある種の挑戦と受け取ったシンは、少しだけ反撃に出る。
「あるよ」
「ホント? 教えてよ?」
「ここ南洋の海域なら「グレートオーシャンクラブ」って巨大な蟹の魔物がいるだろ。アイツ、煮ても焼いても身は固くて食えたモンじゃないけど、一度乾物にした後に水で戻せば身が柔らかくなって味も極上の逸品だよ」
「本当かい!? それはいい事を……ねえシン、その蟹ってさ」
「ああ、Aランクモンスターですけどナニか?」
すっとぼけるシンにフラッドは酸っぱい顔を向ける。
案は出した、実行に移すかどうかは相手次第、シンもたいがい意地が悪い。
「……あのモンスターって滅多に姿を見せないんじゃなかったっけ?」
「エサでおびき寄せればいい、アイツが好きなのはダイオウイカの触腕とシーサーペントの尻尾だったかな。その2つなら確実に釣れるぞ」
どちらもAランクモンスターである、しかも海洋の魔物は海上戦闘が前提になるため、危険度が他のAランクモンスターより高めだ。
渋い顔になるフラッドを見て、やり返したと楽しそうにドヤ顔になるシン。話の内容に嘘は無いが、実行性は極めて低い、確実にボツ案である。
「ユーリの言った通りだねえ……」
「イヤな言い方するなよ……」
フラッドは友人の言葉を思い出し、シンは悪友の言動を思い出し、共に渋面になる。
……そして、
「フフハハハハハ──」
どちらともなくお互い笑い出す。残念な事に、この2人は気が合うようである。
誰にとって残念な事かはさて置くとして……。
「ハハハハ──まあとにかく、紹介状は用意するから向こうで話だけでもしてあげてよ」
「チョット待て、紹介状を受け取った時点で依頼を受理した事になるじゃねえか!?」
「それもそうだね……じゃあ手付金として大金貨100枚、先に渡しとくね、成功報酬はまた後日ということで」
「問題にしてるのはそこじゃねえよ!」
「とりあえず向こうに行って、会うだけ会ってやってよ。気に入らなければ依頼はキャンセルしてくれて構わないから」
「ったく、押しが強いのは誰かさん似だな……オーケイ、とにかく現場を見るだけはしてみるよ、その代わり期待はするなよ?」
言葉の代わりに笑顔とサムズアップを無言で返すフラッドに、シンは力が抜けたように肩を落とす。
「それじゃあよろしくお願いするよ。あ、今日はウチに泊まりなよ、夕食は用意するからさ」
「……温かい風呂はあるかな?」
「お、シンは水風呂よりお湯派かい? ボクもだよ。きっと満足すると思うよ、なんだったらアンナに背中でも流させようか?」
「お願いだから止めて!」
隙を見せれば囲い込もうとするフラッドだった。
──────────────
──────────────
「……ふぅ」
シンが出て行った扉を見つめながら深いため息をつく。
「──お疲れ様でございます」
シンと入れ替わるように部屋に入ってきた家令がハーブティーをいれてくれる。
ハーブティーの香りが心労を和らげる効果があったのか、先程よりも幾分和らいだ顔の自分がそこにいた。
「いや、ホントに疲れたよ。ユーリから情報だけは貰っていたけど、彼のあの怯え方は尋常じゃなかったからね」
ユーリの手紙には「遊び相手に丁度いい」などと書かれていたものの、それはあくまで彼の主観であり、同じく密偵らしからぬ主観に基づく報告を直接聞いた身としては、常に喉元に剣を突きつけられている気分で愛娘達との会話に興じていた。
幸い、ユーリの言の方が正しく、確かにアレは一緒に遊ぶ分には楽しかろう。
本人に、自分がお宝の詰まったビックリ箱だとの自覚が薄いのが若干心配ではあるが……。
「オルソン、現在シーラッドに登録しているAランク冒険者の数、それとダイオウイカ・シーサーペント・グレートオーシャンクラブの討伐依頼の相場、そこから採れる素材の価値を早めに調べておいてくれ」
グレートオーシャンクラブの甲羅は極めて軽く、それでいて頑丈、非金属であるから雷撃などの魔法攻撃にも強く、蟹本体の出現例が少ないため希少素材となっている。
彼の話した内容の信憑性次第で、高級素材が高確率で手に入れることが可能になる、効率的かつ定期的、言うなればそれは産業足りえる。
「こんな情報がポンポン出てくるんだからなあ……」
さっき手付けなどと言った大金貨100枚は言わばこれの報酬だ。
欲しい、あの男とはなんとか繋がりを持っておきたい!
「アンナでもミレイヌでもいいから、彼と仲良くなってくれないものかなあ」
「残念ながら犬猫の類ではありませんので、なんとも……」
「だよねえ……でもまあ、何も手を打たない訳にもいかないからねえ」
「……旦那様もお人が悪い」
「まさか、娘の将来を案じる良いお父さんだよ、ボク?」
「左様でございますか」
………………………………………………
………………………………………………
──そして冒頭に至る。
「……ふぅ」
シンはため息を一つつく。
「──おや、シン殿、どうかなさいましたかな?」
老執事がシンのため息に気づき、声をかけてくる。
シンはその言葉に曖昧な笑顔を返しながら、
「いえ、フラッド様から受けた依頼の事を考えていただけですよ」
「なるほど、運営に困窮する街の建て直し、大役に緊張しておられるのですね。大丈夫です、旦那様がこれと見込んだシン殿であればきっと成し遂げることでしょう」
「そうですわ! シン様には不可能はありませんもの!!」
「…………………フン」
3者2様の態度にシンは苦笑しながらも、シンは窓の外から流れてくる潮風に思いを馳せる。
生まれ故郷で嗅ぎ慣れた、海の香りに──。
酒樽のようにずんぐりとした体の上に愛嬌のある顔が乗っているのはぬいぐるみの様でもあり、見る人が見ればカワイイと言うかもしれない。
シーラッド都市連合、各都市群領主の中でも穏健派で通っており、子煩悩な父親と巷では噂されている。
噂に嘘偽りは無いが、領主として、また経営者としても優秀で、前領主の失策により傾きかけた第4都市群を立て直した辣腕家でもある。
そんなフラッド=ヒューバートにも悩みはあり、優秀であるが故に寄ってくる人間は自分を利用しようとする者か太鼓持ち、対等な立場で話を出来る者には警戒されてしまうため、友達が少ない事である。
そんなフラッドであるからして、バラガの友人から話を聞いていたシンに興味を持つのはある意味必然ではあった。
もちろん、悪巧み……もとい相談相手、そして友人として。
フラッドの話は続く。
「アイラという第4都市群に所属する港湾都市があるんだけどね、ここが最近、運営状態があまり良くなくてね」
「理由を聞いても?」
「今あそこはボクの子供が執政官をしていてね、それが原因かな」
さらりと爆弾を落としてきた。
「首をすげ替えればいいじゃないか……」
「上手くいかないからってポンポン切り捨てるのは良くないよ?」
「付き合わされる領民の身にもなってやれよ!」
「その辺はまあ、大丈夫だよ。今のところ第4政都からの持ち出しで何とかなってるから」
徐々に話し方が砕けていくシンに、フラッドは何が嬉しいのかニコニコと話す。
フラッドも、ブラック企業の社長とは縁遠いタイプの人間らしく、下に負担を背負わせたくは無いらしい。
ただ、今のところは政都の内部留保で補填出来ているが、いつまでも続く訳ではないそうだ、具体的には来年いっぱい。
「年末までに改善されなければ流石にボクが介入しないと不味いんだけどさ、そうなると次の世代の芽を潰しかねないんだよね、あの子、責任感が強くてさ」
「出来ない事を出来ないって言うのも大事な事じゃないのかね」
「それが言えるのは子供と大人、あとは頭一つ抜けて優秀なやつくらいだよ。若者は中々面と向かって「出来ない」とは言えないものさ」
親の欲目で無ければ、港湾都市で執政官を務める若者は、優秀な部類ではあるのだろう、ただ優秀すぎる事は無いということか。
「で、なんで俺の出番?」
「年長者があれこれ口を出すより年の近しい人間の方が話しやすいと思ってね、特にシン、きみは各地を回って知識も経験も豊富そうだし、そういった人間の言葉に耳を傾ける程度には優秀なはずさ。で、なにか面白い案とかない?」
楽しそうに話すフラッドの言葉をある種の挑戦と受け取ったシンは、少しだけ反撃に出る。
「あるよ」
「ホント? 教えてよ?」
「ここ南洋の海域なら「グレートオーシャンクラブ」って巨大な蟹の魔物がいるだろ。アイツ、煮ても焼いても身は固くて食えたモンじゃないけど、一度乾物にした後に水で戻せば身が柔らかくなって味も極上の逸品だよ」
「本当かい!? それはいい事を……ねえシン、その蟹ってさ」
「ああ、Aランクモンスターですけどナニか?」
すっとぼけるシンにフラッドは酸っぱい顔を向ける。
案は出した、実行に移すかどうかは相手次第、シンもたいがい意地が悪い。
「……あのモンスターって滅多に姿を見せないんじゃなかったっけ?」
「エサでおびき寄せればいい、アイツが好きなのはダイオウイカの触腕とシーサーペントの尻尾だったかな。その2つなら確実に釣れるぞ」
どちらもAランクモンスターである、しかも海洋の魔物は海上戦闘が前提になるため、危険度が他のAランクモンスターより高めだ。
渋い顔になるフラッドを見て、やり返したと楽しそうにドヤ顔になるシン。話の内容に嘘は無いが、実行性は極めて低い、確実にボツ案である。
「ユーリの言った通りだねえ……」
「イヤな言い方するなよ……」
フラッドは友人の言葉を思い出し、シンは悪友の言動を思い出し、共に渋面になる。
……そして、
「フフハハハハハ──」
どちらともなくお互い笑い出す。残念な事に、この2人は気が合うようである。
誰にとって残念な事かはさて置くとして……。
「ハハハハ──まあとにかく、紹介状は用意するから向こうで話だけでもしてあげてよ」
「チョット待て、紹介状を受け取った時点で依頼を受理した事になるじゃねえか!?」
「それもそうだね……じゃあ手付金として大金貨100枚、先に渡しとくね、成功報酬はまた後日ということで」
「問題にしてるのはそこじゃねえよ!」
「とりあえず向こうに行って、会うだけ会ってやってよ。気に入らなければ依頼はキャンセルしてくれて構わないから」
「ったく、押しが強いのは誰かさん似だな……オーケイ、とにかく現場を見るだけはしてみるよ、その代わり期待はするなよ?」
言葉の代わりに笑顔とサムズアップを無言で返すフラッドに、シンは力が抜けたように肩を落とす。
「それじゃあよろしくお願いするよ。あ、今日はウチに泊まりなよ、夕食は用意するからさ」
「……温かい風呂はあるかな?」
「お、シンは水風呂よりお湯派かい? ボクもだよ。きっと満足すると思うよ、なんだったらアンナに背中でも流させようか?」
「お願いだから止めて!」
隙を見せれば囲い込もうとするフラッドだった。
──────────────
──────────────
「……ふぅ」
シンが出て行った扉を見つめながら深いため息をつく。
「──お疲れ様でございます」
シンと入れ替わるように部屋に入ってきた家令がハーブティーをいれてくれる。
ハーブティーの香りが心労を和らげる効果があったのか、先程よりも幾分和らいだ顔の自分がそこにいた。
「いや、ホントに疲れたよ。ユーリから情報だけは貰っていたけど、彼のあの怯え方は尋常じゃなかったからね」
ユーリの手紙には「遊び相手に丁度いい」などと書かれていたものの、それはあくまで彼の主観であり、同じく密偵らしからぬ主観に基づく報告を直接聞いた身としては、常に喉元に剣を突きつけられている気分で愛娘達との会話に興じていた。
幸い、ユーリの言の方が正しく、確かにアレは一緒に遊ぶ分には楽しかろう。
本人に、自分がお宝の詰まったビックリ箱だとの自覚が薄いのが若干心配ではあるが……。
「オルソン、現在シーラッドに登録しているAランク冒険者の数、それとダイオウイカ・シーサーペント・グレートオーシャンクラブの討伐依頼の相場、そこから採れる素材の価値を早めに調べておいてくれ」
グレートオーシャンクラブの甲羅は極めて軽く、それでいて頑丈、非金属であるから雷撃などの魔法攻撃にも強く、蟹本体の出現例が少ないため希少素材となっている。
彼の話した内容の信憑性次第で、高級素材が高確率で手に入れることが可能になる、効率的かつ定期的、言うなればそれは産業足りえる。
「こんな情報がポンポン出てくるんだからなあ……」
さっき手付けなどと言った大金貨100枚は言わばこれの報酬だ。
欲しい、あの男とはなんとか繋がりを持っておきたい!
「アンナでもミレイヌでもいいから、彼と仲良くなってくれないものかなあ」
「残念ながら犬猫の類ではありませんので、なんとも……」
「だよねえ……でもまあ、何も手を打たない訳にもいかないからねえ」
「……旦那様もお人が悪い」
「まさか、娘の将来を案じる良いお父さんだよ、ボク?」
「左様でございますか」
………………………………………………
………………………………………………
──そして冒頭に至る。
「……ふぅ」
シンはため息を一つつく。
「──おや、シン殿、どうかなさいましたかな?」
老執事がシンのため息に気づき、声をかけてくる。
シンはその言葉に曖昧な笑顔を返しながら、
「いえ、フラッド様から受けた依頼の事を考えていただけですよ」
「なるほど、運営に困窮する街の建て直し、大役に緊張しておられるのですね。大丈夫です、旦那様がこれと見込んだシン殿であればきっと成し遂げることでしょう」
「そうですわ! シン様には不可能はありませんもの!!」
「…………………フン」
3者2様の態度にシンは苦笑しながらも、シンは窓の外から流れてくる潮風に思いを馳せる。
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