転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

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5章 イズナバール迷宮編

184話 嵐の前 シンSide・その2

 ゴン!

「ハイハイ若さん、浮かれるのも大概にしてくだせえよ」
「~~~~~痛いじゃないか、シン!」

 嘘付け、思っきり障壁を殴った感触が伝わってきたぞコノ野郎!
 あと絶対ワザとだろ、お前は。

「……いい加減憶えてくださいな。俺はジン・・、そんでこっちはリオン、覚えてくんなきゃまたゲンコツですぜ?」
「ジン……若様に無闇に手を挙げるなと何度も言ってるでしょう?」
「はいはい、分かってますよ」

 そんな俺達のやり取りにリオンが入ってくる、ああ、この辺のフォローや立ち回りは上手いな、長年ギルドマスターなんかやってるからその辺の機微は分かってらっしゃる。
 これで俺達の関係性、荒事担当のリオンと雑務&お守り担当のオレ、そして護衛対象のルディという構図は周囲に認知された感じか? とりあえずその方向で仲間達と情報共有でもしておいてくれ。

「それよりリオンも若さんも、さっさと登録を済ませてくださいよ」
「いえ……アナタの登録用紙も返してもらっていないのですが?」
「オットこりゃ失礼! ハイハイこいつですよー♪」

 俺は受付のイヌ耳お姉さんに羊皮紙を渡す。
 ちなみに内容はこんな感じ。

【名前】ジン
【年齢】17
【基本レベル】63
【戦闘スタイル】前衛・中衛、直接・支援戦闘
【主武器】双剣

「はい、承りました……ジンさんはレベル63ですか。実に無難な数字ですね」
「ああ、どこにでもいる普通のヤツなんでね、こんなモンさ」
「ふふ、ではそのように。ギルドメンバー証明書の発行は翌日になるので明日こちらのカウンターまでお越し下さい」
「オーケイ、明日もキミに会いに来るよ」
「すみません、明日の当番は私以外のコなんです。でも安心してください、このお耳が気に入ってくれたジンさんでしたら可愛い猫耳の彼女の事も気に入ってくれますわ」

 スカされたな……しかし明日はネコ耳か、どうやらここはパラダイスらしい。
 っと、

『リオンもエルダーも、いくら自己申告だからって向こうの心象を悪くするようないい加減な数字は書くなよ』
『なるほど、これはシンの期待に応えないとね』

 応えるなよ、フラグじゃねえよ!
 ……リオンさん、無口ですね?

『……シンが耳フェチとは知りませんでした。良かったですね、今日はイヌ耳、明日はネコ耳だそうですよ?』
『誰が耳フェチか!?』

 失礼(?)な事を言うな、俺は立派なおっぱい星人だ!
 しかも微妙に拗ねるとかどういう了見だ? リオンは耳フェチに偏見でもあるのか?
 …………………………。
 そういえばドラゴンの耳って見た事無いわ。

『あのなリオン……』

 俺はおっぱい星人だと言い返そうとして思いとどまる。魔竜に胸ないじゃん……。
 悩む俺を尻目にルディ君が羊皮紙を差し出す。

「イヌ耳のお姉さん、はい、これ!」
「ハイ、承ります」

【名前】ルディ
【年齢】10
【基本レベル】11
【戦闘スタイル】応援
【主武器】笑顔

 …………オイこら。

「あらあら、これは重要なお仕事ですね」
「でしょ? それなのにそこに立ってる、お姉さんの名前も聞かずに口説こうなんておバカさんには理解されないんだよね。ところでキレイなお姉さん、お名前はなんて言うの?」
「ラフィニアですよ、ルディ坊ちゃま」

 …………………………。
 ああ、そうね……そりゃ相手にスルーされますわね……。
 ったく、似合わねえ事はするもんじゃねえな、やっぱ。
 どうやら【詐術】スキルはナンパに応用出来ないらしい。

「そういう事ですね、似合わない事はする物ではありませんよ、ジン」

 くっ、急に機嫌が良くなりやがって、そんなに俺の空回りが面白いか、この巨乳美女!

「では私の登録もお願いします」
「はい、うけたまわ……」

【名前】リオン
【年齢】22
【基本レベル】15
【戦闘スタイル】近接戦闘
【主武器】星球武器

「……レベル15?」
「はい♪」

 …………………………。

 ゴン!!

 あからさまなレベル詐称をするリオンに肩パンを食らわす。
 ……うん、俺の作った鎧のなんと堅牢な事よ……痛ぅ。
 じゃなくて!
 おいリオン、チョット体育館裏まで来いや!
 俺は目の前の残念な子を壁際まで引きずり小声で話す。

(おいコラ脳筋リオン、お前はおバカじゃないと信じてたのに何だありゃ!?)
(だってエル……若様があの方が面白いからと)
(面白いのはあの暇神だけだよ! 見ろや、おもっくそ怪しまれとるわ)
(それを言うならシンだって滅茶苦茶レベル詐称じゃないですか!)
(俺がマジモンのレベル書いたらそれこそオツムの残念な不審者扱いされるわ! いいから嘘吐きの指輪ライアーリングに設定したレベルを書いとけ)
(分かりましたよ、全くシンは口うるさいですね……)

 誰のせいだ、コンチクショウ。
 レベルを訂正した申込書を再度お姉さんラフィニアに渡すと、

「──!! ……レベル156……」

 ────ザワッ!!

 目の前に記された数字に受付のお姉さんは息を飲む。そして思わず口からこぼれた数字は、聞き耳を立てていた周囲のヤツ等の耳にも届いて一時、場は騒然となる。
 一般的な目安として、冒険者の最高位のAランクがレベル150まで、それを超える者はランク指定外、英雄指定などの特別措置を受けることもある。
 そんな数字を聞けば、まあ、そうなよるよな。
 しかもさっきの騒動を目の当たりにした連中からすれば、頭からそれを否定する事も出来ない、むしろ納得する輩の方が多数だろう。
 ハイハイ、このまま皆でリオンに集中してくださいね、俺はあくまでオマケの有象無象ですよ。
 ……なぜだろう、さっきまでリオンに集中していた視線の何割かが俺に向かっている。

「……それでは、探索者登録はこれで完了ですが、みなさん一緒にここ、イズナバール迷宮に挑むのでしたら、そのままパーティ申請をしておきますか?」
「パーティ申請?」
「ええ、迷宮に入るためには事前申請が必要になりますが、パーティを組んでおけばその中の一人が代表として申請すればメンバー全員が迷宮に入る許可が下りるのです」

 なるほど、迷宮に入るのは事前に申請が必要になるのか。それに、

「なるほどねえ、そいつは色々と便利だ……とりあえずウチの力自慢にだけお誘いをかける様な馬鹿も減りそうだ」
「あら……先程の軽薄なお芝居よりずっと魅力的ですよ」
「……そりゃどうも。で、他に新人が知っておかないといけない事ってあるかな?」

 似合わない事してスミマセンね。

「そうですね、迷宮に潜る時と戻った時は必ず報告をお願いします。依頼達成の兼ね合いもありますので。それでは依頼の話も出たのでついでにそれも説明します──」

 迷宮関係の依頼は、壁のボードや立てかけられた掲示板に、木札や羊皮紙に依頼内容を書かれて貼り出されている。
 目安としては、木札での依頼は安く羊皮紙は高い、依頼を出すのにわざわざ羊皮紙代を使うほどの事かどうか、という事らしい。
 依頼内容は魔物を討伐して素材を持ち帰るものが大半だが、それを見て迷宮へ潜り、依頼品を持ち帰るもよし、依頼書を受付に持ち込んで専用依頼にする事もできる。
 専用依頼にした場合、他の探索者がたまたま同じ素材を持ち帰ったとしても依頼者と取引することは出来ない、専用依頼の手続きを行った者に優先権がある。
 その代わり依頼書に書かれた期日までに依頼を遂行できなかった場合には、相応のペナルティが課せられる。主に賠償金であったり、依頼書に書かれた規約違反の条件であったり。
 だから掲示板の依頼を専用依頼とする探索者は少ない、ある程度腕に覚えがあるベテランだけが受けるのだそうだ。
 だから比較的新人の探索者は、毎朝掲示板をチェックしながら複数の依頼に目を付け、日帰りで迷宮探索を終えて素材と共に依頼書が残っていないか確認する。
 依頼書が残っていればそれを持って受付に走る、無ければ相場より安い価格で素材を買い叩かれる。迷宮産の素材をギルドを通さず売買する事は重大な規約違反であり、破った者は捕縛、懲役が科せられる。

「──ギルドが探索者に求めるのは正直その程度です。探索者同士のしきたりや暗黙のルールなどは本人達に聞いた方が早いです」
「なるほどね」
「それで、パーティ申請はされますか?」
「ああ、お願いするよ。何か必要かい?」
「新規登録者同士であれば余計な手続きは必要ありません。そうですね、パーティ名はどのような?」
「そうさな……」
「ハイ! エルディ……ルディと愉快な仲まっ──!!」

 ゴスン──!!

「~~~~~~~~~~!!」
「若さん……」

 ……お前は本当に残念な神様だよ。絶対ワザとだろ?

「ジン、何度も言うように若様に手を挙げないで下さい」

 文句はそこの愉快犯にお願いします。

「へえへえ……それじゃ「ガイアの咆哮」とでもしておいてくれ」
「はい、承りました。フフ、強そうな名前ですね」
「俺はたいした事無いけどね、まあ、後ろのアレがさ」

 振り返らずともリオンが喜んでいるのを肌でヒシヒシと感じる。きっと魔竜の状態だと尻尾を振り回すか地面をビタンビタンと叩いていることだろう……犬っぽいな。

「……はい、それではみなさん、明日またこちらに来てくださいね。その時に探索者の登録証をお渡ししますので」
「ハイありがとさん、それじゃ2人とも行こうか」
「どこへ?」
「決まってる、親切な先輩に探索者としての心得を教えてもらうのさ」

 俺は振り返るとフロアの反対側のラウンジでたむろしている探索者たちを一瞥し、あるパーティに目星をつける。
 俺達、特にリオンに視線を向ける他の連中とは違い、我関せず、関わりたく無いと背中で語る、この中で一番危機管理能力の高そうな奴に。
 見た感じ腕っぷしの方もそこそこありそう、俺達の隠れミノ兼弾避けに最適な連中だ。
 ──────────。
 すぐ後ろにいるのに振り返ってくれない、やだなあ、ボク悲しい。

「スミマセン、新人探索者として先輩方に色々話を聞きたいんだけど、いいですかね?」

 新参者として失礼の無い様、後ろの2人には任せず俺が話しかける。

「……あいにく卓にはこれ以上イスを並べる余裕がないんだ」

 とことんまで避けてくれるなあ、うん、このくらいの方が着かず離れずの良い関係が出来そうだ。

「ああ、それなら──リオン」

 ゴドン──!!

 リオンが俺の意を汲んでテーブルを寄せてくれる。

「話、聞かせて貰えますかね」
「ああ……何でも聞いてくれ」

 女神様ティア、面倒なおつかいだけど幸先はよさそうです──。
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