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4章 港湾都市アイラ編
168話 海竜・中編
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(マジで厄介な!!)
海中に引きずり込まれるシンは海竜の手から逃れようともがくが、胴体をガッチリと掴まれているうえ、高速で泳ぐ海竜によって激しい水の抵抗を背中に受け、なかなか思うように動けない。
そのまま海竜の泳ぐ角度は深くなり、そのまま潜行に移る。シンを窒息と圧死、2つの方法でシンを仕留めるつもりらしい。
しかし、海竜といえど潜るのは水平に泳ぐよりも労力を必要とするらしく、そのおかげでシンが受ける水の勢いが若干弱まる。
千載一遇のチャンスにシンは腰の異空間バッグからマッド・ビーの毒針を取り出し、海竜の手に何度も突き刺す!
誰にとって幸か不幸か、海竜が潜行した分毒袋にかかる圧力は強まり、刺される度に通常より大量の毒がその体内に流れ込む。
やがて──
ブルンッ──!!
海竜の体が大きく震えるとシンを掴む手の力が緩み、拘束を解いたシンは海水を含んで重くなった衣服に四苦八苦しながらも、海面を目指して浮上する。
海面まであと数メートルという所でシンは、ふと海竜の様子が気になり振りかえる。
本来なら数十メートル下の海中の様子など見えるはずも無いのだが、海の透明度が高く、かつ太陽の位置も良かったのか、痛みに身をよじりまるでスプリングを模るようにグルグルとその場で回転を続ける海竜の姿を視界に捉える。
──ふと、海竜と目が合った。
次の瞬間、シンに対する怒りが痛みに勝ったのか、一転海竜はシンに向かって上昇をはじめる!
「ゴボッ!!」
それを見たシンは大急ぎで海面に到達し、口を一杯に広げて大量の酸素を体内に取り込み、早口で呪文を唱える。
「──、”風爆”」
圧縮空気を足元に送り込んで呪文を発動させると、威力を拡大した風爆はシンの身体を海上に高々と吹き飛ばす!
「痛うぅ……」
予想以上の衝撃に涙目になりながらも、シンは異空間バッグから空飛ぶマントを取り出し、いつものマントの下に装着すると空中に留まり、海竜の出現を待ち構える。
ザパアアアアッッッ──!!
さながら昇竜のように螺旋を画きながら海上に躍り出た海竜はそのまま身体の3分の1を海上に出し、さらに上位の位置に静止するシンを睨め付ける。
『ヤッテクレタナ、コノ毒虫メ!!』
「これだけ図体がデカイとマッド・ビーの毒でも致命的な効果は望めないか……しっかし、この期に及んでまだ虫扱いは止めないんだな、天晴れと言った方がいいか?」
海竜を見下ろしながらシンは、呆れとも感心とも取れる口調で呟く。
『フン、貴様トテ、イカニ厄介ナ相手デアロウトモ、虫ヲ己ト同列ニ扱イハシマイ』
「一応格上だって言ってるんだがな……まあそれは置いといて────”風爆”」
ドウン──!!
海竜に向かって放たれた風魔法は、炸裂の直前に首を捻った海竜によってかわされる。
「チッ……見えてるな」
『海中ガ領域ノ我ハ、目以外ノモノデモ物ヲ見テイルノデナ』
「ご丁寧にどうも。余裕を見せてるってことは、この状態の俺を攻撃する方法があるって事だよな?」
海竜より高い位置で浮遊するシンと海竜は現在、高さにして10メートル近く離れている、それでもなお海竜は落ち着き払っている事にシンは若干警戒心を強める。
『サテ、ドウカ……ナッ!!』
海竜は顎を一瞬引くと次の瞬間には突き出し、開いた口から大量の水を放出する!
「ちっ────風爆!!」
とっさに魔法を唱えたシンは自分の側面で魔法を発動させ、爆発の反動でその場から離れる。
ズドドドドドド────
そしてシンがその場から離れた瞬間、大量の水がダムの放水のような大音量を響かせて通り過ぎる。
「テッポウウオかよ……いや、放水車だなこりゃ」
海竜による放水は止む事無く続き、そのままシンの立つ場所へ海竜が向きを変更する。
そしてその都度シンは、風爆の魔法で無理矢理に回避する。
──2分近く続いたそれはやがて終わり、
『フム、空を飛ベルノデハナク、タダ浮イレイラレルダケノヨウダナ』
「悪かったな、空に浮かんでいるだけでも人間様にゃあ大偉業なんだよ!」
『ヤハリ虫ケラ、イヤ、自在ニ飛ベル分、羽虫ノ方ガ上等カ……』
「ムシムシ五月蠅えんだよ! たとえ見えててもっ──風爆!!」
同時に幾つもの圧縮空気を作り出したシンは、それを海竜に向けて一斉に放つ!
『フン』
ザプン──!!
海中に身を沈めてそれを回避した海竜は、今度はシンの真下、海面すれすれの場所から放水を行う。
しかしシンもそれを回避、すると今度は海竜の本体がシンの回避した場所に向かって海上に飛び出す!
『死ネ──』
「あいにく想定済みだよ!」
突進してくる海竜をシンはヒラリと回避し、そのまま無防備な姿を晒す腹部まで飛行し、いつのまにか手にした魔剣を振りかぶって斬り付け──!
『──コチラモナ』
クルンと半回転した海竜はシンの斬撃を背中の硬い鱗で受け止める。
ガギャギャギャギャ──!!
上昇を続ける海竜の鱗と魔剣の刀身がぶつかり、不快な金属音が響く。
「イヤんなるぜ、まったく────なっ!?」
海竜はそのまま身体を前に曲げ、海上で半円を画きながら再度海中に突入、最後に尻尾をスナップさせてシンを叩きつける。
バチンッ!!
「ぐっ──!」
2度目の尻尾攻撃に今度は身を縮めて受け止めるシンは、一瞬声を上げるがその場に留まり続け、効いていないとばかりに濡れた服をポンポンとたたく。
海竜は、高度を下げたシンと同じ目線になるように頭部を出し、嘲るように言い放つ。
『ヤハリ自在ニ飛ベタカ、ナントモ性根ノ汚イ毒虫ヨ』
「それを見破る手前もな」
『使徒ノ称号ヲ持ツトハイエ所詮ヒト種、矮小ナ身デ竜種ニ立チ向カワントスル者ガ、己ノ情報ヲサラス事モ、マシテヤ下ラヌ挑発ニ苛立ツナドアリ得ヌコトヨ』
「褒めてるんだか貶してるんだか……」
『褒メテイルトモ、油断ナラヌ毒虫トシテナ』
「そうかい……どうやら小賢しい搦め手じゃ手前に届きそうに無いみたいだから、思い切って力業で行かせてもらうわ」
そう言ってシンは異空間バッグをゴソゴソとまさぐり、一張りの大きな弓を取り出す。
ミーティア──3章でラスティに餞別として贈ったリカーブボウの上位版
リムにヴリトラ、ハンドル部は硬化処理を施した世界樹の枝を使用した、サイズも2メートルとパイルハンマーの2倍のサイズの大弓。
魔力を通してしなり易くしてなお、この弓を引くにはかなりの膂力を必要とする。
使用する矢も150センチ程の、金属杭や短槍のような物でないと射出の反動に耐えられないため数は撃てない。
そのため普段使いではなく、一撃必殺を狙うような場面でしか使う事は無い。
「手前が信じるかどうかはさて置き、あいにく俺は弓術のスキルは持っちゃいねえ。だからコイツも狙いを定めて射るだけだ。その代わり、当たれば確実にその鱗を打ち抜くぜ」
シンはそう言うと、マントをはためかせながら空中に留まり、弓を引き絞って海竜に狙いを定める。
(サテ、ドチラヨナ……)
ブラフか、それとも真実か、元より悩ませること自体が狙いか……やがて海竜は考える事を放棄して目の前の男の一挙手一投足に集中する。
──────────────
──────────────
────ヒュッ。
『──!!』
ザブン!!
弓は素人──シンの言葉は真実だったらしく、射出の直前シンは一瞬だけ息を吸い込み、それを察知した海竜は即座に海中に退避する!
海竜を狙った矢が海面から水平に一直線に飛んで行った直後、海竜はシンの眼前に出現、そのまま大きな口を開けてシンに襲い掛かる──!
『終ワリダ!』
「──我、世界に呼びかける、彼方と此方を結ぶ道、繋ぎし門をわが前に、”門”……手前がな」
シンが呪文を発動させると、シンと海竜の間に漆黒の穴が出現、そして──
『──ガッ!!』
漆黒の穴から、先程飛んでいった金属杭が飛び出し、その勢いのまま海竜の腹を鱗ごと貫通、再度彼方へ飛んで行く。
「まだだ──────”門”」
もう一度、今度は別の位置に転移門が出現、今度は側面から突き刺さる。
流石に2度目は貫通するには至らず、その代わりに胴体に深々と刺さった金属の杭が痛々しく海竜の肉体に留まり続ける。
「今度は俺の読み勝ちだったな」
『マダ……マダダァ──!!』
海竜は痛みを堪えてシンに襲い掛かると、弓を射た後に後ろに逸らしたまま拳を握っている右手を二の腕ごと食い千切る!
「──っ!!」
右腕を食い千切られ苦悶の表情を浮かべるシンは痛みに顔を歪める中、なぜか口元は笑みを浮かべている。
『勝利ヲ確信シ、油断シタカ?』
「はっ、まさか! ──おいにょろにょろ、知ってるか? 毒虫ってのは、例え死んでも安心は出来ねえんだぜ、それこそ食べるなんてもってのほかだ」
『……ナニ?』
食い千切られたシンの右手は、握る力を失い握っていた小瓶を数本取り落とす。
非常に割れ易いガラスで出来た小瓶は海竜の口内を転がる衝撃で割れ、その飛び散った中身は空気中に存在する魔素に反応し、そして──
──────────
ドグワアアアンンンン────!!
口腔内で爆発を起こし、海竜の体内を短時間では修復不可能なほどに破壊した。
『ア……アガ…………』
「……悪いな、正々堂々は俺の流儀じゃないんだわ」
ザパアアアアンンンン──────
グラリとよろけた海竜の巨体は、そのまま海に叩きつけられるように倒れこみ、仰向けのまま海面をたゆたう……。
「やれやれ……全面的に不利な状況とはいえドラゴン相手に腕一本……なまったか?」
シンの呟きは誰にも届かなかった。
海中に引きずり込まれるシンは海竜の手から逃れようともがくが、胴体をガッチリと掴まれているうえ、高速で泳ぐ海竜によって激しい水の抵抗を背中に受け、なかなか思うように動けない。
そのまま海竜の泳ぐ角度は深くなり、そのまま潜行に移る。シンを窒息と圧死、2つの方法でシンを仕留めるつもりらしい。
しかし、海竜といえど潜るのは水平に泳ぐよりも労力を必要とするらしく、そのおかげでシンが受ける水の勢いが若干弱まる。
千載一遇のチャンスにシンは腰の異空間バッグからマッド・ビーの毒針を取り出し、海竜の手に何度も突き刺す!
誰にとって幸か不幸か、海竜が潜行した分毒袋にかかる圧力は強まり、刺される度に通常より大量の毒がその体内に流れ込む。
やがて──
ブルンッ──!!
海竜の体が大きく震えるとシンを掴む手の力が緩み、拘束を解いたシンは海水を含んで重くなった衣服に四苦八苦しながらも、海面を目指して浮上する。
海面まであと数メートルという所でシンは、ふと海竜の様子が気になり振りかえる。
本来なら数十メートル下の海中の様子など見えるはずも無いのだが、海の透明度が高く、かつ太陽の位置も良かったのか、痛みに身をよじりまるでスプリングを模るようにグルグルとその場で回転を続ける海竜の姿を視界に捉える。
──ふと、海竜と目が合った。
次の瞬間、シンに対する怒りが痛みに勝ったのか、一転海竜はシンに向かって上昇をはじめる!
「ゴボッ!!」
それを見たシンは大急ぎで海面に到達し、口を一杯に広げて大量の酸素を体内に取り込み、早口で呪文を唱える。
「──、”風爆”」
圧縮空気を足元に送り込んで呪文を発動させると、威力を拡大した風爆はシンの身体を海上に高々と吹き飛ばす!
「痛うぅ……」
予想以上の衝撃に涙目になりながらも、シンは異空間バッグから空飛ぶマントを取り出し、いつものマントの下に装着すると空中に留まり、海竜の出現を待ち構える。
ザパアアアアッッッ──!!
さながら昇竜のように螺旋を画きながら海上に躍り出た海竜はそのまま身体の3分の1を海上に出し、さらに上位の位置に静止するシンを睨め付ける。
『ヤッテクレタナ、コノ毒虫メ!!』
「これだけ図体がデカイとマッド・ビーの毒でも致命的な効果は望めないか……しっかし、この期に及んでまだ虫扱いは止めないんだな、天晴れと言った方がいいか?」
海竜を見下ろしながらシンは、呆れとも感心とも取れる口調で呟く。
『フン、貴様トテ、イカニ厄介ナ相手デアロウトモ、虫ヲ己ト同列ニ扱イハシマイ』
「一応格上だって言ってるんだがな……まあそれは置いといて────”風爆”」
ドウン──!!
海竜に向かって放たれた風魔法は、炸裂の直前に首を捻った海竜によってかわされる。
「チッ……見えてるな」
『海中ガ領域ノ我ハ、目以外ノモノデモ物ヲ見テイルノデナ』
「ご丁寧にどうも。余裕を見せてるってことは、この状態の俺を攻撃する方法があるって事だよな?」
海竜より高い位置で浮遊するシンと海竜は現在、高さにして10メートル近く離れている、それでもなお海竜は落ち着き払っている事にシンは若干警戒心を強める。
『サテ、ドウカ……ナッ!!』
海竜は顎を一瞬引くと次の瞬間には突き出し、開いた口から大量の水を放出する!
「ちっ────風爆!!」
とっさに魔法を唱えたシンは自分の側面で魔法を発動させ、爆発の反動でその場から離れる。
ズドドドドドド────
そしてシンがその場から離れた瞬間、大量の水がダムの放水のような大音量を響かせて通り過ぎる。
「テッポウウオかよ……いや、放水車だなこりゃ」
海竜による放水は止む事無く続き、そのままシンの立つ場所へ海竜が向きを変更する。
そしてその都度シンは、風爆の魔法で無理矢理に回避する。
──2分近く続いたそれはやがて終わり、
『フム、空を飛ベルノデハナク、タダ浮イレイラレルダケノヨウダナ』
「悪かったな、空に浮かんでいるだけでも人間様にゃあ大偉業なんだよ!」
『ヤハリ虫ケラ、イヤ、自在ニ飛ベル分、羽虫ノ方ガ上等カ……』
「ムシムシ五月蠅えんだよ! たとえ見えててもっ──風爆!!」
同時に幾つもの圧縮空気を作り出したシンは、それを海竜に向けて一斉に放つ!
『フン』
ザプン──!!
海中に身を沈めてそれを回避した海竜は、今度はシンの真下、海面すれすれの場所から放水を行う。
しかしシンもそれを回避、すると今度は海竜の本体がシンの回避した場所に向かって海上に飛び出す!
『死ネ──』
「あいにく想定済みだよ!」
突進してくる海竜をシンはヒラリと回避し、そのまま無防備な姿を晒す腹部まで飛行し、いつのまにか手にした魔剣を振りかぶって斬り付け──!
『──コチラモナ』
クルンと半回転した海竜はシンの斬撃を背中の硬い鱗で受け止める。
ガギャギャギャギャ──!!
上昇を続ける海竜の鱗と魔剣の刀身がぶつかり、不快な金属音が響く。
「イヤんなるぜ、まったく────なっ!?」
海竜はそのまま身体を前に曲げ、海上で半円を画きながら再度海中に突入、最後に尻尾をスナップさせてシンを叩きつける。
バチンッ!!
「ぐっ──!」
2度目の尻尾攻撃に今度は身を縮めて受け止めるシンは、一瞬声を上げるがその場に留まり続け、効いていないとばかりに濡れた服をポンポンとたたく。
海竜は、高度を下げたシンと同じ目線になるように頭部を出し、嘲るように言い放つ。
『ヤハリ自在ニ飛ベタカ、ナントモ性根ノ汚イ毒虫ヨ』
「それを見破る手前もな」
『使徒ノ称号ヲ持ツトハイエ所詮ヒト種、矮小ナ身デ竜種ニ立チ向カワントスル者ガ、己ノ情報ヲサラス事モ、マシテヤ下ラヌ挑発ニ苛立ツナドアリ得ヌコトヨ』
「褒めてるんだか貶してるんだか……」
『褒メテイルトモ、油断ナラヌ毒虫トシテナ』
「そうかい……どうやら小賢しい搦め手じゃ手前に届きそうに無いみたいだから、思い切って力業で行かせてもらうわ」
そう言ってシンは異空間バッグをゴソゴソとまさぐり、一張りの大きな弓を取り出す。
ミーティア──3章でラスティに餞別として贈ったリカーブボウの上位版
リムにヴリトラ、ハンドル部は硬化処理を施した世界樹の枝を使用した、サイズも2メートルとパイルハンマーの2倍のサイズの大弓。
魔力を通してしなり易くしてなお、この弓を引くにはかなりの膂力を必要とする。
使用する矢も150センチ程の、金属杭や短槍のような物でないと射出の反動に耐えられないため数は撃てない。
そのため普段使いではなく、一撃必殺を狙うような場面でしか使う事は無い。
「手前が信じるかどうかはさて置き、あいにく俺は弓術のスキルは持っちゃいねえ。だからコイツも狙いを定めて射るだけだ。その代わり、当たれば確実にその鱗を打ち抜くぜ」
シンはそう言うと、マントをはためかせながら空中に留まり、弓を引き絞って海竜に狙いを定める。
(サテ、ドチラヨナ……)
ブラフか、それとも真実か、元より悩ませること自体が狙いか……やがて海竜は考える事を放棄して目の前の男の一挙手一投足に集中する。
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────ヒュッ。
『──!!』
ザブン!!
弓は素人──シンの言葉は真実だったらしく、射出の直前シンは一瞬だけ息を吸い込み、それを察知した海竜は即座に海中に退避する!
海竜を狙った矢が海面から水平に一直線に飛んで行った直後、海竜はシンの眼前に出現、そのまま大きな口を開けてシンに襲い掛かる──!
『終ワリダ!』
「──我、世界に呼びかける、彼方と此方を結ぶ道、繋ぎし門をわが前に、”門”……手前がな」
シンが呪文を発動させると、シンと海竜の間に漆黒の穴が出現、そして──
『──ガッ!!』
漆黒の穴から、先程飛んでいった金属杭が飛び出し、その勢いのまま海竜の腹を鱗ごと貫通、再度彼方へ飛んで行く。
「まだだ──────”門”」
もう一度、今度は別の位置に転移門が出現、今度は側面から突き刺さる。
流石に2度目は貫通するには至らず、その代わりに胴体に深々と刺さった金属の杭が痛々しく海竜の肉体に留まり続ける。
「今度は俺の読み勝ちだったな」
『マダ……マダダァ──!!』
海竜は痛みを堪えてシンに襲い掛かると、弓を射た後に後ろに逸らしたまま拳を握っている右手を二の腕ごと食い千切る!
「──っ!!」
右腕を食い千切られ苦悶の表情を浮かべるシンは痛みに顔を歪める中、なぜか口元は笑みを浮かべている。
『勝利ヲ確信シ、油断シタカ?』
「はっ、まさか! ──おいにょろにょろ、知ってるか? 毒虫ってのは、例え死んでも安心は出来ねえんだぜ、それこそ食べるなんてもってのほかだ」
『……ナニ?』
食い千切られたシンの右手は、握る力を失い握っていた小瓶を数本取り落とす。
非常に割れ易いガラスで出来た小瓶は海竜の口内を転がる衝撃で割れ、その飛び散った中身は空気中に存在する魔素に反応し、そして──
──────────
ドグワアアアンンンン────!!
口腔内で爆発を起こし、海竜の体内を短時間では修復不可能なほどに破壊した。
『ア……アガ…………』
「……悪いな、正々堂々は俺の流儀じゃないんだわ」
ザパアアアアンンンン──────
グラリとよろけた海竜の巨体は、そのまま海に叩きつけられるように倒れこみ、仰向けのまま海面をたゆたう……。
「やれやれ……全面的に不利な状況とはいえドラゴン相手に腕一本……なまったか?」
シンの呟きは誰にも届かなかった。
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