転生薬師は異世界を巡る(旧題:転生者は異世界を巡る)

山川イブキ(nobuyukisan)

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5章 イズナバール迷宮編

189話 順風満帆

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「あらルディ坊ちゃま、それにお2人も良くご無事で。3日も帰らないから心配しましたよ?」

 探索者ギルドの受付カウンターでイヌ耳のラフィニアが、3人に向かって落ち着き払った口調で話しかける。

「ただいま、ラフィニアお姉さん!」
「あらあら、興奮冷めやらないって感じですね」
「そりゃもう! 最初のアレにはガッカリさせられたけど、今日の戦闘はドキドキワクワクだったよ♪」

 テンション高めのルディは大きな手振りでラフィニアに向かって、いかに前半の「狩り場」でガッカリさせられたか、そして中盤で魔物に襲われたこと、最後に襲い掛かって来た豚の頭をリオンのモーニングスターが粉砕する様子を興奮しながら語る。
 血生臭い会話内容だが、ここにいる連中は全員同業者、眉をひそめる者は一人としていない。狩り場の件は反論したくはあるが、おおむね探索者という仕事を賞賛しているルディの言葉に溜飲を下げて、気持ち良さそうに酒盃を傾けている。
 そんな中、ジンは掲示板の依頼内容に目を通し、その中から何枚かの依頼札を受付にもって来る。

「ホイ、コレとコレとコレ、依頼達成で処理してもらえるかな?」
「確認しますね……鎧ヤモリの鱗とブラッドボアの肉と毛皮、それとオークの肉・他ですね、ハイ、承ります」
「あと魔晶石をいくつかな」

 ジャララ──

 巾着に入れた小粒ながら結構な量の魔晶石をカウンターに乗せるとラフィニアは嬉しそうに中を確認しながら、

「凄いですね、いくら序盤の階層とはいえこれだけの量をたった3日で……」
「ウチには頼りになるのがいるからな、俺も若さんも気楽なもんだよ」
「だよね~、ジンなんかほぼ食事当番だもん」
「血抜きした肉に塩を振って焼いただけの料理がお好みでしたら、いつでもリオンと役割を交代しますぜ?」
「ジン、噛み切れない肉塊でボクのアゴを疲れさせるつもりかい?」

 HaHaHa──!!

 ジンとルディが肩をすくめながら両手を広げて笑っていると、

 スッ──

「……若様、向こうで少し「お話」しましょうか?」

 リオンの手がルディの肩に優しく置かれ、何かを押し殺したような優しい声音が届く。
 ちなみにジンは、既に首をキュッと締められその場に崩れ落ちている。

「だ、大丈夫! ほ、ほら、早く精算しないとお姉さんにも迷惑がかかるから……ね?」
「そうですね、では続きは後程」
「結局するの!?」

 逃げ場は無かった。

「ところでラフィニアさん、迷宮内で手に入れた素材は全てギルドで買取という話でしたが、魔物の肉なども?」

 ルディの言葉を無視してリオンがラフィニアに話しかける。

「ラフィニアで構いませんよ。そうですね、魔物の肉をはじめ全ての素材・・はこちらで引き取らせていただきます。武具やポーションなどのアイテムは自由にしていただいても構いませんよ」
「それでは加工品は? たとえば魔物の肉を焼いて誰かに提供するとか自分達で屋台を開くなどの行為は?」
「そちらの懸念ですか、当ギルドで扱いを独占しているのはあくまで魔物の素材と魔晶石の取り扱いのみです、加工したものまでは関知致しませんよ」
「なるほど、ありがとうラフィニア、よく分かりました……ほらジン、若様も、長居してはいけません。さっさと出ますよ」
「その前にリオン、首をキメてるこの手を放して!」

 中身はオークとブラッドボアの肉であろうか、未だに1つ膨れたままの背嚢を背負い、片手にジン、片手にルディの首根っこを掴んだままギルドを後にするリオンを探索者連中は無言で見送り、やがて3人について話し出す。

「おい、アレか? この前話してたヤバイ新人ってのは?」
「ああ……にしても、3日で10層突破かよ。いくら序盤とはいえ、あのメンバー構成でやるかね……」
「まあ10層くらいならレベル80もありゃ一人でも何とかなるんだ。考えられねえ話じゃねえ」
「レベル150超えなんて大ボラかと思ったが、案外本当の事かもな。オマケにとんでもねえ美人だしよ」
「!? オイ、その話もっと聞かせろや!!」

 その後はリオンの美女談義に話が逸れ、さらに同行者のジンの話へ──結果、たいして強くも無いくせに、常にリオンと一緒にいるジンが羨ましくてむかつくという事で話は締めくくられる。
 そのため暫くの間ジンは、夜な夜な情報収集にいろんな所を回るものの、店の従業員や冒険者はともかく、探索者限定で総スカンをくらっていた。


 ──そして1週間後、

「なんだいアンタら、もう20層突破したのかい!?」

 ザワッ──!!

 キャサリンの驚きとも呆れとも聞こえる声がギルド内に響く。

「つまんない相手だったよね~」
「むしろ途中のトラップフロアの方が命の危険を感じたよ……若さんの」
「若様の身体を鍛えておいて本当に良かったですね」
「アンタら……20層と言えば軍隊コウモリアーミーバットの群れが出るって聞いてるけど?」

軍隊コウモリアーミーバット E~Cランクモンスター
 翼を広げると最大2メートルにもなる大型の吸血蝙蝠。
 高い機動性を持ち、空中で縦横無尽に動きながら獲物に噛み付きその血をすする。
 攻撃力自体は低く単体での脅威度はそれ程でもないものの、常に30匹以上の群で行動するため、徐々に体力と血を奪われ、やがて死に至る。

「あんな狭い・・空間に何十匹も集めちゃあねえ……」
「四方が100の高さ30メートル程度じゃなあ、投網・・を何度か投げるだけで片付いたな」
「10層突破時の最後の戦闘・・・・・に比べてぬるい事この上ありませんでしたね」

 3人が遠い目をして思い思いに呟く。
 引きつるキャサリンに向けてジンがそういえば、と話しかける。

「アーミーバットの翼膜なら結構な額で取引されてる思うんだが、ここじゃ依頼は無いのか?」
「依頼を出したところで倒す時にグチャグチャになるのが大半らしくてね、加工に使えるような状態のものを揃えられないならいらないってさ」
「ふぅん……」

 ゴソッ──

 ジンは無言でアーミーバットの、胴体だけをくりぬいた手足の繋がったままの翼膜の束を取り出す。

「取引のある商人に声をかけといてくれるかい、依頼を出すならこの状態のをいくらでも取ってきてやるってさ?」

 最上の状態で採取された素材を唐突に見せられ、キャサリンは目を丸くし、そして、

「──ジン、あんたコレ! こんな完璧な状態の翼膜って……依頼が出なかったら?」
「そん時ゃ自分でチクチク夜なべするさ、加工品なら自由にしていいんだろ?」
「ジンは料理だけじゃなく裁縫に板金、かじ・・全般出来るからねぇ」
「報酬が満足のいくものだと期待していますよ」

 そう言うと3人は向かいのバーカウンターに足を向ける。

「ヤレヤレ、抜け目が無いねえ。それじゃ覚悟しときなよ、片っ端から声をかけといてやるから依頼数がとんでもない事になるから」
「大丈夫だよ、ご覧の通り楽勝で手に入るんでな」
「……そんな事言ってると、妬んだ連中が何してくるか分かんないよ?」

 キャサリンがたしなめる様に低い声で忠告を飛ばす。
 ジンはそれに対して肩をすくめ、

「その時は返り討ちにしてやるさ……リオンがな。迷宮内でのトラブルにギルドは直接介入しないんだろ?」
「まあね、だけど…………心配するだけ無駄みたいだね」

 強めの酒を飲みながら「暴れ足りないですねえ」とぼやくリオンの声は、小さい声量にもかかわらずラウンジ上に静かに響く。
 冬場のため暖房の効いているはずのフロア内だが、そこにいる全員が背筋をブルッと震わせる。


 ──一息ついたジン達が建物から出ると、さりげなくジンから脅しを受けた彼等とギルド内は、さながらお通夜の様だった。
 そして、

「で、どうする、一応上には報告するのか?」
「そりゃしない訳にはいかんだろう、10日足らずで20層だぞ、20層突破!」
「つっても、上に伝えりゃ当然「引き込め」って言ってくるだろうが、ありゃ無理だろ」
「釘まで刺していきやがったぜ……」

 建物内の見張り番・・・・は口々にボヤキながらため息をつく。
 ………………………………。

「……そういえば、ここ最近アイツら見ねえな」
「アイツらって、初日にあの女戦士にぶっ飛ばされた連中か?」
「ああ、あのガキ人質にとってヒイヒイ言わしてやるとか息巻いてたんだが……」
「………………………………」
「……止めようぜ、この話題は」
「そうだな…………」

 場の空気が悪くなった彼等は、誰とはなしに一人、また一人とこの場を離れ、騒げる場所や女のいる店に逃げるように繰り出して行った。
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