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5章 イズナバール迷宮編
215話 キマイラ討伐・ジンSide
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半径30メートル程の円形闘技場、その中央に佇む2体のキマイラ亜種。
2、いや3グループに分かれた俺達は打ち合わせを終え、戦闘準備に入る。
1つ目のグループはルフト率いるコミュニティ「異種混合」のトップパーティとゲンマ達ライゼンから派遣された攻略部隊の混合パーティ、2つ目は俺とリオン、それにエル坊の護衛からサポートとしてドロテアとイレーネが加わる。
どちらも軽戦士とレンジャー職の為、横に展開して正面で戦うリオンの援護要因としてだ。尤も、リオンに援護が必要とも思えないが。
3つ目はとうぜん非戦闘組、材料に使われている魔物は全てBランクモンスターだが、俺の鑑定でもAランク相当との結果だったし、そうなると両者の石化能力が問題になる。いくら石化耐性のスキルを身につけたとはいえ、Aランクであるコイツらの石化能力はそれを凌ぐはずだからだ。
そんな訳で、少数精鋭と大半の観戦者に分かれ戦闘に移るわけだが、
「おいジン、お前等マジでその人数でやる気か?」
「問題ありませんよ、2体を比べれば、ゲンマさん達が受け持つキマイラの方がはるかに強いですからね」
そう、純粋に戦闘能力を考えたら向こうの方がはるかに危険だ。
鎧のような硬いうろこに覆われたクロコダイル型バジリスクの肉体にレッドオーガ、太い尻尾の代わりに2体のフォレストバイパーと、正に攻撃特化型のような組み合わせだ。
対してこちらの相手は、闇女郎蜘蛛とレッドオーガの胴体、その上にコカトリスの頭が乗っている。
直接の攻撃能力は手に持った槍2本と長く鋭い8本の足だが、鳥頭のおかげで高度な槍技は期待できないだろう、移動の要の足を軽々に攻撃に使用する事も無い。
その分、特殊能力である蜘蛛の糸と石化ブレスだが、ブレスに関しては魔道鎧の斥力場を越える事は出来ないし、蜘蛛の糸はまあ、俺の担当だ。
「コッチはこの人数で何とかしますよ。というか、リオンが素材の事しか考えてないんで、大人数でさっさと倒しちまったらそれはそれで不機嫌になるんでね」
「キマイラ相手にどんだけ余裕なんだよ、お前の相棒は……まあ、うちのアレも時々バケモンみたいに怖ぇしな」
「馬鹿ゲンマ、何か言った? それじゃジンにリオンさん達、そっちは任せたからね。あ、あとジン……あの……」
「……分け前なら公平に配分しますから」
「ありがとう!!」
あっちもこっちも絹製品が好きだねえ……蜘蛛だぞ? まあ、シルクも蛾の幼虫の吐いた糸だし、同じようなモンか。
俺は若さんから預かっている体の異空間バッグから狼牙棒を取り出し、リオンのモーニングスターと交換する。槍相手にモーニングスターじゃかみ合わない上、コイツの特殊能力は超大物相手か大軍相手の殲滅能力しかない、キマイラ程度が相手だと使い勝手が悪すぎる。
俺も炭化タングステンの愛棒、それに若さんの小袋からいくつか薬瓶を受け取って仕込みは万全。
「それじゃ行きましょうか、最初に打ち合せたとおり2人はサイドからリオンのサポート、蜘蛛の頭部より後ろに回っちゃいけませんぜ?」
「アタシ等はそれでいいけど、ホントにアンタは一人で大丈夫なのかい?」
「大丈夫、糸が弾切れになるか、コイツの効果が切れるまで逃げ回るだけなんでね」
そして、ルフトの合図でリオン、そしてゲンマとシュナがそれぞれ先行してキマイラのを左右に引き剥がすと、俺も蜘蛛型キマイラの背後に回る。
「おぅ……」
背後から見るクモイラのシルエットは、どことなく人型兵器の派生系を連想させ、現代日本を生きた男のロボット心を刺激する。
ビシュッ──!!
「あらよっ」
まあ、相手はロボなどではなく人を襲い喰らう魔物の類なのだが。
避けた糸の先端が壁に張り付くと、俺はピンと張った糸を一瞥し、指先で触れてみる。
ズヌ──
「大蜘蛛の物よりかなり太いと思ったが、細いスパイダーシルクが束になってるのを粘着液で太い1本にまとめてるだけか──ぅおう!?」
指で触れたのがまずかったのか、糸はキマイラと繋がったまま追加で射出され、今度は俺を絡め取るためか、1本1本ほぐれた糸が網のように広がって迫ってくる。
「なんの!!」
それを飛び退けながら若さんから受け取った小瓶をグビリと飲み干す。
その後も糸が吐き出されるが、加速剤で倍速になった俺の身体には届かず、飛ばした糸を切り落としてまた糸の先端を射出して来た時は、剥離液で濡れた炭化タングステンの棒で弾いて壁に貼り付ける。そして糸を吐き出さなくなると「風爆」を尻に当てて催促をする。
その間リオンは、ドラゴンテイルを器用にしならせながらオーガの膂力で突き出される2本の槍を上下左右へと弾き飛ばす。
そして左右から牽制するドロテアとイレーネに矛先が向けられると、「スラスター」で加速されたドラゴンテイルで鳥頭と前足をしたたか打ちつけ、左右に意識を向けさせないよう上手に相手をコントロールしている。
この辺はさすが熟達した戦い方だと思うんだが、兜の隙間から見える退屈そうな視線を見るにつけ、ネズミで遊ぶ猫程度の感覚なんだろう。つくづく、魔竜やら人外は敵に回すもんじゃねえと思う。
そんなやり取りを2分ほど行い加速剤の効果が切れた頃、動きが鈍ったのを敏感に察知したキマイラが、チャンスとばかりに今までの4~5倍の量の糸を排出し、投網のように俺の周囲を完全に覆いつくす。
「ったく、最後の足掻きかよ!」
俺はとっさに炭化タングステンの棒を突き出して自分との間に隙間を作ると、その周囲を蜘蛛の糸がとんでもない速度で巻き付き、見る間に視界が白で埋め尽くされてゆく。
「ジンさん!!」
10秒ほどで人間大の繭玉が完成すると、糸の壁越しにエルの悲鳴に近い叫び声が聞こえる。そして、それに続いて上がる声は……無いようだ。
よし、おまえ等覚悟しておけ、自分で言うのもなんだが俺は拗ねると陰湿だからな。
ブウンッ──!!
蜘蛛の胴体と糸で繋がった俺をキマイラは、尻を捻って左右に振り回す。
「おぐっ!!」
地面に転がされるのは先週も体験したので慣れたもんだが、さすがに壁に垂直に叩きつけられるのは声が漏れる、これはツラい。
俺は最後の3本目の小瓶を飲み干すと、今度は地面に叩きつけようとする動きに対抗するため、剥離液の残った炭化タングステンの棒を糸の拘束からむしり取る。
──ズボッ!!
俺の身体が地面に叩きつけられる前に愛棒の先端が地面に突き刺さると、その後は筋力をさっきの3倍に引き上げた俺との力比べになり、向こうが幾ら尻に力を入れようと、地面に串の刺さった繭玉はビクともしない。
その間に俺は懐から剥離液を取り出し、それを周囲に塗りたくると、
ブチブチブチ──!
いくつか蜘蛛の粘糸が引き千切れる音がすると、スポンと繭玉と中身が綺麗に分離し、キマイラは繭玉を宙に高く振り上げながら、バランスを崩してリオンに突っ込んで行く!
「フン──!!」
リオンはそれに動じず、あさっての方向に突き出された槍の柄を左手で掴み、オーガの上体を引き寄せながら、カウンター気味にコカトリスの頭蓋をドラゴンテイルで砕く。
そして握力が緩んだ手から槍を奪うと、クルリと半回転、そのままオーガの心臓に突き入れる。
ビクン!!
オーガの肉体が大きく跳ね、そのまま背後にある蜘蛛の胴体にもたれる様に倒れこみ、そのまま沈黙する。
「ギャギャギャギャギャ──!!」
蜘蛛の頭部から聞こえてくる、牙を擦り合わせる様な不快な音が周囲に響くと、キマイラは尻の繭玉を切り離し、新たな糸を今度は天井に飛ばし、上空へと避難した。
「──っと、ただいま……仕留め損なったのか?」
「最後の足掻きでしょうか、上でぶら下がってますね」
天井には、オーガの上半身をダランとぶら下げた巨大な女郎蜘蛛が、もう一体のキマイラとの戦闘による振動でブラブラと揺られている、シュールだな。
ここからアイツを倒そうとすると、魔弓を使えば一発だが、さすがにドラゴンテイルを見せた後でもう1つおもしろアイテムを披露する気にもなれん。
というわけで、ここはアレの効果を見せ付けておこう。
「リオン、ソイツを貸してくれ」
「どうぞ」
「ジン、一体どうするつもりだい?」
「いやあ、こうするんですよ」
俺は小走りで広場の端に辿り着くと、その後超人的な速度でダッシュをする。
「「なっ──!!」」
目にした全員が驚きに目を丸くする中俺は、そのままキマイラの真下を通り過ぎ、何度か地面を強く踏み込んで真正面の壁に向かってジャンプ、そして3角飛びの要領でキマイラがぶら下がっている高さまで辿り着き、そして──
「──「スラスター」起動、吹っ飛べ!!」
ヴォン──!!
大上段に構えたドラゴンテイルを、振り抜くと同時に起動させたスラスターによって、内部で発生した「風爆」の噴出力が乗った攻撃は、蜘蛛の胴体をグチャリと潰しながら地面へと叩き落す。
──ズズン────ドンッ!!
轟音と共に地面に激突するキマイラに遅れて俺が地面に降り立つと、そこにはシュウシュウと空気が漏れるような音を出しながら絶命するキマイラの姿があった。
「ほい、討伐完了っと」
「お疲れ様です」
「まったくだ、基本レベル63にやらせる仕事じゃねえよ」
そんな俺のボヤキに、何事も直情的なデイジーちゃんが突っかかってくる。
「待て待て待て!! 今のお前の動きのどこがレベル63だというのだ? 自分を謀るのもだいがいにしろ!!」
相変わらず声がでかいな、まあ、だからこそ今回は都合がいい。
俺はポーチに収めていた小瓶を取り出し、見せ付けるように振ると、
「最初の2分間は以前使って見せた剛力剤の類似品で”加速剤”、飲んだら1分間だけ2倍の速度で動ける薬ですよ。まあ、副作用も同じですけどね」
「しかし今の動きは」
「そっちは奥の手、「超人剤」と呼ばれる秘薬でね。そいつは筋力と速度、どっちも3倍に引き上げてくれる文字通り超人になれる薬ですよ。副作用も無く便利なんですが、なにぶん高価なうえ数も無くてね。さっきみたいな危険な時にしか使わないことにしてるんですよ」
デイジーに空き瓶を投げて寄越すと、周りのメンバーやジェリク達は小瓶を物珍しそうに見ている。
そして俺はそんな連中を尻目に残った小瓶を若さんに渡すと、若さんはそれを胸にぶら下げている上等な革の小袋に収める。
──そんな一連の様子を、広場の入り口に隠れる、この前仕留めたネズミによく似た小動物が窺っているのが俺の”探知網”に引っ掛かる。
──さて、向こうさんはどうでるかね。
2、いや3グループに分かれた俺達は打ち合わせを終え、戦闘準備に入る。
1つ目のグループはルフト率いるコミュニティ「異種混合」のトップパーティとゲンマ達ライゼンから派遣された攻略部隊の混合パーティ、2つ目は俺とリオン、それにエル坊の護衛からサポートとしてドロテアとイレーネが加わる。
どちらも軽戦士とレンジャー職の為、横に展開して正面で戦うリオンの援護要因としてだ。尤も、リオンに援護が必要とも思えないが。
3つ目はとうぜん非戦闘組、材料に使われている魔物は全てBランクモンスターだが、俺の鑑定でもAランク相当との結果だったし、そうなると両者の石化能力が問題になる。いくら石化耐性のスキルを身につけたとはいえ、Aランクであるコイツらの石化能力はそれを凌ぐはずだからだ。
そんな訳で、少数精鋭と大半の観戦者に分かれ戦闘に移るわけだが、
「おいジン、お前等マジでその人数でやる気か?」
「問題ありませんよ、2体を比べれば、ゲンマさん達が受け持つキマイラの方がはるかに強いですからね」
そう、純粋に戦闘能力を考えたら向こうの方がはるかに危険だ。
鎧のような硬いうろこに覆われたクロコダイル型バジリスクの肉体にレッドオーガ、太い尻尾の代わりに2体のフォレストバイパーと、正に攻撃特化型のような組み合わせだ。
対してこちらの相手は、闇女郎蜘蛛とレッドオーガの胴体、その上にコカトリスの頭が乗っている。
直接の攻撃能力は手に持った槍2本と長く鋭い8本の足だが、鳥頭のおかげで高度な槍技は期待できないだろう、移動の要の足を軽々に攻撃に使用する事も無い。
その分、特殊能力である蜘蛛の糸と石化ブレスだが、ブレスに関しては魔道鎧の斥力場を越える事は出来ないし、蜘蛛の糸はまあ、俺の担当だ。
「コッチはこの人数で何とかしますよ。というか、リオンが素材の事しか考えてないんで、大人数でさっさと倒しちまったらそれはそれで不機嫌になるんでね」
「キマイラ相手にどんだけ余裕なんだよ、お前の相棒は……まあ、うちのアレも時々バケモンみたいに怖ぇしな」
「馬鹿ゲンマ、何か言った? それじゃジンにリオンさん達、そっちは任せたからね。あ、あとジン……あの……」
「……分け前なら公平に配分しますから」
「ありがとう!!」
あっちもこっちも絹製品が好きだねえ……蜘蛛だぞ? まあ、シルクも蛾の幼虫の吐いた糸だし、同じようなモンか。
俺は若さんから預かっている体の異空間バッグから狼牙棒を取り出し、リオンのモーニングスターと交換する。槍相手にモーニングスターじゃかみ合わない上、コイツの特殊能力は超大物相手か大軍相手の殲滅能力しかない、キマイラ程度が相手だと使い勝手が悪すぎる。
俺も炭化タングステンの愛棒、それに若さんの小袋からいくつか薬瓶を受け取って仕込みは万全。
「それじゃ行きましょうか、最初に打ち合せたとおり2人はサイドからリオンのサポート、蜘蛛の頭部より後ろに回っちゃいけませんぜ?」
「アタシ等はそれでいいけど、ホントにアンタは一人で大丈夫なのかい?」
「大丈夫、糸が弾切れになるか、コイツの効果が切れるまで逃げ回るだけなんでね」
そして、ルフトの合図でリオン、そしてゲンマとシュナがそれぞれ先行してキマイラのを左右に引き剥がすと、俺も蜘蛛型キマイラの背後に回る。
「おぅ……」
背後から見るクモイラのシルエットは、どことなく人型兵器の派生系を連想させ、現代日本を生きた男のロボット心を刺激する。
ビシュッ──!!
「あらよっ」
まあ、相手はロボなどではなく人を襲い喰らう魔物の類なのだが。
避けた糸の先端が壁に張り付くと、俺はピンと張った糸を一瞥し、指先で触れてみる。
ズヌ──
「大蜘蛛の物よりかなり太いと思ったが、細いスパイダーシルクが束になってるのを粘着液で太い1本にまとめてるだけか──ぅおう!?」
指で触れたのがまずかったのか、糸はキマイラと繋がったまま追加で射出され、今度は俺を絡め取るためか、1本1本ほぐれた糸が網のように広がって迫ってくる。
「なんの!!」
それを飛び退けながら若さんから受け取った小瓶をグビリと飲み干す。
その後も糸が吐き出されるが、加速剤で倍速になった俺の身体には届かず、飛ばした糸を切り落としてまた糸の先端を射出して来た時は、剥離液で濡れた炭化タングステンの棒で弾いて壁に貼り付ける。そして糸を吐き出さなくなると「風爆」を尻に当てて催促をする。
その間リオンは、ドラゴンテイルを器用にしならせながらオーガの膂力で突き出される2本の槍を上下左右へと弾き飛ばす。
そして左右から牽制するドロテアとイレーネに矛先が向けられると、「スラスター」で加速されたドラゴンテイルで鳥頭と前足をしたたか打ちつけ、左右に意識を向けさせないよう上手に相手をコントロールしている。
この辺はさすが熟達した戦い方だと思うんだが、兜の隙間から見える退屈そうな視線を見るにつけ、ネズミで遊ぶ猫程度の感覚なんだろう。つくづく、魔竜やら人外は敵に回すもんじゃねえと思う。
そんなやり取りを2分ほど行い加速剤の効果が切れた頃、動きが鈍ったのを敏感に察知したキマイラが、チャンスとばかりに今までの4~5倍の量の糸を排出し、投網のように俺の周囲を完全に覆いつくす。
「ったく、最後の足掻きかよ!」
俺はとっさに炭化タングステンの棒を突き出して自分との間に隙間を作ると、その周囲を蜘蛛の糸がとんでもない速度で巻き付き、見る間に視界が白で埋め尽くされてゆく。
「ジンさん!!」
10秒ほどで人間大の繭玉が完成すると、糸の壁越しにエルの悲鳴に近い叫び声が聞こえる。そして、それに続いて上がる声は……無いようだ。
よし、おまえ等覚悟しておけ、自分で言うのもなんだが俺は拗ねると陰湿だからな。
ブウンッ──!!
蜘蛛の胴体と糸で繋がった俺をキマイラは、尻を捻って左右に振り回す。
「おぐっ!!」
地面に転がされるのは先週も体験したので慣れたもんだが、さすがに壁に垂直に叩きつけられるのは声が漏れる、これはツラい。
俺は最後の3本目の小瓶を飲み干すと、今度は地面に叩きつけようとする動きに対抗するため、剥離液の残った炭化タングステンの棒を糸の拘束からむしり取る。
──ズボッ!!
俺の身体が地面に叩きつけられる前に愛棒の先端が地面に突き刺さると、その後は筋力をさっきの3倍に引き上げた俺との力比べになり、向こうが幾ら尻に力を入れようと、地面に串の刺さった繭玉はビクともしない。
その間に俺は懐から剥離液を取り出し、それを周囲に塗りたくると、
ブチブチブチ──!
いくつか蜘蛛の粘糸が引き千切れる音がすると、スポンと繭玉と中身が綺麗に分離し、キマイラは繭玉を宙に高く振り上げながら、バランスを崩してリオンに突っ込んで行く!
「フン──!!」
リオンはそれに動じず、あさっての方向に突き出された槍の柄を左手で掴み、オーガの上体を引き寄せながら、カウンター気味にコカトリスの頭蓋をドラゴンテイルで砕く。
そして握力が緩んだ手から槍を奪うと、クルリと半回転、そのままオーガの心臓に突き入れる。
ビクン!!
オーガの肉体が大きく跳ね、そのまま背後にある蜘蛛の胴体にもたれる様に倒れこみ、そのまま沈黙する。
「ギャギャギャギャギャ──!!」
蜘蛛の頭部から聞こえてくる、牙を擦り合わせる様な不快な音が周囲に響くと、キマイラは尻の繭玉を切り離し、新たな糸を今度は天井に飛ばし、上空へと避難した。
「──っと、ただいま……仕留め損なったのか?」
「最後の足掻きでしょうか、上でぶら下がってますね」
天井には、オーガの上半身をダランとぶら下げた巨大な女郎蜘蛛が、もう一体のキマイラとの戦闘による振動でブラブラと揺られている、シュールだな。
ここからアイツを倒そうとすると、魔弓を使えば一発だが、さすがにドラゴンテイルを見せた後でもう1つおもしろアイテムを披露する気にもなれん。
というわけで、ここはアレの効果を見せ付けておこう。
「リオン、ソイツを貸してくれ」
「どうぞ」
「ジン、一体どうするつもりだい?」
「いやあ、こうするんですよ」
俺は小走りで広場の端に辿り着くと、その後超人的な速度でダッシュをする。
「「なっ──!!」」
目にした全員が驚きに目を丸くする中俺は、そのままキマイラの真下を通り過ぎ、何度か地面を強く踏み込んで真正面の壁に向かってジャンプ、そして3角飛びの要領でキマイラがぶら下がっている高さまで辿り着き、そして──
「──「スラスター」起動、吹っ飛べ!!」
ヴォン──!!
大上段に構えたドラゴンテイルを、振り抜くと同時に起動させたスラスターによって、内部で発生した「風爆」の噴出力が乗った攻撃は、蜘蛛の胴体をグチャリと潰しながら地面へと叩き落す。
──ズズン────ドンッ!!
轟音と共に地面に激突するキマイラに遅れて俺が地面に降り立つと、そこにはシュウシュウと空気が漏れるような音を出しながら絶命するキマイラの姿があった。
「ほい、討伐完了っと」
「お疲れ様です」
「まったくだ、基本レベル63にやらせる仕事じゃねえよ」
そんな俺のボヤキに、何事も直情的なデイジーちゃんが突っかかってくる。
「待て待て待て!! 今のお前の動きのどこがレベル63だというのだ? 自分を謀るのもだいがいにしろ!!」
相変わらず声がでかいな、まあ、だからこそ今回は都合がいい。
俺はポーチに収めていた小瓶を取り出し、見せ付けるように振ると、
「最初の2分間は以前使って見せた剛力剤の類似品で”加速剤”、飲んだら1分間だけ2倍の速度で動ける薬ですよ。まあ、副作用も同じですけどね」
「しかし今の動きは」
「そっちは奥の手、「超人剤」と呼ばれる秘薬でね。そいつは筋力と速度、どっちも3倍に引き上げてくれる文字通り超人になれる薬ですよ。副作用も無く便利なんですが、なにぶん高価なうえ数も無くてね。さっきみたいな危険な時にしか使わないことにしてるんですよ」
デイジーに空き瓶を投げて寄越すと、周りのメンバーやジェリク達は小瓶を物珍しそうに見ている。
そして俺はそんな連中を尻目に残った小瓶を若さんに渡すと、若さんはそれを胸にぶら下げている上等な革の小袋に収める。
──そんな一連の様子を、広場の入り口に隠れる、この前仕留めたネズミによく似た小動物が窺っているのが俺の”探知網”に引っ掛かる。
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